Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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111 Sisterhood Past:Another sister

 人見知りをするせいか、あまり部屋から出たがらないノバラのため、千束は朝食二人分を部屋まで持ってきた……のだが、一人おまけが付いてきた。

 

「……ったく、なんだってぇのよ、フキ?」

「こそこそと朝食を持って部屋に帰ろうとするんだから、何かあるんだろうなと思ってな……案の定か」

 

 フキはソファの上に座る灰色の狼をデフォルメした着ぐるみパジャマに身を包んだノバラを見てため息をついた。

 

 常より早く、まるで追い出されるように病院を退院してきたから、何かやらかしたのだろう、とは思っていたが、やらかしの方向性はフキの予想の斜めを上を行っていた。

 

「……可愛いだろう? 私の妹だ!」

 

 誇らし気にどや顔で胸を張る千束の頭をフキは引っぱたいた。

 

「どこから攫ってきた! 返してこい!」

「さ、攫ってないもん!? 預けられたんだよ!?」

 

 千束は叩かれた頭を痛そうに撫でながら、そう反論した。

 

「はぁ!? ()()()()()()()()()()!?」

 

 フキは、思い切り顔をしかめながら千束を見ると、千束はむっとした様子を見せた。

 

「どういう意味だ、こらぁ!?」

 

 フキからすれば、千束はリコリス(の見習い)としては優秀だが、人としてはダメな部類だろうと思っていた。

 

 同年代の子どもたちからすれば、千束の能力は異次元過ぎて、若干浮いている。

 

 それに加えて、心臓の疾患があるため、周りは一歩引かざるを得ない。

 

 それでも、千束が他人との距離感を無視して、問答無用で距離を詰めるから、妙な釣り合いが取れているだけだ。

 

 更に言えば、頭も良く、運動ができても、妙にズボラなところがあるから、逆に普通のことは苦手なのだ。

 

 そんな千束に、幼い子どもを預けるなんて無謀が過ぎる、とフキは判断していた。

 

 ……そして、病み上がりの千束に余計な負担をかけたくない、とも。

 

「……大体、退院したばかりなんだぞ、お前? 他のヤツの面倒を見る余裕があるのか?」

「そこだよ、フキくん!!」

 

 ビシッとフキを指さす千束。

 フキにはその時点でもう予想がついていた。

 

「……手伝って?」

 

 えへ、と小首を傾げつつ、頬を染めながら、上目遣いでフキを見上げる千束。

 

 あざといなぁ、と思うものの、フキはさすがに病み上がりの友人のお願いを突っぱねるほど人でなしではない。

 

「……はぁ~……まぁ、いいけど」

 

 大きなため息をつきながらも了承したフキに、千束は驚きの表情を向けた。

 

「え、マジで? 断られるかと思ったのに」

「お前一人だけに任せられるか……この子の髪切ったのお前だろ? どうせ図工用の鋏か何かを使ったんだろうが、適当にやりやがって」

「うぅ……!?」

 

 図星を刺された千束は少しだけ冷や汗を流しながら、フキから目線を逸らす。

 

 そんな二人の様子をノバラは不思議そうにジッと見ている。

 

 そこにはほとんど感情の色を見ることができないが、フキにはノバラが千束を気にしていることが分かった。

 

(大分、感情が薄いように見えるが、これはおそらく、千束が私に怒られている、と思っているのか……?)

 

「……はぁ。じゃあ、よろしくな。私はフキだ」

「……のばら」

「ノバラか。お前に似合った可愛らしい名前だ」

「……ん」

 

 短く答えたノバラはフキを見て、わずかに目じりを下げたように見えた。

 

(反応は薄いが、ない訳ではない……か。千束でいい、と思われたのか、千束がいいと思われたのか分からないが、私たちの中で育てるとしたら、千束が正解なんだろうな)

 

 訓練生の中にも、感情表現が苦手な者は一定数存在する。

 

 例えば、親が目の前で死んだ、あるいは殺された、だとか、酷い虐待を受けていた者や人格障害を持っている者だ。

 

 しかし、千束はあまりそういったことには頓着しない。

 変に気を遣う訳でもなければ、避けようとする訳でもなく。

 まったく何も考えていないレベルで、普通に接する。誰しもが一歩引いてしまうところで、平然と隣を歩くことができるという稀有な性格だ。

 それは彼女たちにとっても救いなのだろう。

 

