ディラン・グッドマンがやってきた理由は、学校で起こったもう一つの事件だ。
アトスやグリシャたちは自分たちが当たって来たことが陽動だったことに
気付く。
「本当の狙いは…」
レイブンクロー寮に到着した彼らの目の前には散らばったシャンデリアがある。
「ッ、トレント先生!」
「大の男が、ピーピー喚くんじゃないよ。アタシは無事よ、生徒も。但し、
やられたわ…保管していた魔道具が」
「こっちも同じです。古書の一ページが盗まれた…すみません、僕が遅かったから」
「それは俺も同じですよ。手こずってました」
グリシャとアトスが続けて言う。ドロテア・トレントは立ち上がった。
「まぁ良いわ。命があって、傷が無ければこっちの勝ちよ。それに…あれは
偽物だからね」
「偽物?」
「えぇ。真新しく作られたレイブンクローの羽飾りは、隠し場所を移動してある。
もう戻して良いわよ、グッドマン」
破壊された木の箱、その隣に似たような意匠が刻まれた箱がある。ディランは
ローブに隠していたその飾りを見せた。毛先が青い黒の羽。その羽はまるで
青い炎のように揺らめき、輝いている。
「私が、秘密の守り人。例え、貴方たちが在処を知っていても貴方たちの口から
秘密が語られることは無いでしょう…。今回の件で、また忙しくなるわね
アトス坊や」
意地悪くドロテアはアトスの頬を突いた。彼は肩を竦める。それからは本当に
忙しくなってきたようだ。新聞は相変わらず闇祓いを貶したいのか褒めたいのか
分からない。
「そういえば、ディランさんが何故?」
メイラ=フゥは首を傾げた。
「お前らが心配でさ。ほら、ポッター先生が駆け付けただろ?あれは俺が
言ったんだ」
少し遡る。サラとベアトリスが消えたメイラを探しに行った時、その背中を
たまたまディランは見かけていた。二人の顔色からして何か厄介事に首を
突っ込んでいると考えた。
「どうした、グッドマン」
最初に声を掛けて来たのはドロテアだった。だが彼女は放って置けと言うばかり。
彼女もまた、異変を察知して寮に向かっていたのだ。寮内には生徒がいる。
寮監として、教師として生徒の安全を確保しなければならない。
次に現れたのがグリシャだったのだ。
「そうです、その転校生の」
「あぁ、サラちゃんかな?…ふむ、分かった。僕が様子を見に行こう。
トレント先生の事が心配なら、行ってきなさい。君は凄く優秀だから、きっと
先生も君がいたら喜ぶよ」
「分かりました…先生」
去り際にディランは振り返った。
「お気を付けて」
「大丈夫」
グリシャは彼を安心させるように笑顔を見せていた。グリシャ・ポッター、
あのハリー・ポッターの曾孫。だが彼は決して天才では無かった。今の彼は
この学校の教師だ。生徒を指導し、そして一人前になるまで守るのが仕事だ。
要は偶然サラたちを見かけたディランがサラたちを心配して、グリシャを
向かわせたのだ。もしも彼がいなかったら―。
「そうだね。僕は君たちを見つけられていなかったかもしれない」
「凄いわ、運が良かったのね私たち」
「ホントに…」
メイラも驚いていた。サラはそれを聞き胸を撫で下ろした。もしも何処かで何かが
欠けていたら、全員が無事で済んではいなかっただろう。
「それにしても、偽物を作ったって、どうやって…かなり短い時間ですよ?」
「無理矢理作らせたのよ、ヴィックに」
「因みにその時、彼はどんな顔を」
「勿論、究極に嫌そうな顔~」
「だよねー」
ヴィクトールにつべこべ言わずさっさと偽物作れと命令して、作らせた即席の
偽物。即席で、精巧な偽物に相手はまんまと引っかかった。ドロテアが来たのは
相手に怪しむ時間を与えないため。誰かが来たのなら、悪人は長く考えている
時間は無い。逃走することを選んだのだ。
「アトスとグリシャが当たった相手の部下じゃないかしら。雑魚よ雑魚」
ドロテアがパンパンと手を叩いた。
「この話はもう終わり。ここからアタシたち教師と闇祓いだけで話すわ。さっさと
寮に帰んなさい。でないと減点にするわよ」
彼女によって全生徒がそれぞれの部屋に帰った。
生徒がいなくなった談話室。ソファに倒れ込むようにドロテアは腰掛けた。
ワルプルギスがホグワーツを狙っていることは確定要素だ。
「はぁ~面倒くさいわね。さっさとそいつら全員捕まえなさいよね」
「そうしたいのは山々ですけど、僕たちの上がうるさいんです。中々主導権を
こちらに渡せてもらえなくて」
ドロテアは汚い物を触った後のように手を振った。
「これだから、保身しかしない腑抜けは嫌いなのよ。昇進したいなら、0か100の
賭けをしろって話」
高い地位を築いた者はちょっとした失敗で周りから大きく責め立てられる。
そうして信頼を失い、その地位すらも失うことを彼らは畏れているのだ。
闇祓いが大きく動くことでワルプルギスを刺激し、彼らに報復されるのを
恐れている。
「何もしなくても、彼らは勝手に動くさ。現に今、彼らは関係が無い学び舎を
襲撃してきた」
何時も穏やかなグリシャの目は今、鋭かった。しかしすぐに普段の目の色に
戻った。
「だけど、今は喜ぼう。盗まれてしまったのは仕方ない。命が失われなくて、
本当に良かった」
「まぁね。生徒に何かあったら叩かれるのは闇祓いじゃなくて、アタシたちだし」
幸いにも、この事件でホグワーツの教職員及び闇祓いが叩かれることが無かった。
だがこの章はまだ終わりではない。もう少し、続きがある。