Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「あら、珍しい。いらっしゃい、後輩ちゃんたち」
千束は入ってきた三人の少女に向かって優雅に微笑みを浮かべた。
それを見て、一番背が小さい(でも胸は一番大きい)サードの少女が目をキラキラとさせている。
「……ふわぁ!? ち、千束さんだぁ! すずな、すずなぁ! 生千束さんだよ!?」
少女はすずなと呼ばれた少女の肩を掴むとがくがくと揺らしている。
「はいはい。ノバラ先輩のお姉さんでしょう? 知ってる知ってる」
「軽すぎるでしょ!? あの千束さんなんだよ!?」
「それも知ってるって。せりは騒ぎすぎ」
「やれやれ、すずな嬢はドライですねぇ……失礼、千束嬢。あたしは、相馬すももです。ウチの若いのが姦しくてすいませんね」
細身ですらっとしたセカンドの少女が一歩前に出ると、手を差し出してきたので、千束はそれに応じて握手を交わす。
(ん? この子は、確か……すみれと対戦していた子か)
「錦木千束です。喫茶リコリコへようこそ」
すももが手を離したのを見計らって、千束は他の少女をに目を向けながらそう言った。
千束が微笑むとせりと呼ばれた少女は顔を真っ赤になりながら、おずおずと千束の前にきて、お辞儀をしてから手を差し出した。
「お、鬼庭せりです。よろしくお願いします!」
憧れの先輩と握手を交わす前にガチガチに緊張しているような雰囲気なせりに、千束は苦笑しながら、せりの手を取って握る。
(お? これはまた……)
せりの手には、新しくできたマメの感触があり、練習熱心であることを伺わせた。
「ウチは、片倉すずなです。よろしくお願いしまーす」
せりとは違い、すずなの方は特に緊張もしておらず、緩い笑みを浮かべて手を差し出した。
(ははっ……なるほどね?)
千束の手を取ったすずなはぎゅっと力一杯握りしめてきた。千束も笑顔のまま握り返してやる。
小柄な体ながら、十分な握力。厚くなった手の皮。
相当の修練を重ねてきたことが嫌でも分かる。
そして、少しだけ瞳に浮かんでいる嫉妬。
(他人の言えた義理ではないんだけど……やっぱり、こういうのは、最近多いのかな?)
すずなが不機嫌そうに少しだけ頬を膨らませて、横目でせりを見ているので、そういう関係なんだなぁ、と千束は察する。
すみれのノバラに隠そうともしない好意。
せりが千束と握手をして嬉しそうにしていることに対するすずなの嫉妬。
たきなが自分に向ける誘っているような妖艶とも言える笑み。
……そして、千束自身がたきなに向けるおねだりをするような上目遣い。
そういった仕草がそれぞれの関係を想起させる。
自分のことも考えて、千束は少し頬を赤らめるが、彼女たちの自己紹介で気になることもあった。
「それにても、相馬ときて、鬼庭、片倉って……」
「
千束の言葉にすももがにやりと笑う。
東北の名だたる戦国武将の苗字を名付けに使っているのは、DA仙台支部の名付け方だ。それは彼女たちが仙台支部に属しているという意味である。だが、少なくともすももは本部所属であったことからすれば、ノバラか楓が引き抜いた、ということになる。
……ちなみに、ノバラの苗字である『最上』の由来は、戦国武将の方ではなく、川の方の由来である。DA札幌支部は、自然の名前を使うことが多いのだ。
「……あら、ももちゃんに、せり。すずなも」
すみれの胸を鬱陶しそうに頭に乗せながら、ノバラは三人に向き直った。
ノバラの姿を見たせりが頬を膨らませた。
「ノバラさん、私、あんなこと、聞いてませんよ!?」
一応、一般人の目もある場所だからか、せりは普段の「たいちょーさん」ではなく、「ノバラさん」と呼んだ。
せりはノバラが自分に何の話もなくセカンドに推した、ということにお冠だった。
ノバラが評価してくれていたことは嬉しい。
だが、騙し討ちのような方法で、しかも、自分の部下にする、というおまけ付き。
どうして先に話してくれなかったのか、という想いが先にくる。
「えー……だって、びっくりさせたいじゃない?」
「単なるサプライズ!? そりゃびっくりしましたけど! いきなりなんて……」
ノバラの答えを聞いて、結局のところ、せりは自分が自分に自信がないことに気づく。
先にノバラにセカンドに推すと言われたら辞していただろう。
サードになってからすら日が浅く、実力不足も明らかだ。
ノバラがせりの何に期待しているのかが分からない。
だから不安になる。
「難しく考えなくていいのよ? あなたのことだから、実力が足りない、とか考えているんでしょうけど……足りないなら付ければいいだけでしょう? 私はあなたのそういう気概を気に入っているんだけど?」
「……ノバラさん」
せりはノバラの言葉にきゅうっと胸が切なくなった。更には、頬が火照っているのを自覚する。
せりがノバラに何か声を掛けようと口を開きかけたとき。
「……ぬなぁぁぁ!? ノバラちゃん、せりちゃんを口説いちゃダメぇ!」
……ノバラの頭の上に乗っかっていた、すみれが噴火した。
「……? 別に口説いてないでしょ?」
言葉上は特段口説いている訳でないが、すみれはせりの心の振れ幅を敏感に感じ取っていた。
ノバラにとって、すみれは完全に妹扱いなので、色恋の対象にそもそもなっていないがせりなら話は別だ。
それに、ノバラが誰かをセカンドに是非と推したのは、すみれが知る限り初めてのこと。
……せりはノバラに特別扱いされている。
それに対する嫉妬もあるだろう。
だが、それよりも、せりがノバラに向けている感情にこそ危機感を感じていた。
(すずなちゃんも怪しいけど、せりちゃんは一番ダメぇ!)
