骸骨と蜘蛛と   作:野高これ

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 コメントでご指摘の通り、オリちゃんの外見は某ゲームを参考にしています。
 性格は姉様とは違い大分砕けていますが、姉様成分が出るかどうかはわかりません。
 タグにクロスオーバーやゲーム名を出すと勘違いをする方も出てくると思いますので、今のところはこのままです。


3 かわいいは正義

 

 

 

 

 抱擁を終えて何方からともなく離れる。アラネアは澄んだ瞳を取り戻していた。

 モモンガは無いはずの心臓が未だにばくばく煩いのを感じる。幻肢痛と同じ原理だろうか。

 モモンガが何を喋ろうか考えが纏まらずにいると、

 

「さ、モモくん、ナザリックの設備やら点検をしないと。やれる範囲でね。いやーやることたっくさんだね」

 

 

 アラネアは懊悩するモモンガを他所に平常運転に戻っていた。いやいや、あんなことしておいて切り替え早すぎ。とっとと演技を終え緞帳の奥へ引っ込んだ。モモンガからしたら観客席からカーテンコールをしたい気分だ。

 

「アラネアさん、さっきの…。いえ、なんでも無いです…」

 

 うだうだ言っても仕方ない。先ほどのアラネアは明らかに様子がおかしかったが、あくまでロールプレイなのだ。いささか演出が刺激的だったのを除けば。自分も切り替えよう。

 

 

「…その前に俺は魔法の試し打ちがしたいですね」

 

 設備やトラップ、ゴーレムなどの確認は時間がかかる。それよりモモンガは身の安全を確保する意味で、自らの能力がユグドラシルと差異がないのか知っておきたい。全てのNPCが従順だと決めつけるのは早計だろう。

 

「そうだね。じゃあ早速こいつの出番かな」

 

 アラネアは右手薬指に填めた指輪を撫ぜる。リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 これの効果は、ギルド拠点であるナザリック地下大墳墓内で名称のついた部屋ならば、対価なしで無限に転移可能を実現する。拠点外からもひとっ飛びの優れものであり、一部転移不可な部屋もあるが便利グッズであることに変わりはない。それゆえ、取り扱いには慎重を期していた。万が一敵の手に渡ればとんでもないことになる。

 ちなみにモモンガも右手薬指に填めているが他意はない。順番的にはアラネアがあとだ。むしろペアリングだとはしゃいでいたのはアラネアの方である。悪い気はしなかったけど。

 

 

「それでは第六階層に向かいましょう」

 

 指輪の能力を解放する。暗転し、瞬時に景色が切り替わった。無事モモンガは第六階層の通路に到着したようだ。隣にはアラネアも居る。

 

「無事成功ですね」

 

 モモンガは胸を撫で下ろす。

 

「わからないよー。今回は成功したけど、転移に事故って別の場所に飛ばされるとか物語の定番じゃん?」

 

 空中に放りだされるとか。アラネアは楽しげに語っていた。

 

「ああ。空から光ったオヤカタが降ってくるってやつですよね。壁の中に埋まっても生き続ける探検者、なんてのもありましたっけ」

 

 いずれも二十世紀の都市伝説だ。マニアックな話をアラネアはよく知っていたものだ。

 

「そうそう。ナザリックだって例外じゃないんだよ。霊能探偵の血が疼くってもんさ」

 

「アラネアさん、探偵の職業とってないでしょ」

 

「ふいんきだよ。ふいんき」

 

 二人で馬鹿話をしながら通路を往く。

 

 格子戸を抜けて円形闘技場(コロッセイム)に到着した。この中が円形劇場(アンフィテアトルム)という名だ。アルベドに階層守護者の集合を命じた場所になる。

 

 昔イタリアの観光地でもあったフラウィウス円形闘技場を精密に模して造られた巨大建築物。本物は紛争時にミサイル被害を受け、瓦礫の山と化している。といっても現在は空気中の汚染濃度が極めて高い、立ち入り禁止区域に指定されていた。その瓦礫は高値でオークションに掛けられているというから世も末だ。

 

 

「双子ちゃん達はどこかなー」

 

 アラネアは第六階層の守護者を造ったギルメン女性陣のひとり、ぶくぶく茶釜と仲が良かった。双子達が実際どんな性格をしているか楽しみなのだろう。

 

