夜明けの魔女   作:瑠璃。

40 / 41
第三十七節「告げる」

分霊箱とは魂を分割し、別の物に隠しておく。かつて闇の帝王もこれを利用して

不死を実現させていた。最も邪悪とされる魔術の一種である。これと同等の術を

開発しようと目論んでいた。

魔導書はかなり使い古されているものだ。

 

「これ…ホグワーツの紋章がありますけど!?」

 

アトスが声を上げた。裏表紙にはホグワーツ魔法魔術学校のエンブレムが

刻まれている。過去に魔導書を狙ってワルプルギスの構成員が侵入していた。

何も取られずに済んだという話だったはずだ。グリシャは考える。本は全て

図書館に納められている。今の司書ヴィクトール・ゾグラフは、過去には闇祓い

として活躍していた。今は利き手の怪我を理由に退職している。しかし、力は

全く衰えていない。彼の目を盗んで、図書館から本を盗むなど出来るのか。

それにこの本は古く、本来ならば生徒の目に晒されるような物では無い。だが

図書館に侵入したということが分かるのだ…。

 

「灰だったか。生徒の中にスパイがいるってのは話があるんだろ。向こうも、

それを確信してる。今更驚かねえよ」

 

レオナルドの言葉にグリシャとアトスは頷いた。如何なる理由があろうと生徒の

中に闇に手を貸している生徒がいるのは事実に違いない。だが…グリシャは

生徒を疑うことを躊躇していた。

 

「勿論、自分から進んで手を貸す生徒もいるだろう。だけど、恐怖に負けて

手を貸してしまった生徒もいるんじゃないか…?」

 

グリシャはグッと拳を握りしめる。生徒たちを安全に闇との繋がりを絶つことは

出来ないだろうか?生徒たちの中にはこのまま大人しくしていれば狙われないと

考える生徒が多い。しかし自分たちの置かれている状況に危機感を覚え、

身を守ろうと考えて行動をした生徒たちがいる。それが今、存在を噂されている

騎士団。今はまだ名前も、実績も無い形だけの騎士団。

アトスは魔導書の題名等をメモして、白フクロウに届けさせた。行先はホグワーツ、

司書ヴィクトールに向けて。グリシャとアトスの手紙は無事にホグワーツに

届いた。

ホグワーツ図書館。既に閉館時間を迎えている。彼は閲覧禁止書庫に入り、

本を探す。

 

「…マジじゃねえか…!」

 

思わず笑う。その一冊は本棚から抜かれている。一体何時だ?いつの間に、誰が

どうやって侵入して、どうやって逃走した。生徒?ここに入ることを許可される

生徒はいないはずだ。生徒に化けて、誰かが侵入したのか?有り得ない。自分の

記憶力ならば一人一人覚えられるはず。そうも過信出来ないかもしれないが。

そして校長室。直接届いた手紙はグリシャ・ポッターからの物だった。その

字は確かに彼の物。彼からは休暇を届け出ているという報告、そして忠告。

今、学校にいる自分は偽物であるという内容の手紙。

 

「これは…!」

 

改めて確認して気付いた。よくよく字を確認すると、違いが見えて来る。

字が違う。ポリジュース薬で変身しているという事を示す。本人と接触したことが

ある人間が変身している。彼が不特定多数と接するタイミングがあるとすれば

生徒たちか。

エリザベス・アグリアは手紙をデスクの引き出しにしまった。もう少し、相手が

尻尾を出すまで。

更に別の場所ではサラに声をかけて来た男子生徒がいた。ユリウス・ベタンクール、

鷲寮の生徒。サラに打ち明けたのは自分が過去に彼女を利用しようとしていたこと。

自分が灰と呼ばれるスパイだという事を教えた上で、声をかけた。

 

「どうして、それを?」

「そうしないと、フェアじゃねえだろ。お前に聞いて良いか。マグルが迫害

されるなら、ここにいなければ良い。なのに何で抵抗しようと思うんだ」

 

ベタンクール家は純血一家。蛇寮に入ることが普通になっているはずだが彼は

鷲寮に入寮した。彼の父親は、表ではマグルも混血も純血も平等に扱うという

スタンスを取っている魔法省職員だが、裏では真逆の性格だという。彼に従い

ユリウスは動いていた。だが彼の心が揺れ始めていた。

 

「そんな事?いたい場所にいて、何が悪いの?」

「?」

「私は案外嫌じゃないよ。もう友だちも出来たし、凄く楽しいからね。これ以外に

答えを出すなら…使い方を学ぶため?持った力は無かったことには出来ないでしょ。

そう言う力って普通じゃないから、使い方を学ばないとすぐ爆発する。ここは

学校、学び舎なんだからさ。学ぶために来てるんだよ」

 

これはサラなりの答えだ。難しいなと彼女は思った。聞かれたときに正しい

答えを出さなければならないのではないかと。だがこの質問に正しい答えは

無いかもしれない。人によって答えが変わる質問だった。

 

「…そういうモンなのか。お前、ポッター先生とよく話してるよな。先生は

何時戻って来る」

「それは分かんないよ。先生とは教師と生徒の関係だし、家族ぐるみでも無いし。

でも、なんとなく…すぐ戻って来る気がする。これを聞いて、どうするの?」

「時間を稼ぐだけだよ。俺なら出来る」

「下手な事をしない方が良いかも…怪しく見られちゃうと思う。何か企んでるって

思われたら、逃げられちゃうよ」

「じゃあ待てって言うのかよ」

 

ユリウスは少し強い口調で言った。やり直したがっている。自分の行いを清算したいと思っているのだ。この状況を良い方向へ進めて、そして足を洗う。その為に

行動しようとしているのだ。彼の肩にサラは手を置いた。

 

「焦らない焦らない」

 

ゆっくりした速度で言い聞かせた。

 

「果報は寝て待て、だよ」

「はぁ?」

「良いから。何も知らない馬鹿な振りをしていよう。悪いことはすぐに

誰かにバレるんだからさ」

 

そう言ってサラは何処かへ行ってしまった。追いかけたが、そこには既に

サラの姿が無かった。全ての生徒が廊下を行き交うので見失った。人混みに

紛れてしまったのだ。ユリウスの心が大きく揺れ動く。天秤は大きく傾く。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。