骸骨と蜘蛛と   作:野高これ

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4 至高の遊戯

 

 

 

 

 これで階層守護者は二名除き、集合したことになる。

 

「いやー、モモくん。わたしゃ階層守護者がこうやって集合するの見たの、初かも」

 

「そうですね。何年ぶりでしょうか」

 

 モモンガは記憶を探る。創造主や製作日も異なるため、もしかして初めてか? いや、このメンツなら…。思い出せない。

 

「ともかく今は緊急事態、状況を整理しなきゃ、だね。ギルドマスター、後はよろしく」

 

「まさかの丸投げ?」

 

「私、スキンシップ(可愛い生き物への愛情)で疲れちゃった。うむ。余は大変満足である。」

 

「あんだけ、大はしゃぎすればね」

 

「ふぉろーは任せて、よっ、モモくん、今日も一段とカッコイイィ!」

 

部下に振り回される上司のような心境で、

 

「…わかりました。えー諸君。本日、集まってもらったのは、ほかでもな」

 

「ちっがーう!」

 

 そこはお得意の魔王ロールでしょ、とアラネアの突っ込みが入った。

 

 

 take2。

 

「皆、忙しいなか、よく集まってくれた。礼を言おう」

 

「モモンガ様、お呼びとあれば主の元へ馳せ参じるのは、至極当然のこと。礼など不要です」

 

アルベドはそんなつもりはないのだろうが、緊張感と言おうか、微かな圧を感じるのだが。

 

「そ、そうか。わかった」

 

「では皆、至高の御方々に忠誠の儀を」

 

 なんか自動的にイベント始まったんですけど。

 

 アルベドの口上を合図に、モモンガとアラネアが立つ対面の中心にアルベド、その後ろに残りの守護者が横一列に並んだ。

 

「第一、第二、第三階層守護者シャルティア・ブラッドフォールン。至高の御方々の前に」

 

 シャルティアは跪き、拝謁の姿勢をとった。

 続いてコキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスの順に臣下の礼をとり、

 

「守護者統括アルベド。至高の御方々の前に」

 

 第四、第八階層守護者を除き、眼前で平伏していた。

 

 綺麗に所作の揃う各守護者を前に、モモンガは自失する。

 ぽかーん、である。

 思わず斜め後ろを振り返って見れば、アラネアと目が合う。彼女は口をパクパクしていた。え、どゆこと? 可愛いけど。

 痺れを切らしたアラネアが、モモンガの片手を取り、掌にすらりとした白い指で文字を書いていく。

 お? も? て?

 

 …ああ、なるほど。アラネアに小さく頷く。

 

(おもて)をあげよ」

 

 アラネアが助けてくれて助かった。

 しかし、アラネアに頼ってばかりではいけない。男をみせるのだ、悟。

 

「…現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に巻き込まれている。どうやら時空の裂け目に落ち、ユグドラシルとは似て非なる世界へと飛ばされたようだ」

 

 モモンガに守護者たちの視線が集中している。なによりアラネアの熱い視線を感じる。

 

「これが何者かの意思が介在した結果なのか、自然現象かは不明だ。それを解明することが最終的な目標と言えるだろう」

 

 うーむ。我ながら口八丁だな。言葉を適当に並べたが、現状わけわからん状態なのだから、どうとでも誤魔化せる。

 

「モモくん」

 

 アラネアの視線の先に、セバスが急ぎ足でやってくるのが見えた。

 モモンガとアラネアの前で他の守護者同様跪くセバスに、

 

「セバス、先ほどの〈伝言〉(メッセージ)の他に新たな情報はある?」

 

「いえ。御座いません。アラネア様」

 

「では情報の共有を行う。アラネアさんに報告した内容を含め、主観が混じっても構わん、各守護者に伝えるのだ。疑問のあるものは、一通り聞き終えたのち質問をしろ。それと、その態勢ではやりにくかろう。立って自由に話すがいい」

