ウマ娘短篇集   作:八咫ノ烏

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去年の正月にpixivの方で投稿したものです。


タマモクロスと年越しして初詣に行く話

「当たり前やけど寒すぎやろ…あー寒っ」

 

 体を震わせてそう愚痴る。年末の深夜、そんな時期なんやからどれだけ厚着をしていようと寒いのは当たり前。普段やったらこんな時間に出ることはないし、そもそもの話寮長が許してくれんから出ようと思っても出られんからこの寒さは全然慣れてへん。

 じゃあなんでこんな時間に外出できるんか。理由はめっちゃ単純で、初詣に行く奴が多いから。いちいち確認しとったらキリがないから全員まとめて外出許可を出されとる。やから同室のオグリみたいに部屋ん中でぐっすり寝とるやつもおるし、寮の談話室で一緒になってテレビ見てゲラゲラ笑っとるやつもおる。

 

 そんな中で外に出とる時点でウチがなにをしとるのかは想像がつくやろ。そう、初詣や。新年を神社で迎えて来年もG1勝ちまくるために神さんにお願いするんや。今年はこれが効いたんか知らんけどバカスカタイトル取ったったからな。史上初の天皇賞春秋連覇もできたし、シニアクラスで全部連対できたし、これは来年もお祈りするしかないわ。したら来年もG1取りまくれるやろうし。

 そないなことを言ったんはウチの横で体を震わせとる長身の男。こいつがウチのトレーナーや。

 

「寒いんはわかるけどそんなんに文句言うてもしゃーないやん。寒い寒い言うて暖かなるんやったらここはとっくの前に夏みたいになっとるやろ」

「確かにそうなったら寒がらずに済むなぁ…いや温まりすぎやろ!そこまで行ったら逆に暑いわ!」

 

 いつものようにノリツッコミする。海外やったらまだしも初詣に来たら暑すぎてみんな半袖やった、とかそんな風情もへったくれもない光景なんか見たくもないし想像もしたないわ。というかそんなんなったら地球温暖化とかそんなレベルちゃうやろ。お偉いさんたち発狂するんとちゃうん。

 

「アホみたいなこと言っとらんとあっこで甘酒売っとるし奢ったるで買いに行こや。飲んだら多少はマシになるやろ」

 

 ほらこれタマの分の金やで、と言って小銭を差し出してくるトレーナー。ウチはそれを受け取って

 

「忘れとんか知らんけど夏みたいになるとか言い出したんウチやなくてトレーナーやからな」

 

 そう言って甘酒を買いに行った。正月のセールなんかに比べたら屁にならん並び具合やけど、時間のことを考えるとかなり長いんとちゃうんかこの並びは。大晦日の夜中やってのに人がやたら多いんはなんでなんや。人のこと言えへんけど家でぬくぬくしとった方が絶対ええやろ。初詣言うても年越した直後にせなあかんってわけでもないし。

 

「なんでこんな人多いんやろうなぁ。暖房も何もないクソ寒い場所で年越し待つより家でテレビ見とった方が絶対ええやろ」

「ごっつデカいブーメラン突き刺さってんで」

 

 自分が今どこにおんのか忘れとるんかトレーナーは。そもそも初詣行こうって誘ってきたんアンタやないか。呆れつつそう言うとトレーナーは

 

「やかましいわ」

 

 と言って一歩前に踏み出した。ウチもそれに合わせて一歩踏み出しながら

 

「いややかましいのはトレーナーの方やろ」

 

 とだけ返して隣に並ぶ。年明けまであと何分なんやろか。甘酒買う前に越さへんかったらええねんけどな。

 

 

▽▽▽▽▽

 

 

 新年になるまでまだ時間はあったらしい。年越しする前に甘酒は買えたし、列で待っとる間に年越しとるかもしれん、なんて心配が杞憂に終わってよかったわ。

 

「はぁ〜〜あったかいなぁ〜…身に染みるわぁホンマ」

「何ジジくさいこと言うとん」

 

 甘酒を煽るように飲んでジジくさいことを言ったトレーナーにそう返す。あんたまだそんなこと言うような歳と違うやろ。

 

「うるさいわ。俺はまだ三十にもなってない若造なんやぞ」

「言うてもアラサーやんけ」

「急に現実を突きつけんなアホたれ」

 

 抗議するトレーナーを尻目に甘酒を飲む。温かい甘酒が体を温めていく。めっちゃ心地いい感覚や。

 

「…確かに身に染みるやん」

「ババくさいこと言ってんな」

「はぁ?」

 

 思わずそんな声を出してもうた。大方レースしとるイメージしかないんやろうけど一応は高校生が本職のウチにババくさいとか言うなや。そう言うててええんは何十年も先の話やぞ。

 

「共感したったんになんやねんその言い草。ひどない?」

「さっきのお返しや」

「いてこましたろかおのれ」

 

