古株の幹部がいる。禿げた老人、ケイシーという男だ。彼は生徒のスパイ
灰にあることを教えていた。オーグの雌の捕まえ方。簡単な捕まえ方を伝授し、
回収するつもりだ。彼は魔導書の騒ぎに乗じてクォーレを蒔いていた。しかし
速い。動きが早過ぎる。
「どうかしたの?ケイシー」
「マチルダ。少々計算が狂っている」
女幹部マチルダに彼は自分の計算と現状の違いを説明した。生徒の動きの速さ、
そして校内に流れた噂の内容について。マチルダには何が違うのか分からない。
何処が悪い部分かも分からない。
「何度も都合よく闇祓いが現れる」
「こっちにもスパイがいると?それは難しいと思うわ。情報収集に長けた
ジムがいるのよ。彼の腕を疑うというの?」
「そうではないが…ふむ…」
二人が首をひねる。何かが崩れている。
「―時に計算を想いが越えることもあるのですよ、ケイシー」
若い青年だ。まだ入って間もない新人だが、任務に忠実であるため幹部から
気に入られている。まるで人形のように命令に従い続ける青年。名前を
エドガー・ヴァーラという。
「どういうことかね」
「そのままです。ですが、きっと貴方の頭脳ならばその言葉を変えられるでしょう。
ご安心を。我々は夜を統べる者、闇の帝王復活も夢ではない」
「そうかね。わざわざ鼓舞をしに来るとは」
「良いじゃない、ケイシー。彼が忠実であることに変わりはないわ。多少の無礼は
目をつぶる、それぐらいの価値が彼にはあるもの」
ベアトリスもピースを発見した。場所は驚くことに自分の服のポケットに
入っていたのだ。
『獅子座の貴方。勇敢だけれど、選択の時が来る。自分と友人を天秤にかけられる?
どうか、後悔しない選択を。命も友も、お金では買えないわ。でも分かってる。
貴方はきっと迷わない』
その言葉は彼女の胸の内で何度も繰り返された。迷う事は無い。選ぶのは
決まっている。そのピースは教師のもとに届けられた。
彼女のもとに現れたのはオーグだった。ベアトリスはまだ守護霊の呪文を
扱うことが出来ない。
「―エクスペクト・パトローナム!」
ディラン・グッドマンの守護霊だ。犬の守護霊。怯えた様子でオーグが逃げる。
「大丈夫だったか?ゾグラフ」
「はい。ディランさんは」
「俺はピースを教師に渡して戻ろうとしてたところ」
ベアトリスと同じだった。五年生になり、守護霊の呪文を学び始めたが中々
出ない。元々この呪文は難易度が高い術なのだ。ディランは彼女に何度も使って
何度も失敗すれば勝手に出来るようになると助言した。
「焦っても出来ないモンは出来ねえよ。頭で分かるのと、体で出来るのは
別だ。何度も使って自分で感覚を掴むしかない。得意な奴と不得意な奴が
出てくるのは当然だからな」
「そう、ですね」
その頃、メイラも同様にピースを見つけて占いに耳を傾けていた。
『牡羊座の貴方。もうすぐ貴方の力を必要となる時が来るわ。どうか力を
貸してあげて。その人が誰なのか、貴方と近い人』
多くの生徒が続々とピースを見つけ始めていた。
図書館にて、サラはエディと、そして穴熊寮の生徒であるカイ・パーシオ。
彼は突然二人に懸念を話した。疑っているのは騎士団の事だった。サラはエディに
目を向けた。彼は首を小さく横に振る。言うな、静かに聞け。
「俺、灰なんじゃないかって生徒を見たのにアイツらは違うって言うんだ」
「疑う奴は悪い奴、みたいにされるのが嫌って事?」
「そう!そうなんだよ!生徒が戦うよりも、大人に任せた方が良いと思わないか?」
その通りだろう。そう思う生徒がいたってかまわない。真剣に聞いている。人の
意見に耳を貸すのも大切な事である。
「見た聞いたって言葉は決定打に欠けるんだよ。それに加えて、正確な情報を
提示すれば良い。何時、何処で誰が。この三つは最低限メモしておかないとね。
それと、動かない証拠。これさえあれば絶対って言う物的証拠があれば
納得はするかもしれない」
「そ、そうなのか?」
「見た聞いたなんて、言い訳のしようがあるでしょう?答えを仮定して、逆算し、
筋の通った主張をしなければ簡単に言い逃れが出来るんだから」
サラの指摘にカイは納得したらしい。なら次、大人に任せるべきと言う意見にも
サラは彼女なりの意見を提示した。
「そう思うのは自由だよ。発言することもね。実際に正しいと思う」
「だろ!?」
「疑い深い事は悪い事じゃない。私の意見だから、何も言わなくても大丈夫だけど
私はカイみたいな人が出て来る事を予想して動く人が別にいる気がする」
サラは真剣な目をしていた。だからカイは彼女を信じる。勿論サラは悪事を
考えていない。自分の主張を告げるだけだ。
「騎士団が悪いみたいな話があるらしいけど、もっと根本的な原因があるでしょ。
闇の帝王が消えて、死喰い人も消えたのにワルプルギスが結成された。それが
諸悪の根源だと思うんだ」
「だけどさ…俺たち生徒が動く意味はあるのか?だって闇祓いでもまだ
根絶出来てねえんだぞ?」
「本当に騎士団は戦ってるのかな?誰かが、誰かが引っ掻き回す為にありもしない
存在をでっち上げることも出来ると思う」
サラとカイは真っ直ぐ目を見つめ合う。どちらも気付けば熱が入っていた。
そこにエディは割って入った。
「まぁまぁ。どっちの主張もあるわけだし、ここで張り合うなよ。お互い
悪いことは考えてないし」
「エディ」
「騎士団がいるとして、放っておこうぜ。そいつらにもそいつらの理由がある。
俺たちは表面上の、しかも人から人に流れた噂しか情報が無いんだから最初から
全部可笑しいと決めつけるのは止さないか?」
エディは二人に、特にカイに言い聞かせた。彼に言いくるめられたカイはその言葉に
納得して、それ以上は言わなかった。カイは別の場所を探すらしい。彼が
いなくなってからエディはサラに小声で言う。
「アンタの主張、間違って無いかもな…というか、まさかそこまで強く
出るタイプだとは思わなかったよ」
「あ、いや、あれは相手が真剣だったからつい‥。それに、ベアトリスが善意で
興したことを全部悪いみたいに言われるのが嫌だったから」
サラは頬を赤くしながら言った。緊張もして、しかし気分は高揚していた。
興奮状態から出た本音だ。
「あれには部長がベアトリス・ゾグラフって書かれてたけど、アンタが部長に
なれば良いじゃないか」
「ううん。私じゃなくてベアトリスがやろうって提案したから、それはダメだよ」
エディは肩を竦めた。誰がやろうと構わないと思うが、彼女には彼女なりの
考えがある。拘りがあるのだろう。