夜明けの魔女   作:瑠璃。

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第二十一節「混戦は続く」

グリシャの指示により、蛇寮クィディッチチームは避難できていない一般人や

状況が分からず逃げ遅れている下級生の避難を行っている。ブルーノ・ベックマンは

改めてグリシャという教師を尊敬する。彼の指示は的確だ。この場において

自分たちの強みを活かした行動をさせたのだ。

 

「(流石、死を制した者の血を引く人間と言う事か)」

 

普段の柔和な彼からは想像も出来ない引き締まった顔。あんな覚悟を見せられたら

下手に口出しできなかった。

生徒たちの中にスパイが、灰がいることは今回の事件でまた信憑性が上がった。

炙り出すことは出来ないのだろうか。他の生徒たちもそれぞれ他者を

疑っている。確証がない噂が飛び交うばかりだ。それに翻弄されている自分たち。

きっと敵にとって、今の状況は好ましいのだろう。

 

「奴らの掌で踊らされるのは、気に入らないな」

 

下に目を向けるとサラ・ナイトの姿があった。彼女と共にいる生徒の中には

自分の寮の監督生であるヴィルヘルム・マルフォイも含まれていた。気付くと

生徒たちが全員集まっていた。

 

 

「サラ、良かった!」

「ベアトリス…!」

 

仲がいい二人は互いの無事に安堵して抱きしめた。

複数の生徒たちは皆、サラを信頼してやって来たのだ。純血主義は快く

思わない。またはその思想を持つ生徒に嫌がらせを受け続けていた生徒たちが

ほとんどだ。声掛けをしたのはクラリーチェ・ロングボトムとヴィルヘルム・

マルフォイの二人。

 

「スタジアムの結界の解除。そして闇陣営の攻撃を躱しながら逃げ遅れた人を

避難させるんだ」

「私たちは闇祓いのような戦闘訓練は積んでいないからね。戦わず

逃げるのも正しい選択だ」

 

サラの言葉にクラリーチェが付け加えた。一体ここに何人のワルプルギスの構成員が

いるのだろうか。

 

「そういえば、彼らは鏡を探しているのではないか」

「鏡?」

 

みぞの鏡と呼ばれる魔法道具だ。自分自身の望みを映し出す鏡。何人もの

魔女や魔法使いたちが鏡の虜になったという。やっていることは現実逃避と

変わらない。

 

「手下を増やしたいんじゃないのか。そうやって鏡を条件に自分たちの力に

する。手を貸せば、幸せにしてやろう…とかな」

「恐ろしいわ」

 

ヴィルヘルムの言葉は否定できない。

 

「そもそもその鏡は何処にあるかすら分からないのよ」

「え、そうなの?じゃあ、なんでワルプルギスはそんな鏡があるって

分かったのかな…」

 

クラリーチェの言葉はその通りで鏡の在処など誰も知らない。

 

「だからこそ、噂されているんじゃないかしら。灰っていう生徒のスパイが」

 

メイラはそう告げた。誰も知らないはずの事を知っている。学校の生徒しか

知らないことを知っている。知るには生徒を頼るしかない。ワルプルギスは

ホグワーツの奪還を狙っているという話もある。

 

「…これは一先ず置いておこう。今は…こっちじゃね」

 

仮面も被らず男はそこにいた。

 

「皆、下手に動かぬように」

 

クラリーチェは小声で注意した。動かない生徒たちを見て男は微笑んだ。

 

「偉いね君たち。一応言うけど、動けば攻撃もするから。君たちに質問なんだけど

鏡は何処かな?嘘を吐くと、こうしちゃおう」

 

スヴェンと名乗った男は杖をちらつかせる。試しに、と彼は数カ所を爆破

させた。ナディアはサラに抱き着いた。

 

「あはは、ごめんね。反抗してくるようなら、手を出させて貰うからさ」

「鏡について、私たち生徒は何も知らない。お前たちが探している鏡とは

みぞの鏡だろう」

 

クラリーチェは臆することなく答えた。

 

「我々生徒のほぼ全員が在処を知らない。鏡は先の大戦で失われたと

聞かされている」

「本当かい?」

「私たちが嘘を吐いてどうする?戦闘訓練もロクに積んでいない学生だぞ。

それとも、学生を敵に回したくないと…」

 

スヴェンが杖を振るった。素早く対応したクラリーチェ。

 

「言っておくが、私はお前が先に杖を振ったから防御したまでだよ。

相手を撒くぞ!全員散れ!―コンフリンゴ(爆破せよ)!」

 

クラリーチェはスヴェンの周囲を爆破して足止めする。ナディアとサラは

空へ、他にも箒を持っている生徒は上空へ。生徒たちが散り散りに避難する。

 

「サラ、アグリア校長先生のところへ!」

「そうはさせないよ!」

 

スヴェンの攻撃をクラリーチェが妨害する。サラはナディアと共に箒を

かっ飛ばす。下から攻撃を受ける。

 

「姉様…あれ…!」

 

生徒が攻撃しているのだ。見知った顔もチラホラある。

 

「服従呪文を掛けられているに違いありませんわ」

「でしょうね。でも、学校内に服従呪文を掛けられてるから殺そうとか言う

極端な考えを持っている人はいないと思う。私たちは校長先生のところに

急ぐよ」

「はい!」

 

二人を乗せた箒が加速する。視界一杯に黒い烏が現れた。これは回避しきれない。

下からの援護射撃。烏が一瞬で焼き鳥になった。この下はアラミスが二人の

ワルプルギス構成員と戦っている場所だ。一本は上空に、もう一本は敵に向ける。

 

「なッ!?マジかよ、二本でそれぞれ別の魔法を使うとか…見たことも

聞いた事もねえぞ」

 

エリアスは苦笑する。

 

「…器用だな」

「それほどでもない。さぁ、続きをやろうか」

「良いのか。まだまだ烏は沢山いるぜ」

 

グレイはアラミスに言う。相手の心を揺さぶるために放った言葉だ。相手は

妹を随分大切にしている。妹の身に関わる事ならば、揺れるだろうと踏んだ。

 

「そう思っているのなら、見当違いだ」

「薄情な兄貴だ、なァッ!!」

 

不意を突く一撃だがアラミスは容易に防いで見せた。グレイが舌打ちする。

 

「多数に流されるのが人の性質だが、情熱を燃やす人間には否応なしに目が行く。

それもまた、俺たちの共通する性質だな」

 

クィディッチ杯襲撃、この混戦はまだまだ続きそうだ。それぞれが混乱の中で

すべきことを見つける。そして誰もが、誰かに注目する。

 

 

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