寮の中では基本的にエマと行動を共にしている。
だが少しずつ他の生徒とも話をするようになった。
「これは、ここに置いても良い?」
「あぁ」
盤上には白と黒の駒が並んでいた。目の前に座っているのは同学年で
同じ寮の男子生徒だ。チェスなんてやったことも無い。自分が頭が良くないことも
理解しているので手を付けようとも思っていなかった。名前はルーク・リード。
彼が色々とルールも教えてくれたのだ。あっという間にサラは蒔けたがルークは
満足だったらしい。
「分かり切ってはいたけどね。難しいって」
「でも君は覚えていたじゃないか。正直俺は少しヒヤヒヤしたよ」
「どうだか」
近くで見ていたエマは首を傾げていた。何処が危うかったのか、分からないのだ。
それはやっていたサラも同じだ。
「将棋とかチェスよりも私に見合っているのはオセロだわ」
流石に自分には難しいゲームの種類だった。
白い駒を見た。王はその場に倒れている。どんなことでも指導者が倒れると
組織が瓦解することがある。現に、ヴォルデモートと言う強力な指導者を
失ってから闇の魔法使いたちはすっかり元気を無くしていた。しかし今は
水面下で着々と勢力を伸ばしているようだ。そしてこちら側も指導者とも
言うべき人々がいない。勝負の天秤がどちらに傾くか見極めるのは難しい。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
その日はルークとも一緒に行動をしていた。平和な学校生活の裏で教師たちは
何かを警戒していた。それはホグワーツにやって来るであろう闇の魔法使い。
彼らの襲撃について。
「あまり、大きく動くべきでは無いでしょう。内通者がいないとは断言できません」
「そうですね…ですが、警戒は緩めないように」
エリザベスは全ての教師たちにそう指示した。生徒の中に内通者がいないことを
願っているがそれは淡い期待だ。中にはいるだろう。自分から内通者になる者、
恐怖によって従う者…。既に闇側に新しい転入生の事も知られている可能性が
大いにある。
「何も起こらなければ、なんて甘い考えは通らねんだろうな…」
ヴィクトールは小さな声でボソッと呟いた。何かが爆発した音と共に大きく建物が
揺れた。何事?全員が思った。生徒の中にもいた。
轟音の原因があるであろう場所には見当がついていた。
「―えぇッ!?」
ガラスが飛散し、机なども粉々になっていた。一体何があったんだ!?横倒れに
なっている金庫から出て来たのは二人の生徒だ。大きな金庫なので生徒ならば
二人ぐらい入るだろうが…。
「一体何があったのです?」
「校長先生…実は―」
サラが話し出す前に一人の少女が告発した。
「サラ・ナイトとルーク・リードの二人が先生の目を盗んで薬を爆破したんです~」
そこにいたのはスリザリンの生徒だ。名前をバーベナ・ブランシュだった。彼女も
四年生だ。彼女の家は純血主義を掲げ続ける家。過激な思想なのだ。その環境を
鑑みれば彼女はサラを毛嫌いしているだろう。何せ彼女はマグルだから。
「そうですか。ですが、その場面を貴方は見ておきながら止めなかったのですか?」
「え?」
「っと、そろそろ生徒は寮に戻る時間だぜ、ブランシュ。さっさと帰んな」
ジーク・フリントはそう言って、バーベナをさっさと帰らせた後にサラたちから
経緯を教えて貰った。事は一時間ほど前だ。授業も終わったので彼女たちは
寮に戻ろうとしていた。
「サラ?」
サラと並んで歩いていたルーク。ふと足を止めたサラが眺めていた先は教室だ。
誰もいないはずの教室なのだが、机には一つの試験管が置かれていた。無色透明の
液体が入っている。
「誰かの忘れ物?」
「まさか。授業が終わったら教師だって試験管などの道具の数をチェックする。
その後は鍵も掛けるだろ」
「…」
ルークが言うことが正しいと思う。
「じゃあ、どうしてこれが?」
とりあえず誰か先生に渡しておこうとサラが手を伸ばそうとしたときだった。
それより早くルークが彼女を止めた。
「誰か来る」
「えぇ!?」
「こっちだ」
大きな金庫に身を潜めたのだ。ほんの少し狭く感じたが、入ることが出来た。
やって来たのは黒いローブの誰か。誰なのか分からないが、キョロキョロしている。
手を出して、試験管に何かを入れるような素振り。そしてすぐに消え去った。
そのすぐ後だった。
爆発したのだ。
「顔は」
「仮面被ってましたよ。全身真っ黒でした」
黒いローブに仮面、自分の正体を隠しながら謎の試験管に何かを投入。そして
その試験管が今、ジークの足元に転がっていた。
「これが、その試験管か。…まぁ、お前らがここを爆破して得するようなことは
ねえ。お咎めなしだ。お前らもさっさと寮に戻れ」
そう言われて二人はグリフィンドールの寮に戻る。彼女たちがいなくなったことを
確認してからサラたちが語ったことが反芻する。
「そんな姿、まるで…」
「考えたくはありませんが、ね…」
誰かが本当に侵入している。にしても、その侵入者は金庫に誰かがいることに
気付かなかったのだろうか。
「気配を察知してって奴ですか。それ程の力が無い、もしくは何か焦っていた。
侵入しているわけですからね。大胆にも白昼堂々と教室で爆破した」
「こっちに対しての挑発か?」
赤毛の若い教師、ニコラス・ヘイゼルの言葉にジークはそう返した。
気付けばもうすぐハロウィンが来る。
全員が仮装をするらしい。どんなイベントなのか分からないが先の爆破事件が
あったせいで、恐らく普通にイベントが終わることは無いだろうなと確信する。