 

 

 セバスと守護者たちのやり取りを眺めつつ、隣に来たアラネアがモモンガの手に触れた。

 

「ねえモモくん。私、不思議と安心しているの。なんでだろう。こうしてあなたの存在を間近に感じるだけで、心が温かい。こんな意味不明の状況でも、ドンとこいや、ってなる」

 

 モモンガの骨太で大きな手は、アラネアのすべらかな手を上手く握るなんてどうしたって出来やしない。それでも不器用に握った。アラネアも懸命に指を絡めてくる。

二人とも前を向きながら、モモンガは改めてアラネアに感謝した。

 

「俺もです。あなたが傍に居てくれるだけでいいんです」

 

「ドンとこいや?」

 

「ドンとこいや、です」

 

 アラネアと視線が絡まる。潤んだ紅い瞳。まてまて、感情の抑制はまだ早いぞ。

 モモンガは少しずつ感情の沈静化を制御できるようになってきていた。慣れってすごい。これもアラネアが齎す影響。日常的に情欲を抱く、勤勉なモモンガの煩悩の賜物である。アラネアさん、いつもありがとう。今後ともよろしく。

 

 さて、ここから沈静化を起こさずどこまで行けるか、いってみよう。昂ぶりを少しずつ高め、

 

 

「モモンガ様、アラネア様」

 

 アルベドの呼びかけは、シャボン玉が弾けたように、甘酸っぱい雰囲気を消し去った。一瞬で沸騰したように怒りゲージがMAXになり。ふう。

 沈静化された。なんかパターン化されてない?

 

「…どうしたアルベド」

 

 今の俺はいたって冷静だ。怒りの欠片も残っちゃいない。沈静化万歳。

 ん?

 アルベドの視線が微妙にずれている。

 

 アルベドは二人の繋がれた手をガン見していた。瞬きもせず目をかっぴらいて。

 気恥ずかしくなり、即座に手を離すモモンガ。

 

「あっ」

 

 アラネアは離された手をじっと見詰める。名残惜し気なアラネアを見て、モモンガは気まずくなった。しかし、この場の全員がこちらを注視している中、見られながら再び行うのは、今のモモンガには難易度が高い。

 

 何故か不満顔のアルベドは、

 

「情報の共有は終了いたしました」

 

 素っ気なく報告してくる。なんでおまえが不機嫌なの。

 

 

「…では次は…そうだな。差し当たってナザリック内の警護だが、アラネアさんはどう思う?」

 

「デミウルゴスとアルベドに任せればいいんじゃない?」

 

 アラネアの意見は、またしても丸投げ。

 アルベドとデミウルゴス。そしてパンドラズ・アクターは設定上、頭脳明晰、知力ではナザリックで最高の知恵者達だ。彼らに任せれば間違いない。

 しかし初っ端からそれでいいのだろうか。

 

「配下を信頼して任せるってやつよ」

 

 確かに。少なくとも俺やアラネアが直接行うより、うまくやるだろう。

 

「デミウルゴス。アルベド。そういうことだ。第九、第十階層も含め警備の見直しを命じる」

 

 両者から、承知致しました、と打てば響く返答がかえってくる。

 

「マーレよ」

 

「は、はい!」

 

 自分の名が呼ばれるとは思っていなかったのだろう。マーレは慌てて返事をする。

 

「ナザリック地下大墳墓の隠蔽をお前に任せたい。何かいい案はあるか?」

 

「え!? あ、あの魔法では、難しい、です…でも」

 

 言いづらそうに此方を伺うマーレ。

 

「遠慮することはない。言うがいい」

 

「た、例えば、壁に土を塗ったり、植物、蔦で覆ったりすれば…」

 

「それは名案だわ、マーレ! 趣があって風情がある感じにすれば、とっても素敵」

 

 アラネアがマーレの献策に喜ぶ。マーレはアラネアの反応に顔を綻ばせた。

 