 手出したらこっちが悪くなるんわかっとってやっとるから余計たち悪いわ。ため息を吐いて甘酒を飲み干した。年明けまで確かあと十分かそこらやったはず…。

 

「なぁタマ」

 

 真剣そのものの表情で聞いてきた。ウチはゴクリと唾を飲んでトレーナーに聞き返す。

 

「どしたんトレーナー」

「寒すぎて耐えられんくなってきた。帰らへんか」

「アホちゃうんか」

 

 即座に切り捨てた。あと十分耐えればええだけの話やんけ堪え性のないやっちゃな。そもそもこんなすぐ帰ったらなんでウチはこんな寒い中外おったんかわからんくなるやんか。

 とは言っても寒いんはウチも一緒やからな…。なんか温まるええ方法はないか…? 甘酒二度目はそんな長いこと続かれへんしお金もかかるから却下や却下。なんかあらへんかな…最近なんかで似たようなのを見た記憶があんねんけどな…。

 

「あー、せやせや。温まる方法ならあんで」

 

 思い出したわ。こないだライアンに貸してもろた漫画に似たようなシーンがあったはずや。少女漫画やしジャンルがジャンルやから気恥ずかしいけどトレーナーとウチは家族みたいなもんやし…別にええか。

 トレーナーの上着のジッパーを開けてそこに入り込み、ウチの顔が埋もれんくらいの高さのところまで締め直す。

 

「こうしたらあったかいやろ」

 

 どうや?とトレーナーの顔を見上げて聞いた。少なくともウチは二重の壁ができたわけやであったかないわけがない。暖房ついとる部屋に比べたらあれやけどな。

 

「これタマがあったまるだけやろ」

「絶世の美少女が自分の服に収まっとんのに開口一番それとかトレーナーは雰囲気とかムードってもんを知らんのか」

 

 一瞬恥ずかしがったウチがアホみたいやんけ。まさかこんなこと言われるとは思わんかったわ。やからって出る気はないけどな。出たらごっつ寒いし。

 

「自分でそういうこと言うん後々から恥ずなってくるからやめた方がええで」

「ちょいちょい!えらい辛辣やな!そこはお世辞でもええから美少女やって言うところとちゃうん」

「お前の世代で美少女だのなんだの言われとるモデルおるやろうにそのポジション奪ってどうすんねん。お前には浪花のツッコミ役の方がお似合いや」

 

 トレーナーはそう言ってウチの頭に手を乗せる。ウチの世代で美少女やなんや言われとるやつ言うたらゴールドシチーのことやろうな。アイツはアイツでなかなか苦労しとるからなぁ…そう考えると美少女にはなりたないなぁ。とはいえやな。

 

「同期のシチーがモデルなんは事実やけどなんやねん浪花のツッコミ役ってダサすぎやろ。それやとウチ漫才師みたいやんか」

「んなこと言ったってタマいっつも誰か相手にツッコミしとるやん」

「周りがボケ倒しとるから必然的にそうなっとるだけでウチがやりたくてやっとるわけとちゃうで」

 

 トレセンはボケるやつが多くてもツッコむやつがほぼおらへんから大変やねん。おまけにボケの質が独特すぎて困るねんな。

 

「でもツッコむん嫌がらへんよな」

「ボケとんの見たら反射的にやってまうねん。それで笑いが取れるんやったら悪い気はせぇへんしな」

 

 ウチがそう言いつつ腕組みをして頷くと、トレーナーはそれだよ、と言ってポンポンとウチの頭を優しく叩いた。何がそれやねん。というかポンポン叩くなや。ウチは太鼓とちゃうんやぞ。

 

「それ完全に漫才師の思考なんよ。やっぱ漫才向いとんちゃう?レース引退したらオグリ辺りとコンビ組めばおもろい言うて売れるんとちゃうか?」

「誰がやるかぁそんなこと!ええかトレーナー、アイツは素の状態で天然砲が炸裂してんねん。それどころか自分はボケてないと思い込んどるんや。ウチが必死こいてネタとか台本とか作ってもそれ以上の天然ボケかましてくるやろからウチの心臓が保たへんと死んでまう」

「そうかぁ…ええコンビやと思ってんけどなぁ」

「他人事やからそう言えるだけやで」

 

 そうかぁ、と残念そうに呟くトレーナー。あんたほんまにわかっとんか?なぁ。毎日のようにボケ捌いとるんにそれ職業にせえとか流石に嫌やで。

 

「あ、あと数分で年越しらしいな」

「さっきのが今年最後の会話ってホンマに言っとんか?」

 

 信じられへんくらい風情も何もない。最後の会話がこんなんでええんか。呆れつつ手を上げてウチの頭に乗せたままのトレーナーの手を払った。何気にくすぐったいねんこれ。

 

「今年は色々と世話になったなタマ。来年もよろしく頼むぞ」

 

 トレーナーが急に改まってそんなことを言い出した。なんや急に改まりおって気持ち悪い。

 

