マグルとか混血とか、いても構わないと思っている。だけど、差別されるぐらいなら
特にマグルはここにいるべきでは無いと考えていた。変なタイミングで編入してきた
女子生徒はマグルである。彼女の事をそれだけで忌み嫌うような生徒も多いが、
しかし彼女は悪口は言いたい放題言わせておけば良いと言っていた。驚いた。
良いのかよ、それで。辛くねえのかよ。本当は怖いのを我慢してるだけだろ。
どうせ痩せ我慢だ、何処かで砕けるに決まってる。そう思いながら遠目に
見ていた。彼女の表情は一向に曇らない。何故だ。なんでそんなに気丈に
振る舞っていられるんだ!
何度も闇に抗って来た。何時しか彼女をあのハリー・ポッターに重ねるように
なった生徒が増えて来た。大半が純血主義に異議申し立てがあったり、または
そう言った思想を持つ者に苛まれて来た者たち。だが彼女は一貫していた。
英雄になろうなどと言う大きなことは言わなかった。そして昨晩、彼女の言葉を
聞くことが出来た。
「お前、怖くないの」
「え?」
話しかけて来たのは他人もどうぜんだったハッフルパフの生徒だ。彼は名前も
名乗らずに突然怖くないのかと聞いて来た。困惑するサラだったが、彼女は
何も気にせず答えた。怖くないのか…。
「それは大多数に一人で立ち向かうことが…って事?」
「あぁ。だってそうだろ。お前はマグル、どう見ても少数派だ」
「だから?」
苛立っているつもりは無いが、聞いている相手としては苛立っているように
聞こえる言葉。思わず出てしまった。サラは慌てて言い直した。
「そ、そりゃあ少数派だろうけど私は別に気にして無いから。それに、マグルとか
気にしないのが今でしょ。純血主義とか、令和で言うところの昭和な考えって
奴よ」
特に気にしてい無い様子だった。
この状態はまさに今、闇に侵食されているというに相応しい。校内にはデマが
幾つも出回っている。誰もが他者を疑っている。襲われる原因はマグルにある、
混血にある、純血にある、騎士団にある。だがそれを表立って断罪しようとする
生徒は誰もいない。疑われるのが怖いから。何処か暗い雰囲気の中でいつも通りの
授業が行われる。
「これ、落としたよ」
同じグリフィンドールの生徒だった。名前はルドルフ・ウォーカー、彼は
騎士団に参加してくれている生徒。家は純血主義だと言っていた。ウォーカー家の
人間は代々蛇寮に組み分けされていたらしい。例外的に獅寮に組み分けされた
ルドルフ。家督を継ぐ長男でありながら、その例外から両親からの評価は
下がっている。彼は家族の前では仮面を被っている。
「辛くない?」
「そうしなければならないからね」
大変な事は何も無いと言い張る彼の言葉。だがそれを口にした彼の表情は
陰っていた。嘘だ。家族に見放されまいと彼は自分の心を押し殺して生活
しているのだ。それが家族から見えない場所でネガティブな方向に爆発しないのは
凄い事だが、何時か彼は壊れてしまいそうだ。何か掛けてあげられる言葉は
無いだろうか。落としてしまったペンを受け取り、ペンケースにしまう。
「反抗期があっても、良いと思うよ」
こんな言葉で、彼をどうにかすることは出来ないと理解しているが思い悩んでいる
人を見るとお節介を焼きたくなってしまう性分だ。最近、自覚した。
「…ハハッ、そうかもな」
聞いたルドルフは顔を綻ばせる。事件が起ころうとしていた。騎士団全員の中で
何かが狂い始める。生徒が一人、失踪した。その話は教師たちの中だけで
進んでいた。消えたのは、ベアトリス・ゾグラフだった。
職員室、この時間帯は既に就寝時間。生徒が外に出ているはずがない。
「最後に彼女が確認されたのは今日の最後の授業でしたね。ポッター先生」
「えぇ、僕の指導で授業をしていました。ですが、僕も生徒一人一人のその後の
行動は残念ながら…」
失踪する直前の事はハッキリしている。だが授業後を追いかけるのは難しく
考えても答えに近づくことすらできない。その風景は正しく狙った通りであり、
計画は順当に進んでいると見た。ベアトリス・ゾグラフ、闇祓いを輩出している
ゾグラフ家の娘であり、本命である計画の柱となる生徒と親交が深い。サラも
ベアトリスをかなり信頼しており、別の見方をすれば依存しているとも取れる。
誘き出すには充分な火種だ。彼女のこれまでの行動から、動かないわけが無い。
刺激してやれば簡単に動く。彼女が動けば他の騎士団も動き出す。既に蒔いた
種は発芽し、彼女たちを侵食している。そして自分に気付いていない平和ボケした
学校の教師。
簡単すぎて、困るよ。
ベアトリスは手紙を書いていた。その手紙が誰宛なのか知らされていない。だが
少なくとも一通は自身の兄に向けて書かれた手紙。
書き終えた手紙は机の上に置いてある。相部屋であるメルヤ=フゥが必ず
気付いてくれる。
「でも、私は耐えられないわ…サラ」
校舎内を歩いていた。彼女は人に気付いた。相手が何をしようとしているかも
分かっている。
「僕がしようとしてること、分かってるんだね」
「えぇ。だって私の得意科目は占い学。結構当たるのよ?ライアン」
夕日の赤い光がライアンの白髪を染める。ライアン・ロザリーはベアトリスの
隣に立つ。そして顔を彼女の方に向けた。
「じゃあ、君はその結果を変えようとしないんだ」
「変えて見せるわ。この程度の占い結果」
確固たる決意を見せる。変える未来は自分の未来ではなく友の未来。決断した。
友の死を変える為なら、自分の死を選ぶ。それで変わるなら。狡い選択だと
怒られるかもしれない。だが、変えられない。見捨てるなんて出来ない。
もっと他に良い方法があったかもしれない。他に頼れる人が大勢いるのに
頼れない。
「君がそれを選ぶなら、僕は何も言わないよ」
「貴方の現状を知れば、必ず手を差し伸べてくれると思う」
「それは…誰の事かな」
「さぁ?」
ライアンの杖の切っ先が光り輝く。ベアトリスは全てを他に託して目を伏せた。
これをきっと逃げたと言われるかもしれない。嘲笑されるかもしれない。
しかし誰かがお前は凄いと褒めてくれるかもしれない。ただ一人、たった一人の
友の為に自分を犠牲にする自分をどうか許して欲しい。