オーグの騒ぎとピース集めが同時進行している最中。少なからずオーグの被害が
出ていた。医務室に既に生徒が運ばれていた。悪夢に魘されている生徒が続出
しているのだ。これも、クォーレの種を蒔き、オーグをおびき寄せた人物の
作戦だったのだろう。生徒を苦しめ、より動きを制限させる。自分たちが
動きやすい状況を作り出すための。
「また、来ることになったな」
アトスは学校を見る。オーグへの対策強化として派遣された闇祓いアトス・ナイト。
彼は門を潜り、校内に入る。
校舎内では多くの生徒が行き交っていた。授業終わりの休憩時間だからというのも
あるが、副校長ギーツ・ローランドから課せられた課題も関係している。
ようやくベアトリスたちと合流できたサラ。三人で廊下を歩いているとギーツと
グリシャが何かを話していた。
「ですから、僕はもう戻りません。今の仕事は教師です」
「もったいなくて仕方がない」
「良いんです。僕が自分で選んだ道ですから。…生徒たちに見られては
困ります。彼らの中には優しい子も多い」
グリシャが話を切り上げたタイミングだった。背後から声をかけて来た人物が
いた。
「盗み聞きしているの?」
「うわァァァァァァっ!!!!?」
「あ、馬鹿!」
サラの悲鳴が廊下に響き、グリシャたちも気が付いた。ベアトリスは慌てて
彼女の口を塞ぐも遅かった。驚かせるつもりは無いが、驚かせてしまったと
反省するライアン・ロザリーはグリシャに会釈した。
「あぁ、君たちか。僕も驚いちゃったよ」
「すみません。あの、あっ」
サラは慌てて口を閉じた。隣でベアトリスがやれやれと肩を竦める。その様子を見て
グリシャは彼女が何かを見てしまった、聞いていたことを理解した。
「聞いても楽しくは無いだろうけど。聞きたいの?」
「先生は、闇祓いだったのにどうして辞めてしまったのですか?」
仕方ないと判断したらしくメイラは聞きたいことを素直に聞いた。何故闇祓いを
辞めてしまったのか。グリシャは優しい先生だ。生徒に真剣に聞かれては、彼は
はぐらかすことが出来ない。
「過大評価に耐えきれなくなってしまったから、かな」
優れた人はそれ相応の努力をしているという事を忘れてはならない。親が
どれだけ偉大でも、優れた親も努力をしているのであって、その子どもだって
努力をしている。親が得意な事が、子どもも得意だと考える人がいる。必ずしも
得意になるはずがない。ハリー・ポッターの血を継ぐ者としての期待を彼は
背負わされた。
「我ながら情けないよ」
「でも、耐えられないのは当たり前だと思いますよ」
サラの言葉に全員が同意した。彼の思いは誰でも感じるものだ。
「先生が今が一番良いなら、それで良いじゃないですか。他人の言葉に耳を
傾けるのも大事だけど、やっぱり自分がやりたいことをするべきだと思う」
「…ははっ、君は人の世話を焼くのが上手だね」
グリシャはそう告げてから、何処かに行ってしまった。グリシャとは別で、もう一つ
ライアンの事が聞きたかった。
「どうしたの?」
「あぁ、三人が何かしてたから、何をしているのかなって。ごめんね」
「ううん。あ、そうだ。ライアンは噂について何か知ってる?騎士団のせいで
ワルプルギスに狙われてるって話」
それについて聞くと彼は気にする必要は無いと言った。
「誰かが羨ましいんだよ。君は君、だろう。きっと
サラに言っている。流している人間についても彼は何も知らないという。
ライアンは来たであろう道を戻っていく。彼はやはり不思議な人だ。
ボーっとしていた時だった。
「危ない!」
「え―」
振り向いた時、目前に何かが迫っていた。体を反らして受け止めたそれは何か。
分厚い本が飛んできたのだ。その持ち主であろう生徒が慌てて駆け寄って来た。
小さな生徒だ。ハッフルパフの生徒。三年生のコレット・エーメリーだ。
「わっ!もしかして、サラ・ナイトさんですか?私、防衛術研究部に名前を
書きました」
「そうなの?ありがとう。一緒に頑張ろうね」
「はい!あ、本、ごめんなさい」
慌てた様子で赤面している。コレットはサラを尊敬しているらしい。直接
関わったことは無い。でも、彼女の事は他人から聞いた事がある。サラについて
好印象を抱いているらしい。嬉しい限りだ。その評価を落としたくはない。
「大丈夫。何処も怪我をしてないからね」
「良かったです。他にも誘った人がいるんです」
「そうなんだね。他の人にも声をかけてくれて、ありがとう」
「えへへ」
照れながら笑顔を見せてくれた。コレットはその相手と一緒にピース探しを
しているらしい。彼女から仄かに甘い香りがした。蜂蜜のような香りだ。
だがすぐに彼女が向かった方向から悲鳴が聞こえ、三人は走り出した。
「わわわっ…!オーグ!!!」
「大変!?」
「見て!オーグのメスも混じってるわよ!」
ベアトリスが指差した。一匹だけ違う形の生物が混ざっている。女性的なフォルムの
オーグ。あれがオーグの雌だ。ほんのわずかしか存在しないはず。彼らを追い払う
には守護霊の呪文を使うしかない。辺りに目を向けるも、人は誰もいない。
「ち、ちょっとサラ?」
「やるしかない…出来る出来ないじゃなくて、やるしか無いんだよ」
サラはよく思い出しながら、杖を振った。
「―エクスペクト・パトローナム」
白い煙は出るが、それは形を伴わないもの。失敗。だが、注意を引き付けることには
成功する。
「サラ!」
もう一度、振る。その手をそっと握る誰かがいた。
「もっとリラックスしろ。あと一歩まで出来てるからさ」