「アラネア様。栄光あるナザリックの壁を土で汚してもよろしいのですか?」

 

 アルベドが敢えて疑問を口にした。

 

「アルベド。みんなにも聞いてほしい。モモくんと私は、あなた達ナザリックの者たちが何よりも大事なの。傷ついてほしくない。ここはもうユグドラシルではない。死んでも生き返ることが出来る保障はどこにもないの。建物とあなた達の命。どちらを取るかなんて言うまでもない事よ」

 

 アラネアはそこで守護者たちを徐に見回した。最後にモモンガを見る。

 

「私たちは運命共同体。ファミリーなのよ!」

 

 アラネアの言葉に、守護者一同、感動に胸を打たれた。なかには啜り泣く者もいる。

 家族。恐れ多いことだが、至高の御方にそこまで言われて、もともと高い忠義が天井を突き抜けた。(しもべ)冥利に尽きるとはこのことか。皆、跪き拝謁の姿勢をとった。

 

「じゃあ、モモくん。最後に魔王の威厳を、ちょちょいと示しちゃって」

 

 え。この空気でやるの。嘘だろ。以上、解散の流れでしょ。

 

「ちょっと絶望のオーラでも垂れ流せばいいんだから」

 

 アラネアがこそっと告げた。まあ、そんなんで良ければ。

 

「最後に力の一端を示そう。お前たちが仕える主たちがどのような存在かを、今一度思い知るがいい」

 

 いうが早いかスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン掲げ、スキルを発動する。

 途端、守護者たちに重圧がのし掛かる。下げた頭を地べたに押し付けられそうなほどの圧倒的な力。至高の御方々の前でそんな無様は晒せない。

 どれほど耐えていたのか。体を地に縫い付けようとしていた重圧が霧消した。

 

「これでよくわかっただろう。お前たちが頂く我々の力が」

 

「本日はここまで。みんな頑張ったわね。明日に備えて今日はもう休みなさい」

 

 モモンガとアラネアはそれだけを告げると転移した。

 

 

 

 

 至高の御方々が去った後。

 

 

 セバスは早々に、至高の御方々のお世話をする、と告げ第六階層を後にしていた。

 

「モモンガ様、か、かっこよかったね。アラネア様もファミリーってぼく達のこと言ってくれたし」

 

「確かにモモンガ様は凄いし、アラネア様は優しかったね」

 

「モモンガ様が階層守護者を超えるお力を持つのは当然のことよ。そして…。ああ、アラネア様、女神のようにお美しく慈愛に満ちた御方」

 

「ふむ。モモンガ様は至高の御方として、お力の一端をお示しになられました。しかしアラネア様からは…正直あまりお力を感じられなかった、それが残念です」

 

「ワガ友トイエド今ノ言葉ハ聞キ捨テナラヌ。アラネア様ヲ侮ルナド…!」

 

 コキュートスが咢を打ち鳴らしデミウルゴスに迫る。双子とシャルティアも非難の目をデミウルゴスに向けた。

 

「デミウルゴス。いくらあなたでも…」

 

 アルベドは殺意を漲らせ、金の瞳で睨んだ。手にはバルディッシュが握られている。

 

「すまない。誤解をさせてしまった様です。私はただアラネア様のお力を知りたかっただけなのです。私は殆どアラネア様のことを知りませんからね。しかし軽率な発言でした。謝罪します」

 

 デミウルゴスは即座に頭を下げ発言を詫びた。

 

「ム。ドウヤラ早トチリシタヨウダ。コチラコソ済マナカッタ、デミウルゴス」

 

 コキュートスの返しで、その場の緊迫した空気は解消された。至高の御方々のことを少しでも多く知りたいのは当然のこと。アルベドは目を細め、デミウルゴスを無表情で観察していたが矛を収めた。場の空気を読んでのことだ。そして、ゆっくり笑顔を作りあげる。

