Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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過去編2。幼女風呂編。

すももちゃん、かやちゃんができました。
かやちゃんが一発ですごい可愛くできましたよ。
まぁ、以降はまったくダメなんですがね?


109 Sisterhood Past:Take a bath

 夕ご飯。

 今日も今日とて味付けの薄い病院食に、千束は、うげぇ、という顔をした。

 

 柔らかめに炊かれたご飯に、ドロッとした野菜のスープ。鶏のむね肉を焼いたものに、申し訳程度にマヨネーズが塗られている。ほうれん草のお浸しはべちゃっとしており、薄口しょう油がかけられていた。デザートという訳ではないだろうが、添えられているカルシウムウエハースが唯一の慈悲といった風情。

 

 千束は、はぁ、とため息をつきながら、引き出しから箸を取り出す。

 

「……いただきます」

 

 千束の部屋は病室とは言っても、所謂個室で、子どもがベッドに乗り降りするのが危険と思われているのか、洋室の中に小上がりのように作られた畳様の物の上に、布団とテーブルが置かれている。

 座布団のような気の利いたものもないが、畳様の物はそう見えるだけで、実のところウレタンマットである。クッション性があるので、そのまま座ってもお尻が痛くならない。何なら、布団を敷かずにゴロゴロしても丁度良いくらいである。

 

 千束の対面に座ったノバラは、千束が食事の前の挨拶をしているのをぼーっと見ながらも、真似をして手だけ合わせる。

 

(……かわええ)

 

 自分の真似をするノバラを微笑ましく思って、笑顔で眺めていたのだが、次の瞬間には顔が引きつった。

 

 ノバラが手づかみでご飯を食べ始めたからだ。

 

 無表情のまま、白飯だけを小っちゃい手で口に運ぶ様子は何というかシュールだった。

 

 だが、そんな感想を思う前に、千束は慌てる。

 

「ノバラ! お箸! お箸か、スプーン!?」

 

 そう言って、千束が咎めるものの、ノバラは気にした様子もなく、パクパクと()()()()だけを食べ終えた。

 

 それを終えると、ぽてぽてと歩いて、幼児用の台に乗って、子ども用の手洗い場で手を洗い始める。

 

(あ、手が汚れてるって自覚はあるんだね……)

 

 妙なところに感心しながら、千束は自分がノバラ用の箸やスプーンを用意しなかった、という失敗に気づく。

 

「ノバラ、スプーン出してあげるから、残り食べな?」

 

 千束が引き出しを漁ってスプーンを取り出してテーブルに置くも、ノバラはふるふると頭を振った。

 

「……食べないの? あんまりおいしくないかもだけど……」

 

 暗に、食え、と言っているのだが、ノバラはふるふると首を振るばかり。

 

「いや、でもさすがにそれだけじゃあ……」

 

 うーむ、と千束が悩まし気にしていると、ノバラは何かに気づいたのか唐突に立ち上がって、また、ぽてぽてと歩きだすと、自分の荷物の入った袋(と言っても、所謂、コンビニ袋のSサイズなのだが)から、錠剤を取り出すと、口に含んで、再び手洗い場に向かって、水を飲んだ。

 

「うん? もしかして、それサプリメント? それだけで十分ってこと!?」

 

 千束の驚きにどことなく満足そうな顔をしてコクコクと頷くノバラ。

 

 ……そんなノバラに千束は眩暈を覚えた。

 

 

 夜。

 食事を終えたノバラは何をするでもなく、隅っこに座って宙を眺めていた。

 

 千束はノバラを観察して、何をしているのか、何がしたいのかを探っていたのだが、途中で諦めた。

 

 何をしているでもない。何かしたい訳でもない。

 強いて言うなら、何もしない、をしている。

 

 ……それはまるで緩やかに死を待っているように見えた。

 

 目に輝きはなく、表情もほとんど動かない。食欲もほとんどないようで、あれっぽちでお腹を空かせた様子もない。

 

