支配の悪魔を曇らせたい   作:悲しいなぁ@silvie

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でもデンジ君とポチタには幸せになって欲しい

「俺ぁ犬ぁ臭くて嫌ぇだ」

 

老人はそう言って振り向く

子飼いにしていた青年の死を確認する為に──

 

「そうか…俺は犬が好きなんだ

お前とは話が合わなそうだな」

 

老人が最期に見たのは口に縫い痕のある男とその男の靴の裏だった。

 

「……ったく、本当に居やがった

あっちの悪魔といい、このガキといい…天音(アマネ)の奴どっからそんな情報仕入れんだ…」

 

「あえ…?だ、誰ぇ…!??」

 

デンジは突然現れて自分とポチタを小脇に抱えながらヤクザを蹴り殺していく男に只々困惑した

地頭はそこまで悪くはないデンジだが、例えこの場に知力自慢だと豪語する人間がいようとも目を伏せて白旗を上げるであろう状況故に仕方ないとも言える

 

『おっ、お前ぇ!デビルハンターだなぁ!?

みんなぁ!あいつを早く始末しろ!!』

 

だからこそ、このキンキン声の悪魔は状況の異様さに目を瞑りつつ最低限の情報を拾うという意味では中々頭が回る方であった。

人間を食い物にする悪魔らしい知恵の回りようとも言える──が、今回ばかりは相手が悪かった

否──

 

「この世でハッピーに生きるコツは、何があろうとアマネとマキマの仲間であり続ける事

余計な事は考え無い方が良いぞ岸辺、元バディからのアドバイスだ」

 

今回ばかりは、相手が最悪だった。

眼帯をつけた女は刃が滅茶苦茶に歪んだ、最早剣と呼ぶに値しない鉄の棒を投げ捨てると腰から新しい剣を引き抜く。

彼女の後ろには無数の首無し死体が倒れ伏していた。

 

「それと、てめえ鈍り過ぎだ

遂にボケが回ったか?」

 

「無茶言うな、こっちは50過ぎてんだぞ」

 

岸辺はそう言いながらも手当り次第にゾンビと化したヤクザ達の頭をサッカーボールかなにかのように蹴り抜いていく。

 

「そんなにバカスカ呑むからだ…このアル中め」

 

「ソレこそ心外だな

俺程にアルコール中毒から程遠い奴は居ないぞ

なんせ今までに7回も禁酒に成功してるんだからな」

 

二人は世間話をする最中、まるで踊るようにゾンビと化した人間達を肉塊に変える。

 

「ポ、ポチタぁ…俺ぇ、まだ夢見てんのかぁ…?」

『ワ…ワゥ……』

 

凄まじい速度で移動する岸辺の腕の中で、デンジは加速によるレッドアウトの最中…現実逃避を選択していた

 

「………おい、岸辺

その少年…気絶してないか?」

 

「あ?………子供にはショッキングな光景が続いたからな

仕方ない」

 

「いや…お前が振り回したせいで気絶しただけだろ」

 

「クァンシ、この世には2つの嘘がある

自分の為につく悲しい嘘と…他人の為につく優しい嘘だ」

 

「…………アマネー!!岸辺がデンジ少年をおとしたぞ!」

 

クァンシは何の躊躇もなく元バディである岸辺を売った

その顔は清々しいまでに晴れやかだったという

 

「お前っ…!!なんて事言うんだ!!」

 

岸辺は近場のゾンビ達を蹴り飛ばし、場所を空けるとすぐさまデンジとポチタを下ろす。

デンジは耳と鼻から出血してはいたものの命に別状は無さそうであった。

 

「事実しか言ってないぞ」

 

「今言ったろ…俺のは優しい嘘でだな…」

 

「あー!!!岸辺ちゃんってば何やってんだよぉ…

せっかくカッケェ登場で派手にドバーンってやりたかったのに…デンジちゃん気絶してんじゃんかよ」

 

岸辺は後ろから聞こえた大声に肩を跳ねさせるとゆっくりと振り向く。

 

「もぉ…デンジちゃんとポチタちゃんは怪我させねぇようにしてっつったじゃんかぁ…」

 

視線の先には血のように朱い髪をした女が唇を尖らせて不満気にこちらを見ていた。

 

「……天音、よく聞け

デンジは今自分を育ててくれていたヤクザが悪魔によって無惨にもゾンビにされ、しかもソレを眼の前で俺に始末されて酷くショックを受けて寝てしまったんだ」

 

岸辺は尚も責任逃れに口からでまかせを言う

しかし、その目は真剣そのものであった。

もしこの場に事情を知らぬ第三者が居たとすれば岸辺のこの言葉に嘘は無いと思ってしまう程の名演である

が、

 

「嘘つけよぉ〜デンジちゃんがんな事でショック受ける訳ねぇじゃん

岸辺ちゃんさぁ……あんま嘘つくとマキマちゃんに言い付けんぜ?」

 

眼の前の女にはまるで通じなかった

 

「……う、うぅ……」

 

マキマの名を聞いた瞬間に滝のように汗を流していた岸辺は足元のデンジが漏らしたその呻きにバネ仕掛けのように反応した。

 

「よし!起きたか?起きたな!おはよう!!

