「お前たち、まだうろついているのか」
ブルーノ・ベックマン、蛇寮四年生。彼は逃げ遅れた生徒や一般人を誘導している。
声を掛けたのもサラたちが逃げ遅れたと思っているから。
「ここは危険だ。避難しろ」
「やらなければならないことがある」
「それは俺がやる」
サラの言葉を一蹴した。だがサラはその言葉も蹴り飛ばした。
「いや、言ってくれるのは嬉しいけど貴方の方が沢山動ける。何もしないで
いるのは気が引ける。とりあえず校長が何をしているのか、確認するだけだから」
「えぇ、大丈夫ですわ。ちゃんと危ないと思ったら逃げますもの。姉様と」
ナディアはギュッとサラの腰を抱く。
「実力主義なのは良いけど、出来る奴に出来ることをやらせるのが指導者だと
思う。ただ見て、帰って来るだけ」
ブルーノの横をサラたちは通り過ぎる。彼は二人を追わなかった。サラに対して
どう感じたか分からない。生意気だな、そう思っている可能性もある。
だが知ったこっちゃない。血による差別など、どうでもいい。純血主義?
純血がマグルや混血より優れているのは当たり前だろう。何も結果を出さない
純血も彼らが嫌うマグルたちと大して変わらない。だが結果を出すマグルや混血なら
注目している。サラ・ナイト、グリシャ・ポッターと随分親しい生徒だ。
空を飛ぶサラとナディア、彼女たちの道を妨げる烏の群れが鬱陶しい。彼女を
援護する者たちがいる。
「ヴィンス、ピオジエ!」
ヴィンス・ルエルとピオジエ・アレニウスの二人。他にも援護をしている
生徒がいた。下に目を向けると丁度上を見上げていたディラン・グッドマンと
目が合った。彼がこちらに手を振る。彼の隣にいる蛇寮の男子生徒も見上げている。
「メルヴィル・ディオン、アイツも反純血主義だから」
「そうだったんだ。後でお礼言わなきゃ…。そうだ、どうしてここに」
「当たり前だろ。僕たちは避難誘導をしようと思ったら、偶然サラたちを
見つけてさ」
ピオジエたちはサラを見かけて声をかけて来たのだ。その時に彼女たちの方向に
烏の群れが向かうのを見つけて射撃をした。
「なんで校長のところに?」
「敵の狙いが鏡って言ってたから。どうなのかなって」
「気になるって?だが、俺たちが気にすることか…?」
ヴィンスの言葉は否定できない。サラたち生徒には気にするべきことは他にある。
鏡は先生に任せる方が良い。
「気になるんだ。鏡が公にされてから奪取されても良いと思わない?まだ試合の
途中なのに襲われて」
「そのタイミングを最初から狙っていたんじゃないか?客はクィディッチに夢中で
反応が遅れると踏んで…」
そうなんだけど、とサラは唸る。
「ハッタリかもしれないでしょう。鏡を授与するけど、今は学校にあります…とか
後日呼び出して授与します、とか」
「襲撃自体にも理由があった…鏡について一番知っているであろう人物は
校長か」
ヴィンスもピオジエも同じ答えに至った。相手も同じだろう。校長に目が行くはず。
そう考えて行動しているのだ。
その裏で、校長のところにはワルプルギスの構成員たちが押し寄せていた。だが
彼女は、エリザベス・アゼリア校長は無抵抗だったという。彼女のもとに
辿り着いた時、事は既に済んでいた。
「そうだったのですね。心配をかけてしまいました。生徒が危険に晒されるぐらい
ならば、鏡など何の価値もないのですよ」
「でも、良かったんですか?貴重な鏡だと聞いています」
ナディアは校長に言う。本当に良いのかと。だがエリザベスは一向に構わないと
言い続ける。彼女には彼女の考えがある。価値観がある。生徒を大切に思っているの
なら、そうなのかもしれない。
「サラ。貴方はこの騒動の中で誰よりも早く動いていましたね」
「え?あ、いや…私より早く動いていた人がいると思います」
「いいえ。いませんでしたよ。逃げ惑う人々の流れに逆らって、貴方は動いた。
クラリーチェ・ロングボトムたちが最終的には指揮を執っていたようにも
見えますが、しかし貴方を中心に集まって来たのは事実。生徒たちのお陰で
一般人に怪我はありませんでした」
安心した。あんな混乱している状況下で怪我人ゼロという結果が有り得るとは。
エリザベスは喜んでいた。生徒たちも自分で動き守ることが出来たと。
この勝負はこちらが勝ったも同然ではないかと。スタジアム等の結界については
教師と中に閉じ込められた生徒たちが破壊した。場内を今、闇祓いと他の
生徒たちが巡回しているがワルプルギスの構成員は見られなかった。
「一先ず、これで一件落着です」
後日。この騒ぎに関しては不注意に一般公開を決定した自分にも非があると
エリザベスは公衆の前で謝罪した。怪我人が誰もいなかったということで騒ぎは
大して大きく取り上げられなかった。
学校生活も普通を取り戻した。もう五年生になろうとしているのだ。
一年で一体何回自分は巻き込まれれば気が済むのだろうか。サラは自分で自分の
これまでを見つめ、苦笑した。
「サラ、ちょっといい?」
ベアトリス・ゾグラフはサラに声を掛けた。真面目な話があるようだ。他にも
数人の生徒が集まっていた。ピオジエやナディア、ヴィンス、メルヴィル、ディラン
クラリーチェ、ヴィルヘルム。沢山の生徒が揃ってサラに目を向けている。
「サラ、騎士団を作りましょう!」
「…えぇ!?」
あのハリー・ポッターのように騎士団を創設しようというのだ。待て待て、
自分たちは別に抑圧されているわけではないのに作る意味は何処にある?
「だって、私たち何回襲撃されたと思ってるのよ」
ベアトリスの意志が固すぎる。彼女の信念を折ることは誰にも出来ないだろうと
サラは確信した。