Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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お役所仕事


103 unofficial announcement

 仙台に到着した翌日。

 

 せりたち三人は、楓の司令官室に呼び出されていた。

 

 部屋の前にはインターホンがあり、すももが代表して、それを押すと、楓の「入れ」という言葉とともに、扉が自動で開く。

 

「相馬すもも、以下三名。出頭いたしました」

「ご苦労。楽にしてくれ」

「は」

 

 昨日とは違い、『公的』の呼び出しであることから、楓の雰囲気も昨日の親しみやすい感じとは異なり、司令官然としたものであるため、自然、せりは背筋を伸ばしていた。

 

「まずは、すもも。お前は楠木先輩からある程度聞いているな」

「は。承知しております」

 

 すももは頷くと、軽く眼鏡を指で押し上げて位置を直した。

 

「よろしい。君たち三人には、実質上の異動の内示だ。相馬すもも、セカンドからサードへの降格及びDA仙台支部の転属を命じる。発令は……まぁ、その内というところだな」

 

 その言葉にせりとすずなは三人の内、一番右側に位置しているすももに顔を向けた。

 

「「え!?」」

 

 しかし、降格を命じられたのにもかかわらず、すももの様子は平然としたものであった。

 

「なに。あたしの希望どおり、ってぇことですよ。セカンドって器じゃなかったんで……まぁ、やり直しだ」

 

 すももは心配そうに見つめる二人に、口の端を上げて、にやり、と笑って見せた。

 

 先の騒動に関する責任の一端であることのほか、すもも自身が言ったとおり、自ら器ではないとして、セカンドを辞した形である。

 

「……次にせり」

「は、はひ!?」

「そう緊張するな。悪い話ではない……と思うんだがな?」

 

 楓が若干言い辛そうにしていることにせりはそこはかとない不安を覚える。

 

「まずは名を与える。登録名は『鬼庭せり』。セカンドに昇格の上、DA仙台支部への転属を命じる。こちらも発令は、おって行う」

 

 その言葉を聞いて、おー、とすずなが驚嘆の声を上げている。

 苗字がまだなかったせりとすずなは、訓練生を卒業したばかりの初心者マーク扱いであったが、正式に名を送られて初めて一人前となる。

 

 ……それはリコリスを目指している者の憧れであった。

 

 しかし、名を送られるだけでも嬉しいのに、セカンドへの昇格まで付いてきた。あまりのことに現実感を覚えれられないせりは、ぽかんという表情をして、一瞬遅れてから反応した。

 

「……は、はい!? 私がセカンドにですか!?」

 

 目をぱちぱちさせながら、自分を指さすせり。

 自分で口に出しても未だ現実感を持てないでいる。

 

「そうだ。現在の実力はともかく、特に任に耐え得ると、君の()()からの上奏による」

「……じょーかん?」

 

 元々所属していた班を解体された形となっているせりは、自分の正式な上官が誰なのかよく分からないでいたため、首を傾げる。

 

「……せり。ノバラ先輩だよ?」

 

 そんなせりを見て、すずなは若干呆れたようにため息をつきながら、そう補足した。

 

 せりたち一般隊員は、お咎めなし、となっているものの、古株のいる班に組み込むことには懸念があるため、訓練隊という名の予備役扱いとして、現状は登録されている。

 そして、彼女たちの再訓練のため、白羽の矢が立っているのがノバラだ。便宜上、彼女たちの上官はノバラとなっているのである。

 

「ええ!? たいちょーさんがどうして、そんなに私を評価してるんですか!?」

 

 初めて一緒に参加した作戦では、ダメだしされ、模擬戦では色んな意味で醜態を晒している。そのまま見れば、そこまで高い評価をされる理由も見当たらない。

 

「頑丈だからでしょうねぇ」

「根性もあるし」

「アイツは努力するヤツが大好きだぞ」

 

 だが、すももも、すずなも、楓までもが納得顔だった。

 

「あ、あれ……?でも、だとすると……」

 

 何かちょっと嫌な予感がするなぁ、と考えているせりを遮って、楓が次の言葉を発する。

 

「最後にすずな」

「はーい」

「名を与える。登録名は『片倉すずな』。DA仙台支部への転属を命じる。発令は、おってだ」

「……はい」

 

 そうなるよね、とすずなはふぅ、と息を吐きながら、不承不承といった体で頷いた。

 

「……なお、発令が出るまでの間は、本部預かりとする。引き続き、DA仙台支部特殊作戦群所属DA本部臨時指揮官(first)兼臨時特別選抜部隊隊長、最上ノバラを指揮官とする。三人とも、異論はないか?」

「「「拝命いたします」」」

「よろしい。では、詳しい話をしようか。立ったままではなんだ。ソファへ座れ。すずな、すまないが、冷蔵庫にお茶が入っている。皆に配ってくれ」

「はーい」

 

