クラリーチェ・ロングボトムは蛇寮の監督生と顔を合わせた。
「ヴィルヘルム」
ヴィルヘルム・マルフォイ。ドラコ・マルフォイを曽祖父に持つ男子生徒だ。
曽祖父とは全く異なり、彼は純血主義に批判的だった。魔法が使えるのなら
マグルだろうと使い方を学ぶ権利があるという考えの持ち主だ。クラリーチェも
また純血主義は気に入らなかった。
「俺たちは魔法が使えるから学校に来てるんだぜ。純血だから学校に
通ってるんじゃねえ」
「そうね。純血主義は曽祖父の時代にとっくに終わってるわ。人を差別して
何がか楽しいのかしら」
彼らは誰かに言われずとも、動いていた。身動きが取れずにいた生徒たちに
的確に指示を出した。
「オイ、あそこにいるのはベックマンじゃないか!?」
クラリーチェは指さした。空で、箒に乗っている複数人。蛇寮のクィディッチ選手が
揃っていた。そのうちの一人であるブルーノ・ベックマン。彼は純血主義に
系統しない生徒だ。だがその根幹は純血はマグルや混血より優れていて当たり前と
言うある種の実力主義。
「無闇に声は掛けられないか…ん?あれって」
別の方向に目を向けると箒が見えた。二人乗り。どちらもそれぞれが
見覚えのある生徒だ。
「サラ!?」「ナディア!?」
二人もこちらに気付いて降りて来た。アラミス・ナイトによって助け出され
サラたちは自分に出来ることを探して動いていたのだ。空から状況を確認し、
「さっき、蛇寮チームのところに教師が、ポッター先生が駆け付けてました。
あっちは心配ないかと」
「そうか。他の教師たちは」
「先生たちもまだ状況を把握していないようでしたわ。でも」
少し時間を戻す。状況把握をしていたサラとナディアに声をかけて来たのだ。
アトスだった。彼もまたアラミス同様に闇祓いとして警備を担当していた。
「穴が無かったとは言わねえよ。だけど、破られるまでがスムーズ過ぎてな…
まぁいいや。何か頼みたいって顔だな」
「わ、分かる?」
「分かるよ。兄だからな」
アトスが不意に杖を振った。何事かと後ろを見ると黒いローブに仮面をした
ワルプルギスの構成員が気絶していた。彼らはアトスが闇祓いだと知っていて
襲っていたのだろうか。分からないが、あちこちに敵が潜伏している。
サラは自分が見て来た現在の状況を説明した。教師たちも全てを把握できていない
事、各地で襲撃されていて生徒が対応している事。後者を教師たちに伝えたいと
言う事だ。
「―エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)」
守護霊は連絡も出来るのだ。この呪文も難易度が高い。
「本当に、先に自分の身の安全を優先しろよ」
「さっさと逃げろとは言わないんだ?」
「言っても動くだろ」
アトスはサラの気持ちを汲み取っていた。それを傍から見ていたナディアは
言葉も出なかった。本当にサラはアトス・ナイトと兄妹だった。
彼のお陰もあってか教師たちが動き出した。被害に遭っている場所、生徒が
ワルプルギスと対峙している場所に駆け付け始めたのだ。
「ポッター先生…!」
ブルーノは驚きの声を上げた。穏やかな教師だ。この場においても温厚なのは
変わらない。
「待たせてしまってごめんね。ここは僕が。まだ会場に取り残されている
一般人がいるかもしれない」
どうしてそんなことを言うのか、聞こうと口を開いた時だ。
「君はきっと動きたがる。君と同じように動いている生徒が沢山いるからね。
ここに駆け付けられたのも、その生徒のお陰だ。さぁ、行け」
ブルーノは他のメンバーと目配せする。仮面をつけた男は逃がすまいと
杖を振るが、それより早くグリシャが反応した。
「生徒にも一般人にも手を出させはしないよ。今更だけどね」
「本当に今更ですね。貴方がグリシャ・ポッター、あのハリー・ポッターの
曾孫。他にもこの学校には彼の友人の曾孫が通っているようですね」
ケイと名乗る仮面の男は人質をグリシャに見せつけた。この生徒をいざとなったら
盾にするつもりだろう。彼らは敵、人質を使ってこちらを牽制することは
分かっていた。
「分かったよ」
グリシャの手から杖が滑り落ちようとする。しかしすぐに反応。
武装解除の呪文を唱える。それを躱した。ケイの杖は人質となった生徒の
首筋にあてがわれる。
「本当に勝負が得意な人だ。そんな穏やかな顔をして、気を抜いたら
あっという間に出し抜かれてしまう」
「これでも闇の魔術に対する防衛術、その教授だからね。君たちの狙いは
なんだ?偶然か分からないけど、転入生が来てから襲撃されているようだからね」
人質に取られている生徒は蛇寮の寮生、それに混血やマグルを嫌っているらしい。
彼女が震えた声を出す。
「全部…全部、アイツのせいよ…!」
「そう言うことにするのも、良いかもしれませんね」
「つまり、生徒では無いという事だね。君たちの狙いは、クィディッチ杯で
お披露目される鏡か」
みぞの鏡と呼ばれる道具を狙っていたのだ。言葉を交わす。内容は自然なもの。
襲撃に関する話だ。
「それで、さっき言ったことは偶然かな?」
「違う…違うに決まってる…」
「君がマグルや混血を嫌っているのは分かるけど、あまり言わないほうが良い。
自分の行いは自分に返って来るものだから。思想を改めろとは言わないが、
自重しなさい」
グリシャはそっと彼女に言い聞かせた。
「流石、先生。生徒を窘めるのが上手だね。背後ががら空きだけど」
「舐めて貰っては困るな」
背後からの攻撃に即座に対応した。
「トレント先生!」
ケイの背後から奇襲をかけたのはドロテア・トレント、鷲寮の寮監である
女教師だ。グリシャは時間を稼いでいた。会話で、ケイの注意を自分に向け
続けていたのだ。ケイが人質から離れたのを見てドロテアは彼女を回収した。
「アンタはこういう手は使わないと思ってたわ」
「こっちも必死だからね。人質を回収するのが最優先だった。こっちはとにかく
生き残るのが勝利条件だと生徒に論破されてね」
「生徒?」