『んー…この映画は外れだね
BGMくらいしか褒めるものが無い』
血のように朱い髪をした女性はそう言うとフローリングに座ったまま自分の腕を持ってぐいと身体を反らし固まった身体をほぐす。
そして、そのままぽすんと後ろのソファにもたれ掛かる。
「そぉかぁ?俺は結構良かったけどなぁ…
特に、あの最後の爆発オチとか!」
ソファに座っていた女は倒れてきた女の頭を両手で優しく受け止め、自分の膝に乗せる。
『そこが駄目だった
それまでの伏線とかストーリーを全部無視してドカン、なんて投げやりすぎだよ』
「う〜ん…俺はあっからガチャガチャやるよか全部ぶっ飛ばして終わり!ってやる方が潔くて好きだけどなぁ〜」
女はスタッフロールを観ながら酷評する女の頭を撫で、空いた手で次はどの映画を観ようかとケース裏のあらすじを流し見する。
『………アマネ、何してるの?』
「ん〜…?次何観っかなぁ〜って選んでんの」
エンドロールが流れ終わり、タイトルと本編再生の文字が浮かぶスクリーンから目を離すと女は腕を伸ばしてソファに座る女の首に絡める。
「ん〜?」
ソファに座る女…
『私を撫でる時はそれ以外の事なんかしないで
これは命令です』
マキマの細く切れ長な目が射貫くように天音を視る。
天音は暫くマキマの目を見つめ──
「てい!!」
『にゅあ〜〜』
そのほっぺを掴んで引っ張った。
頬を引っ張られたマキマは独特な鳴き声を上げると身をよじる。
『なにするの!』
「にっひっひっ!かぁいい、かぁいい
よしっ!メシにしよーぜ、マキマちゃん!!」
身を起こし唇を尖らせるマキマの頭をくしゃくしゃと撫でながら天音は笑ってそう言った。
「マキマちゃん、何食べたい?」
『………洋食』
ぺたぺたとキッチンまで歩きエプロンを着ながら天音は尋ねる。
マキマはまだ少し頬を膨らませつつも呟くように要望を口にした。
「オッケー!ん〜…洋食なら〜
コロッケに〜…オムライス君かな〜♪」
天音は冷蔵庫の食材を見ながらメニューを決めるとテキパキと準備して調理を開始した。
『………コロッケもオムライスも日本生まれだけどね』
「マァジィ!?ウッソだぁ〜!!」
まるで双子の姉妹かのように同じ背格好と顔をした二人は家族のように同じ食卓を囲み、家族のように笑って話す。
『アマネ…そろそろ寝ようよ』
夕食後に追加で3本程映画を見たところでマキマは目を擦りながらそう言った。
「だなぁ〜…そろそろベッド行こっか」
ソファに寝転がりながら自身の膝を枕代わりにするマキマをお姫様抱っこして天音は立ち上がる。
その格好は誰が見ても様になっていて、二人が女同士で無ければ間違い無く恋人同士だと言うだろう。
『明日は…デビルハントも無いし書類整理だね』
「げぇ…マジ?俺はどうしようかなぁ…」
寝室の大きなベッドにマキマをそっと降ろすと天音はマキマの横に寝転ぶ。
二人の寝室には元よりベッドは一つしか無かった。
天音は布団派だったので最初はベッドで眠るマキマの横で布団を敷いて寝ていたが、朝方には自分の腕を枕にして眠るマキマという構図が続いた為に天音が折れたカタチである。
『お休み、アマネ』
「ん、お休みマキマちゃん」
天音は目を瞑ったマキマの頭を優しく撫でながら目を閉じる。
手の掛かる妹みたいだな、と少し微笑みながら。
「…………あ?」
目を開けると、眼の前には扉が有った。
鉄製で、一目で固く閉ざされているのがわかる程に頑丈そうな扉。
表面には錆が浮いており、かなりの年季が入っていそうだ。
「なんだコレ…?」
天音は不審に思いながらも扉から目を離せない。
しかし、何となくだが嫌な予感がした。
何故か…この扉を開けると、全てが終わってしまいそうな
そんな、嫌な予感がした。
『お姉ちゃん…なんでそんなに笑ってるの!?
