骸骨と蜘蛛と   作:野高これ

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 最初のカルネ村話、その2。

 ネムちゃんは『ダイスを振りな』の結果、死亡フラグを華麗に回避(スルー)

 



 


9 イエス、ロリータ

 

 

 

 

「お、おふたりは、夫婦、ですか」

 

 

 エモット家でのお喋りは、ネムの爆弾発言から始まった。

 

「「「え!?」」」

 

 異口同音にモモンガとアラネア、ついでにアルベドが驚いた。

 

 

「…なんで、そう思ったのかしら」

 

 低い声でアラネアが問う。適当なおべっかは許さない。言外に、そう告げていた。

 

「い、色が」

 

「色?」

 

「桃色の矢が、出てたから」

 

 矢?

 モモンガとアラネアは顔を見合わせた。矢とはなんだ。意味が解らない。

 モモンガはエンリに顎をしゃくる。

 

「申し訳ありません。私にもさっぱり」

 

 エンリは困ったように妹をみた。

 

「ネム。詳しく教えて頂戴。色とは、矢とは何の事かしら」

 

「ああ、あのぅ。誰かが誰かを見る時に、色のついた矢が見えるの、んです。色もあって、それで、それで、お父さんと、お母さん、も」

 

 両親を思い出したのか、ネムの顔が歪み、大粒の涙がこぼれる。

 

「ひっ、ぐす…。なかのよがった、お、おとう、さんとぉ…おか…さん、も。ももいろ、だっだがらぁぁ」

 

 うわーん、と泣き出しエンリにしがみつく。

 

「ネ、ネム! 御方々を前に失礼でしょ。しょうのない子ね。泣かないで。ほら、鼻もかみなさい」

 

「ゔん…」

 

 エンリはネムの涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を、取り出した布で拭った。ちーんと、ネムが鼻をかむ。

 

「ずびば…ぜん…おんがたがた」

 

 目を真っ赤にしたネムが懸命に頭を下げ、謝罪する。

 

 

 暫くして、ネムが落ち着いたところを見計らい話の続きを促す。

 

「お父さんとお母さんは桃色の矢を向け合ってた、です。御方々も同じだっ、でした。から、夫婦、なのかなぁって。思いました」

 

 原理はよくわからないが、感情を視覚的に捉えられるということで合っているだろうか。しかし、ピンクとは。そのものずばりな色合いだ。

 

 モモンガがアラネアにピンクの矢を向け、アラネアがモモンガに。つまり、そういうことだ、客観的に。ここ大事。試験にでる、絶対。

 

 ふたりは両想い、ベストカップルを経て、ステディな関係へ。

 そして晴れて夫婦に。

 

 夫婦といえば。

 当然、初夜。

 扉を開けると、ベッドに腰かけて薄い夜着一枚を纏い、伏し目がちに頬を赤く染めるアラネア。

 

 ふうぅぅぅぅ! 盛り上がっていきましょう!

 

 いかん、いかん。先走り過ぎて、擬人化した抑制に睨まれた。なぜか、黒いスーツに身を固め、金髪を短く刈り込んだごつい白人だった。仮にジョン・ドゥと呼ぼう。左胸のあたりが膨らんでいるが、チャカではあるまいな。

 やべえ気配をびんびんに感じる。

 モモンガの興奮が納まると、グラサンをかけ、すっと姿を消すジョン・ドゥ。

 おととい来やがれ。塩を山盛り撒くモモンガ。絡んできたヤンキーが去った途端粋がる、陰キャそのものだった。

 

 

「ちなみに、ほかの夫婦もそう見えるか?」

 

「大抵は、そうなの、です。だ、ですけど、そうじゃない人たちもいて。います」

 

「無理して畏まった言い方をしなくていいわ。普段、エンリに話すようになさい」

 

 ネムがエンリを見上げる。姉がしぶしぶ頷くと、

「はい。わかった!」

 

 にぱっと笑う。

 

「うっ」

 

 アラネアが呻く。なにやら胸を押さえ、そわそわしていた。

 

「コホン。それで話の続きだが、それはどういうことだ」

 

 モモンガは、例のアレ状態になりかけたアラネアには触れず、先を進める。

 

「うんとね、なんか奥さんは矢を向けてるのに、旦那さんがよその女の人に向けてたり。夫婦だけど色が黒ずんでたり、するの。そういう人たちは、仲が悪くて、いつも喧嘩してるんだ」

