Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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視点を東京に戻しまして、今夜のたきなちゃんとノバラちゃん


100 Prank Call

 たきなの部屋に着いたノバラは、ふぅ、と息をついた。

 たきなを待たせているかも、と思って急いで帰ってきたわけだが、よくよく考えてみれば、昨日の今日というか、今日の朝の件もある。

 すみれがいないのであれば、千束の部屋でしっぽりと、何ていうこともあり得る。

 

 まぁ、そこまで求めていないのであれば、たきなの部屋でだらだらいちゃいちゃしている可能性もあるが、その場合、自分は完全にお邪魔虫じゃないだろうか。

 

 そんなことを考えながらも、一応、誰もいない前提で、貰った合鍵を回すが、手応えがない。

 

(……ということは、二人でいるかも?)

 

「……ただいまー……?」

 

 情事の最中だったら気まずいなぁ、とそっと扉を開けて声を掛ける。

 

 そんなノバラの思いとは裏腹に、たきなが奥からひょっこり顔を覗かせた。

 

「ノバラ、お帰りなさい」

 

 そこには普段と変わりないたきながいるので、ノバラは、おや、と思う。

 玄関を見ても、千束の靴も見当たらない。

 まさかのたきな一人だけのようだ。

 

「あれ? たきな、一人?」

 

 言外に、何で千束のところに行かないんだ、と言ったつもりだが、たきなにはあまり通じていない様子だった。

 

「そうですけど……?」

 

 逆にたきなは、何でそんなことを聞くの、とばかりに首を傾げている。

 

「私のことなんて気にしないで、千束のところに行くか、呼んでも良かったのに……」

 

 残念な生き物を見るような目でノバラはたきなを見た。

 

「……? ……あぁ、なるほど」

 

 それで、ようやく、たきなもノバラの言わんとすることを理解した。

 

 不器用なこの少女は、自分たちがいることで邪魔になっていないか、そしてちゃんと二人の仲が進展しそうなのかを心配しているのだ。

 

 そんな可愛らしさに気づいて、たきなは、くすり、と笑みを浮かべる。

 

「私も、今日はすみれもいないでしょうし、こちらに来てはどうかと千束を誘ったんですが……」

 

 ノバラから手渡されたシュークリームをコーヒーで食べているときに、そう耳打ちしたら、顔を真っ赤にしてこう言った。

 

『た、たきなさんや……きょ、今日は……今日は勘弁してつかあさい……』

 

 色々と容量オーバーだったのだろう。

 

 頭から湯気を出すくらいに顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている様子は実に可愛らしかったのだが。

 この調子では、せっかくノバラが動画を拡散するのを阻止したというのに、リコリコの皆にはすぐにバレそうだ、とたきなは心の中で思っている。

 

「あんの、バカ姉! また日和ったの!?」

 

 うがぁ、と咆えるノバラ。

 怒っているのともまたちょっと違う。

 妹としてたきなに申し訳ない、という気持ちと、千束の奥手振りがもどかしいのだろう。

 その裏にあるのは、千束に対する家族愛なのだろうが。

 

 興奮した様子でプンプンしているノバラは、これはこれで可愛いが興奮し過ぎである。

 

「まったく、ノバラはお姉ちゃんっ子ですね?」

「うにゅ……っ!?」

 

 どうしようか、と悩んだ末に、たきなはノバラの顔を両手で挟み込んだ。ぐにゅっと歪んだ顔は、普段のノバラの凛々しい感じとは異なって、とても面白い。

 たきなの手の感触に少し落ち着いたのか、ノバラは暴れたりせずにたきなの思うままに身を任せている。

 ぐにゅんぐにゅん、ノバラの顔を変顔にして遊ぶことしばし。

 たきなは、少し微笑むとノバラの肩に手を置いた。

 

「でも、大丈夫ですよ。千束は私が幸せにします。必ずです。千束のことは絶対に逃がしませんから」

「お、おぅ……」

 

 言葉だけ聞けば、恋人の妹に誓ったようにも見えるが、ギラギラしているたきなの目は獲物を見つけた肉食獣とか、猛禽類のそれだ。

 

(……千束、本当にちゃんとしないと、その意思に関係なく食べられちゃうよー。性的に)

 

「でも、千束のダメっぷりにはちょっとイラっとするから、後でイタズラでもしてやろう、っと」

 

 

 

 下着姿のまま、ベッドの上に胡坐をかいた千束はスマホを前に頭を悩ませていた。

 

(う~む……たきなとお話ししたい。でも、お部屋のお呼ばれから逃げた手前、電話し辛い……なら、逃げんなよって話なんだけど)

 

 一人きりで今朝のことを思い出して顔を赤くする。

 

 そっと唇に手を当てて、ほぅっと熱い息を吐く。

 

(……気持ち良かった。気持ち良かったんだけど……どうしよう? たぶん、ずぶずぶと沼にハマって動けなくなるような? ……ん? でも、それはそれで、相手はたきなだから別にいいのか?)

 

 うむむ、と顔を赤くしたまま、真剣に悩む。既に悩むポイントがずれていることには気づかない。

 

(えぇい!いいや、電話しちゃえ!)