「誰もいませんね」

 

 モモンガは闘技場の中央で周囲をみる。ぐるりと囲まれた段々の観客席。観客は無数の土塊人形、貴賓席にてヤジを飛ばすギルドメンバーというわけだ。侵入者が死ぬまでに何分保つか、趣味の悪い賭けを行ったこともあった。

 

「お(ねむ)かな」

 

「招集をかけたわけですし、それはないでしょう」

 

「あ、アウラとマーレの気配を発見」

 

 アラネアの発言から暫く後、視線の先の貴賓席から宙に身を躍らせる子供。およそ高さ20mの跳躍を難なくこなしスマートな着地をしてみせる。モモンガからすれば肝の冷える光景も、当の本人は笑顔を浮かべていた。

 

「彼女は闇妖精(ダークエルフ)のアウラ。魔獣使い(ビーストテイマー)兼、野伏(レンジャー)だよ」

 

 アラネアが耳打ちする。

 

「解説、助かります」

 

 アラネアはどうやらモモンガが殆どのNPCを知らないと勘違いしている。実際はNPCの名前と容姿、主な種族をある程度把握していた。NPC造りの相談に乗ったり、アイディアを出したりもしていたからだ。細かいところまでは覚えていないが、少なくとも階層守護者の主な設定は把握している。

 

 第六階層守護者の片割れ、アウラ。尖った長耳を持つ金髪に褐色肌の見た目は十歳前後と幼い。二本の鞭を装備し、体に不釣り合いな大きな弓を背負っていた。

 

 アウラは元気よく二人の前に立った。

 

「いらっしゃいませ! モモンガ様、アラネア様。お待ちしていました!」

 

 満面の笑みを浮かべるアウラにモモンガは拍子抜けした。〈敵感知〉(センスエネミー)にも感なし。額面通り友好的とみていいようだ。

 

「ええと…マーレ、はどうした。一緒ではないのか?」

 

 モモンガの問いかけにアウラは愕然とする。

 

「え、嘘でしょ」

 

 アウラは先ほど飛び降りた貴賓席を睨む。

 

「ちょっとマーレ、至高の御方々が来ているのよ! ぐずぐずしない!」

 

「あ、足がすくんで…無理ぃ…」

 

 アウラとはまた違う弱々しい声がする。

 

「さっさとしないと鞭で引き摺り下ろすわよ!」

 

「ひん! わ、分かったから、鞭をリード代わりに、しないで…」

 

 マーレの泣き声にモモンガは戦慄した。(マーレ)とのお散歩ごっこ。こんな幼い双子が、日頃から大人でも難易度の高い倒錯的な遊びに興じている?

 

 まさか()に靴下だけ履かせて…。

 

 彼女の、ぶくぶく茶釜の性癖なのか。所詮彼女もペロロンチーノの姉。裏でどんな変態的欲求を秘めているか知れたものではない。

 双子の情操教育、おもに歪んだ性癖を正して必ずや真っ当な大人にしてみせる。

 モモンガが固く決意したことなどつゆ知らず、

 

「い、いくよ。せーのっ」

 

 金髪の子供が貴賓室の窓から飛び降りた。

 これが清水の舞台から飛び降りる犠牲者の図。あれより随分高いけど。矢っ張り尻込みするマーレの感覚が普通だよな。モモンガはしみじみ思った。

 アウラの時と違いだいぶ危なっかしい着地。

 捻れた黒い木の杖を両手で持ち、スカート姿の闇妖精(ダークエルフ)

 

 よろよろして懸命に駆ける様子は庇護欲をそそる。ただアウラはマーレの鈍足に今にも鞭を入れそうだ。

 

「お、お待たせしましたモモンガ様、アラネア様」

 

 あらためて守護者の二人はモモンガとアラネアの前に立つ。

 双子ということで、こうして並ぶとオッドアイの瞳の色は逆だが可愛らしい顔つきといい、体つきといい、よく似ている。しかしアウラは元気溌剌、マーレはおどおどしているので間違えないが。

 

 そういえばアラネアは随分静かだな。

 

「アラネアさん。どうしたんです?」

 

 様子を伺うと気色満面のアラネアの姿があった。

 

「やーん、かわいー!」

 

