夜明けの魔女   作:瑠璃。

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第二十六節「グリシャの先輩」

蛇寮内ではヴィルヘルム・マルフォイが署名をしていた。

 

「これで良いかな」

「…」

「ヴィンス?」

 

ヴィルヘルムの署名を見て、ヴィンス・ルエルは呆然としていた。我に返る。

 

「いいえ、ヴィルヘルムさんの家、純血しかいないのに良いのかなって」

「良いんだよ。今はそう言う時代だろ。純血主義なんて時代遅れさ。こうやって

集まれる場所が提供されるのは良い事だろうし…だけど、懸念していることもある」

 

彼の表情に影が差す。騎士団という組織を作ることで起こり得る懸念。

生徒たちの間に灰と言う存在がいるのは理解されている。この組織が出来て

得をするのが敵なのではないかと疑われること。襲撃された時にも集中砲火

される可能性があるという事だ。

 

「ヴィルさん、よく見てないんですね。詐欺に遭いますよ」

「うん?…あッ!」

 

紙にはビッシリ注意事項がメモ書きされていた。その中に彼が懸念していた内容も

書かれていた。それ以外にも色々と書かれていた。諸々の事情を受け入れるなら

署名すること、と書かれていた。こういった内容は不利になるに違いないのに

隠さず伝えている。

 

「そんなことにビビっていたら、ただの腰抜けに成り下がる。弱い者虐めをする

奴らと同じ穴のムジナだ」

「そうだな。この紙を用意した生徒は随分と勇気があるな」

 

そこにやって来た女子生徒がいた。女子生徒としては比較的長身だ。

ヘルガ・スタンフィールドだ。彼女も署名をするために来たらしい。

 

「ただ単に気に食わないってだけよ。手段を学ぶのは別に良いでしょ」

 

噂は既に校内を巡っている。サラたちと直接関わったことが無い生徒たちも

興味を持ち、そして参加の意志を表明する。

鷲寮も獅寮も、どの寮も良いペースでメンバー集めが進んでいた。それを

快く思わない生徒もいるだろう。だが、そんなことは関係ない。

ハッフルパフ寮もエドワード・ホフシュナイダーのもとに騎士団入団を希望する

生徒が集まっているらしい。全てが順調に進んでいる気がする。顧問を担当すると

約束してくれたグリシャ・ポッター、そして各寮から集まった有志者たち。

となると必要になるのは活動場所である。騎士団としても部活としても、学ぶのは

防衛術である。守護霊の呪文は学校では五年生になってから学ぶ。

 

「活動場所か…人数は多くなりそうだし、魔法もバンバン使うから広い方が

良いのよね」

 

ベアトリス・ゾグラフが提起したのは広い場所、魔法を使っても良い場所だ。

このホグワーツは巨大な学校で全容を知る人物が少ない。加えて過去に起こった

ホグワーツ決戦で学校は半壊して、建て直しが行われた。元々でさえ全体像が

見えなかった城の中がどういう構造なのか理解できていないのだ。

 

「今日が、確か期限だったわね。入部希望者集め」

 

これで一定の人数に達していれば晴れて防衛術研究部、もとい騎士団の設立が

出来る。

 

「…後は、校長先生が許可をしてくれるかどうかも怪しいよね」

「ほぼほぼ生徒だけで防衛術を学ぼうとしているも同然だからね。でもきっと

ポッター先生が口添えしてくれるわよ」

 

メイラ=フゥは、そう言い聞かせた。鷲寮、獅寮の生徒名簿が集まる。予想以上に

多くの生徒の名前が記載されている。紙一枚にどちらも収まっているが構わない。

メンバー集めがここまで来た。ここからは後戻りが出来ない。

 

「遅くなったかな」

「あ、エディ、ヴィンス!」

 

残り二つの寮が同時にやって来た。エディとヴィンス・ルエル、彼らだけでなく

ヴィルヘルム・マルフォイも共に来ていた。

 

「ふむ、良いと思うよ。これだけいれば先生も無下には出来ないだろう」

 

ヴィルヘルムは全ての寮の名簿に記載された名前を大まかに数えて反応した。

人数は上々、顧問となっても良いと言ってくれた教師もいる。後は部活動設立が

校長より許可されれば良い。のだが、その前に解決すべき問題がある。部活の

活動場所だ。

 

「今すぐに必要になるわけじゃない。だから、これからゆっくり探してみないか?」

「そうね。エディの言う通りよ。探せって言われてから探しても良いんじゃない

かしら。設立早々、本格的に活動するわけでもないし」

 

メイラもエディも言う。何処の教室が良いのか分からない。この広大な敷地、

屋内で一つを見つけ出すのは骨が折れる。今は許可が下りるまで、探すしかない。

必要事項は一通り書いた。部員数も規定数に達している。校長や他の教師からも

許可が下りれば問題ない。

 

「そういえば、今日から新しい副校長先生が就任するらしい」

「あれ、そうなの!?」

 

エディの言葉にサラは衝撃を受けた。彼女に対してベアトリスは溜息を吐いた。

 

「長期休暇に入る前に言ってたじゃない。それに昨日だって言ってたわ」

「そ、そうだっけ?」

 

そうなった理由がある。ワルプルギスの活発化、そして最近起こった

クィディッチ杯襲撃事件を受けて、魔法省より派遣された闇祓いが副校長として

やって来たのだ。

 

「グリシャ君じゃないか。久しぶりだな」

「お久しぶりです、ギーツさん」

 

ギーツ・ローランド、闇祓いである。彼はグリシャの先輩でもある男だ。

彼は今もグリシャが闇祓いを引退したことを不満に思っているらしい。

 

「お前の力なら、まだまだ闇祓いとしての仕事を出来たと思う。何故引退した?

お前も、ヴィクトールも」

 

ヴィクトール・ゾグラフは利き手の負傷を理由に引退したが、それでも彼は

戦えたはずだとギーツは考える。グリシャに関しては理由が分からない。何も

語らず彼は戦線を退いて、教師と言う仕事に就いた。

 

「僕には重すぎると思いまして…それだけですよ」

「あのハリー・ポッターの血を引くからという期待に、か…そんなことを気にする

必要は無いと何度も」

 

グリシャはただ穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「もうやめましょう。今の僕の仕事は、闇祓いではなくホグワーツの教師です」

 

それだけは、とても強い口調で言った。

 

 

 

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