Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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一応、話数的には100話。

まだ終わらんのか、と思わなくもありませんが。
この調子だと完結まだまだかかるな……


99 Like or Love

 巨乳はお湯に浮く。

 

 すずなは正に今それを目にしていた。

 

「ごく……っ」

「身の危険を感じるから、そんなに真剣に見ないでくれるかな!?」

 

 せりは慌てて体を隠す。

 

 DA仙台支部が誇る露天風呂は現在せりとすずなの貸し切り状態だった。

 ……内風呂に人はいるが。

 

「いいじゃん。今更でしょ?」

「そうだけど! そうなんだけども!!」

 

 リコリス棟で同室になったのはここ最近だが、浴場などではすれ違ったりしていることもある。

 特にせりの巨乳振りと言ったら、本部リコリスの中でもトップクラス。

 

 あやかりてぇあやかりてぇ、と御神体のごとく崇められている。秘かに。

 

「あ。意識しちゃった? 意識しちゃったんでしょ!? せりはかわいいにゃ~」

「……すずなのそういうところは嫌いです」

 

 ぶくぶくとせりはお湯の中に顔の半分くらいを沈める。

 

 せりは自分が思った以上にこの相棒を好きだということに気づかされた。

 

 自分と同じくらいの身長。でも、すずなの方がちょっと大きい。年下なのに。

 ほんのりと膨らんだ胸。こちらはせりの圧勝。

 鍛えこまれた体。ぷにぷに具合はせりが勝るが、機能といった意味では当然すずなが勝る。

 猫を思わせる大きく、そして、ちょっと吊り上がった目は、好奇心に溢れている。

 普段、ツインテールに括っている髪は、今はお団子状に丸められている。

 

 ほぅ、とため息をつく。

 

 せりは恋愛というものがよく分からない。

 好きという気持ちは分かる。だが、恋という気持ちは分からない。

 

 せりの中で好感度を数値にすることができるとしたら、今、最も大きな数値を示しているのは、敬愛している隊長のノバラである。

 

 次点で、すずなだろう。

 

 仮に、ノバラにキスをされたら、舞い上がるくらいに嬉しい。だが、すずなにされたら、その時は慌てるが、後に、何してるの、と呆れること受け合いだ。

 

 ……だが、その先を求められたら?

 

 ノバラだったら、嬉しいかもしれないが困惑するだろう。たぶん、逃げ出す。

 すずなだったら……まぁ、すずなだし、いいかな、と流されるような気がしている。

 

 ノバラに対する憧憬と、すずなに対する安心感はまるで別物だが、好感度として数値にしたときには、一時的には同じ土俵に乗せることができる。

 

 どきどきする具合で言ったらノバラが上だが、最終到達点はすずなの方が先だ。

 

 だとすれば、これって、比べられるの、と疑問に思う。

 

「あー……ごめん。困らせちゃった……?」

 

 先ほどまでのテンションとは打って変わって、しょんぼりした様子のすずなは、せりを伺うようにしながら、そう言った。

 

「すずななら、いいよ。これくらいは。……私の相棒の座は誰にも渡さないんでしょ? なら、私がすずなを離したくなくなるくらいに()()()()()()

「……へ?」

 

 せりが言った意味が分からないのか、すずなは目をぱちくりさせる。

 

 せりの気持ちはせりにしか分からないだろう。

 

 すずなの悪戯めいた瞳が好きだ。

 すずなの「してやったり」という笑顔が好きだ。

 下ネタは多いが、それがすずなの唇から紡がれると思うと愛しく感じる。

 

 何のことはない。

 すずながせりの相棒の座を誰にも渡したくないと思っているのと同様に。

 せりもすずなの相棒の座を誰にも渡したくないと思っているのだ。

 

 すずなが周りを振り回すとき、その隣で真っ先に振り回されるのは自分だ。その特等席は誰にだって譲ってやらない!

 

 ……恋かどうかは分からない。だが、好きなのは間違いない。

 

 せりは、くすり、と笑うと正面からすずなを抱きしめる。

 

「えいっ!」

「うわっぷ!」

 

 怒らせたと思ったせりが急に抱き着いてきたので、すずなは目を白黒させる。そして、せりに抱きしめられていると気づくと、おずおずとせりを抱き返す。

 

「……せり」

「うん?」

 

「やっぱりこのおっぱいはデカすぎだと思う!」

 

 そう言って、すずなはせりの胸を揉み扱いた。

 

「ふぁ!? ……んぅ、んぁ……って、痛いよ! 何でそんな絞るみたいに揉むの!?」

 

 変な声出たぁ、と半泣きになりながら、せりはすずなを引き離した。すずなは余韻を楽しむがごとく、手を握ったり閉じたりしている。

 

「いや、ミルクが出るかな、と」

「出るわけないよ!? 大体、どうして、あのタイミングで揉むの!?」

「せりのおっぱいが気持ちよかったので、つい……」

「たいちょーさんもそうだけど、すずなもなんて」

「そりゃ、自分に無いから揉みたいんだよ」

 

