Q,負けたら鬱ゲーとなるエロゲーに転生したらどうなるの?  A,転生させた奴ぶっ殺す。   作:サイコロさん

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第2話 女帝の『素質』

 『素質』──────

 

 

 ───それは神からの祝福である『最後の一手(ラストホープ)』によって開花し新たな人間の可能性。

 ───それは精霊装着者(コスプレイヤー)にとって重要な才能。

 ───それは高位職業(ハイランクジョブ)になるための必要な天性の能力。

 

 

 ───────それは決して努力という凡人の行為では得られない、『選ばれし者のみの力』。

 

 

 普通に考えてほしい。

 桜ヶ壱輝夜、会長の周りには正直ヤバい狂信者(ファン)が常に存在しているが……これはいくらなんでも()()だ。

 普通に教室に来て呼ばれただけなのに、クラスのほとんどが殺意を持った目をした。

 会長に接点が、体育館や講堂での演説や校門の挨拶運動以外ないクラスの皆が、まるで大切な人を守るかのように覚悟した目をしていた。

 

 

 それには理由がある。

 この世界には神や天使等の圧倒的上位者が存在している。

 つまり"俺は目で見たことしか信じないッ!"や"神など空想の産物、信用に値しない"とかほざく奴等が絶滅危惧種並みに軒並み居ななくなるのである。

 

 

 しかも流石は圧倒的上位者、自分たちよりも格下の存在である人間に慈悲を与えるその奥深さ、そして決して甘やかすこと無く愛ゆえの厳しさ。

 とにかく自分達に手助けしてくれる上のパパママ的存在を嫌う奴なんかいる? って話になる。

 

 

 天界の統治者である『天神』、そして神を支える神の子ども『第二十二聖天使』、さらに神様と22名の天使をお助けするための戦いに身を捧げた戦士、天使の身の回りのお世話をする奉仕者、天界と人間が住む世界との交流を管理する管理人……exe。

 

 

 天界での俺たち人間みたいなお仕事をする人がいると思ってくれればいい。

 

 

 話が逸れたが、内容としてはその『第二十二聖天使』のみの特権である『遺伝』が問題だ。

 『遺伝』は自分たちよりも格下である人間に、自分達と同じ力を授けて、怪人(クリーチャー)に対抗させようとする行為だ。

 

 

 格下の存在、例えるならばミジンコに人間並みの頭脳を与えようとする絵空事だ。

 

 

 しかし、しかし人類───いや生物にとって不可能を()()()()()最大の生物の進化がある……!

 

 

 それが『突然変異』だ。

 

 

 『遺伝』によって突然変異を起こした会長は、決められたDNA、定められた生物やウイルスがもつ遺伝物質の質的・量的変化。つまり人間で言うならば今までとは違う、能力を持った()()へとなる。

 

 

 日本人である筈なのに、白系ロシア人のような髪に瞳がその証拠である。

 余談だが、【指揮官(コマンダー)】も素質の一つであり将輝も俺が出会った時は黒髪黒目でした。

 

 

 そう。会長こそが、髪や瞳を色を変えてしまう程に『遺伝』を、第二十二聖天使の一人、『女帝』を冠する聖天使エンプレスの力──────

 

 

「────【魅了(カリスマ)】。それが私に生まれながら有った唯一無二の力で呪縛」

 

 

 【魅了(カリスマ)】の特徴としては人を惹き付けてしまう能力を数倍に増幅させること。

 例えるなら普通の売れない芸人が、大晦日でレギュラーをやれる程に人を惹き付けてしまう恐ろしくそして強大なる能力。

 

 

 声は脳を浸透させてしまうほどに甘く聞こえ、見た目は誰もが畏怖と尊敬、そして劣情と高貴さを感じさせてしまうように見え、体臭がその人を本能的に安心させてしまう程心地よく感じてしまう。

 

 

