Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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122 We can't imagine

 和室に通された三人は中で休憩中の少女を見て混乱した。

 

 出迎えたときと同じ青い和服の給仕服。

 ツインテールにした艶やかな黒髪。

 

 だが、決定的な違いはちんまくないということだ。

 

 正座をしているその少女は優雅に湯飲みを口に運び、中のお茶を口に含むと白い喉がこくり、と音をたてる。

 ほぅっ、と息をつく動作がとても色っぽい。

 

「……先輩が大きくなってる!?」

「た、たいちょーさん!?」

「おやおや……」

 

 すずなとせりはたきなを見て、ノバラが大きくなったと思った。

 

 しかし、すももはたきなのことを見知っているので、見た瞬間に別人と認識したが、二人の驚きを受けて、改めてたきなを見ていると、ノバラに似ていることに気づいた。

 

「……おや? 後輩さんたちですか? その反応からすると、ノバラの関係者でしょうか?」

 

 たきなは三人に気づくと、クスリ、と笑みを浮かべた。

 

「……そ、そんな、声まで変わって……!?」

 

 すずなは、たきなが明らかに別人である、という反応をしているのに、ショックのあまり、声しか聞こえていなかった。そのため、少し、よろよろとよろけて、せりに持たれかかった。

 一方のせりは、その言葉で、ノバラとは別人であるということに気づいたものの、別のことに気づいた。

 

「違うよ、すずな! 別人だよ! ……と言うか、よく見れば、『片翼』のたきなさんだ!?」

 

 ふわぁ、と目を輝かせるせりにたきなは苦笑した。

 

「……かやさんだけ、と一縷の望みを持っていたんですが、やはりそう呼ばれているんですね……井ノ上たきなです」

 

 後輩に『片翼』という千束との関係を揶揄された呼び名が出回っているのは、恥ずかしいことに本当らしい。そして、かなり浸透していることも。

 

 たきなと三人が千束と同じように自己紹介をしていると、コーヒーとノバラちゃんスペシャルで出すには中途半端に余ったずんだと、通常メニュー用のあんこと、軽く焦げ目のつけたトーストを乗せたプレートを運んできた。

 

「はい、おまちどう! メニューにはないけど、ノバラちゃんモーニングセットだよ。……もう夕方だけどね」

 

 ウィンクをして、悪戯っぽい笑みを浮かべるノバラが、ちゃぶ台にそれぞれの分を並べていく。

 

「……ふむ? これは姐さんの手作りで?」

「……『姐さん』って、何よ、ももちゃん……。パンは近くのお店のヤツ、コーヒーは先生……店長さん。あんこは業務用のにちょっと手を加えてるけど、私が作ったのはこの中だとずんだだけ」

「ふぇー……たいちょーさん、料理もできるでんすねぇ……んー!?おいひい!」

 

 さっそく置かれたトーストを千切って、ずんだを乗せて頬張るせりが、目をキラキラさせている。

 

「そんじゃ、ウチも……うん、うんまいですね、先輩!」

「どれどれ……ん、これは確かに……そして、コーヒーもいい感じですねぇ」

 

 夕食の時間にはまだ早いのは確かだが、三人がペロリとすぐに平らげてしまったことに、ノバラはちょっと驚いた。

 

「……お腹空いてたの?」

 

 若干の呆れを含んだノバラの言葉に、すももが少しだけバツが悪そうに答える。自身でもちょっとがっつき過ぎた、という自覚があるからだろう。

 

「いえ……昼がちょっとばかり早かったんでしょう。まだ、お腹が空く時間ではないとは言え、こんなに美味しいなら……ねぇ?」

 

 すももが、すずなとせりに答えを促すと、二人はつやつや笑顔で答える。

 

「育ち盛りですので!」

「たいちょーさんが作ってくれたんだもん!」

 

 邪気のない二人の笑顔に、ノバラはくすくすと微笑みを浮かべる。

 

「……喜んでくれたようで何より。たきな、休憩、もう少ししてていから、三人の相手してくれる? ……あと、クルミ? 聞き耳立てるくらいだったら、ちゃんと出てきて挨拶して」

 

 ノバラが押し入れにそう声をかけると、戸を開けて、クルミが押し入れから這い出てくる。

 

「……まったく。お前の知覚能力はどうなっているんだ?」

 

