Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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一応、時間軸は元に戻りまして、リコリコ営業中となります。


第五章 Fates Rolling
120 I'm back


「あ、私、『ノバラちゃんスペシャル』で」

「私もー」

 

 ノバラが考案した『ノバラちゃんスペシャル』こと、『ずんだとあんこの共演。白玉にバニラアイスと生クリームを添えて。黒蜜きなこ掛け』が何故かバズッたおかげでその日は大忙しだった。

 

「ノバラ、Nスペシャル二つ!」

「ふぇぇ……今日はNスぺやたら出るねー。それでラストだよ」

 

 途中でノバラ特製のずんだが切れたので、高速で補充すること三回。

 調理をしながら、そこまでするのは、さすがのノバラもきつかった。

 あんこを炊け、と言われていないだけましだろうが。

 

 疲労はあるのだろうが、楽しそうに調理をしているノバラを千束はしばらくの間カウンターに座って見守った。

 

 改めて、人って変われば変わるものだなぁ、と感慨深い。

 

◇◆◇

 

 千束がサードになると決まり、ノバラが大泣きした日から、実際に千束が寮を出ていくまで、ノバラは千束にそれまでには見せなかった笑顔を見せて過ごした。

 

 強がりだとは思っていたが、案の定、千束が出てから、フキの下でまたぐずぐずと泣いていたらしい。

 

 たまに寮に会いに行けば、弾けるような笑顔を見せてくれてはいたが、相変わらず、千束とフキ以外には、不愛想状態。

 フキは面倒見が良いので級友たちに好かれていたが、フキ本人の愛想はそれほど良くはない。

 

 ノバラと級友たちの関係を危ぶんだフキから、相談され、千束はベッドに座らせて、お説教という名の助言をした。

 

『ノバラ、アンタはもっと愛想良くしなさい。あのとき、私に強がって見せたみたいに笑ってみな? そうすりゃ、きっとイチコロだよ? その上でちょっと甘えるんだ。上目遣いでな! それで、感情が少しでも揺れているようなら、「お姉ちゃん」って呼んでやれ。絶対堕ちるぞ! ……ま、世界はアンタが考えてるほど狭くない。敵ばっかりいる訳じゃない。それに、敵が多いなら、味方は作っておいた方が良いだろ?』

 

 そう言いながら、ノバラの頬を引っ張って、無理やり歪んだ笑顔を作らせた。

 ふにふにの頬が柔らかく伸びて、唇が弧を描いて。

 

『……ふぇへへぇ』

 

 ノバラはふにゃふにゃと可愛いらしい笑顔を作っていた。

 

◇◆◇

 

 あの頃の笑顔はもっと無理に作っていたのに、今のノバラの笑顔をすごく自然だ。

 

 ……少しだけその笑顔に見惚れる。

 

「……ん~もう! 千束お姉ちゃん!」

 

 ぽーっとノバラを眺めていたら、いつの間にか、目の前に来て、ノバラは頬を膨らませていた。

 

「Nスぺ二つ! 上がったから持って行って?」

 

 そう言いながら、ノバラは上目遣いで千束を見た。

 

 庇護欲をそそるちょっと困った様子で甘えるような仕草。

 

 千束だから平然としていられるが、他の者ならやはりこうは行かないだろう。

 たきな辺りはまた、脳がとろけ出すこと請け合いだ。

 

「へいへい」

 

 律儀に自分の言葉を守っていると思えば可愛らしいと言えるのだが、色々な影響を受けたせいで、ちょっとした小悪魔みたいになってしまった。

 

 千束自身のあざとい程の愛想の良さとスキンシップの激しさ、フキの律儀で真面目なところ……あとは、楓の分析癖とナンパな言動といったところか。

 

 人見知りであるところは実は変わっていないようであるが、以前のように不機嫌さを前面に押し出すことはほとんどなく、上手に取り繕えている。

 

 それはすみれという妹分ができたことも影響しているのだろう。

 

(……まぁ、ちょっと過保護が過ぎている気もするけど)

 

 千束は自身のノバラに対する過保護っぷりを棚に上げて、ノバラのすみれに対する関係をそう評した。

 

 ノバラスペシャルをテーブルに置いてくると、それを頼んだ大学生と思しき女性たちはきゃいきゃいと写真を撮っている。

 

 たきなのホットチョコパフェとは違って、ビジュアルも中々映えるものだ。

 