 応接用ソファに移動し、楓が座るのを見てから、すもも、せりの順番で座った。少し遅れて、すずながお茶の注がれたグラスを楓から順番に配った後に、自らも腰かけた。

 

 楓は、グラスを持つと、一口だけ口をつける。

 

 せりは、コースターの上にコトリと置かれたグラスの音がやけに大きく響いたような気がした。

 

「ま、君らが今日ここにいるのは、これを告知するため、というわけだな」

 

 座った楓がリラックスした雰囲気だったので、せりもほぅっと息をつく。

 目の前の女性が、実は大先輩であることや司令官らしい雰囲気をしていたから、とても緊張していたのだ。

 

「別に、本部でよかったんじゃあ?」

 

 すももやすずながお茶に手を付けているのを見ながら、せりもお茶を一口飲んで、それから楓にそう言って、その顔色を伺った。

 

「これがまた面倒な話なんだがな。ノバラは正式に本部に併任されているわけだが、直属の上司は私。楠木先輩がノバラに命令できるのは、直接指揮権があるわけではなくて、事前に私が了承しているから、ノバラに命令できるわけだ。打合せなんかはその限りではないけどな。さて、そんなノバラは君たちの何でしょうか?」

 

 これは先ほどすずなが答えているものだ。やや苦笑気味にすももが答える。

 

「上官ですねぇ……」

 

 すももの言葉に楓はにやにやしている。

 

「そうだな。君たちは本部所属のリコリスだが、ウチのノバラが直属の上官になるわけだ。ところで、この場合、君たちの人事権を持っているのは、本部の楠木先輩と君たちの直属の上官であるノバラの上司の私。どちらだと思う?」

「え? ええっと……?」

 

 ごちゃごちゃしている話にせりは少し混乱する。

 

(私たちは本部所属だから、通常は本部なんだけど、上官がたいちょーさんで、その上司がしれーさん……や、ややこしい……)

 

 そんなせりとは対照的に、すずなは予想がついていた。

 

「人事権があるのは本部だけど、命令できるのは楓司令って落ち着いたんでしょ?」

 

 そもそも他の支部から併任とは言え、出向中の者がかなり上位の指揮官となっている事態がある種の珍事ではある。

 

 更には、出向中でありながら、指揮命令権は元のままというのも割と異常である。

 

 だが、本部はそんな状態であるにも関わらず、その指揮官の下に一時的ではあるにしろ、せりたちを組み込んだ。

 

 こうすると、見かけの組織は楓を頭とした構造に見えるが、この編成自体が臨時で一時的なものだ見れば、本部の楠木を頭とした構造にも見える。

 

 つまりは、現状、頭が二つある状態になっているのである。

 

 本部が独自に結成した臨時特別選抜部隊自体を解体するのは作成したのが本部だから本部の自由であるものの、人員については、ノバラに直接の人事権はないが、直属の指揮官であるため、その意見を聞く必要がある。

 

 DA仙台支部所属のノバラに対して、だ。

 

 仮であったとしても、彼女たちは、ノバラの部下職員ということであるので、そこに何らの配慮なしに引き抜きをすることはできない。

 

 そして、ノバラは異動に関する上申書を楓と楠木宛てに提出した。

 

 比較的どうでもいい話だが、人事担当者は慌てたことだろう。

 正式な手続きとして、二つのラインで上申されているのだから。

 担当者はここでようやく、この捻れ状態に思い至ることとなる。

 とは言っても、この先の手続きの進め方を聞こうとすれば、聞ける相手は楠木しかないので、そこに聞くしかないわけであるが。

 

 結論として、ノバラの上申を受ける、とした上で、原則的に、命令できるのは楓、と線を引き直すことで妥協することとなった。

 

「そういうことだな。いやぁ……組織と言うのは実に面倒なものだ」

 

 やらやれ、と呟いた楓は、グラスのお茶を飲み干した。

 そこで、せりは先に思い浮かべたあまり嬉しくない未来を思い浮かべつつ、確認のため質問をする。

 

「あ、あのー……しれーさん、素朴な疑問なんですけど?」

「何だ、遠慮なく言ってみろ」

「配属部隊はどこになるんでしょうか?」

「ああ、それを言っていなかったな。一応、通常部隊だ」

「……いちおー?」

 

 上に一応とつくからには、絶対何かあるよな、とせりは考える。

 

「特殊作戦群を専属に補助する部隊となる予定だ。早い話は、ノバラは隊長のまま、ということだ」

 

 そして、楓の口から離れた言葉に、せりはがっくりと項垂れた。

 

「あぁ……やっぱりそうなんですね……そうだと思った」

「なぁに、せり? 違うとでも思ってた?」

「そんな訳ないだろうな、とは思いつつも一縷の望みはかけてた」

 

「「……はぁ」」

 

 せりとすずなのため息が重なった。

 

 転属しても訓練漬けの生活が続き、二人がノバラから卒業するのは、当分先のことになりそうだ。

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