 アラネアは抑えていたものが爆発したらしく、双子に抱きつき頬擦りせんばかりに可愛がる。おかげでアウラとマーレの金髪はぐしゃぐしゃだ。我慢の限界だったらしい。

 

「あわわ。アラネア様」

 

「ああああ、あの…」

 

 右腕左腕にそれぞれを抱えこみ、器用に双子の髪を撫で回す。まさにされるがまま、双子ははじめアラネアの勢いに困惑気味だったが、今は二人とも嬉しそうにしている。アウラは、向日葵のような笑顔。マーレは、はにかんだ笑顔。

 

「アラネア様も、すっごくお綺麗です」

 

「ぼ、ぼくもそう思います」

 

 アウラは元気一杯に返す。マーレは顔を赤くし、ぽそぽそと呟く。

 

「なんて可愛い生き物。モモくん。私、今日からこの子達の養母(ママ)になる!」

 

 ふんすと鼻息荒くアラネアは宣言した。

 

「いやまあ俺としてもその子達の将来が、ひじょーに心配ですけど」

 

 なにしろ大人のお医者さんごっこをしているかも知れないのだ。そりゃ心配にもなる。

 

「じゃあモモくんが養父(パパ)ということで今後ともシクヨロ」

 

「パパ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げたのを許して欲しい。パパ。ダディ。父。呼び方はなんでもいい。

 今後ともって。つまり俺がダーリンでアラネアがハニーなのか?

 なんか関係が三段飛びしてるんですけど。また混乱してきた。

 

「今度、お泊り会をしましょうね。一緒に夕ご飯を食べて、一緒にお風呂して、一緒に寝るの。ああ、歯磨きもちゃんとするのよ」

 

 アラネアは双子の手を取り言い聞かせる。

 

「あの。モモンガ様もご一緒ですか?」

 

 アウラは目をキラキラさせてアラネアに問いかけた。

 

「勿論。パパなんだから。ね?」

 

「う、うむ。そういう事になるな」

 

 そういう事ってなんだよ。自分で言って理解が追い付かない。

 

 今度はマーレが、

 

「そ、それってお風呂もですよね」

 

「え! モモくん一緒に入りたいの。モモくんが入りたいっていうなら…」

 

 アラネアは赤い顔でちらちらと此方を気にしている。なんと答えますか?

 いやいや。それはもう一択なんですわ。

 モモンガは湯けむり越しに一糸纏わぬアラネアの姿を妄想して。

 

 一気に妄想もろとも昂りが吹き飛ばされた。

 

「ガッデム!」

 

 お決まりのコースでした。ちくしょう、せめて湯けむりが晴れるまで待てよ。沈静化も気が効かねえ。

 がっくり膝をつき両手で体を支える。一気に萎えた。謎パワーで手を放しても宙にふよふよと浮かぶスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだったが、主の影響を受けこころなしかくすんでいた。

 

 

「アラネアさん。そろそろ魔法とスキルの検証を始めませんか」

 

 力なくアラネアに提案する。もう少し待ってくれてれば、やる気MAXだったのに。

 

「え、ええ。そうするべき。身体を動かして発散しましょ」

 

 アラネアも同意した。随分慌てている。

 

 

「ではまず簡単な攻撃魔法からね。アウラ、適当な(まと)の用意を」

 

「はい!」

 

 アウラは元気のよい返事と共にダミーの用意を始める。

 ターゲットは藁人形や召喚したモンスター。

 

 そうしてアラネアと交互に主要な魔法、スキルを実践しはじめ、概ね満足のいく結果となった。一部、意外な効果を生み出すものも発見できた。百聞は一見に如かず。これからも時間を作り、試していこう。

 

 

「モモくん。セバスと〈伝言〉(メッセージ)で遣り取りしたんだけどさ…」

 

 アラネアは険しい表情を浮かべていた。

 

 セバス曰く、ナザリック周辺は草原に変わっていること。探索した範囲で知恵のある生物はいないこと。現在の時間帯は夜で空には第六階層と同じ夜空が広がっていること。

 

「帰ってくるよう言っといた。セバスには至急ここへ戻って改めて報告してもらう」

 

「うーん。草原ですか」

 