 大き目の白玉を敷き詰めた器の真ん中にはバニラアイス。それを囲むように細かく潰したずんだに少量の生クリームを加えた濃厚なもの、粒あん、粗挽きのずんだに少量の水あめと山塩で味を締めたもの、こしあんが囲んでいる。そこにたっぷりの生クリームを乗せて、最後にきなこと黒蜜をかける。半分に割った南部せんべいも添えられている。

 それぞれの味の違いや歯応えの違いを楽しみながら食べられる一品だ。

 

 偏食だったノバラがここまで繊細に味にこだわるのは、千束には未だちょっと信じがたい。

 

(……ノバラが料理するようになったきっかけは、私の失敗作かぁ……)

 

 千束は少しだけ苦笑を浮かべる。

 

 そういう自分も料理をするようになったきっかけは、ノバラがまともに食べてくれないから、という理由だったことも考えると、人生というのは、色んなものの積み重ねだ、と改めて感じる。

 

 ふと、千束が時計を見れば、時刻はもう夕方だ。

 

 すみれもそろそろ帰ってくるだろうか、と考えていると、からから~ん、と賑やかにドアベルが鳴った。

 

「ただいまぁ!」

 

 そこには、ポニーテールをふりふりさせ、元気に手を上げるすみれの姿があった。

 

「おー、お帰りすみれー」

「千束ちゃん、ただいまぁ!」

 

 ててっ、と軽く駆け出したすみれが千束に圧し掛かるように抱き着いてくる。

 

「……んぐっ!? すみれ、苦しい苦しい! 重い重い!」

 

 すみれの大きすぎる胸に顔を挟まれ、上から圧し掛かれれば、さすがの千束でも耐えるのは大変だ。

 

「あはぁ、ごめんねぇ!」

 

 機嫌良さそうにしているすみれは普段に比べてもテンションが高い。

 

 何故だろう、と千束が考えていると、すみれはキョロキョロと辺りを見回すと、厨房にいるノバラを見つけて、顔を輝かせた。

 その視線に気づいたのか、ノバラも厨房からカウンターの方にやってくる。

 

「あら? すみれ。戻ったの?」

「えへへぇ、ノバラちゃん、ただいまぁ!」

「はーい。お帰り」

 

 ノバラに声を掛けられたすみれは、雑に千束を離すとノバラのところまで駆け寄って後ろから抱き着いた。

 

 ……なお、すみれが後ろから抱き着くと、ノバラの頭の上が、すみれの胸の置き場所になるため、その態勢になったときのノバラは、過去のノバラを彷彿させるような虚無の表情になる。

 

(……こんなところで、あの頃の表情を見ることになろうとは……!?)

 

 だが、すみれが嬉しそうにしているその姿を見れば、わずか一日のノバラ断ちが相当すみれのストレスになっていたのであろうことが分かる。

 

 一秒でも早くノバラに会いたかったんだろうなぁ、と千束はすみれの様子に苦笑した。

 

 その姿は、寮から出た後、千束がノバラに会いに来たときのノバラの姿にも似ていた。

 

「……ん~…はぁ…はぁ……ノバラちゃんの匂いだぁ」

 

 すんすん、と鼻を鳴らしたすみれは、ノバラの体温とその香りに頬を上気させて、口をだらしなく緩めていた。

 

(……(ノバラ)といい(すみれ)といい、どうにも変態ちっくなんだよなぁ……)

 

 ノバラも人に抱き着いては、その人の匂いを嗅いでいる。

 千束やフキ、たきな、楠木辺りには対しては特に顕著に行われる。

 

 まぁ、これは『甘え』の一種であり、自分がそこにいていい、ということの再確認の意味が大きく、興奮するというよりは、そうすると落ち着くということのようだが。

 

 ……たまに悪ノリして、胸やら尻を揉んだりするので注意は必要である。

 

 それに対して、すみれのそれは、ヤバイ薬でもキメているのか、と思わせるほどの恍惚具合だった。

 

「……すみれさん、置いてかないでくださぁい」

「うわ、先輩の顔が虚無ってる!」

「……ははぁ、これが噂のリコリコ」

 

 すみれの後に続いて、セカンドが一人、サードが二人慌ただしくが入ってくる。

 

「あら、珍しい。いらっしゃい、後輩ちゃんたち」

 

 そう言って、千束は優雅に微笑んだ。

 

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