魔法省内で働く男はマティアス・スタンフィールド、彼の家は低級貴族に
位置づけされる家だ。全員が大柄で、それでいて複雑な家庭となっている。
兄弟仲も複雑だ。マティアスは次男で、下の弟は闇祓いとして働いている。
マティアスの兄の娘と末弟の息子は同じホグワーツに通っており、それぞれ
スリザリンとグリフィンドールに所属している。もう一つ、本来スタンフィールドは
高学年になったら、闇に手を貸し、やがて大人になったらワルプルギスに所属する
事になっている。つまり彼も、その手合い。
「おやぁ~?双子ちゃんたちが揃うなんて久し振りダネ~!」
そっくりな顔立ちの双子に声を掛けた。
「あれ、どっちがアトスで、どっちがアラミスだったかな?」
「赤いイヤリングがアトスで、緑のイヤリングがアラミスですよ。お久しぶりです
マティアスさん。今日も悪戯を掛けてランベルトさんに叱られましたか」
「もう!辛辣だなァ~、アラミス。それより聞いたよ、騎士団設立ってホント?」
サングラスの下で目を薄っすら開く。何か情報を引き出そうと考えている。
アラミスは上手く躱した。
「本当らしいですよ」
「…アラ?そーなの?」
「どうしたんですか。結構前から存在していたらしいですよ」
存在しているのは事実だが、現れた時期が違う。嘘を吐いた。嘘は彼の口から
まるで事実のように出て来る。すっかりマティアスは彼の言葉を真に受けていた。
表情には出さないが、彼はほくそ笑んでいた。
騎士団はナイト家に養子が来る前から既に行動していたが、その中に灰と思しき
生徒がおり、崩壊の道を進んでいるらしいという内容だ。
どうしてそんなことを知っているのかと聞かれ、彼は養子を、義妹を通して
知ったと伝えた。それなら知ることが可能だとマティアスは判断したらしい。
「良くあんなに嘘がスラスラと出て来るな」
「狡猾なスリザリンの生徒だったからな。嘘も方便だろう?」
アトスは笑った。怪我もある程度の治って医者からゴーサインが出された。
職場にやって来ると全員の目がこちらに向いた。
「おぉ?なんだ、アトス。洒落た眼帯じゃん!」
レオナルド・オルグレンが先に声を上げた。これについて指摘されるだろうという
予想は出来ていた。
「まぁ…戒め?」
「戒め?…あぁ、なるほどねー。ベルちゃんにこっぴどく叱られたって訳かい!」
「それで良いですよ」
赤い薔薇の眼帯。目立つ眼帯だ。彼は気にせずそれを身につけて外を出歩いた。
隣に立つアラミスは案外アトスはその眼帯を気に入っているのだろうと考える。
ベルから貰った物だからという理由もあるだろう。ワルプルギスがホグワーツに
侵入し、更に学校長に化けていたという内容は外部に漏れていない。それは幸いな
事だ。もっと前に学校長がクィディッチ杯での事件の事を謝罪したことがある。
だがその分を差し引いてもアズカバン行きは回避できない。
「罪は消えねえし、罰からは逃げられないって事さ」
捕まえたが、犯人は末端の構成員で大した情報は持っていなかった。自分は
服従の呪文を掛けられていたと主張していたが、開発された薬を飲ませれば
それが嘘だとすぐ分かった。これはまだ公表されていない品。ワルプルギスにも
知られていないようだ。
「その薬を開発したのは…グリシャさん、でしたね」
過去、闇祓いをしていたグリシャ・ポッターは技能が高い。闇祓いとしての
決闘のセンスだけではない。魔法薬学についての知識も豊富だった。だからこそ
現代の闇祓い局職員の中でも古株に値するギーツ・ローランドは彼の存在を
欲していた。
「服従の呪文に掛けられているか否かを見極めるのは難しいから過去には、この
呪文を言い訳にして逃れた人が多かったんですよね」
「そうだ。それでは正しく裁くことが出来なくなるから、どうにかしようという
話は出てたんだ」
見極めるための手段が無かった。幾人かチームを作って研究をした。そうして
グリシャは完成させた。見極めるのに必要な薬、名前は裁判所でも使われる
天秤。そこから天秤薬と言う名前になった。
「でも、もしかしたら共闘することが出来るかもしれませんよ」
「あん?なんでそんなことが分かるんだ」
「…内緒です」
アトスは意味深な言葉を言って、その内容については秘密にした。生徒たちが
自らの意志で立ち上げた騎士団の存在は出来る限り秘密にしておこう。彼なりに
考えた事だ。
寒くなり始めた時期。五年生の冬に差し掛かろうとしている。最近、ようやく
活動場所の確保に成功して本格的に特訓を始めた。一年生や二年生などの他学年の
生徒も交えながらレベルが高い防衛術を学ぶ。
「守護霊の呪文は自分の楽しかった記憶や嬉しかった記憶を強くイメージすること。
大抵はそれで上手く行くけど、色々な事を想像して浸かってご覧」
定型に拘らない教え方をするグリシャ。彼は的確に指導する。生徒が沢山いる。
得手不得手も、好き嫌いも、全部異なる。一人一人に合わせた指導が出来るのだ。
教師として非常に優秀だ。
生徒たちの中には、守護霊の呪文を会得した生徒が現れ始めた。
「で、出ましたわー!」
ナディア・アウレリウスがその日、歓喜の声を上げた。守護霊はウサギだ。
「やったね。努力した証拠だよ。その感覚を覚えておくと役に立つ」
「はい!」
「さぁ、一度休憩を取ろう。その後は守護霊の呪文の会得じゃなくて、他の
防衛に必要な攻撃呪文の練習だ」
武装解除の呪文などを学ぶのだ。活動は順調に続いている。彼らが初めて
動き出すのはもう少し後になりそうだ。