Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
次回は時間軸を戻します。
フキちゃんとノバラちゃんの過去編もやるかも?
===Playing recording===
『……あの保護した子ども。ノバラと言ったか? ……使えそうなのか?』
『フィジカル面が不安視されていましたが、現状、あの年齢にしては仕上がっているかと』
『ふむ? それは重畳だな。せっかく保護したのだ。無駄に死なれては敵わん』
『……ノバラの保護状況はあまり良いとは言えませんでしたからね』
『……そうだな。あれは、何と言ったか……『
『……ロボトミー手術を受けているようなものですからね。感情の鈍麻、意欲の減退、共感性の欠落。あの状態で、よくもまぁ、普通に生活できているものです』
『……検診の結果はどうなのだ?』
『
『……連中、やはり、碌なことをせんな』
『それは、どちらに対しての評価ですか?』
『どちらもだ。決まっているだろう?』
『……だとするなら、我々も。アラン機関でさえも』
『決まっている。碌なもんじゃない。だが、今更言うほどのことか? 我々がこの世のヘドロを啜ってでも、美しく安全な『今』を作ることは覚悟の上のこと。そのためならば、子どもの一人や二人を犠牲にするなど可愛いものだ。我々にできるのは、幾千幾万と積み重なった少女の亡骸の上に、精々、可憐で鮮やかで美しい花を飾ってやることくらいだ。……そうだろう、--?』
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◇◆◇
「はぁ!?」
ノバラとの生活が更に半年を過ぎようとしていた頃。
千束に言い渡されたのは、卒業の内示。
つまりは、サードへの昇格の話だった。
……だが、それは同時に、ノバラとの別れを意味している。
こんな急に、という驚きもある。
選ばれた、という歓喜もある。
しかし、それ以上に、ノバラを残していくことへの不安と別れへの悲しさが上回る。
驚きの声を上げた以外は失礼にならないよう担当教官の部屋から出た千束は、壁にもたれ掛かって、天を仰いだ。
「…………どうしよ?」
窓から見える空は憎たらしいほどに青かった。
◇◆◇
「……受ける以外に選択肢があるのか?」
「……そうなんだけどさぁ……はぁ~……」
悩みに悩んだ千束が相談するのは、結局のところ、フキしかいない。
他にも仲の良い友人はいる。
だが、こんな情けないところを見せることができるのはフキだけだ。
「……心配なのは、ノバラのことか?」
「……当たり前でしょ? 大事な妹だよ?」
千束は少しだけ恥ずかしそうにしながら、口を尖らせた。
「……お前はもう少し自分の心配をするべきだな。今のノバラより、これからのお前の方が危ういぞ?」
「……どういう意味よ?」
「……
「…………」
フキの言葉に千束は痛いところを突かれた、と押し黙る。
「実戦に出れば、負担は今以上だ。訓練は制限すればいい。だが、実戦は……」
現状、千束が実戦に出れば、それは確実に寿命を縮める行為だ。
根本的な治療をしようと思うならば、移植を受けるしかない。
だが、ドナーを待つこともできないし、千束としては心理的な抵抗もあった。
リコリスとしての責務は、命を奪うこと。
それなのに、誰かの命を使って自分が生きることは正しいのか。
そんな自問自答が常に付きまとっている。
DAの組織力であれば、時間は掛かるにしてもしても、ドナーを見つけることは可能だろう。
そして、千束には、それだけの時間とお金を費やす価値がある。
幼い身の上にあり、心臓の欠陥という身体能力を制限を受けた上でなお、歴代最強になる可能性が極めて高いと評価されているのだ。
その戦力を十全に使えるとすれば、その程度の労力は安いものである。
しかし、現状、千束が頷かなければ、移植手術が強行されることもない。
だが、本格的にリコリスとしての活動を行い、最上位を目指そうとするなら、いずれ選択をしなければならないときが必ず来る。
「……分かってる。……それでもね、やっぱりやりたい、って思ってるんだよ」
日の当たる道ではない。
恩返しという意味もある。あるいは、そう教育されたからかもしれない。
だが、脳裏に焼き付いた赤い色の制服は憧れだった。
千束は恐らく長く生きることはできない。
それを自覚しているからこそ、誰よりも何よりも自分が生きた証を残したかった。
その強い想いが、心の中で燃え盛っている。
