夜明けの魔女   作:瑠璃。

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第十節「メイラとサラとグリシャ」

ヴィクトール・ゾグラフとベアトリス・ゾグラフ、二人の溝を他人が埋めるなど

到底できやしない。それは普通の喧嘩でも変わらない。当人同士が原因を知り、

自分の今までの行いを見つめて、罪を認めなければ本当の意味で仲直りしたとは

言えないから。相部屋であるメイラはずっと二人の様子を見守ることに徹していた。

 

「そっか。メイラはずっと相部屋だったし、私よりもベアトリスの事を

知ってるよね」

「そうね。知ってる。ベアトリスがトマトが嫌いな事」

「え、マジ?」

「えぇ、マジよ。こっそりトマトを避けているのを見たことがあるわ」

 

こんなタイミングで意外な弱点。ベアトリスは弱みを見せたがらない人間だ。

そもそも嫌いな食べ物も無いと思っていた。

 

「因みに司書は甘いものが嫌いよ。作るのは好きなくせに」

「甘党みたいな趣味して甘党じゃないんかい」

 

またまたメイラの口から驚きの弱点が出て来た。おっとりしている見た目に反して

彼女は人の事を良く見ているらしい。寮によって集まる生徒には特色がある。

レイブンクローは特に知性のある生徒が多い。メイラやベアトリスも非常に頭が

良い生徒だ。ベアトリスとの関わりから発展して、メイラとも仲良くなれた。

 

「―危ない!」

 

声に気付いた時にはもう遅かった。メイラを押しのけて、サラ・ナイトが水を

被っていた。この水は何処から?

 

「ごめんね。僕がドジ踏んだせいだ。びしょびしょだ」

 

水がいっぱいに入っていたボウルはすっからかんになって、ひっくり返っている。

この水をグリシャ・ポッターは授業で使うために準備していたらしい。水を被り、

全身ずぶ濡れのサラの体を自分のハンカチで拭いてやる。

 

「君は凄く優しい子だね。咄嗟にメイラさんを庇ったんだから。君が

グリフィンドールに入るのは分かる気がするよ」

「ポッター先生は学生時代、どの寮だったんですか」

 

大量の水を吸ったハンカチを絞るグリシャにメイラが聞いた。

 

「僕はハッフルパフだったんだ。周りからは驚かれていたけどね。あの

ハリー・ポッターの曾孫なのに…ってね」

「ショック?」

「ううん。僕は別に。だって、何処の寮に属しても根本的な部分は変わらない

だろう?同じ学校で、同じ魔法を学ぶ。違いはないよ。寮はいわば、自分の家さ。

人によって異なるのは当然。寮同士の中の良し悪しは意味が無いことだ」

 

休み時間の間、メイラとサラは彼について回った。その事をグリシャは咎めず

受け入れ、聞かれた事には何でも答えてくれた。

 

「先生は、司書のヴィクトールさんとは知り合いなんですね」

「うん。僕は、過去に魔法省で働いていたんだ。現役の闇祓いだった頃のヴィックは

あまり今と変わらないな」

 

グリシャは懐かしむように遠い目をしていた。

 

「変わらない?」

「あの性格は、ね」

 

ヴィクトールは俺様な性格をしている。強気で、図書館で喋っているとすぐ

飛んできて鉄拳制裁する。凄い記憶力の持ち主。彼はほぼ全ての生徒を知っている。

寮も、顔も、全て名前と一致させることが出来る。

 

「闇祓いの仕事は知っての通り、凄く危険な仕事だ。任務の最中に死ぬことがある。

死んだ方がマシだと思えるほどの苦痛を味わう事だってある。時には恨みつらみを

買い、八つ当たりされる事だってあり得るんだ」

 

分かっている。闇祓いはヒーローかもしれないが、完璧では無い。護れない物も

沢山あるだろう。護れなかった者の家族から恨まれることだってある。彼らは

人を守りながらも、人から憎まれることもある。

サラはふと考える。アトスやアラミスも同じなのだろうか。彼らは何時も、サラの

前で弱い部分を見せない。笑顔を見せて、何時もサラを可愛がってくれる。

彼らも、守ったはずの人々から叩かれたことがあるのだろうか。

 

「司書は妹が可愛くて虐めるのね」

「虐めるって…まぁ、愛情の裏返しかな。大切だからこそ、怒鳴ってしまうんだ。

アトス君とアラミス君はしないだろうけどね」

「えぇ?」

「僕の憶測だよ。彼らはきっと、君のやりたいことを基本的に何でも優先して

くれる。違うかな?」

 

どうやらアトスたちの事も知っているらしい。凄いな…グリシャは曽祖父のように

優れた人間ではない。曽祖父とは違う方向性に優れているのかもしれない。

 

「ポッター先生は人の長所を見つけるのが上手いんですね」

「君たちだって出来るさ。さぁ、今日はこれでおしまい。もう自分の寮に

帰りなさい」

 

そう言われて、メイラとサラは分かれた。レイブンクローとグリフィンドールの

寮へ。寮の自室で、サラは今日の事を振り返った。喧嘩するほど仲が良い。

ヴィクトールとベアトリスも、その言葉通りの仲なのだ。お節介なのは承知だが

やはり二人には素直になって欲しい。

 

 

 

闇祓い局は今も尚、闇側を監視していた。ワルプルギスと言う組織は力を

増し続けている。純血主義と闇の帝王の復活、そして聖地ホグワーツの奪還を

目的としているが、首謀者は未だ不明のまま。

 

「嵐の前…そんな気がしてならないね、アタシには」

 

プリシラ・バーネットは雲一つない空を見上げながらぼやく。

 

「これからは、何時死んでもおかしくない。お前たち、覚悟しておきな」

 

アトスとアラミスに投げた言葉だった。彼らは黙って頷くだけ。本当に

分かっているのだろうか。分かっているに決まっている。プリシラが去ってから

アトスはアラミスに声を掛ける。

 

「俺たち、ちゃんと生き残れると思うか」

「馬鹿。聞くなよ。生きるに決まってる。サラを泣かせる気か」

 

アラミスの言葉にアトスが笑った。

 

「なんだ、アラミスもサラが大好きなんだな」

「お前だってそうだろ」

 

戦いに生き残ることを誓い、そしてそのために戦う。だが一番は、自分たちが

守りたい物の為に戦う。

 

 

 

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