 

 ネムが、思い出すように天井を見上げ、村の赤裸々な人間関係を暴露した。

 

「色も重要なのだな」

 

「あ! お姉ちゃんにも来てるよ」

 

「それは家族だから、三本はあったでしょう?」

 

「違うの、(だいだい)色じゃなくて、桃色の好き好き光線!」

 

 ネムが、両手の小さな握りこぶしを上下にぶんぶんして、もどかしそうにする。

 

 桃色の好き好き光線…。モモンガは自分の分泌物に、ちょっぴり恥ずかしくなった。アラネアを見ると、相変わらずネムをロックオンし、モモンガの羞恥など眼中にない。

 

「モルガーさんとか、ンフィーとか。村長さんも」

 

「えー!? ンフィーって、えー!」

 

 エンリが取り繕うのを忘れ、驚愕した。

 

 はあ!? 村長? 

 すごいな異世界。見たところ村長の妻は四十台。死んだ村長も同じくらいのはずだ。この村の文化レベルでは、五十年以上生きられれば大往生だろう。それとも、リアルと同じくらいの平均寿命なのか。まてよ。魔法という可能性もある。

 

「そうだよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんは他にもいっぱい。モテモテなんだから」

 

「うそーっ!?」

 

「嘘じゃないもん。行商人のお兄さんだって、好き好きしてたもん」

 

 ネムは頬を膨らませ、プンスカしていた。

 おいおい控えろ。かわいいが過ぎる。

 アラネアが、そわそわから、うずうずにレベルアップしていた。

 

 

「完敗よ」

 

 やれやれと、アラネアが肩を竦める。

 

「乾杯?」

 

 なんのことだ。符丁か?

 控えるアルベドは、何も反応していない。まるで甲冑の置物のごとし。

 嫌な予感がする。

 

 

「ネム」

 

「は、はい…」

 

 語気の強いアラネアの呼びかけが、ネムのおずおずとした返事を引きだす。

 

 アラネアは腰を少しかがめ、

「ばあ」

 

 唐突に仮面を外した。

 

「どう、驚いたかしら?」

 

 ネムの顔のわりに大きな目が、零れ落ちそうになった。

 一拍置き。

 

「きれー! お星さまに住んでるお姫様みたーい!」

 

 そうして、ネムは興奮気味にアラネアの容姿がいかに素晴らしいか、拙い語句を駆使し、幼いながら褒め称える。

 

 気を良くしたのか、

「今度、私たちの家に案内してあげる。生憎、お星さまではないけれど、負けないくらいキラキラしている、とっても素敵な場所よ」

 

「おい」

 

 流石に現地民をナザリックに招くのは、時期尚早だ。

 

「いいじゃない。面白いことになるわよ。きっと」

 

 アラネアの紅い瞳がモモンガを射抜く。剣呑な輝きを放っていた。

 

「その時は姉妹一緒よ。エンリ、いいわよね」

 

「仰せのままに。御方」

 

 微笑むアラネアの真意がわからない。モモンガは数年に及ぶアラネアとの付き合いで、彼女の言動がすぐに理解できないことが稀にあった。

 大抵は一寸した悪戯や冗句なのだが、突飛な行動をおこすことがままある。ただ、そうした行為はモモンガや他のギルドメンバーを退屈させない、ささやかな贈り物だった。

 今回にしても同じだろう。熟すのを待つのも一興か。

 

「あなたも素顔、見せてあげれば? ネムも見たいでしょう?」

 

「みたーい!」

 

 両手を挙げ、無邪気に(はしゃ)ぐネム。

 

「やれやれ。だがビックリするぞ。心の準備をしておけ」

 

 気乗りしないが、モモンガは仮面を取るため、手を動かす。大体、反応はしれている。初顔合わせのエンリの態度は、珍しい部類だろう。

 

 モモンガの肉の削がれた白骨顔が晒される。

 

 ひゃっと、ネムが後じさった。

 

 まるで幽鬼のように希薄な存在だったアルベドが、殺気を放つ。

 アラネアが口の端を吊り、目を離さない。

 エンリが妹の態度に眉根を寄せた。

 モモンガが、矢張り、と独り言ちる。

 

 ネムは、餌を欲しがる魚のように口をぱくぱくさせ、

「か」

 

 目をキラキラさせる。

 

「かっこいいー! やっぱり勇者さまだったんだ!!」

 

