Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ちなみに1/20は書くのが遅れて投稿が遅れたのではなく、何故か20:59にセットされていたのに気づいて、慌てて直したからです。
「あれ? 楓司令が運転するんですか? ウチ、運転しますよ?」
楓がミニバンをエントランスに横付けしてから、すずなたちは荷物を積み込み始めた。
そんな中で、気を遣ってそう声をかけたのだが。
「させん!! 私の車は私のだ!」
くわっ、と目を開いた楓が運転席をガードするように両手を開いた。
あまりの剣幕にすずなは思わず後ずさりする。気を遣っただけなのに理不尽であった。
楓のそんな様子にすみれが呆れたような顔をしながら、すずなに一声かける。
「しれぇは機械とか車とか大好きだから、ほっとけばいいよ」
今はまだガードしているだけだからそうでもないが、機械を愛でるモードになった楓は実に面倒臭い。そのため、すみれ的には、機械が関わって熱くなったときの楓はスルー推奨である。
「……情報工学が専門のハズですよねぇ?」
「だから何だと言うんだ? いいじゃないか。車、バイク、戦車、戦闘機! 胸が熱くなるだろう!?」
「……さぁて? 一般女子にその気持ちは分からないんじゃあないですかねぇ? あたしは好きですけど」
「あ、ウチも、ウチもー!」
すみれも別に嫌いではないが、少なくともそこまで盛り上がるほどのことでもない。ススっ、と被害の無さそうなせりの側に退避する。
「せりちゃんは機械とかどうなの?」
「銃のメンテナンスで手一杯ですよぉ……それに加えて、車とかバイクとか言われてもムリ」
「あはは。私もー」
会ったばかりだが、すみれはせりに相当心を許していた。
時間がゆったりと流れるような、ほわほわした雰囲気。
朝からお風呂に入ったであろうボディソープの甘い香り。そして、その中にほんのりと混ざった汗の匂い。
ノバラと同じ努力の匂い。
同い年という気安さもあるだろうが、そういったノバラの性質に似ていることと、体全体から滲みでる優しそうなオーラがそうさせているのかもしれない。
「ほらほら! お嬢様方、お喋りしてないで、早く車に乗れ」
楓がすみれとすずなを追い立てるように自分のミニバンへ乗るよう促すと、すでに、すももは助手席に、すずなは最後列シートに座っていた。
「すずなちゃん、そこでいいの? 荷物あって狭くない?」
「あはは、ウチが一番ちんまいし、後輩なんで。……それに、すみれさんとせりじゃ、胸のところにおっきいのがあって場所取っちゃうでしょ?」
「さすがにそんなに座れないほど邪魔にならないよ!? 途中、交換しながら行きましょう? いいですよね、すみれさん?」
「そうだね。あんまり二人とお話できてないし、お喋りしながら行こう!」
楽しそうにしているすみれ達をバックミラー越しに確認しながら、楓は車を発進させた。
「すももは、後ろに混ざらなくていいのか?」
「あたしが入って変に気を遣わせてもねぇ……楓司令と話していた方が無難でしょう」
「そうか? あまり、司令官と積極的に話したがるリコリスはいないと思ったんだがな」
「畏れ多いから、当然でしょう? もっとも、あなたはリコリスとの距離が近いので、あまりそんな感覚が湧きませんがねぇ……
すももは、楓が元ファースト、ということが明らかになったことから、楠木のように遠い人という感覚もなく、訓練生時代の教官程度には親しみを感じている。
『センパイ』を強調して意味あり気に微笑んで見せると、楓は楽しそうに笑みを浮かべている。
「ふふ……一回りほど離れた子に『センパイ』と言われるのも、新鮮だな。何か聞きたいことでも?」
「あたしの場合、近い内に引退も考えなきゃなりませんからねぇ……」
すももの年齢はノバラより一つ上だ。引退を考えてもおかしくない年齢である。
元リコリスである楓はそう言った意味でも、先のことを相談するには最適の相手であった。
「サードで引退するのであれば、あまり外には出られないかもしれないな。DA関連施設か……子守りでもするか?」
「乳飲み子の世話とか、まったく自信がありやせんよ?」
「やってみれば、案外慣れるものだぞ?」
実際経験のありそうな声色に、すももは、おや、と思ないがながら、楓に視線を向ける。
「……もしや、ご経験がおありで?」
すももの言葉に、楓は、失敗したなぁ、という苦虫を潰したような顔をしていた。
「まぁな……」
やや憂いを帯びた表情に、すももはそれ以上聞くことは出来ずにいた。
「そう言えば、牛タンは食べさせたが、せり鍋は食べていないよな?」
「え? ああ、まぁ、そうですねぇ……」
「昼にはちょっと早いが……先にメシを済ませよう」
仙台支部からであれば、直接高速に乗った方が早いのだろうが、楓は最初から市内に向けて車を進めていたので、予定外ではなく、元々その予定だったのだろう。
(しかし、先の反応は……?)