 むぅ、とちょっと苦み走った表情をしたクルミがノバラを睨む。

 

 ……もっとも、クルミがそんな表情をしても可愛いだけで、まったく怖くないのだが。

 

「……? 物音と性格からして、そうだろうな、って思っただけだよ?」

 

 御多分に漏れず、ノバラもクルミの様子に怯んだ様子もなく、いつも通りの笑みを浮かべている。

 

「敵わんな……ボクはクルミだ。よろしく」

 

 ノバラ相手には分が悪いと思い、ふぅ、と息をついたクルミは三人に自己紹介をしながら、たきなの横にどっかりと胡坐をかく。

 

「……ノバラ。忙しいんじゃないですか?」

「へーきへーき。すみれにやらせるから」

 

 そこそこ眺めの休憩を貰っているたきなとしては、店の様子が気になっていたのだが、ノバラがそう言うのであれば、と三人の相手をすることにして、たきなは座り直す。

 

「もうじき閉店だしね。今日はすみれが帰ってくるって常連さんたちは知ってるから、ゲーム大会もないし。……それじゃあ、ごゆっくり~」

 

 ひらひらと手を振ったノバラはホールへと戻っていく。

 

「……お前ら、アレの部下とか大変だな」

 

 クルミが意地の悪い笑顔を三人に向けると、三人が三人とも苦笑いを浮かべる。

 

「……尊敬『は』してるんです。色々大変なだけで……」

「先輩の練習癖がねー……自分ができるなら、あなたもできるでしょ、っていうプレッシャーがすごい……」

「ま、ああ見えて、身内に対しての情が厚いのが、姐さんの良いところなんでしょうが……」

 

 それぞれがやはりノバラに対して思うところはあるようだった。

 

 そんな三人の様子にたきなは笑みを浮かべる。

 

「……ふふっ。ちょっと安心しました。ノバラがちゃんと慕われているみたいで」

 

 たきなの言葉にせりとすずなが顔を赤くする。

 

「そ、そう言えば! たきなさんはたいちょーさんのお姉さんなんですか!?」

 

 せりが誤魔化すようにそう言うと、たきなは微笑ましいものをみるような目でせりを見る。

 

「……そんなに似てますか?」

 

 相も変わらず、たきなとノバラ自身には互いが似ているという自覚はない。もっとも互いに姉妹に向けるのに似た感情は持っているのだが。

 

「いや、そっくりですよ? ウチ、先輩とは札幌からの付き合いで、割と長いんですけど、本当に一瞬で先輩がでかくなったのかと思いましたもん」

 

 容姿もそうだが、何よりも雰囲気。佇まいが似ている。

 

 凛とした少女の様相。ともすれば、刃の如き冷たさを感じるほどに。

 

「ノバラは実際、私と入れ替わりでホールに出て、お客さんに悪戯していますからね……」

「ああ……先輩、そういうの好きそうですもんね……」

「あ、あのあの! それで結局のところどうなんですか!?」

 

 興味津々といった感じでせりが目を輝かせるが、答えを持ち合わせないたきなは苦笑するしかない。

 

「さぁ……? 少なくとも私は血縁なんていないと思っていたので。もちろん、ノバラは妹のように可愛がっていますが」

 

「「……可愛がる!?」」

 

 せりとすずながたきなの言葉に驚愕の表情を浮かべる。

 

 その反応にたきなはぱちくりと目を瞬かせてクルミの方を見る。

 

「……私、何か変なこと言いました?」

 

 怪訝そうな表情をするたきなにクルミは苦笑する。

 

「いや、ノバラのことだから、後輩の前ではお姉さん振ってるんだろ? 甘えている様子が想像つかないとみた」

 

 追従するようにすももも補足する。

 

「ま、この二人にとっては、鬼の訓練教官のイメージの方が強いでしょうからねぇ……」

「あれでノバラは結構甘えん坊なところがあって可愛いんですが……」

 

 ノバラの練習好きなところはたきなも承知しているし、支部で訓練生に教えていることも知っているが、たきなにしてみれば、ノバラがそれほどまで畏れられていることの方が意外だった。

 

「あ、あの先輩が……甘えん坊!?」

「想像できません!!」

 

 未だ驚愕の表情をする二人にたきなは東京でのノバラの様子を楽しそうに話すのであった。

 

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