 一応、トイレには自分で行くものの、それ以外はただじっとしているだけ。

 

 近くにいる千束にもあまり関心がないようであった。

 

(あー……うん。なるほどね、そりゃ、ここの大人たちではお手上げだわ)

 

 ただでさえ子どもに無関心で、扱い方もよく分かっていないであろう大人たちだ。手は掛からないだろうが、放っておけばいつ死んでいるかも分かるまい。

 むしろ、そうなる前に千束に預けようとした判断はいっそ理性的だったのかもしれない。

 

(仕方ない……何と言っても、私はお姉ちゃん!!)

 

 急に立ち上がって拳を突き上げた千束を初めてノバラは無表情なりに不思議そうに見上げていた。

 

「よし、ノバラ! 寝る前にシャワー浴びよう!」

「……?」

 

 やはり表情は変わらないが、何を言っているのか分からない、という反応だった。

 

 まさか、と思って、千束はノバラを抱きしめて、髪の匂いを嗅いでみる。

 

(……あんまり匂いしないけど、髪はちょっとパサついている? 肌もべたべたはしていないけど、カサついているような?)

 

 最低限の衛生状態は確保されているようだが、それ以上では決してない。

 

「よしよし! お姉ちゃんがきれーに洗ってあげよー!!」

 

 千束は張り切って、ノバラの手を引いて、部屋に備え付けのシャワー室に導いた。

 

 千束は自分の服を脱ぐと、しっかりと畳んで台の上に置いた。そして、ノバラの方に向き直るが、ノバラは裸になった千束を見つめるだけだった。

 無遠慮な視線に千束はちょっと恥ずかしくなり、顔を赤くする。

 他の子たちと大浴場で一緒になることはあるが、少なくともマジマジと見られることもないからだ。

 えぇい、と千束はそんなノバラの視線を振り切って、彼女のワンピースに手を伸ばす。

 ノバラは然したる抵抗も見せなかったので、そのままスポンとワンピースを引き抜くことに成功する。

 

 ……案の定というべきか、ノバラは下着すら着けていなかった。

 

 それに加えて……。

 

(……いやいや、痩せすぎでしょ!?)

 

 食事量からすれば、推して知るべし、といったところではあるが、それにしても痩せ過ぎだ。

 

 幼児らしく、お腹は少しぽっこりしているものの、細い腕と足に、あばらが浮いて見える。

 

 千束は自分の脇腹を、むに、と抓んで見るが、ノバラには抓む場所すら見当たらない。

 

 ちょっとだけ顔を曇らせた千束は、素っ裸になったノバラを引っ張って、シャワーの前の椅子に座らせる。

 

「ノバラ! 髪を洗うから目を閉じるんだぞー?」

「……?……っ」

 

 何をされるのかよく分かっていない様子ではあったが、言われたとおりに目を瞑ったノバラに、千束はシャワーを出して毛先の方からお湯に当てていく。

 

「……??」

 

 くすぐったいのか、温かい水に驚いているのか、ノバラが少し身を捩る。

 

「大丈夫大丈夫。お湯を髪にかけてるだけだからー」

 

 千束がそう声をかけると、安心したのか、ノバラは取り合えず大人しくなった。

 

「おーし! じゃあ、今度は上からかけていくぞー! ……ちゃんと目、閉じてる?」

 

 コクコクと頷くノバラの頭の上から、お湯をかけていくと、心なしか心地よさそうな顔をしている。

 お湯に流されて、顔を隠していた前髪が横に流れて、ノバラの顔が露になる。髪に隠れてよく見えなかったが、整った顔立ちをしているように見えた。

 

「じゃあ、次はシャンプーで洗うからなー」

 

 ノバラは小っちゃい割には髪の量が多い、伸ばしっぱなしにしているようなものだから、当然なのだが。

 千束は手のひらで泡立てつつ、ノバラの髪を丹念に洗っていく。

 ノバラは目を瞑ったまま、時折くすぐったそうにする以外は大人しいものだった。

 