 それに加えて会長の魅力あふれる心身、【魅了(カリスマ)】で重ね重ね増幅した結果が狂信者(バーサーカー)製造マシーンだ。

 誰もが彼女に触れたくて、話したくて、見たくて、聞きたくて、笑顔を向けてほしくている。

 

 

「どうして私に惹かれないんですか?」

 

 

 だからこそだろう。だからこそ俺が彼女に惹かれないのが理解できないんだろう。

 会長を一目見た瞬間から一目惚れ、少し話しかけてくれば恋に落ち、笑顔を向けてくれれば女神だと讃える教徒となる。

 

 

 そんな彼女だから、俺がどうして、こうやって()()()()()()()のが、まったく理解できないからだ。

 

 

 ……まあ、それでも言うことはたった一つだけだ。

 

 

「そりゃ会長さんが()()()()()()すぎるからだ」

 

 

「? いい子ちゃん?」

 

 

 自分の本音を伝えるだけだ。

 俺は少し呼吸を整えたあと、ゆっくりと語るように話した。

 

 

「あのな? 俺はお前が真面目ちゃんっつうか、自分は必ず平等に接しないと、皆が困ったりするから真面目に平等にっていう気持ちが強いんだよ」

 

 

「それが何が悪いんですか?」

 

 

 会長は首をかしげる。俺は"まあ落ち着け"と言って今に動きそうな会長を止める。

 

 

「悪くなんかない。ただ会長さん、アンタが窮屈そうなんだ」

 

 

「窮屈?」

 

 

「先程言った"真面目に平等に"という名前の『殻』がお前を『聖女』に縛っている。会長も言ったよな、"唯一無二の力で()()"ってな」

 

 

 俺の言葉に図星を突かれたのか、目を見開く会長。

 ……自分ですら認識せずに言っちまうとは、どれだけその力が疎ましいのか、分かってしまうな。

 

 

「だろぉ。つまり会長さんも幼少期、いやお母さんのお腹にいた胎児の頃から運命(さだめ)られた人生をただただ歩いているだけなんだよ、今もな」

 

 

「けど間違っていない。何故ならそれが俺たちよりもずっと、ずっーと偉い天使様のお力を受け継いだからな。お前がこうして『桜ヶ壱輝夜』としていることは正しい」

 

 

「……」

 

 

 俺の言葉に核心を突かれたのか、明らかにしょんぼりする会長。

 ……無理もない。会長からすれば貰いたくない天使様のお力を引き継ぐのは他の人から言わせてもらえれば"誇り高く素晴らしいこと"だ。

 それを拒否することは、引き継げれなかった人に対する最大の侮辱、だからこそ『桜ヶ壱輝夜』として『聖女』として今まで生きてきた(演じてきた)

 

 

 ……だが、それは()()の場合だ。

 

 

「いいか? 俺はなぁスッゲェー悪人なんだぜ」

 

 

 俺は悪い笑みを浮かべながら話す。

 

 

傲慢(ワガママ)で自己中心的な、世間からすれば決して認められない馬鹿けた人生を送り続けた」

 

 

「けどよ~。そんなクソな俺にも決して裏切らない、守りきりたい、貫きたい考えがある」

 

 

「それは『己の正義を貫く』ことだ。ちなみに俺の正義は『我が忠義と信条、あとは直感を信じきる』だ。俺はなにがなんでもそれだけは裏切らない、守りきると誓った!」

 

 

「そして俺は、あの日の夜に直感頼りでお前と出会った。だから()()()。俺の直感は特殊でな、『助けを求める人』を探し当てるのが大のお得意なんでね」

 

 

 俺は行儀悪いが机に片足を乗せ、演劇の主役のように手を会長に差し伸べた。

 

 

「会長……アンタは『聖女』、『桜ヶ壱輝夜』という名前の『鎖』に繋がれ縛られ閉じ込められている。俺はアンタを助けたい! だから─────」

 

 

 俺は初めてのプロポーズするように、会長の顔を、瞳を見ながら大声で発した。

 

 