 

「デミウルゴス。アラネア様はお力を示すのは、あまりお好きじゃないのよ。折を見て知ることも出来るでしょう」

 

「そうですね。楽しみは後になるほど喜びも増すといいます。時間は十分にありますから」

 

 笑顔を浮かべ、軽くお辞儀をするデミウルゴス。

 

「しかし、御方々の仲は良好のご様子。これは案外早いかもしれませんね」

 

「何ノ話ダ?」

 

「…まさかそういう事でありんすか!?」

 

 シャルティアは興奮してデミウルゴスに縋りついた。

 

「わかるように言ってくれない?」

 

 シャルティアのわかった素振りが気に食わないアウラは、口を尖らせた。

 

「御世継ぎのご誕生ですよ」

 

 あっさりと告げるには、とてつもなく重大な内容だった。

 

「いえす、でありんす!」

 

「ナント!」

 

「ほんとに!」

 

「ほわぁー!」

 

 様々に驚き、喜ぶ階層守護者たちのなかで、

 

「アルベド、どうしたのです。何かあるのですか?」

 

 頬を赤く染め、もじもじと何やら言いたそうにしているアルベドにデミウルゴスが促す。

 

「わ、私…見てしまったのよ。モモンガ様がアラネア様のお胸を揉みしだいているところを…そして後に行われたあれこそが、前に至高の御方が仰っていた恋人同士で行う至高の遊戯、ヤンデーレのヤン!」

 

 赤い顔を両手で覆い、いやんいやんと体をくねらせるアルベド。

 

 それを聞いた瞬間、守護者たちのあいだに衝撃が走った。もう暫く先の話だと思っていた御世継が、一気に現実味を帯びてきた。しかも考えうる最高のかたちで。

 

「それはなんとも喜ばしいことですね」

 

 朗報にデミウルゴスは冷静な態度を崩さない。しかし内心では御世継ぎ誕生の可能性に狂喜し、銀色の尾が怪しく蠢いていた。

 

 一方、腕を組み直立するコキュートス。御世継ぎがどんな武器を好むか定かではないので、考えうる全ての武器を教えられるようイメージトレーニングに余念がない。

 

「ムウ…。剣モイイガ、間合イノ取レル槍モイイ。イヤアエテ…」

 

 彼の中では御世継ぎ誕生は確定事項だった。至高の御方々の御子ともなれば、それは素晴らしい素質の持ち主だろう。教え、鍛え、立派に成長した御世継ぎを支える自分。

 素晴ラシイ! 素晴ラシイゾ!

 これは心が沸き立つというもの。

 

 

「な、何色にも・・・いない・・・・を手取り、足取り、腰・・」

 

 はしたない妄想をピンク色の風船のように膨らませ、鼻息の荒いシャルティア。端正な顔はだらしなく歪み、口の端から涎を垂らしている。男女関係なくバッチこいなシャルティアに隙は無かった。

 

 その隣でダークエルフ姉弟は熱心に話し合っている。

 

「いーい、マーレ。御世継ぎの供回りは、あたしとあなたになる可能性が十分にあるわ」

 

「う、うん。そうだね、お姉ちゃん。年格好もぼくたちが、一番ぴったりだよね」

 

「ここは子供の遊び場として最適でしょ。あたし達以上の適任者はいないはずよ」

 

「だ、第六階層は、自然と触れ合えるし…」

 

「あたし達をお手本になされるくらい、もっともっと頑張らないと!」

 

「そ、そうだね、お姉ちゃん。ぼくもっと頑張る!」

 

 双子のダークエルフは決意を新たにした。

 えいえいおー、えいえいおーと気炎をあげる双子たち。

 お隣との湿度差がひどい。

 

 熱気に包まれ収拾がつかなくなってきた中、手を叩き注目を集めたデミウルゴスは、

 

「私が言い出した事とはいえあまり先走ってはいけない。こればかりは至高の御方々のお心次第です」

 