 きゃいきゃいと二人がじゃれていると、露天風呂の扉が開いた。

 

「おや、お二方。何とも楽しそうで……ただ、人目があるので、あまりいちゃいちゃするのはどうかと思いますがね」

 

 すももは肩にタオルを乗せただけで、一切隠そうとせず堂々したものだった。

 上半身はボーイッシュ的な容姿とマッチした平坦な感じだが、引き締まった腰から始まり、上半身とは対照的に、肉付きのいいお尻がきゅっと引き締まっている。ふともものラインも太いというわけではないが、もちもちしている。

 

「うはぁ……ももちゃん先輩、きれー」

「う、うん……スポーティーでありながら、肉感的というか」

 

 二人が呟いた言葉を気にした様子もなく、すももは露天風呂に浸かる。

 

「あ、あたしに気にせず、続きをどうぞ?」

 

 すももは、せりとすずなの様子を特等席で見れる位置に移動すると、へら、と軽薄な笑いを浮かべている。

 

「……って、できるわけないじゃないですか!?」

 

 せりが顔を赤くして抗議する。

 

「それは失敬。もう少し遅く入ってきた方が良かったですかねぇ……?」

 

 すももは、そんなことを言いながら、ふふ、と笑っている。

 そんな様子にせりは口を尖らせながら、お湯に体を沈める。

 

 一方で、すずなは少し考える仕草をしてから口を開いた。

 

「……ももちゃん先輩さぁ、どうしてそんな口調にしたの? 元はもっと普通だったよね?」

 

 すももはセカンドで、なおかつ件のファーストの右腕的存在であった。

 すずなは、積極的にすももに関わろうとはしなかったものの、折に触れ話す機会はあった。そのときは、体育会系の少女という印象だったのだが。

 

「お気づきで? まぁ、願掛けのようなもんですが」

 

 すもも自身には、すずなの顔は分かっていたが、すずなとの会話の内容まで覚えているわけではない。むしろ、すももの話し方が元と違うと気づかれた方が意外であった。

 

「願掛け?」

 

 すずなはちょっと首を傾げた。

 そんな様子に、すももは苦笑する。

 

「承知しているかもしれませんが、あたしはこれでも問題児扱いなんですよねぇ……」

「再教育プログラムの件ですか。私もたいちょーさんから聞いていますけど」

 

 せりは、ああ、と思い至る。

 

 せり自身、何故か心理状況を確認するためのテストやカウンセラーの面談を受けさせられた。更には、せりは実力不足が過ぎるので、再訓練をすることになり、現在に至っている。

 その過程で、一部のリコリスには、思想レベルから再教育を受けさせることになったことを聞かされていた。

 

「左様で。ま、迂闊に言葉に乗せられたあたしが悪いんで、それは構わねーんですが。ノバラの姐さんに言われたことが身に沁みましてねぇ」

 

 すみれとの模擬戦で敗れて凹んでいるところに、ノバラが声を掛けていったのだ。

 

「『あなたは演技しているくらいで丁度いい』、とのことでしてね?」

 

 戦闘技能も身体能力も良い。戦術眼もある。

 だけど、あなたは素直過ぎる。

 だから、他人に良いように使われる。

 だから、簡単に騙される。

 自分も他人も騙せるくらいにあなた自身が繕いなさい。

 あなたは演技しているくらいで丁度いい。

 

 ……それができるなら、面倒くらい見てあげるわよ?

 

「あたしはあたしの道を行く。誰に惑わされることなく、自分で決める。だからこそ、自分自身すら騙せるように、キャラを作ってんですよ」

「はぇ~、何か格好いいですね!」

 

 すももの言葉にせりはきらきらと目を輝かせる。

 

「……あたしもせり嬢くらいに可愛げがあればまた違ったんでしょうけどねぇ」

「いいじゃないですか! ももちゃん先輩は可愛くなくても綺麗でしょ? ウチなんてこんなにちんちくりんなんですよ!?」

「すずな嬢は成長途中でしょうに。なに、しっかり食って寝てをしてれば直ぐですよ。……せり嬢は、ふむ? これ以上大きくなっても困っちまいますねぇ」

「どこ見て言ってるんですか!? 確かに、胸はこれ以上りませんけど……身長はもう少し欲しいです!」

 

 キャラを作っている、と言ったのに、特に気にも留めた様子もなく、楽しそうに話しかけてくる後輩たちが、すももにはとても愛おしく思えた。

 

(……センパイ、いずれあたしもソッチに行くんで、今は許してくださいよ)

 

 ノバラと楠木の依頼で件のファーストと彼女を支援していたDA上層部の者との繋ぎを取ったのはすももだ。

 

 相棒と言って差し支えのない彼女を裏切ったこと。

 それ自体には、さほどの罪悪感も抱かなかった。

 

 だが、裏切り者として処分された彼女を……彼女たちを、誰も悼むことはないだろう。

 

 自分一人くらい、心の中でその旅立ちを悼んでもいいだろう。

 

 そう思いながら、すももは涙を流す代わりに、後輩たちの頭を優しく撫でるのだった。

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