 モモンガは顎を撫でる。まったく理解が追いつかない。ナザリック地下大墳墓は毒の沼地に囲まれていたはずだ。牧歌的な草原とは程遠い。

 

「ナザリックごと転移したってこと?」

 

「転移事故もあながち冗談にならなくなってきましたね。まさかこれでナザリックも都市伝説の仲間入り?」

 

 真面目に霊能探偵の出番かも知れない。

 

「これはもう、やることは一つ」

 

「なんです?」

 

「マッピングしかないわ!」

 

 アラネアは力強く闘志を燃やす。

 

 ユグドラシルには自分のワールドマップの空白をすべて解放する為に執念を燃やす者達がいた。広大な地上は元より全てのダンジョンの踏破を試みる真の冒険者たち。専用の特化ビルドを組み、装備品はマップ作りのための必要経費。関係のないレアアイテムは二の次。とにかく遠く深く細かく。『世界の果て』(the end of the world)の称号を得るその瞬間を夢見て旅をする。空白の地図が少しずつ明らかになっていくことへの快感、若しくは一寸のブランクが気になって仕方ない、愛すべきユグドラシル廃人ゲーマー。通称ブランクシーカー。

 ただしダンジョンが他のギルドの拠点にされてしまえば、余所者の立ち入りは困難を極める。称号自体はワールドマップを全て埋めれば獲得できるが、それでは満足できない者はそのギルドに一時加入したり、希少鉱石の採掘場所やレアアイテムを取引カードに見学できるよう交渉したり、あの手この手でマップを埋め続ける。もはや自己満足の世界だが、それこそが、まさにユグドラシルの遊び方だ。

 

 

「そもそもマップを開けないですよ」

 

「そこは仕方ないから、古の偉人に倣って手書きね。私たちがこの世界の未知を既知に変えてやる!」

 

「おー!」

「おー!」

 

 アラネアに習いアウラとマーレも可愛く拳を振り上げる。

 

「マッパー魂? まあナザリック周辺の地図入手は急務ですね」

 

 モモンガは慎重派であるし、緊急性は認めるが、自分らで手広くやるとコストに見合うか微妙だ。そこはまだ未発見の友好的かつ知的な生命体(UMA)に期待したい。

 

「人手はどうやって工面します?」

 

「何言ってるの。適任者が居るでしょ。作戦名は阿鼻叫喚・地獄のローラー作戦よ」

 

 はて、ナザリックにそのような者はいたっけ。

 

 

「どうやら、わたしが一番をげっと、でありんすねぇ」

 

 双子とは違う年若い声に呼応し、何もない空間が揺らめき、門の影絵を作り出す。

 漆黒から優雅に現れたのは、紅に縁取られた漆黒のボールガウンを纏う少女。太陽を避けるように肌の露出を嫌い、唯一晒された顔は病的な白さ。

 モモンガと仲の良かったギルメン、ペロロンチーノが性癖を赤裸々に詰め込んだ完全体(理想の彼女)、シャルティア・ブラッドフォールンだ。

 

 新たに登場した少女(かわいいもの)にアラネアが食いつかないはずが無い。

 

 すすっと近づき、視線をシャルティアにロックオン。時々頷きながらシャルティアの周囲をゆっくり時計回りに巡り出す。

 

「アラネア様?」

 

 戸惑うシャルティアに、

 

「お客さま。鑑定中はお静かに願います」

 

 アラネアが再び正面に立つ。モモンガは嫌な予感しかしない。

 

「モモくん。このアラネア、今からシャルティアを()でまくる所存!」

 

 言うが早いか、ハグをかました。いやハグなんて上品なもんじゃない。あちこち遠慮なく撫でくり、相当はっちゃけていた。モモンガも人のことを言えた立場ではないが、遠慮ってものを知らんのか。

 ぎゅうっとアラネアがシャルティアを抱きしめる。

 

「ア、アラネアさまぁ」

 

 シャルティアは桃色の吐息をハアハア漏らしていた。なんかどこかで見た光景だな。これなんてデジャビュ?