 確かに、と一旦冷静になった一同を満足そうに見回し付け加えた。

 

「ただし、忠義を示すのにこれ以上の機会はないでしょう。御方々の仲を深めるお役に立つことで、覚えがめでたくなるのは必定。一層、活躍の場を頂けるはずです」

 

 一同は再びどよめく。ナザリックのシモベとして至高の御方々に忠義を尽くすのは当然のこと。その働きが認められれば、これに勝る喜びはない。それが御世継ぎご誕生に絡んでいるとなれば、なおのこと良い。

 

「はっ!? こうしてはいられないわ。早速、御方々見守り隊を選抜し余計な茶々が入らないよう、邪魔者は徹底的に駆逐しなければ!」

 

 言っている内容はかなり置き去りにされているが、全自動くねくねマシーンだったアルベドが無事帰還を果たした。

 

「いやいや待ちたまえアルベド。相手は至高の御方々です。動きすぎると、直ぐに察してしまわれるでしょう。色恋沙汰というのは一筋縄ではいかないと聞きます。なんのきっかけで拗れてしまうかわからないのですから、ここは慎重を期すべきです」

 

「確かにデミウルゴスの言う通りよ。だからこそ私は積極的に動くべきだと思うわ」

 

 アルベドは玉座の間での至高の御方々の姿を思い出していた。御方々は胸を揉んでヤンデーレに興じる間柄なのだ。

 すでにアルベドはアラネアとモモンガは絶賛お付き合い中、婚約半歩手前くらいの関係性として認識していた。ここまできて破談の可能性などあるとは思えないが、アルベドには名状し難い漠然とした不安があった。

 

「勿論、十分な警護が必要なのは様々な意味において同意します。御方々の仲を邪魔しようなどという不届き者は基本殺処分するが、恋敵とは時に仲を深めるスパイスにも成りうるのも又事実」

 

 肝要なのは飽くまでさり気ない行動です、とデミウルゴスは言葉を結んだ。

 

「結局、どうしたらいいんでありんすか?」

 

 シャルティアの尤もな疑問に、デミウルゴスは眼鏡のブリッジを中指であげる。きらりとレンズが光った。

 

「あからさまな行動は慎んだほうがいいと個人的には思うよ」

 

「うーん。あたしには男女の機微っていうやつは難しいかも」

 

 残念そうに頭の後ろで手を組むアウラ。

 

「いやいや。この事に関してはアウラとマーレは大きな戦力だと思うがね」

 

 デミウルゴスの言葉に、アウラとマーレは驚きを隠せない。

 

「え!? どうして」

 

「ぼ、ぼくとお姉ちゃんが!?」

 

「無邪気な子供のほうが、少々踏み込んだ発言や行動でも、かえって御方々には微笑ましい事と思われるに違いないからね」

 

 デミウルゴスは知らない。アウラとマーレが無邪気ゆえに意味もよく知らず淫らな遊びに耽っている、と一方的にモモンガから冤罪の疑いを掛けられていることを。

 アウラとマーレはデミウルゴスの後押しに、やる気を漲らせていた。なにしろ彼らには絶好の機会が待っているのだ。

 

「ねえ、アルベドにデミウルゴス。相談があるんだけど…」

 

「なにかしら?」

 

 双子は至高の御方々と約束した、お泊り会のことを語り始めた。お泊り会、というパワーワードに大人二人の目が見開かれる。

 デミウルゴスの普段隠されている、宝石ようにカッティングされた目が輝いた。

 早速、全員で作戦会議を始める。

 ちなみにシャルティアの案は全部却下された。論外といわれ、涙目のシャルティア。

 

 

 ある程度方針が纏まったところで、

 

「あ、あのう・・」

 

 マーレが申し訳なさそうに手を上げた。

 

「なんだい、マーレ」

 

「お、御世継ぎってどうやってご誕生するんですか?」

 