 この反応は新鮮だな。勇者さまときたか。背中がこそばゆい。

 

 拍子抜けとはこのことだ。変な褒め方だが、エンリの妹なだけはある。姉妹(きょうだい)とは、本人の気持ちはどうであれ、どこか似るものだ。

 しかし疑問が首をもたげる。アンデッドはこちら側では友好的種族なのか、後で確認することとしよう。

 

 

 

「ふふ。やっぱり素質はありそうね。良かったわね。エンリ、ネム」

 

 意味を咀嚼できず、キョトンとするネムを余所に、

「はい。すべては御方々の御威光かと」

 

 もし妹が、モモンガを相手に醜態を晒していたらどうなっていたか。ただ処分されるだけでは済まない。エンリ自らの手で妹を殺めねばならなかったろう。忠誠を示す為に。間違えても背かぬよう心に刻む為に。

 エンリは喜びに咽び、それを成す。それが奉仕者の努め。

 

 

 

「さあネム。よく顔を見せて頂戴」

 

「はーい」

 

 アラネアの手招きにネムが応じる。

 労わるように頭を撫で、餅のようなネムの頬を挟んだ。

 

「本当に食べちゃいたいくらい、可愛いわ」

 

 (あで)やかに笑み、ネムを抱き寄せる。耳朶を擽る心地よいアラネアの言葉に、ネムはいつしか嵌ってゆく。

 初めて村はずれで遭遇した時からの予定調和。仕掛けをばらしたわけではない。釣り針がネムの奥深くに刺さり、蜘蛛の糸に引かれるのを待ちわびていた。エンリとて同じこと。

 

「辛い目にあったわね。でも、これから()私が傍に居るから大丈夫よ」

 

 妖の巣へ落ちる。

 

 アラネアの胸に収まり、

「…ありがとう、おねえ…さま」

 

「どう。心地良いでしょう」

 

「うん。あったかくて…気持ちよくて…」

 

「言ってみて」

 

「大好き」

 

「ふふ、ふふふふ」

 

「大好き。大好き。大好き。だーいすき…」

 

 ネムは、うわごとのように繰り返す。

 

 

 

「お返しに、…こちょこちょしちゃうぞ。ほれほれぃ」

 

 ネムは微睡から覚め、

「ひゃあ、くすぐったいよ。お姉さま」

 

 きゃっきゃと、じゃれ合うアラネアとネム。エンリは信じられないものを目撃して固まった。モモンガを振り仰ぐ。

 

「エンリよ。ここで見聞きしたことはお前の胸の内に留めておけ」

 

「は、はい」

 

「なんというか、発作みたいなものだ」

 

 何事も諦めが肝心。モモンガとて複雑な思いはあるが、子供に嫉妬するほど狭量ではない。

 なにしろ、夫婦(仮)だからな。無邪気な子供に嫉妬するなど、いい大人がすることじゃない。

 余裕をもって見守ろうではないか。

 

「お姉さまのお胸、柔らかーい。ふかふかだよぅ。お姉ちゃん」

 

「ネム。世の中には、やって良いことと悪いことがある。まずはそこから勉強しようか」

 

 場所を変われ、という言葉を飲み込み、半ば強引にネムを引っぺがす。

 子供は甘やかすとすぐこれだ。全く教育がなってないな。(モモンガ)のものを無闇に触ってはいけないと、両親に習わなかったのか。

 プレアデスのユリあたりに。いやモモンガ自ら指導したほうが、間違いは二度もおこらないだろう。

 

 

「それにしても、ネムの感情が視えるというスキル。初めて聞くわ」

 

「確かにな」

 

 恐ろしく汎用性が高い能力だ。アラネアの囲い込みも頷ける。

 全ての感情が判別可能なら、これからのナザリックに大きな助けとなる。交渉ごとに使うもよし。戦場に持っていって敵方の思惑を探るもよし。そして、なにより…。

 一家に一台欲しいレベルだ。

 もしや、この村はレアモノの穴場か。

 ふつふつと怒りが沸き立つ。村を襲った馬鹿どもめ。

 

「で、ネムよ。おまえの感情を視る能力。詳しく話せ」

 

「くわしく?」

 

「まずは襟を掴むのは止めてあげたら」

 