「なら迷うなよ……進んで道を示せ! いずれ、お前の歩いた道を私が! ノバラが歩くんだ! 私に、妹に! 真紅の制服に身を包んだお前の姿を見せてくれ!」
そう言って、フキが千束の背を思いっきり叩く。
あまりの衝撃に、千束が、けほけほ、と少し咽る。
その様子を見やって、フキはニッと笑みを浮かべた。
「……それまでは、まぁ。私がノバラを預かるからさ」
恥ずかしそうに少しだけ頬を染めながら、頬を掻くフキを見て、千束はフキがいてくれて良かった、と思った。
何かと張り合ってくる、意地っ張りで、不器用な自分の親友。
……彼女になら、愛しい
……だが、それを真正面から言うのは恥ずかしいので。
「……
くわっと目を見開いて、そう言った。
「何だと!? 私の妹でもあるんだぞ!?」
「フキはお母さんでしょ!?」
「あぁん!?」
「んだ、こらぁ!?」
互いに額をぶつけ合ってガンを付け合う。
やはり、自分たちはこのくらいが丁度いい。
そんな風に考えると、どちらからともなく、噴き出した。
「……んふふっ!」
「……あははっ!」
笑い合うと、千束はフキを正面からぎゅうっと抱きしめる。
「……任せた」
千束は、涙混じりの声で、フキの耳元でそう言って、フキから身を離した。
「……おぅ。任された」
涙を拭って微笑みを浮かべる千束の頭を安心させるように、フキはぽんぽん、と優しく叩いた。
ずずっ、と千束が鼻を啜る音がする。
「……ノバラ……泣くかな?」
「泣くんじゃないか? 一番お前に懐いてるんだから」
「これで、『ふ~ん』とか、薄い反応だったら、私、心が折れるよ……」
◇◆◇
「……ふ~ん」
ノバラの薄い反応に、千束は、がーん、と涙目になった。
(あ、これ意味分かってないヤツ)
千束はショックで気づいていないが、フキは気づいた。
ノバラは千束がサードになる、という意味をあまり良く分かっていないようだった。
知識としては知っていても実感がないというのが一つ。
そして、千束はこの部屋に帰ってくると思い込んでいるからだろう。
「あー……あのな、ノバラ。千束がサードになるってことは、この寮からいなくなるってことだぞ?」
フキがそう補足すると、目に見えて、ノバラはショックを受けたようだった。
「……ぇ……」
ふるっ、と少し震えているような様子は、フキの勘違いではないだろう。恐る恐るという感じでノバラが千束を伺いみる。
そして、千束が、フキの言葉を肯定するように頷くと。
「やだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ノバラ史上最大の叫び声を発すると同時に千束に思いっきり抱き着いた。
「やだやだやだやだ!! 千束、行っちゃやだぁぁ!!」
これまで、何があろうとほとんど表情が変わることがなく、ましてや涙など流したことがないノバラが、ボロボロと涙を流して、千束にしがみついている。
……絶対に離すまい、としているように見えた。
そんなノバラを見て、千束の涙腺も決壊する。
「……ぅぐっ! ……私も、私も! ノバラと離れたくないよ!」
涙を流し、そう叫びながら、千束はノバラをきつく抱きしめた。
「大事な妹だよ! 離したくなんてない!」
それは千束の本心だ。
例え血が繋がらなくても。
ノバラが自分の病室に来た日、千束はノバラの姉になると決めた。
だから、誰が何と言おうと、千束とノバラは姉妹である。
……そして、千束は信じている。
「……でも……でもね? 行かなくちゃいけないんだ……行きたいんだ……酷いよね? 悪いお姉ちゃんだね……」
千束の言葉を聞きながら、ノバラは自分がどんなに駄々を捏ねようと、千束が行ってしまうであろうことを覚った。
「……ぢざどぉ……」
ぎゅっと千束の服を掴みながら、千束を見上げたノバラの顔は酷いものだった。
涙で目は赤くなり、ぐずぐず、と鼻水も出ている。
感情らしい感情を示さなかった妹が、これほどまでに感情を露わにして自分との別れを惜しんでいる。
……千束の胸には愛しさがこみ上げた。
千束は、ノバラの額に、ちゅ、と口づけをすると、優しくノバラの指を解いた。
「……離れていても、ノバラは私の大切な妹。それはこれから先、ずっと変わらない。だから……だからさ。お別れの記憶がノバラの泣き顔じゃ悲しいよ。……お願い。私にノバラの笑顔を覚えさせて?」
千束がそっとノバラの頬に触れる。
……ノバラは一度下を向くと、ゆっくりと顔を上げて、目に一杯の涙を貯めて。
「……ぇへ……」
……不器用に。しかし、確かに微笑んだ。