すももは仙台に来る前、楠木から仙台支部の情報などを閲覧する許可を得て、楓の情報も確認できる範囲で目にしている。
年齢、最終学歴、DAでの経歴。
当然、機密扱いであるだろう、元ファーストという情報は目にすることはできなかったが、楓には婚姻歴もなければ、家族もいない(元リコリスなので当たり前と言えば当たり前だが)。
(部下のリコリスを自分の娘と言って憚らない変わり者の司令官、とは聞いてやしたが……それ以上の思い入れがある? それとも……本当は子どもがいる? 大学やDA勤務時であれば、隠すことはない。だとすれば、現役時代ということに……)
だが、それも考えにくい。
外部の男性と接触する機会は限られているし、元ファーストということは、その管理は厳重だろう。重大な作戦の前にお腹が膨れているから参加できません、では話にならない。
(ノバラの姐さんは幼児のときに、錦木千束に預けられて、子どもが子ども育てるという変な状況になっていたらしいですが。その類でしょうか。いずれにしろ触れて欲しくないことだということは確かですねぇ……ここは、楠木司令に報告して確認か)
高速のインターチェンジに近い駅の近くに車を停めた楓がすみれたちを伴ってやってきたのは、昼にランチ営業をしている居酒屋のようであった。
「司令、司令! せり鍋以外も食べていいんですよね!?」
「もちろんだ、と言うか、そこに食い意地の張ったヤツがいるだろう? ソレが鍋一つで足りる訳がないので……」
チラリと楓がすみれの方を見れば、オーダーを取りに来た店員に注文し始めていた。
「せり鍋五人前、ゆでたん二つ、油揚げ焼き二つ、焼き牡蠣、生牡蠣、味噌ギョーザと青葉ギョーザ二つずつ、シソ巻き……あと、おにぎり! いつものでっかいので! 皆は何頼むの?」
「……え? それもしかして、自分の分なんです?」
名物を代表して頼んでくれているのか、と思っていたすずなだったが、自分たちの注文も促されて、それを自分一人で食べるつもじゃあるまいな、とおずおずと確認するように聞いた。
それを聞いたすみれはくすくすと笑って答える。
「まさかぁ……
ギギッ、という音がするようなぎこちなさで、すずなは楓の方を向いて、すみれを指さしながら、口をぱくぱくさせた。
「……な? 遠慮いらないだろ?」
それを見たことか、とけらけら笑う楓に、すずなは盛大にため息をつき、そして。
「じゃあ、ウチも! せり鍋は、すみれさん以外の分……でも、取りあえず三人前で。青葉ギョーザって初めて聞いたんで、それと……あ、牡蠣! 牡蠣は外せないよね!? 焼き牡蠣と生の! あとは唐揚げと……太刀魚? 太刀魚なんて捕れるの? 太刀魚の塩焼き! ……ウチらはシェアするとして、ももちゃん先輩、せりは何かある?」
「ま、足りなかったら追加しましょう」
「そうだね、食べながら、メニュー見て頼もうよ」
「司令は? 何か足します?」
「私もお前たちとシェアするからとりあえずいいよ。あ、せり鍋は奥のとこっちのは別で」
かしこまりましたー、と苦笑気味の店員が下がっていく。すみれが来るのは初めてではないのか、結構な量の注文でも笑顔を崩さなかった。
せり鍋はガスコンロと共にすぐに運ばれてきた。
土鍋の中には、醤油系のスープがすでに入れられている。大皿には、主役のせりがたっぷりと。その他に油揚げ、舞茸、ささがきゴボウ、鶏肉、豆腐、ネギ、花の形に切られたニンジンが乗せられいてる。
楓は火をつけてすぐ、鶏肉、舞茸、ささがきゴボウ、油揚げを入れて蓋をする。沸騰してきたら、蓋を取り、ネギと豆腐を入れて、火を少し弱めに。少したったところで、せりに根側を先に入れて少し待ち、茎の部分を重ねて入れ、最後に葉の部分を置いて、再度蓋をする。
一分弱くらいで蓋を取ると、せりの爽やかな香りが広がるせり鍋ができていた。
「根っこ! 根っこが入ってます!」
「せりちゃん、根っこがおいしいんだよ?」
「え~……でも、根っこですよ?」
鍋の中身を見て、せりが隣のすみれと話をしている間に、手早くすずなが取り分けてすみれ以外に配った。
お椀に入れられたせり鍋をきらきら表情で見たせりは、いただきます、と手を合わせてから、まずは、葉の部分を口に入れる。
シャキシャキした歯応え、せりの爽やかな香り、スープの甘さ、鶏やきのこから出た出汁のうま味。
「ん~! おいひ~!」
幸せそうに食べているせりの様子に、すみれはくすくすと笑いながら、こたらは豪快に鍋から直で食べる。
「あむあむ……ん~!シャキシャキしててさいこ~!」
すみれは続けて根の部分などもおいしそうに口に入れるので、せりはゴクッと喉を鳴らしてから、根の部分に挑戦する。
「!? 茎のところとも葉のところとも違う歯応え! シャキシャキでもちょっとコリっとするような感じ! そして、お出汁! お出汁が根に絡んですごいおいしい!?」
「ほら、だから、おいしいって言ったでしょ?」
「確かに、これはこの根っこが無ければ、画竜点睛を欠くよ!」
せりは自分のお椀の中の物を食べ終わると物欲しそうな目ですずなを見つめる。
すずなは苦笑しながら、せりにお替りをよそってやる。
(……共食い……)
すずなは、心の中でひっそりと笑いながら、せりがせりをおいしそうに食べる様子を眺めていた。