お父さんもお母さんも、死んじゃったんだよ!!?』
扉から聴こえたその声は、何処かで聴いた事のある声だった。
「…誰だっけ……」
『大丈夫…■■ちゃん、俺が一杯お金稼ぐからさ
■■ちゃんは俺と違ってアタマも良いんだし、大学行っていいトコ就職出来るさ』
扉から聞こえたその声は、何時もよく聞く自分の声だった。
「俺……?俺…こんな事言ったっけ……?」
天音は声に誘われるようにゆっくりと扉に手を掛け──
『開けてはいけないよ』
そう、止められた。
「……藍ちゃん?なんで、藍ちゃんが…?」
聞き馴染みのある藍染惣右介の声に、その手を止めて
天音はゆっくりと身体を起こした。
「夢……?」
辺りを見渡せば、何時もの寝室で
隣にもちゃんとマキマが寝ていた。
『ん……どうしたの?アマネ』
マキマは目を擦りながら眠そうな声で尋ねてきた。
天音は少し迷ってから、マキマの頭を撫でてベッドから降りる。
「なんか…変な夢見て目ぇ醒めちった
汗でベトベトだし、ちょっとシャワー浴びてから寝るわ」
『そう……わかった』
マキマは天音の声が深刻そうでは無かったのを確認して再び眠りについた。
「此処から先は国家機密により立ち入り禁止となって─
おや?天音さんですか?」
天音は、何となく眠れずに公安の地下にある悪魔達の収容室へと足を運んでいた。
「おーう…ちょっと覗いてって良い?
たまには皆の顔見とかなきゃと思ってさ」
守衛をしていた職員からそういう事なら勿論、と快諾されると天音は収容室の中を歩いて行く。
本来ならば凶暴で凶悪な悪魔達の収容室に入るには数十枚から成る申請書類と公安の上位職員である事を証明するパスが無ければならない…が、何事にも例外がある。
その例外の一人が、天音だった。
「よぉ!天使ちゃん!」
天音は収容室で今しがたビデオ通話を終えた一人の悪魔に話し掛ける。
『ん?天音…どうしたの?こんな夜中に』
一見女性と見紛う容姿をしたこの悪魔の名は【天使の悪魔】
公安内でも指折りの強者でありながら、月に一度は必ず恋人が居る海外へと大量のお土産と共に帰省する出来た男である。
「いやぁ…なぁんか変な夢見ちまってさぁ……
寝れねぇから皆とダベりに来たぁ」
『ダベりにって…マキマは知ってんの?
起きて天音が居なかったら大変じゃない?』
「んー、朝までには帰るよ」
『ふーん…ならまぁ、良いけど』
天使はそう言うとそれ以上深くは聞いてこなかった。
常に彼女ファーストで行動する天使だからこそ、女性の機微には人一倍敏感であった。
天音もマキマも、そして公安の女性職員も天使のそういう所を気に入っており度々相談事をしに来る程であった。
それから、天音は天使と次の休みには彼女と何処へ行くだとかこないだやったスキューバダイビングがどうだったとか
そういう取り留めない話をして、天使に手を振って別れを告げた。
「ん〜…後は誰とダベるかなぁ」
一時間程後、天音は収容室内の殆どの悪魔と話終わっていた
今は頭の後ろで手を組んでさも暇ですと言わんばかりに廊下を歩いている。
そして、なんの気無しに歩いていたその足がある悪魔の収容室の扉前で止まった。
天音はその悪魔の名前を一瞥すると眉をひそめながら回れ右しようとして…思い直したように扉を開けた。
「……よぉ──【未来の悪魔】」
『ウフフフフ、前のようにミラミラとは呼んでくれないのか?天路々天音』
木のような姿をした六つの目を持つ悪魔は天音を見ると心底嬉しそうにそう笑った。
「てめぇが訳わっかんねぇ事ばっか言うからだろうがよ!」
天音が歯を剝いて吠えると未来の悪魔は肩を竦める。
『これはこれは…俺はただオマエの未来を言っただけだろう?
しかし、天音…オマエが嫌いな私の前にわざわざ来た理由ならわかっているとも
なにせ…もうすぐ、オマエ達の焦がれたチェンソーの少年に会えるのだからね』
未来の悪魔は天音の耳元で囁くように語る。
『チェンソーの少年が何時、何処に現れるかを知りたいのだろう?
良いだろうとも、教えてやろう…俺と契約すればな!』
契約、その言葉に天音の目が鋭く引き絞られる。
『フフ…そんな怖い顔をするな
オマエから貰う対価は細やかなモノだ
オマエの右目に俺を住ませる…たったそれだけだ』
どうだ、簡単だろう?と未来の悪魔は嗤う。
心底楽しそうに
「…………どういうつもりだ?」
『ふむ、オマエに俺の考えを話しても理解出来ないだろう?
だが…下手に警戒されて契約を見送られてもつまらんからな
教えてやろう────天路々天音、オマエは未来で最低な死に方をする
俺はソレをこの目で見たいのさ』
六つの目を見開き悪魔のように、嘲笑った。
『未来…最高!!』