 すっかり忘れていた。人の女にじゃれつく子猫を引き剝がしたのだった。

 放してやれば、ぴゅんと、アラネアの後ろに隠れ、半身を出して、こちらを警戒した。いやいや、本物の猫じゃないのだから、そこは姉にひっつけよ。エンリが泣くぞ。

 

 何気なく姉の方を見れば。

 

 こっわ。

 モモンガは、危うく口に出しそうになる。エンリが凄い形相で妹を睨みつけていた。

 

「ネム。いい子だから、御方から離れなさい。厚かましいし迷惑でしょう」

 

「うわあ、お姉さま、こわいよう。うちの姉が化け物みたいな顔して睨んでくるの」

 

「はあっ!? チンチクリンな妹が、くそ生意気なことを」

 

「鈍感女に言われたくないもーん。ンフィーはかわいそ。好きになった女がコレじゃ」

 

 両者譲らず、ガンを飛ばし合うエンリとネム。

 

 どうも既視感が。

 某吸血少女と双子の片割れ。シャルティアとアウラにそっくりじゃないか。

 

 エンリは確か、ファーストコンタクトでは騎士から妹を庇っていたはず。ネムはネムで、アラネアから引き剥がす前もエンリを煽っていたし。

 

 実の姉妹がキャットファイトを始める寸前だ。

 

「ふたりとも。よしなさい。エンリ、妹は大事になさい」

 

「やーい」

 

 すかさずネムが茶々を入れる。

 

「ネムもよ。エンリはこの村の代表なの。妹のあなたが彼女を敬わなくて、どうするの」

 

「申し訳ありません」

「ごめんなさい」

 

 姉妹はアラネアに謝った。アラネアが溜息をつく。

 

 

 そもそもの話、ネムとの顔合わせはエンリの願いが発端だった。断ってくれていいので、と前置きし、妹が会いたがっていることを伝えてきた。

 モモンガは断ろうとしたし、エンリも実際は断られることを望んでいる節があった。ところが、アラネアが待ったをかけたのである。

 アラネア(いわ)く、エンリの妹に興味がある。

 今思えば、そこからエンリの目つきは怪しかった。

 

 

 

 話を戻そう。

 

「で、どうなのだ。自分で能力をコントロール可能か?」

 

「こんとろーる?」

 

 ネムがエモーションアイコンを使えたなら、『?』を頭上に掲げていたことだろう。呆けた顔をしている。

 

「つまり、その矢を使おうと思った時使えたり、視たくない時は視えなくすることが、ネムには出来る?」

 

「うん。沢山、練習して出来る様になったの。えっへん」

 

 アラネアがネムの頭を撫でると、欲しいものを貰えたような満面の笑みをエンリへ向け、勝ち誇る。

 エンリの歯ぎしりが聞こえた気もするが、幻聴だろう。

 

 それよりも不気味なのはアルベドである。いつもなら一喝や二喝あっても可笑しくはない。実際、先ほどは殺気を飛ばしていた。

 

「ネーム、ネム、ネム。おネムちゃん。どっちが上か体にわからせないといけないみたい。これは単なる仕付けですから、姉妹喧嘩ではないと思います」

 

 エモット姉妹、やめなさい。この場にはアルベドという死刑執行人がいるのがわからないのか。

 

 

 エモット家の床に衝撃が走った。

 

 アルベドが三日月斧の柄頭を打ち付けたのだ。叩き土の床が蜘蛛の巣状にひび割れて陥没し、天井から埃が降ってくる。

 

「エンリ、ネム。これ以上、御方々を煩わせるようなことをしてみなさい。こいつを振るってやるから」

 

 アルベドはヘルムのスリット越しに、底冷えのする声をもたらした。ぎらりと、窓から差し込む日の目に照らされた三日月斧。

 

「「ぴぃっ!」」

 

 エンリとネムが抱き合い、がたがたと震える。

 

 姉妹のじゃれ合いで度々脱線する話に、アルベドが痺れを切らした。

 

「遠慮はいらないから、ちゃんと言いなさいね。きっちり錆にしてやるわ」

 

「アルベド。それくらいにしてあげて。私が甘やかしたのがいけなかったの。ごめんなさい」

 

「な! アラネア様が謝る必要など御座いません! くうぅ。本当に、この」

 

 大きな足音を立て、アルベドは震える姉妹を盾で突き飛ばす。

 

「アラネア様の慈悲に感謝するのよ。…ツギはマジでコロすからな」

 

 