 

 

「…ちょっとシャルティア。アラネア様に対して淫らな妄想しないでよね。汚らわしい」

 

 予想外の方向から物言いがついた。アウラだ。横ではマーレがオロオロしている。

 

「はあ? チビすけがいっちょ前に嫉妬でありんすかえ」

 

 アラネアの抱擁下でシャルティアがせせら笑う。

 

「ばっかじゃないの。あたし達はとっくにアラネア様と仲良くなってるの。アラネア様とモモンガ様の四人でお泊まりもするんだから」

 

 そうよねマーレ、と弟を巻き込んだ。

 

「ああん!? 嘘ついてんじゃないわよ!」

 

 シャルティアに睨みつけられたマーレは涙目だ。完全に巻き込まれ事故である。

 

「いやらしーことで頭が一杯な偽乳は指を咥えて悔しがってれば?」

 

 アウラよ。煽り運転は事故の元だぞ。モモンガは心の中でアウラを諭した。マーレの二の舞は御免だ。

 

「おんどれ、言うてはいけんことを…。血ぃ雨ふらしちゃるでぇ覚悟しいや…!」

 

 シャルティアの怒気が膨れ上がる。敵意がアウラに強烈に注がれる。

 

「あれれ。痛いとこ突っついちゃった? でもホントのことだしねぇ」

 

 アウラも一歩も引かぬ構え。あいだにアラネアがいなかったら物理的に手が出かねない一触即発の展開だ。

 

「ちょっと三人とも、喧嘩しちゃメッ、よ」 

 

 元を正せばすべての元凶であるアラネアは、何食わぬ顔で仲裁した。

 シャーシャー威嚇しあっていたアウラとシャルティアは、アラネアの言葉にしゅんとする。再び巻き込まれたマーレもしゅんとする。

 

「申し訳ありません…」

 

 三人は異口同音で謝罪した。マーレは泣いていい。

 

 

「ナニヤラ不穏ナ空気ガ漂ヨッテイタヨウダガ」

 

 現れたのは空色の巨大な昆虫。それも二足歩行する4本腕の異形だった。それぞれの腕に武器を持つ威容は巨体の存在感も相俟って頼もしい。常に冷気を纏う第五層の階層守護者『凍河の支配者』コキュートスの入場だ。

 

「コキュートス!」

 

 アラネアが反応した。

 コキュートスはアラネアに頭を垂れ、

 

「御方ニシテ我ラガ種族ヲ統スベルアラネア様ニオカレマシテハゴ健勝ノ」

 

「かったーい。あなたの身体みたいにカチコチね。もうちょっとフランクでいきましょ?」

 

 コキュートスの口上を遮るアラネア。

 

「恐レ多イコトト存ジマスレバゴ容赦ノホドヲ」

 

 更に深く頭を下げるコキュートスにアラネアは苦笑いを浮かべた。

 

「まあ、急に変えるのは無理よね。ほら、立って立って」

 

「ハッ」

 

 モモンガから見て姫君とそれに仕える騎士のようだ。同系統の種族同士いろいろあるのだろう。

 

「でも、あなたのことを本当に頼りにしている」

 

 コキュートスの腕に手を添え、アラネアは励ます。

 

 頼りにしている。この言葉にモモンガは些か面白くない。これは嫉妬なのか自身にもわからない。

 

「更ニ精進イタシマス。…ドウヤラ、デミウルゴスタチガ来タヨウデス」

 

 

 そこに一人の男を伴ったアルベドがやってくる。アルベドはモモンガとアラネアに向け、深くお辞儀をした。

 男は第七階層の守護者であり、『炎獄の造物主』と呼ばれる悪魔だ。黒髪をオールバックにし肌は日によく焼けている。スーツを着こなしお洒落な眼鏡をかけた男。ビジネス街を歩いていて何の違和感もないだろう。銀色の尻尾さえ生えていなければ。

 

 アラネアはアルベドに視線を一瞬送り、男に挨拶をする。

 

「デミウルゴス。元気してた?」

 

「お待たせして申し訳ありません」

 

 続けて、

 

「至高の御方々のお望みを叶える為、常に万全を期しております」

 

 デミウルゴスは恭しく礼をした。

 

「それは心強いわ」

 

 心強い。それを聞き、モモンガははっきりと自覚した。これは嫉妬だ。アルベドにアウラやマーレ、シャルティアはいい。女性や子供だから許せる。しかしそれ以外となると話は別だ。嫉妬が澱のように溜まっていくのを感じる。

 それはアラネアに対する独占欲にほかならなかった。

 

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