10月後半。
学校で三年前のアルバムを発見した。
「あ、ここに写ってるのって…」
見たことがある顔が二つ。
「ハロウィンの写真ね。アトスさんとアラミスさんよ」
仮装している。アルバムをそっと閉じて元あった場所に置いた。
授業の休み時間にハロウィンの話になった。やはり仮装をするらしい。
何に仮装しようかという話。
「あんまり深く考えてなかったなぁ…エマはどんな仮装しようと思ってる?」
「そうねぇ…悪魔、とか」
「ふなぁ…」
どういうのが良いのか分からなくなってきたし、ここは試しにお任せを
してみよう。
二日後、ナイト家へ手紙が届いた。それを最初に受け取ったのは運よく
母であるメリダだった。内容を見た彼女は微笑んでいた。
「まぁ、アトスたちと同じことを書いてるわ」
『ハロウィンの仮装に困ってます』
三年前、否、アトスたちが一年生の頃もそんな内容の手紙が学校から
届いていたのだ。
更に一週間後になり、ハロウィンが間近に迫っていた。エマもベアトリスも
それぞれ仮装は決まっているが、三人で当日までお互い秘密にしようと
約束した。
「そういうのも楽しみの一つだもんね」
普段とは違う装いが見れることもイベントの楽しみの一つだ。
「もう一カ月が経ってるわね。案外時間が流れるのって早いわ」
「“もう”と“まだ”で、結構変わるけどね」
その二つの言葉が違うだけで速度が変わる。それも不思議だ。楽しい時間は
一瞬で過ぎる。忙しい時間も一瞬で過ぎる。
闇祓い局は忙しかった。悪事を働く魔法使いが増え始めているのだ。
アトスもアラミスも新人でありながらも何度も駆り出されていた。
「アトス、アラミス。アンタたち、ちょっと来な」
壮年の女性プリシラ・バーネットは今、闇祓い局の局長を務めている。
厳しい女性で、アトスたちも彼女にかなり厳しい指導をされていた。そんな
彼女から名指しで呼び出されて緊張していた。局長の部屋に来ると彼女は
二人だけに任務を頼んだのだ。
「ホグワーツに?」
「ホグワーツで爆破事件が起こった。それもあって警戒してるのさ。
ハロウィンの日、その爆破の犯人が現れる可能性がある。万が一を考えて
お前たちが潜入し捕まえな」
ハロウィンか…。
「仮装して?」
「当たり前だろ。分かったら今日は帰って良いから、さっさと準備しな。
もしも捕まえられなくても生徒たちさえ守れれば、それで十分だ」
今日は二人とも帰らされた。大事な任務になるからだろう。二人して並んで
家路についていた。
「そういえば、聞いたか」
「何を」
「サラが母さんにハロウィンの仮装について相談してきたんだってさ」
アトスがそう言った。アラミスがふと頬を緩めた。自分たちも同じような事を
やっていたからだ。何だか妙な気分だ。妹の仮装姿、か…。何だか見るのが
照れ臭いな…。家に帰ってくると屋内から良い匂いがしてきた。
「あら、早いわね!二人とも、お帰りなさい」
シチューの匂いだった。帰ってからアトスたちは次の任務がホグワーツでの
仕事になることを説明した。
「そうだったの?じゃあ、サラの可愛い姿が見れるわね!」
「何だか機嫌が良いな、母さん」
「あら~分かる~?女の子のお洋服だもの。腕が鳴るわ!」
手先が器用なメリダが凄くやる気満々だ。もうハロウィンはすぐ目の前だった。
それでもホグワーツの生徒たちはまだ普段通りの授業が待っていた。
「―よし、今日はこれまで。しっかり勉強しておくように」
黒板に字を書いていた教師が振り返る。中年の男。名前をフォルクス・リーという。
魔法薬学の短刀をしている教師だ。普通の教師、だと思う。だが授業中に
何度か彼とサラは目が合った。偶然だろうと思いたかったが、明らかに彼から
合わせに来ている。その日は授業に集中できなかった。
「何だか変だったわね、今日」
「?」
「だって、明らかにリー先生はサラを見てたじゃない」
思い違いでは無かったらしい。エマも先生が自分からサラを見ていたというのだ。
別の席に座っていたルークも頷いていた。
「今までとは違った。意識してサラを見てたぜ」
「そう、か…」
食堂でも寮ごとの席に座ることになっている。そのテーブルなら、何処に座っても
構わない。自由だ。サラは三人組の中で左端に座っていた。その隣に空席がある。
そこに一人の生徒がやって来た。真っ白な髪も目を引いたが、もっと気になるのは
首の焼印だった。
「ここ、座っても良い?」
サラは頷いた。何だか不思議な人だな…。彼はライアン・ロザリーというらしい。
一つ年上だ。
「敬語なんて使わなくて良いよ。俺は君と友だちになりたいから声を掛けたんだ。
俺の事はライアンと呼んでくれ。俺も君の事はサラと呼ぶから」
「分かった。よろしくね、ライアン」
「うん。…君、何かあったんだね」
益々不思議な男子生徒だ。まるで心でも読めるかの様だ。読んでいるのではなく、
ただ単に自分が感情を顔に出しているだけかもしれない。だが彼は的確にサラの
考えを読みとっていた。
「みんな表には出さないけど、灰って存在は知られているんだ。疑心暗鬼に
なって当たり前さ」
「その灰って、自分からなりたくてなった子なのかな?」
「どうだろうね?考えは人それぞれだよ。怖くて仕方なく従う子もいると思う。
君は、そんな子を見たらどうする?」
道徳の授業を受けている気分だった。きっと彼らに自分が助けるから何時でも
頼ってねと声を掛けるのだろう。だが、ふと考えてみる。自分が言われる立場なら?
「なら、怖がってる子たちに見せつけるだけだね」
「見せつける?」
フワフワとしていたライアンの態度が急に固まった。彼も予想していない
奇抜な考え。
「怖いって感情が他の感情よりも大きいから従うんでしょ?なら、その恐怖よりも
大きい感情を抱かせるだけよ」
「それって…」
「あれだよ、あれ。謝って済むなら警察はいらない~って奴。行動で示すしか
無いでしょ」
ライアンがふと笑った。彼の中でサラがどんな評価をされているのか分からないが、
言った後でサラは恥ずかしくて堪らなかった。よく言えたな…。ここに来る前なら
言えなかった独自の考え。自分の考えを告げるのは難しいのだ。
「君みたいな人は珍しいよ。俺は好きだけどね、そういう大胆な人」
「ここには昔の自分を知ってる人はいないから、好きなだけ言えるんだよ。
決めた後の行動力については自分でも驚くぐらい」
サラも笑って返した。
「ライアンは良い人だ。相談したり、愚痴を言いたい人って仲が良い人よりも
話をよく聞いてくれる人の方が頼りやすいし、これからも頼らせて?その代わり
ライアンの悩み事は私が効いてあげるよ」
「―ズルい!」
サラの肩をガッと掴んで、大きく揺さぶるのはエマだ。
「私の悩みだって聞いてもらうわよ、サラ!!」
「聞く!聞く聞く!!聞きますから~!!!」
その騒がしい光景が楽しくも、羨ましくも見えた。ふと気付くとそこにはもう
ライアンはいなかった。