二人がノバラに憧れとちょっとした恋心を持っているのは、すみれには分かる。
すずなのそれはすみれに近いが、ノバラにとってすずなは、すみれと同じく妹枠だろう。後輩要素もあるが。
そして、すずなは、ノバラに対する気持ちと同時にせりに対する気持ちで揺れている。そこがはっきりと分からない限りは、踏み込んで来ないと見える。
一方のせりも、同じく相棒のすずなに向けている想いはあるが、当人がそもそもイマイチ自身の恋心を理解していない。
だが、だからこそ危険なのだ。
憧れの気持ちがあっても、恋心を理解していないから、それを意識せずに接することができる。無意識に、無邪気に。
更に言えば、ノバラに自覚はないだろうが、ノバラは手のかかる子ほど気に入る傾向がある。
幼少組に訓練をするときもそうだが、自分に反発してくるような子を屈服させたり、鈍くさくても一生懸命に頑張ってくる子が特に好きだ。
この場合、すずなが前者で、せりは後者だろう。
前者はノバラの前に跪き、反発を敬愛や憧れに変え、後者は寄り添ってくれるノバラに信頼と好意を寄せる。
どちらがライバルとして危険だろうか。
すみれは後者と判断する。何故なら、ず~っとノバラに寄り添ってもらえるということは物理的距離が近い。物理的距離が近いということは、何かの弾みで惚れてしまう確率が高い。
(そんなの、ダメ! ぜぇぇったいダメ! ノバラちゃんはすみれのなんだから!)
すみれはノバラを独占するため、ノバラは絶対に離さないとばかりにノバラへの密着具合深める。それを見たせりは、くすっと笑みを浮かべた。
「すみれさんは、本当に、ノバラさんが大好きですねぇ?」
「いくらせりちゃんでも、ノバラちゃんは渡さないよ?」
「へ? 別に取ったりしませんよ?」
せりは小首を傾げて不思議そうな顔をする。そんな仕草がすみれから見ても可愛らしい。
「……うぅ……がるるぅ……」
負けてなるものか、とすみれがせりを威嚇する。
……威嚇しているのだが、ちょっと目に涙を貯めている様子は明らかに腰が引けている。
そして、そんなすみれの横乳を下にいるノバラがビンタする。
「ぴゃあ!?」
「……仲間を威嚇するんじゃありません」
頭からすみれの胸を下したノバラが、ちょっとだけ呆れた様子ですみれを見る。
すみれが子どもっぽいのは、承知のことだが、正直、ここまで独占欲があるということをノバラは考えていなかった。
(千束とたきなにはそうでもないのに……何で?)
「……あと、今日はちょっと、混んでるし。あなたたちなら、奥でもいいでしょ? 何か出してあげるから、もう少し待っててくれる?」
一番混む時間帯は過ぎてはいるものの、それなりに人が入っているので、だらだら喋っている訳にもいかない。
ノバラは三人を奥にある和室に案内する。
「……うぅ……ノバラちゃぁぁん……」
胸を叩かれたすみれは、目に涙を浮かべていたが、微妙に嬉しそうだった。
すみれちゃんはノバラちゃんが雑に扱っても嬉しい。
何故ならMだから。