「────俺と対等に話しあえる、馬鹿言い合える、そんな『聖女』よりも素晴らしい()()のアンタで、こんな俺の友達(ダチ)になってくれッ!!」

 

 

 俺の声は静寂と重々しい空気が包む生徒会室全体に響き渡る。

 俺は思わず顔を背ける、心臓の音が太鼓のように激しく聞こえてくる。

 

 

 俺は知っていた。いや知ったんだ。

 俺の家族は手を差し伸べれなかったから壊れた。

 ──親父はお袋と離婚した孤独の苦しみで酒に溺れた。

 ──お袋は俺を幸せにしたいために過労で亡くなった。

 ──俺は自分の苦しみから逃げるために暴力を振るうクズ野郎(勘違い野郎)となった。

 

 

 ─────もしも手を差し伸べたら?

 

 

 親父は酒に溺れる前に『誰かに止められたら』止めていたかもしれない。

 お袋は過労で亡くなる前に『誰かに止められたら』止めていたかもしれない。

 俺は暴力を振るう前に『誰かに止められたら』止めていた。

 

 

 俺は耐えきれなかったんだ。

 次々と失った家族、それをバカにするクソ共、本当に守りたかった日常は蜃気楼だったかのように消えていた事実に。

 

 

 俺は()()()()()()じゃなく()()()震えている。

 前を向けず道を外れて歩いてしまう、前の俺みたいになってしまうんじゃないかっと怖くて恐ろしく……俺は前を見れなかった。

 だから俺はこんなアホなやり方なのだろう。

 もしかしたら黒歴史になるかもしれないし、演劇部からすれば笑える程に滑稽で不恰好なプロポーズだ。

 しかし俺のやり方は、これが1番のやり方なんだ。

 

 

「……馬鹿、ですね」

 

 

「……ッ!」

 

 

 会長がゆっくりと口を開けた。しかし顔を背けているから声しか聞こえてこない。

 俺はその声に身をこわばらせる。

 

 

 

「貴方はズンズンと他人の問題に入り込んで勝手にするくせに、こういう時だけは消極的になる。貴方は全く関係ない人にも関わっていくのに……」

 

 

「猫かぶりで何が悪いんですか? 演じて何が悪いんですか? 皆さんが望んでいるのは『聖女』であり、『桜ヶ壱輝夜』としての私なんですよ。それを演じて何か問題でもあるんですか」

 

 

「それなのに、それなのに────────」

 

 

 その瞬間、上から小さな水滴が落ちてきた。

 俺は顔を上げると、そこには────

 

 

「────本当の『私』を求めたのは貴方だけでした……ッ!!」

 

 

 ────目に大粒の涙を貯めた会長の笑顔があった。

 

 

「是非、貴方の──()()の友達にしてくださいッ!」

 

 

「ッ! ……ああ()()だったな。よろしくな」

 

 

「はいッ!」

 

 

 そして俺が差し伸べた手を取る会長……いや輝夜は『桜ヶ壱輝夜』や『聖女』の頃に比べてとても綺麗な笑顔だった。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「ふーん……これは手強いライバルができたな~」

 

 

「けどね。ボクは尚更渡したくなくなっちゃたよ。会長さん♪」

 

 

「決して……()()()()を、ボクから遠ざける者は全員ユルサナイカラネ……」

 

 

 学校の屋上にハイライトがないライラック色の瞳を持った水色の髪の生徒がいたとかいなかったとか……。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

「っは!」

 

 

「ん? どうしたんだ、輝夜」

 

 

「謎の殺気が……気のせいですね」

 

 

「大丈夫か? 俺は職業柄殺気を感知する特訓をしているが、殺気らしきもんは感じねぇぞ」

 

 

「……そうだといいけど」

 

 

「それより俺は授業にどうやって参加すればいいのか、その言い訳を考えなければならない。そして俺の教室の担任はあの鬼神でもある鬼柳先生だ、安易な方法ではまかり通らない、そう前代未聞の言い訳を──「それだったら私が一緒に付いていき、そして弁明しましょうか? 鬼柳先生も私の信奉者なので」──持つべきものは頼れる友達だな!」

