夜明けの魔女   作:瑠璃。

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第十九節「姉様と義兄」

蛇寮は身内愛の強い寮。狡猾。その頭脳は正しく使えば、自分だけでなく

周りの役にも立つだろうに。

コロシアムの中を飛び交うスニッチと、そしてそれを狙い合う赤と緑のローブ。

蛇寮vs獅寮の勝負は白熱していた。サラもベアトリス・ゾグラフや

メイラ=フゥと共に観戦している。三人ともクィディッチには参加しておらず

観戦する側だ。

 

「本当に一般公開だとは思っていなかったわ」

「あれだけ色々起きたのにね。なんだか変よ変」

「変なの?」

 

メイラとベアトリス、サラが言葉を交わす。サラだって変だと思っていた。

生徒を守るのが教師ではないのか?既にサラが知っている時点で二回も

襲われているのに一般公開する意味はあるのか。危険だと思うだろうが。

 

「一時、校長先生は休まれてたのよ。体調を悪くしていたらしいの」

 

エリザベス・アゼリア校長。彼女はサラが来る少し前、体調が回復して

職場復帰を果たした。それぐらいあるだろう。彼女だって人だ。体調を崩すことは

あるのだから。飛び交う試合が静まり返った。空に浮かんだそれに全員が

釘付けだったのだ。勝負で滾っていたはずの熱が恐怖の冷水で消えてしまった。

そして聞いた事も無い轟音。

 

「爆発!?」

 

それを皮切りに人々は一斉に動き出した。我先に走る者に混じり己の主君の為に

動く者、冷静に状況を見極める者…それぞれが全く異なる動きをし始めた。

 

「ベアトリス!」

 

もみくちゃにされるベアトリスとメイラ。流れに逆らわず、しかし人混みから

逃れるように動線からはみ出した。あの混乱でサラと離れてしまった。心配だ。

彼女は二回とも闇と関わってしまった。何かされるかもしれない。焦るベアトリスを

メイラは落ち着かせる。

 

「サラは大丈夫よ。私たちは別にやることをやらなきゃ、でしょう?」

「…そうね。行きましょう、メイラ」

 

ベアトリスたちもまた別行動になった。流れに逆らうサラの目に留まったのは

ライアン・ロザリーの姿だった。不思議な彼だが目に映った時、誰かを

思っているように気がした。人混みを抜けたが、誰もいない。見失ってしまった。

コロシアムには結界が張られていた。強固な結界だ。周りに目を向けると

自分が出来ることをやろうと生徒たちが動いているのが見えた。

 

「あ、あの…サラ姉様!サラ・ナイトですよね?」

 

見ると彼女がいた。彼女はサラを見て、目をキラキラさせていた。混乱している中、

彼女の目はそんな喧噪が全く目に入っていない。

 

「私、蛇寮一年のナディア・アウレリウスですわ。私、姉様の事を尊敬してますの」

 

彼女を尊敬しているが故に出て来る敬称か。他の先輩に対しても姉様、兄様と

呼んで可愛がってもらっている様だ。ナディアがどうしてサラの事を

尊敬しているのかと言うと、これしか無かった。二回も起こった闇による事件で

サラが何度も無事に生き残っているから。ナディアはハリー・ポッターの事も

尊敬していた。彼は偉人伝も残るほどの有名人だ。ここで起こった戦いでも

見事闇の帝王ヴォルデモートを仲間と共に打ち破った。

 

「私は、そのハリー・ポッターほどの事は出来ないけど…」

「いいえ、出来ますわ!」

「何処から来るの、それ。まぁ、良いか」

 

ナディアはちゃんと目的があってサラに声をかけて来た。それは自分に指示を

くれないかという内容だった。自分で考えろ、と突っぱねることもできるだろうが

サラは出来なかった。

 

「まずは自分の命を最優先よ。この動線から考えるに、避難場所は校舎の方ね。

避難誘導の手伝いをすると良いかもしれない」

「あ、姉様は何処に?」

「逃げ遅れてる人がいるかもしれない―」

「姉様…」

 

前後を挟まれていた。見慣れない男二人に。

 

「挟み撃ちとか、マジ無いわー…」

「悪いな、グレイ。被るとは思わなくてさ」

 

グレイと呼ばれた男はこちらが杖を抜く前から臨戦態勢を取っていた。否、サラの

前にいる男も変わらない。ナディアはギュッとサラの服の裾を握る。その手は

振るえていた。自分の手も震えている。だが、年下に頼られては自分の事など

二の次だ。

 

「二人いようが何だろうが、これは変わらないよナディア」

「…え?」

「相手の勝利条件は私たちは分からない。でも私たちの勝利条件は単純さ」

 

ナディアが首を傾げた。

 

「ただ生き残れば良い」

「でも、でも、姉様。今は大ピンチですの!」

「知らないの?ヒーローは遅れてやって来る」

 

ナディアの手を取り、サラは塀に身を乗り出す。異常な行為。だがグレイと

もう一人エリアスは反応が遅れた。予想外の出来事だった。自分から身投げを

するつもりか。

 

「違う!」

 

上から降って来る何者か。

 

「―エクスペリアームス」

 

その呪文を上手く躱した。上から飛んできたのは闇祓いだった。空に箒が

見えた。二人乗っている。

 

「可愛いからって妹を襲うのは止めて貰いたいな」

 

そんな冗談を彼は言った。アラミス・ナイト、サラの義兄である。

 

「アンタが相手してくるのか。助かるぜ」

「何を言っている?こっちが相手をしてやってるんだ。感謝しろ。靴でも

舐めると良い」

「兄貴と違って随分と上から目線だな…いや、挑発か?」

 

含み笑いを浮かべたアラミス。クィディッチ杯の戦いは生徒同士の白熱した

バトルから闇との対決に入れ替わる。

 

 

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