今からお前には色々と話を聞いて貰う」

 

薄目を開けたデンジを抱き上げて無理矢理立たせると岸辺は捲し立てる。

ちなみに、後ろでクァンシがゲラゲラと笑っていた

 

「な…なんだよあんたら…?オレたちをどうする気だ!」

『ヴゥゥ……!!』

 

デンジは意識を取り戻すとポチタを抱き締めながら敵意をあらわにポチタの尻尾のスターターを握る。

ポチタもまた牙を剥きながら真っ直ぐに岸辺を睨みつける。

 

「まぁ待て、別に俺らはお前を取って喰おうって訳じゃない

そこの悪魔は違うらしいがな」

 

「え…?」

 

デンジは岸辺の視線を追って振り向く

其処には、巨大な体躯から臓器や脳を覗かせる異形

ゾンビの悪魔がデンジに向けてその手を振り上げていた

 

『クソォ!僕の奴隷を全部壊しやがって!

せめてお前だけでも殺してやるよ!』

 

「う、うあぁぁ!?」

 

絶体絶命の危機にデンジは恐怖に駆られるも、決して目を閉じずに回避しようと身体を動かしていた。

幼少よりデビルハンターとして培ってきた戦闘経験がそうさせた

しかし、気絶から立ち直りきっていない身体はデンジの命令通りに動かず脚を絡ませて転倒してしまった

デンジは避けられぬと悟ると歯を食い縛りポチタを強く抱き締めた

………しかし

 

「───ッ!!………あれぇ?」

 

待てど暮らせど来る筈の衝撃が来ない。

デンジは不審に思い視線を上げた

そして──

 

「にっひっひっ!ちぃっとばっか、カッケェとこ見せてやるぜぇ…デンジちゃん!!」

 

好戦的な笑みと共に鎖で悪魔を縛りあげる女を見た。

 

「………スゲェ……美人だ……」

 

しかし、鎖も何も関係なくその顔の良さしかデンジの脳では認識出来なかった。

 

『あ…あぐぅ…っ!!や、やめて……し、死ぬ…っ!!』

 

何処からか現れた鎖に雁字搦めにされた悪魔は尋常ならざる膂力により鎖を引く女に情けなく命乞いをする

 

『そ、そうだ…っ!助けてくれたら僕が契約して力を貸してあげるよ!!だ、だから───』

 

「ドグワァーーーン!!!!」

 

そして、そんな悪魔の甘言に耳を貸す事も無く…女は鎖を引き切った。

鎖は悪魔の身体を引きちぎり数十の肉塊へと変える。

女は雨のように降り注ぐ悪魔の血の中をゆっくりと歩くとデンジの前に立ち、その腕をしっかりと握る。

 

「ほっせぇなぁ…食い盛りが、ちゃんと肉喰ってんかぁ!?」

 

「あ…あぇ……喰って…あ、いや……食べてません…」

 

女の顔の良さにテンパりながらもデンジは答える。

その顔は腕を握られた事で真っ赤になっていた

 

「来な…俺が腹ぁ一杯食わせちゃる」

 

「あ…ま、マジっすか…?腹一杯……た、例えば…?」

 

「例えばぁ?」

 

デンジは降って湧いたような幸運に震え声で尋ねる。

女はその質問にしばし考えると答える

 

「例えばぁ……ハンバーグ」

「おぉ…っ!!」

 

「ラーメン!」

「す、スゲェ…!!」

 

「親子丼に…」

「マジっすか…!?」

 

「ステーキだぁぁぁ!!!」

「ヤベェェェ!!!」

 

女の答えに一々最高のリアクションをとるデンジであった

 

「凄いな…アマネが二人に増えたみたいだ」

 

「勘弁してくれ…そんな事にでもなりゃ、俺の仕事は倍じゃ済まんぞ」

 

知能レベルが似通った二人の会話にクァンシは物珍しそうに聞き入って、岸辺は頭を抱えた

 

「お、オイ!聞いたかよポチタァ!ハンバーグにラーメンにステーキに…死ぬまで食えねぇと思ってたのをハラ一杯食わしてくれんだってさ!!」

『ワン!!』

 

デンジは心底嬉しそうに相棒へ語りかける

ポチタはデンジのその笑顔に尻尾を振って応える

 

「おお!実物見ると中々にもっちりボディだなぁ!!