 

 

 尚、余談であるがその後に"輝夜様に迷惑かけるんじゃねえ!"という圧と視線が颯斗を襲ったとか……。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 高級住宅街から約2キロメートル離れた山の麓にあるとある洋館。そこは比較的温度差が少なく、避暑地として有名な場所であり、とある有名人の娘が住んでいる。

 ヨーロッパの街並みを連想させる、おしゃれな洋風の槍のような刺が先っぽについた高い塀のある邸宅がそこにデンッ!と在った。 

 全体的には白色で統一された左右対称のおそらく3階建てに屋根部屋もあるように見える。

 すると2階のとある小窓からカーテンがなびいており、そこから上半身の人影が出てきた。

 

 

「う~ん、今日も良い朝ですね~」

 

 

 そうここは、あの桜ヶ壱グループのご息女、桜ヶ壱輝夜が住んでいた。

 ちなみに彼女が一人暮らしするために、親が奮闘して造らせたとか……。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 清々しい朝の光と風を受け、まだ眠たげな目に朝を知らせる。

 そして今日は学校はお休みのため、颯斗とは会えないこの心のモヤモヤに葛藤する。

 

 

「今日は……遊べないのね」

 

 

 私、輝夜が颯斗の友達になったことは昨日のことだと思い出させてくれる。まあ昨日の出来事だから当然だけど。

 けど、たった2日間会えないだけでこの虚しさは収まりきらない。

 

 

「本当に、私がどれだけ欲していたのか、分かってしまうのね」

 

 

 『対等な関係』。

 それは与えられし天使の力によって、全てを惹き付けてしまう私が最も欲する物。

 自分とは仲がよい生徒会の皆やお父さんお母さん、親戚さえ私を『聖女』として扱っていた。

 それもこれも全部、私自身の魅了と祝福された力のせいだ。

 

 

 しかし裏を返せば、その力や私自身が無くなったら家族はどうなる? 親戚も、生徒会も、私に狂信する皆もどうなってしまう。

 

 

 ……実に簡単な事。

 それは『捨てられる』のみ一択。

 人間は求めるものがあるからこそ、誰よりも必死に頑張れる。

 私の『魅了(カリスマ)』と『見た目』を求めるからこそ、私の周りは私を聖女扱いし、そしてその恩恵を受けようとする。

 その二つが失くなれば私の周りは笑いが取れなくなった芸人のように雲散霧消する…………それが何よりも怖かった。

 

 

 私に付き従うのも、私を慕うのも、それらは全て【魅了(カリスマ)】の力だと、私自身の見た目だと、本当の()を誰もが見ていなかった……。

 

 

 けど貴方は見てくれた。

 

 

「本当の私を……自慢したがりでわがままで子どもっぽい私を……」

 

 

 私が思い出すのはあの時のプロポーズ。

 あの時のプロポーズは確かに知識と勢いだけの紛い物。

 確かに不恰好で滑稽なやり方でしたが、私はそれを世界中にある何よりもカッコいいと感じました。

 

 

「はぁ~……本当に私をこうした責任は取ってもらいますからね」

 

 

 長い長い溜め息を吐いた後、思い浮かべるのは愛しい人(颯斗)の顔。

 私を聖女という鳥籠から手を差し伸べ、『輝夜』として自由、生き様を与えてくれたこの責任は重いですよ……。

 

 

「さて、そろそろ朝食『ピロリン♪』ん?」

 

 

 テーブルの上にあったスマホが鳴る。

 それを手に取り、届いたメールを見てみる。

 

 

『明日の日曜日、開いているか?』

 

 

 ……これは脈ありと受け取っていいんですか?




 オイオイUAが3000越えるなんて……明日俺は死ぬのか……。


 今回のおさらい。

 
 主人公「友達になって!」

 会長「喜んで!」
  ↓
 主人公「明日あそぼ!」

 会長「ktkr!」
 

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