ホグワーツに暗雲が立ち込めていた。真っ黒い空に一つ浮かぶ月も何かを
感じて雲の中に姿を隠した。月を無いも同然に覆い隠した雲はこの日、月が
人目に触れないようにずっと隠していた。朝は雲一つない晴天とは言いにくい
空模様。何時雨が降っても可笑しくない空。今はまだ、薄く、ほんのり光が
差し込む。
サラ・ナイトは防衛術の授業を受けていた。彼女も他の生徒も普通の授業を
受けていた。そもそも闇の魔術が使用禁止されている理由は何か。禁止されている
から、危険だから…漠然としている内容だ。
「アバダケダブラ、死の呪文。人を簡単に殺してしまえる魔法。クルーシオ、
拷問呪文。これもまた人を壊す術。インペリオ、人を簡単に操る魔法。具体的な
内容を簡略化すれば、こういう事だ」
サラだけが気付いているのだろうか。これを指摘して良いのだろうか。駄目だ。
気にする必要は無いと思った。グリシャは、彼の授業は少し方向性を変えて来た。
五年生になったこともあって、実践的な内容が増えた気がする。三つの闇の
魔術の中でも自分の力で掛けられた際、抵抗できるのはクルーシオとインペリオ。
前者は抵抗できる時間が限られている。自分が苦しみに耐えられるだけの精神力が
あるか否かが物を言う。後者は強い自我があれば良い。負けてやるものか、
兎に角強い意志が大切だと。サラは指名され、実践することになった。そこで
彼女は能力を開花させた。
「素晴らしい!この経験を忘れてはならないぞ、サラ」
「ッ、はい」
その日、設立した部活動は暫く活動休止となった。というのも、ここで違和感。
理由もなく、本人から暫く休止と言われてしまった。どうして?聞いたのだが、
これからグリシャ・ポッターは忙しくなるらしい。
「私たちには言えないようなことがあっても不思議じゃないわよ、サラ。何せ
教師ですもの。生徒には言えない仕事があっても可笑しくないわ」
「そう、だよね。テスト期間だって、生徒は入れないし…それと同じか!」
「それと同じよ」
ベアトリス・ゾグラフと会話をした。メルヤ=フゥとも一緒に行動をしていた。
学校生活にもいい加減慣れてきているが、しかし彼女たちの生活はもう目に
見える程に闇に侵食されている。夜に侵食されている。
「ねぇ、サラ。貴方は今日、ポッター先生の授業を受けた?」
メルヤに聞かれたので頷いた。
「なんだか何時もと少し授業内容が変わってた気がして…」
「そう…あぁ、気にしないで。色んな生徒に分かる授業なのは変わらないものね」
普段通りの、ゆったりとした口調なのは変わらないがメルヤには何か懸念が
あるようだ。この三人は特にグリシャと関わっている回数が多い。だから僅かな
変化に敏感だった。
自室に戻って来て、サラは辺りを探し始めた。
「どうしたの、サラ」
「エマ。新聞を見てない?」
新聞紙があるはずなのだ。普段から配られているもの。ホグワーツは全寮制なので
長期休暇等が無い時はずっとホグワーツ城内に生徒たちはいることになる。外部の
情報が入って来ないのだ。
「見てないわ。今日は届かないのかも…きっと明日には届くわよ」
「うぅん…」
納得いかずモヤモヤしてばかりだ。その気持ちをグッと心の奥底に押し込んで、
サラはいつも通り、ベッドで横になった。変わらない学校生活。普段通りに
進む時間。時間は進めどサラのモヤモヤは一向に晴れなかった。
別の場所。そこで大きな爆発があった。最初は一軒家でのボヤ騒ぎ、直後
大きな轟音。辺り一面の建物が吹き飛んだ。爆発物は無し。呪文によって
引き起こされたと見た魔法省は至急闇祓いを派遣した。
「ここは…」
「ウィーズリー宅。グリシャと同級生のフランカちゃんとフィリップが住んでいる
家だ」
レオナルド・オルグレンは苦々しい顔をして呟いた。隣にいたアトスは
跡地に歩み寄る。彼らの死体は発見されていない。だが彼らが狙われた可能性は
大いにある。彼らの曽祖父母はハリー・ポッターと共にかつて闇の帝王と戦った
戦友。ハーマイオニー・グレンジャーとロン・ウィーズリー。敵側が彼らの
存在を忘れているとは思えない。辺り一面を巻き込んだ爆破。惨いことを…!
花束が置かれた。アトスは手を合わせる。少し前のホグワーツでの騒ぎ以降、
アトスの体全体には消えない火傷痕が残っている。そして片目も失明した。
彼はその場で片膝をつき、手を合わせる。死者たちを悼む。
「犯人を見つけて、弔うしかねえだろ。俺たちの仕事だ、行くぞ」
「はい」
レオナルドも流石に死者が出ている場所でふざけようなどとは思わなかった。彼も
憤りを抱いている。好き勝手させてしまった自分たちの非力さにも、惨いことを
平然とやってのける闇にも。そして彼らの行動を何時しか縛るようになってしまった
魔法省にも。現場に足を運ぶ人間がいた。彼女たちはすすり泣いていた。
「此度は、申し訳ありません」
「そんな!頭を上げてください、闇祓いさん。貴方たちの力不足なんかじゃないわ。
全部、闇が悪い。私たちを助けてくれた人がいたのだけど、見ていないかしら?」
「?その人は、どんな容姿を?」
彼女たちの話を聞いて、アトスもレオナルドもピンときた。
「グリシャか…!?」
「でも、可笑しいですよ…」
「どういうことだよ、アトス」
レオナルドは首を傾げた。だが、すぐに自分の力で気付いた。グリシャは真面目な
男だ。仕事を休むことは滅多にない。彼が何故、ここを出歩いていた。彼で
間違いないはずだ。じゃあなぜ?何か用事があったのか?フランカたちに会いに
来ていたのだろうか。
「そうじゃないんです。学校にいるんですよ、グリシャさん」
「はぁ!?だって…」
「彼女たちも嘘を吐いている様子は無い。だけど、俺の妹も嘘を吐いていない。
学校には来ているはずなんです」
「…オイオイ…どういうことだよ…」
頭を抱える。大きな矛盾に直面した。グリシャがここに足を運んだという事実、
グリシャが学校で仕事をし続けているという事実。悩みの種が増えて、二人は
混乱した。情報整理が追い付かない状況に追いやられている。