これがポチタちゃんかぁ!!」

 

女は覗き込むようにデンジの腕の中のポチタを見る

すると───突然、痙攣しだした

 

「んぁ!?ちょ、ちょっとマキマちゃん!?だ、ダメだって!まだデンジちゃんもポチタちゃんも一緒に来るって言ってねぇんだから…あっ!」

 

「えっ!?ちょ─だ、大丈夫っすか!?」

 

デンジは眼の前で突然痙攣しだした女を心配し、咄嗟に支えられるようにとポチタを足元に降ろし両手を空けた。

そして──

 

『チェ─────チェンソー様ぁぁぁ!!!』

 

足元に降ろしたポチタを奪い取られた

 

「なぁっ!?ポチタァ!!」

『ワ、ワウゥゥ!?』

 

女は顔面からスライディングするように地を滑るとポチタをしっかりと抱き締めて転がり回る。

 

『ああ!!すご…スゴい!!モフモッ…すご……あっあっあっ

ああ…あっ、すご…生チェンソーマンすごい…

モフモフでもふもふで適度にもっちりで…あっ…』

 

女はポチタの全身を舐めるようになで回す

……というか実際に舐め回していた

 

『あっ♥すご…!首の後ろの匂いやば…

あぁ……チェンソーマン…最高……』

 

ポチタのお腹や足、鼻先からチェンソーの刃の一本一本に至るまで…舐め残しの無いように入念にしゃぶり尽くす女にデンジは固まる

しかし、数秒のフリーズの後…泣いた

 

「なっ、なんでポチタばっか…!!

お、俺も…俺も、美人に舐められてぇよおぉぉぉ!!」

 

思春期真っ盛りの雄叫びをあげながらデンジは崩れ落ちた

 

「………マジか…マキマがあんなになるなんて…」

 

クァンシは信じられないものを見たように口をあける

そして、少しして隣に立つ男がどう反応するか気になり視線を向けた

 

「……何も見たくねぇ…」

 

岸辺はネクタイを顔に括り付けて項垂れていた

手の掛かる娘のように面倒を見てきた彼女のアヘ顔と嬌声に完全に心をやられた結果である

 

『チェンソーマン最高!チェンソーマン最高!』

『ワ…ワン!ヴゥゥゥ!!』

 

少年誌ではお見せできないレベルで蕩けきった表情でポチタを抱き締める女にポチタはようやく敵意を剥き出しに吠える

身の危険…というか貞操的な危険を感じた結果である

 

『ああ♥チェンソー様…猛々しい表情もイイです…!』

 

しかし、相手はどれだけ威嚇してもより興奮するだけであった

恋する乙女()は無敵である

しかし、暴走列車の如く傍若無人な女を止める唯一の存在がこの場には居た

この場というか彼女の脳内に

 

「はいはい…ポチタちゃんに会えて嬉しいのはわかったからもう今日はここまで!

とっととデンジちゃんとポチタちゃんに一緒に来るか聞くよマキマちゃん!」

 

脳内に響くその声に蕩けきった顔を瞬時に引き締めると女はポチタを抱き締めたまま立ち上がる。

 

『君…もう何処かへ行って良いよ

今後の生活なら私が保証してあげるから』

 

「…へ?そりゃ、どういう…?」

 

『はぁ…鈍いなぁ

君は要らないんだよ、私の家族は天音とチェンソーマンなんだ

君みたいなのが入る場所は無いんだよ』

 

突然の豹変に思考が追い付かないデンジに氷のように冷ややかな視線を向けながら女は淡々と話す

 

『そもそも、君みたいなのがチェンソー様と一緒に居ること自体が──』

『ヴワウ!!』

 

尚もデンジを責めるように話す女の手にザクリ、とポチタの牙が突き刺さった

女はゆっくりと手を咬むポチタを見て──

 

『オボロロロ』

 

吐いた。

そして仰向けにぶっ倒れた

ゲロ塗れで倒れた女は再び痙攣すると弾かれたように飛び起きる

 

「はぁ…友達の事馬鹿にすっからそうなんだよ…」

 

なぁ?ポチタちゃん、と尚も手を咬むポチタの頭を撫でながら女はデンジに歩み寄る

 

「なぁんか滅茶苦茶になっちまったなぁ…

っかしいなぁ…予定じゃビシッとカッチョ良くキメる筈だったのに…」

 

悪魔の血と、自分のゲロに塗れた女は右手をポチタに咬まれたままデンジの前に立つと人好きのする笑顔で左手を差し出す

 

「デンジちゃん!良かったらさぁ…俺らと一緒に来ねぇ?

コーアンはちゃんと三食オヤツ付きだし…お賃金もガッポリだぜ?」

 

女の悪戯っぽいその笑顔に、デンジは二もなく叫ぶのだった

 

「行きまァす!!」

 

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