 内心怒られないか、びくびくしながらのマーレの問い掛けは、台詞の後半になるにつれて萎んでいく。隣の姉から、この愚弟そんなことも知らないの、と責める視線を浴びて耐えられなくなったのだ。

 

 そこはデミウルゴス、やさしく、

 

「それはだねマー「そんなことも知らないのマーレ。困ったものね。私が教えてあげる」」

 

 大きく胸を張ったアルベドに遮られた。一部その戦闘力の高い胸部装甲に舌打ちした者も出るほど自信満々だ。

 

「いーい。御世継ぎ、いわゆる赤ちゃんはね、愛する男女が同じベッドで共に過ごすと、コウノトリという伝説の鳥が空から運んできてくれるの。だから天からの授かりものと言ったりするのよ」

 

「そ、そうだったんですね。教えてくれてありがとうございます。アルベドさん」

 

 納得したのか、笑顔で礼を言うマーレ。

 

 まあ確かにマーレやアウラはまだ子供だ。直截的な表現は早いかもしれない。デミウルゴスは腑に落ちた。

 

「でもそうしたら、ち、ちゃんとそのコウノトリが入れるようにナザリックのトラップを解除したり、い、いろいろしないとまずいんじゃ…。それとも直接、地上と第九階層を繋げるんですか?」

 

「そんなこと出来るわけないでありんしょう。防衛もなにもあったもんじゃないでありんせんか」

 

 シャルティアが小馬鹿にしたような物言いをする。

 

「で、でもじゃあどうするんです?」

 

 普段のマーレからしたら珍しく食い下がった。

 

「あのねマーレ。アルベドの言ったコウノトリっていうのは、もののたとえで「確かにマーレの言う通り由々しき問題だわ。私としたことがこんな初歩的なことを見逃すなんて」」

 

 呆れ顔で説明し始めたアウラを再びアルベドが割り込んだ。

 

 はじめ守護者統括の言葉を冗談、と受け止めていたマーレ以外の面々は真剣に悩んでいる姿を見て、いやいやまっさかね、と事態を静観していた。のだが、ついには白い手袋やドレスが汚れるのも気にせず、取り憑かれたように闘技場の地面に指で何やら数式を書き始めた姿を見るに至り、確信に変わった。

 こいつガチだ。ガチで性知識がマーレと目くそ鼻くそレベルなのか。おまえサキュバスだろ。

 

 ユグドラシル終了前に、モモンガとアラネアがアルベドの設定の最終行をなんと書き換えたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 【ただし奥手である。】

 

 

「わからない、わからない。どうすればいいの。御方々の為に智慧をお貸しくださいタブラ・スマラグディナ様。いえあの野郎は女の敵、ただの役立たずね。ちょっとあなたたち、馬鹿みたいに突っ立ってないで、脳みそがあることを証明なさい。防衛力をダウンさせることなくコウノトリを無事お迎えするために。これは守護者統括からの最優先指示よ」

 

 ぐるぐるお目目で階層守護者の尻を叩く。

 

 呆れた様子でアルベドを眺めていたシャルティアは、

 

「これは念の為に聞くんでありんすが…アウラは子供の作り方を知っているんでありんしょうね?」

 

「馬鹿にしてるの? そんなの決まってるじゃん。男と女が裸で幻の格闘技(スモー)の取っ組み合いをすればいいんでしょ」

 あれ、ジュウジュツの寝技だっけ、とアウラ。

 

 はたから見れば御世継ぎ問題に右往左往する、愉快な集団である。ただ、某帝都において夜な夜な真っ裸で生贄を囲み、ヒャッハーする私利私欲まみれの変態たちとは、文字通りLevelが違った。

 彼らが外に解き放たれた時、一体何が起きるのか。

 

 

 明日のナザリックはどっちだ。

 

 

 

 

 

 




 次回こそ第一村人発見になるはず。
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