「なんや急に改まって気持ち悪いな。変なもんでも食ったんか?」

「今年最後の会話に相応しい会話をしてやろうと思ったんになんやねんそれ」

「最後に相応しい会話云々はええねんけど急すぎるんやって」

 

 ツッコんでトレーナーの顔を見上げる。若干不貞腐れとる気がするけどそんなんはどうでもいい。いやどうでもいいことはないわ。大の大人があんだけのことで不貞腐れんなや情けない。心の中でそう言うてトレーナーの目を見つめて言った。

 

「ウチこそありがとうな。来年もG1タイトルガッポガッポ取れるようトレーニング頼むわ!」

 

 こういうのは相手の目をちゃんと見て伝えるべきやからな。

 

「お前かて改まっとるやんけ」

「乗ったったんになんやそれ」

 

 茶化しおってからに。一応心からの感謝やったのに伝えたんがアホらしくなってくるわ。

 

「結局最後の最後までこんなんなんか。しょうもないことしか話しとらんやんけ」

「いっつもこんなもんやろ。真面目な話なんてトレーニングとかレースとかそんくらいの時しかせんし」

 

 周り人らが時計を見てソワソワし出すのを横目にトレーナーの上着の中から出た。冷気がウチを包み込んできて体を震わせる。

 

「なんや、寒いんやったら入っとってええのに」

 

 トレーナーが上着のジッパーを締めつつそう言う。どうせ入ろうとしても入れへんくせに、なんてことを考えながら口を開く。

 

「流石に年明ける瞬間そこにおるんはなんとなく違う気がすんねん」

「そうかいそうかい」

 

 そんな会話をしとる間に年が明けるまで十秒を切っとったらしい。周りの人らが一斉に十!九!と叫び出した。大阪におるときの年越しも家ん中でこんなんやったなぁ。

 

「タマは叫ばへんのか?」

「そんな歳ちゃうしな」

「お前はまだそういう歳やろ」

「トレーナーは?」

「俺もええかな」

「お互い様ってことやな」

 

 話しとる間にカウントは三まで進んどった。正直実感無かったけど本当に年が明けるんやな。まさかトレーナーと一緒に年越しすることになるとは思わんかったけど。

 

 来年も今年みたくレースで勝ちまくれたらええなぁ。そんな除夜の鐘で消し切れんかった煩悩を抱えつつ、年明けまでのカウントダウンを聞く。

 

「「ゼロ!」」

 

 カウントがゼロになって、一気に境内が騒々しくなりおった。年明け。いの一番にやること言うたらこれしかない。

 

「あけましておめっとさんトレーナー!今年もよろしゅうな!」

「おう。今年もよろしく頼むでタマ」

 

 新年の挨拶。一発目にする相手はやっぱこれからも頼ることになるトレーナー以外おらへんやろ。そのトレーナーは体を大きく振るわせて、

 

「ほな年も明けたことやしさっさとお参りして帰ろうや。寒うて寒うてしゃあないわ」

「二言目がそれかい!ホンマに風情のないやっちゃな」

 

 ガクッと肩を落としてため息を吐いた。お参りはするにしてもさっさと帰ろうやとか言い出すとは思わんかったわ。屋台見てくとかなんかせんのかい。

 

「風情よりも何よりも寒いんが先に来んねん。初詣行くだけマシやって」

「そういう問題とも違う気ぃするんやけど」

 

 苦笑いしながら参拝の列に並んだ。さて、何をお祈りしよかな…ウチのことはトレーナーが祈るんやろうし、祈るんやったらやっぱ家族のことやろうか。いや父ちゃんらは俺らじゃなくてトレーナーに祈ったれって言いそうやな…。ホンマにどないしよ。そうかどっちも祈ったればええんか。わがままやけどどっちも同じ位大切な人なんやから神さんも許してくれるやろ。

 

「タマは何をお祈りすんの?」

「なんやと思う?」

「たこ焼き百個食えますように、とかか?」

「それはオグリやろ。ウチがそんなに食えんの知っとって言うとんホンマにええ性格しとるわ」

 

 横に並びながら軽口を叩き合う。結局年明けても話す内容は変わらんのか…。若干呆れつつ財布を取り出して小銭をいくつか取り出す。

 さて、今年のウチらの行く先は何にが待っとるんや?えぇ、神さん?オグリ、クリーク、イナリの三人との死闘か?それともまた新しいライバルでも出てくんのか?まぁ誰が来ようとウチがぶっちぎったるけどな!

 

「なんで闘志漲らせとん」

「トレーナーは知らんでもええで」

「はぁ?なんや気になるやんけ」

「絶対教えたらん」

 

 今年もこんな関係で過ごすことになるんやろうな。ほな順番回ってきたしお祈りするとしますか。

 手に握った小銭を賽銭箱に投げ入れる。どうかええ年にしてくれな?




今年は書くの頑張ります。多分。
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