「はーい、じゃあ、またお湯で流すよー」

 

 この辺りになれば、慣れたもので、千束にされるがままで、特に抵抗もない。

 次いでタオルで一度髪の水分をふき取って行って、トリートメントを取り出す。何となくでしか使ったこともなく、ノバラの長い髪にどうやって使えばいいか、ちょっと考えるも、ノバラの髪を手で梳いていくように馴染ませまた。

 

 ツルリ、とした髪はまるで引っかからず、とても素直な髪質に思える。

 

 最後に十分にノバラの髪を洗うと、次は体を洗うことにする。

 

 だが、それにはちょっと髪が邪魔なので、千束はノバラの髪をまとめて、頭の上にタオルを巻いてやる。

 病的な肌の白さに少しドキリとするが、よく見てみれば、自分も同じようなものだったことに気づき少し苦笑する。

 

「じゃあ、次は体を洗うよ……あ、目は明けても大丈夫だよ?」

 

 その言葉にぱちりと目を開けたノバラはスポンジを持って正面に立っている千束を認識て、ぼーっとした目で見上げた。

 

「じゃあ、洗うぞ。それ、あわっ、あわっ~」

 

 十分に泡立てられたボディソープと洗体用のスポンジがノバラの肌を滑る。自分の肌に泡立った白いものが付着しているのに、ノバラは不思議そうにして、さらには、出来上がったシャボン玉がふよふよ動いているのを目で追っていた。

 

「うん? シャボン玉が気になるの? ほれ」

 

 粘り気が若干がるボディソープだからか、指の輪で作った膜に軽く息を吹きかければ、新しいシャボン玉がふよふよと浮かぶ。

 それが楽しいのかどうかすらよく分からないが、ただ宙を見ているのとは違って、気になっているのだろう、というのが分かると、千束もこの少女は別に人形でもなく、ちゃんと人間なのだと自覚する。

 

 ノバラの体を洗い終えると、千束は次に自分の髪と体を洗い始める。

 少し恥ずかしいことに、ノバラはその様子をじっと見つめるのだ。

 

(……や、やり辛い……あ、でも、この子、もしかして真似するつもりかも?だとすると、自分だからいいや、って適当に済ませるわけにもいかないな)

 

 千束はノバラが湯冷めしても困るし、変に覚えられても困るという思いから、手早く、しかし、正しい手順で洗い終える。

 

 自分の体を軽く、拭いた後、まだビショビショのままのノバラを拭いてやる。

 ノバラに服を着せようと思って、今のところ、ワンピースしかない。

 これは仕方ないから、後で駄々を捏ねて、新しいものを強請るしかないだろう。まぁ、千束が丁重に扱われているせいか、言えば、比較的なんでも用意してくれるので、特に問題なく用意してくれると思う。

 

 千束は自分も服を着ると、ノバラの手を引いて、布団に入ろうとするも、ノバラは部屋の隅っこに丸まって寝ようとする。

 

「……ノバラ、こっちにきて、お姉ちゃんと寝よ?」

「……?……っ」

 

 不思議そうな顔をするも、千束が呼んでいるということは分かるのか、ぽてぽてと千束の前に座ったので、千束はノバラを布団に引き倒す。

 然したる抵抗もなくコテンと布団に横になったノバラを自分の方向に向かせると、千束はノバラを正面から抱きしめる。

 

「……私はノバラのお姉ちゃんだからな」

「……」

「ちゃんと甘えていいんだから……」

 

 そう言った千束の服をノバラはキュッと握るも、千束を見る目は相も変わらず、感情を感じさせないものだった。

 

 だが、ノバラは確かに千束の言葉に応え、もしかしたら、いやいやかもしれないが、それでも確かに千束に甘える仕草を見せたのだ。

 

(私はこの子をちゃんと妹にする!)

 

 そう決意した千束は一層ノバラを強く抱きしめるのだった。

 

 

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