 

 話せば何とかなるだろう、と思って、千束はたきなに電話をかける。

 

『……千束、どうかしましたか?』

 

 ワンコールでたきなが出たので、自分でかけておきながら、千束はちょっと動揺する。

 

「あ、あぁ、いや……たきながどうしてるか、気になっちゃって」

『ふふ。そんな風に気になるなら、ウチに来れば良かったのに』

「うぅ……それは大変魅力的だったんだけど……さすがに、今朝のアレから今日の夜じゃあ……ねぇ?」

『そうですか? 私はいつでも準備OKなんですけど』

「えぇ!? や、でも……私の心の準備がまだというか」

『私は大丈夫です!』

「うん!? 何か、今日のたきな、テンションおかしくない?」

 

 ぐいぐい来るなぁ、と千束は若干の違和感を覚える。

 

『おかしくないです。これで普通です』

「そ、そう?」

『おかしいのは千束の方です。いつもなら、あなたの方からこちらを振り回すのに』

「そ、そうかな? そう、かも?」

『……あの、実は、嫌、だったんですか……?』

 

 不安気で心細そうなか細いたきなの声に千束は慌てる。

 

「そ、そうじゃない!? そうじゃないよ、たきな!?」

『じゃあ……ちゃんと、言葉にして欲しいです』

「え、えぇ~……? でも、それはちょっと恥ずかしいよ……」

 

(ああ~!! ホントは人目を憚らずスキスキ言いたいんだけど~! 羞恥心が邪魔をする~!!)

 

 恥ずかしさから、千束は膝を抱きしめ、そこに顔を埋めるようにして丸くなる。

 

『……不安なんです。世間ではこういうのも一般的になっては来ていますが……その、私がこんなことを思うのは千束だけです。女性が好きなんじゃないんです。千束だけが好きなんです。でも、千束が私と同じ気持ちでいてくれるか、自信がなくて……』

 

 きゅん、とした。

 

(あぁぁぁ!? たきなが可愛すぎるんだけど!?)

 

 電話してなければ悶絶していた。

 

「たきなが、そこまで、想ってくれてるのは嬉しいなぁ……ふへへ」

 

 千束は口元をだらしなく緩めた。

 

『……千束……』

 

 切なそうな、懇願するようなたきなの声。

 千束は深呼吸をすると、覚悟を決める。

 

「ちゃんと、言うよ、たきな」

『……はい……!』

 

 電話越しでも分かる嬉しそうな声に、千束はくすりと笑みを浮かべる。

 

「……愛してるよ、たきな」

 

(言っちゃったぁぁぁ!? 「大好きだよ」くらいにしておくべきだったか!? 「愛してるよ」じゃ重すぎたかも!?)

 

 自分の言葉を省みて、恥ずかしさと言葉選びがそれで良かったのか気になって、千束は頭を抱える。

 

 

 

 

『お、よしよし。ちゃんと言えたね。録音もできたから、たきなの目覚ましにしてやろう』

 

 だが、次の瞬間聞こえたのは、妹の声である。

 

「……は!?」

 

 つまり、これは、自分が愛を囁いていたのは、ノバラだったということに。

 

「お、おま!? え、何で、アンタがたきなの携帯に出てんの!?」

『たきなお風呂中だし、相手が千束だって分るんだから、そりゃ出るよ』

「出るなよ!? え、声は!?」

『あ、似てた!? 千束でも分らないくらい似てた!? いやぁ、ちゃんと似てるかな、って、ちょっとどきどきしたんだけど』

「似せるなよ!? たきなの携帯で、たきなに似た声だったら、たきなだって思っちゃうじゃん!?」

『我ながら、迫真の演技だったと思うよ!』

「そうだろうよぉ! ……あぁ~……結構、一大決心で言ったのに……」

 

 とほほ、と泣きたくなる気分になり、千束はベッドの上に寝転んだ。

 

『にひひ。これまで言わなかったのがダメなんだよ。練習になったでしょ?』

「ありがとうね! 心優しい妹を持って、私は幸せだよ!」

 

 精一杯の皮肉を言ってみるが、電話越しの妹は堪えた様子もなく、けらけらと笑っている。

 

『ふふ……でも、割と、私はたきなが本当に思っていることを代弁したと思ってるよ?』

「……不安だってこと?」

『そうそう。たきなのことだから、本当に追い詰められないと顔にも口にも出さないだろうけど。心の中は不安だらけだと思うよ? ……だから、千束、たきなにちゃんと言ってあげてね?』

 

 ノバラがノバラなりに、千束とたきなのことを心配しているのが良く分かる。分かるのだが。

 

「……ノバラ」

『なぁに?』

「良いこと言って誤魔化せると思うなよ? 今から行くから、首を洗って待っていろ!!」

『てへ?』

 

 千束は電話を切ると着替えを始める。

 電話越しの声が、いつもの笑って誤魔化す表情を思い浮かばされる。

 

 ……ちょっと、一発くらい叩いてやりたくて仕方なかった。

 

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