 構わないで欲しい。でも、ちゃんと見て欲しい。

 関わらないで欲しい。でも、ちゃんと気にして欲しい。

 

 内心でそんな矛盾を抱えている彼女たちは、何の隔意もなく、そっと隣に寄り添ってくれる千束に、自然、心を許しやすい。

 

 ノバラは彼女たちとはまた違ったように見受けられるが、少なくとも悪い方には転がらないだろうとフキには思えた。

 

「よしよし。じゃあ、フキとの挨拶が終わったところで。ノバラ! 朝ご飯だよー!」

 

 千束はノバラの座っているソファの近くのテーブルに持ってきた朝食とノバラ用のスプーンを置く。

 

 今朝の献立は、ご飯とわかめと豆腐の味噌汁、半熟卵、お新香、小松菜のお浸し、味付きのり、鮭の塩焼きである。

 

「……今日はちゃんとおかずも食べようね?」

 

 千束がそう言い聞かせるものの、ノバラはやはりふるふると首を振る。

 

(何でこんなにおかずを食べたがらないのかなー?)

 

 病院食のときでも、ご飯以外で口にしたのは、ふりかけとのりの佃煮くらいで、それ以外の固形物は全く食べようとしなかった。

 

 かと言って、塩気がある物を好んでいる訳でもないし、苦みなどが苦手なわけでもなさそうなのだ。

 漬物には手を付けようとしないし、ならば甘いものを、と思ってもやはり嫌がる。

 ジュースと水を選ばせれば、水を選び、水とお茶を選ばせれば、お茶を選ぶ。

 

 何が基準なのか、千束には全く分からなかった。

 

 

「ん? 何だ、好き嫌いが多いのか?」

「……それ以前の問題で、白飯以外はサプリでいいと思っているみたいで」

「はぁ!? ……ったく」

 

 千束のことだから、それ以上強くも言えなかったのだろうとフキは考え、ノバラの朝食を自分側に引き寄せると、鮭は解した上でご飯に乗せ、更に味噌汁以外の物も乗せて混ぜ始めた。

 

「は!? え!? ちょっとフキ!?」

「……黙ってろ」

 

 しっかりと混ぜ合わせたそれをスプーンに乗せると、フキはノバラの口元まで持っていく。

 ノバラはイヤイヤと首を振るが、フキがジロリとノバラを一睨みする。

 

「……あーん。……ほら、口開けろ。あーん」

 

 フキにそう言われ、ノバラは渋々口を開くと、そこにスプーンを突っ込まれる。

 ノバラは、若干、眉をしかめながらも、もきゅもきゅと咀嚼すると、口の中のものを飲み込んだ。

 

「ほれ、次。あーん」

 

 嫌そうな顔をするものの、再び口を開けるノバラ。

 

 ……そんなことを繰り返して、フキはノバラに朝食を全量喫食させることに成功した。

 

「おぉー! ノバラが初めて完食した!」

 

 パチパチと千束はノバラに向けて拍手をすると、ノバラは若干疲れたようにしながら、ソファの上で丸まった。

 

 そんな様子を見ながら、フキは千束に咎めるような視線を向ける。

 

「……あのな。お前が『姉』なら、多少嫌われるくらいの覚悟をもって、ちゃんと食べさせないとダメだろう」

「うぅ……はい……」

 

 あまりの正論に千束は、しゅんとした。

 

「甘やかすだけが『姉』じゃないんだ。厳しくすべきところは厳しくしろ」

「う~ん……苦手だなー……でも、そうだね。ちゃんと頑張るよ!」

 

 グッと拳を握った千束を見て、フキはちょっと安心した。

 

 ただ妹ができた、と舞い上がっている訳ではなく、千束は確かにノバラに愛情を向けている。

 

 遊び半分なのだとしたら、無理にでも取り上げるよう、教官方に話すつもりでいたフキであったが、どうやらその心配はなさそうだった。

 

(ノバラの存在で、千束ももう少し、自分の体を労わってくれればいいんだがな……)

 

 結局のところ、フキは誰よりも千束の体調を心配していたのである。

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