現実と並行セカイの境目ですか?   作:岸雨 三月

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終章

その夜、チノはまた夢を見た。ティッピーコンテストの夜に見た夢の続きだ。夢の中で目が覚めると、まだコーヒーカップで夜空の旅の途中だった。

 

「あっ、チノちゃん起きた? もうそろそろ目的地が見えて来たよ」

 

 ココアにそう話しかけられる。チノは眠い目をこすりながらコーヒーカップから身を乗り出してココアの指さす方向を見てみるが、全体的に視界の先が薄ぼんやりとしていて、目的の街を捉えることが出来ない。何とか目の焦点を合わせてみると、淡い光に包まれた木組みの街らしき輪郭を視界に捉えることが出来た。

 

「ココアさん、私にも見えました……って、あれ?」

 

 チノが少し瞬きをすると、どういう訳か「街」の輪郭は姿を変えてしまった。はっきりと自信がある訳ではないが、現代的なビル群はどうやら空から見た東京の街のように見える。もう一度瞬きをすると、今度は橋がたくさんある水の豊かな都会のような姿に変化してしまった。その後もチノが瞬きをする度に、「街」の輪郭は異なるものに変わっていくように見えた。

 

 いったいどういうことなんでしょう、と言おうとしてココアの方を見て気づいた。ココアの体も淡いピンクの光に包まれていて、チノが瞬きする度に姿格好が変わっていく。先程までは確かにツーサイドアップの髪に白衣のいつも通りのココアの姿だったのだが、今は肩までくらいの髪にチノの見たことの無い制服を着た姿に変わっている。そしてまた瞬きをするとコスプレのような魔法少女の姿や、アイドルのようなきらびやかな舞台衣装に変わったりするのだった。

 

 まさか、と思いながらポケットをまさぐると手鏡――は出てこなかったので、代わりに出てきたスマホのインカメラに自分の姿を映してみる。そこに映った自分の体は水色の淡い光に包まれていて、髪は腰に届きそうな長さくらいまで伸びていて、ココアがさっき着ていたのとお揃いらしい見たことのない制服を着ているのだった。そして瞬きをするといつもの自分の見慣れた髪の長さと制服に戻る。その次に瞬きをすると今度はRPGにでも出てきそうな魔法使いの姿になった。どうやらここでは人も街も、ある一定の姿を保つということをしないらしい。どうしてなのかは分からないが。

 

 いや、よく考えるとこのスマホもいったいどこから出て来たのだろう? 何で当たり前のように使いこなすことが出来るのだろう? それも疑問だった。チノが物心ついた時には通信機器と言えばティッピーが主流で、旧世代のスマホなんて触ったこともなかったのに。そういえば前の夢では、ココアが量子的な重ね合わせがどうこうと呟いていたが、それが何か関係しているのだろうか。

 

「ほら見て、みんなも集まってきてくれたよ。行こうよ、みんなと一緒に」

 

 考える間もなくココアが空の別の方角を指さす。見ると、同じように淡い色の光に包まれた五つのコーヒーカップが夜空を飛んでいるのを見ることができた。

 

「行くぞ、マヤ、メグ、このままどっちが先に辿り着けるか競走だ!」

「くるくるくる……くるくるくる……、凄い、このコーヒーカップ、バレエよりも良く回るよ~」

「メグ、何だその恰好!? うっぷ、何かメグの情報量が多すぎて脳の処理が追い付かなくなってきた……」

「私も同じく酔ってきたわ、マヤちゃん……みんな私のことは置いて先に行って……ガクッ……」

「もう何言ってるのよ。ゴールはすぐそこよ。手を貸してあげるから、ちゃんとみんなで辿り着きましょ」

 

 いつの間にか、ここにみんなが集まっていたようだ。いつもと同じみんなの声を聞いて、チノは少しほっとするような気分になった。ココアが「ヤッホー!」と声をかけると、みんなそれぞれ陽気に手を振り返してくれる。

 

 不定形に変化する行先に不安はあるけれど、みんなと一緒なら、たぶん場所がどこなのかは些細な問題なのだろう。さらに言えば、自分たちがどんな姿や見た目をしているのかすらも、きっとここでは関係がないのだ。

 

 光るコーヒーカップ達は「街」が近づくにつれ、高度を下げスピードを緩めて行った。ピンク・水色・紫・緑・黄色・青・赤。七色の光は今、虹のように混ざり合い、「街」へと辿り着こうとしていた。

 

 全ての人がやさしい心で互いを受け入れ合う、嘘のように美しい場所へ。

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