「ふむ。では話の続きだ。ネム」

 

 能力について聞き出したことは。

 

 色で感情を判別可能か。肯定。

 感情の強度は測れるのか。肯定

 視界に入らない者に能力は効くのか。否。

 自分自身は能力の範囲内か。否。

 

 これで粗方把握できた。

 モモンガが顎に手をやり、内容を整理している横で。

 

「それにしても。ネム、なんでタレントのこと黙ってたの」

 

「だって、お父さんに話したら、絶対誰にも言うなって」

 

「家族にも?」

 

「家族にも。でも、あの人こっそりとお母さんの事、聞いてくるの。喧嘩したあと、情けない顔して。嗤っちゃうよね」

 

「そういえば案外、気が小さかったわね」

 

 アラネアが姉妹の内緒話に横やりを入れる。

 

「エンリ。タレントというのはネムの能力のことよね?」

 

「あ、はい。ネムの能力はタレントと言います。幼馴染も不思議なタレントを持っていて…」

 

 遠慮がちなエンリの発言に、ネムはコクコクと頷き、姉の意見に賛同する。

 

「タレントにはどういった種類があるのかしら」

 

 アラネアの疑問に、

「生まれ持った特殊な能力なんです。ランプに火を灯したり、川の上を歩けたり、いろいろありまして。幼馴染のンフィーレアは、なんでも、全てのマジックアイテムを使えるタレントを持っていると聞いています」

 

「なに!」

 

 モモンガは驚愕した。

 全て。全てと言ったか。ギルド武器でさえ行使可能なら破格のスキルだ。ユグドラシルでは、そんな便利なスキルは存在しない。

 

「…タレントを後から習得するのは無理なのだな?」

 

「はい。耳にしたことはありません」

 

 唸るモモンガ。この世界独自の先天性スキルだろう。ゲームではプレイヤーにそのようなギフトは無かった。これは要検証だ。やることが増えていく一方で溜息を吐きたくなる。

 

「そういった重要なことは早く言えよ」

 

 アルベドは最早怒りを隠さず、三日月斧を振り上げながら迫る。

 すかさずエンリとネムが土下座した。

 

「…いいわ。これからは、素早く情報を伝えなさい。ね?」

 

 アラネアの優しさが身に沁み、姉妹は目に見えて安堵する。

 

 

 

「さっきのは、いい塩梅だったわ。アルベド」

 

 姉妹を置いたエモット家を後にして、アラネアは漆黒の騎士を労う。

 

「は。有難き幸せ。しかし、あそこまでとは」

 

「仕方ないわ。それはあれらの罪ではないの。そう振る舞うよう造られているのよ」

 

「所詮は下等な生物。我々ナザリックとは根本的に違う劣等種ということですね」

 

「けれど、そういう輩にいちいち腹をたてるのは、面倒でしょう。だから、アルベドも馴れなさいな。モモンガもそう思うよね」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

「なにか考えごと?」

 

 モモンガの手を取るアラネア。

 

「これからの事について、いろいろと、な。差し当たって、フィーア? のタレントとやらを(じか)に確認したい」

 

「ンフィーレアです。モモンガ様」

 

「少し癖のある名よね。なにか別の意味があるのかしら」

 

「ン、フィーレアがどこまでマジックアイテムを使用可能か。果たしてギルド武器はどうなのか。興味が尽きないな」

 

「へえ。興味が尽きない…」

 

 含みのあるアラネアにモモンガは慌てた。

 

「そうじゃない、そうじゃありません! あくまで、その、タレントのことです」

 

 モモンガが魔王ロールを忘れるくらい薄ら寒い笑みを貼りつけるアラネア。

 

「わかってる。わかってるから、そんなに焦らずとも、いいんじゃないかしら。まるで私がモモンガを縛りつける重たい女みたい」

 

 アラネアは軽やかに笑う。

 

 

 

 恋焦がれる幼馴染が崇拝する、悪神に捧げられてしまった哀れな子羊(ンフィーレア)。とはいえ、稀有な才能を備えたンフィーレアがナザリックに目をつけられるのは、時間の問題だったろう。

 

 予期せぬ災難が、ンフィーレアの人生を大きく狂わせる。

 

 

 

 

 

 

 




 ネムはエンリ共々、現地民幸福組になりました(注:ナザリック基準)。
 【小さな花が散るとき】フラグをへし折り、姉と共に突き進みます。




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