Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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123 Family

 閉店作業が終わる頃には、ホテルへのチェックインを済ませた楓が合流した。

 

 千束がきーきーとすみれのことに対する文句を言ったが、当の本人はへらへらと聞き流している。

 

「ちょっと、楓さん!! ちゃんと聞いてる!?」

「おー、聞いてる聞いてる」

 

 ……聞いてるだけ、とも言う。

 

「保護者なんでしょ!?」

「千束の方が得意だろ? 子どもをあやすの」

 

 千束の言葉に楓はけらけらと手を振って取り合わない。

 

 一方で子ども扱いされているすみれはむくれている。

 

「しれぇ……私、そんなに子どもじゃないよ」

 

 唇を尖らせて楓を睨む様子は、その体の大きさからは似合わないほど可愛らしいものだった。

 楓は口元をにやにやさせながら、すみれの頭をぐりぐりと撫でる。

 

「大人はあんな風に泣き喚かないの」

「……ぷぅ」

 

 すみれは頬を膨らませるが、頭を撫でられるのは嬉しいのか、楓のされるがままに頭を撫でられている。

 

「…………この件は貸しですからね!?」

 

 これ以上言っても無駄か、と悟った千束は一方的にそう告げた。

 

「おー、気が向いたら返すわ」

 

 ……この返事は返す気ゼロである。

 

 大人というには責任感のない楓に千束はため息をついた。

 

(……ノバラとすみれは何でこの人をそんなに慕うんだろ?)

 

 ミズキもそうだが、楓も相当ダメな部類の大人だ。

 

 悪い人でないのは分かる。

 ノバラに対しての信頼感。すみれに対しての慈しみ。

 それらは嘘ではないのだろうが、何故かちぐはぐな印象を受ける。

 

 ノバラに対しては同僚あるいは同類に似た親近感を感じるし、すみれに対してはそれこそ近親者に対する甘さのようなものが見え隠れする。

 

(……うん? ……いやいや、それはないわ)

 

 千束の頭を一瞬過ったのは、本当にすみれの近親者ではないのか、という疑いだ。

 

 すみれの保護の状況は知っているし、千束は楓が元リコリスということも知っている。

 

 そんな二人を結びつける線はほとんどない。

 

(大体にして、楓さんはミズキと同じアラサー……姉としても年が離れすぎていて、娘というには近すぎる……特に娘だとしたら、楓さんの現役時代と完全に被ってしまう。楓さんのスキルからすれば、直接現場に出ることだけが仕事じゃないとは言え、無理筋だろう。……それに)

 

 正直、楓とすみれはあまり似ていない。

 少なくともたきなとノバラほどには。

 

 むしろ、楓とノバラの方が似ているだろう。

 

(私とフキが寮を出た後、ノバラに仕込んだのは楓さんだと聞いたし、あの子が電子戦(そっち)方面にも手を出しているのは、楓さんの影響……そして、私とフキ以外で影響を受けているのは楓さんで間違いない)

 

「司令。今回は当分こっちにいるんでしょ?」

 

 レジを締め終え、厨房の片づけも終わったノバラがエプロンを外しながら、楓の隣に座った。楓はすみれとノバラに挟まれた形になる。

 

「ま、今回はな……ホテル暮らしも味気ないなぁ……ミズキに泊めてもらおうかな?」

「え~……嫌よ。いざというとき、男を呼べないじゃない」

「そんなときないじゃな……」

 

 千束がそう言いかけた瞬間、ミズキが「フンっ!」という掛け声で、お盆を千束に向けてぶん投げた。

 しかし、当然ながら、千束はひらりと交わす。

 

「……ちっ!」

 

 ミズキが舌打ちをしながら、人を殺しそうな目で千束を見ている。

 

「おお、こわっ!!」

 

 そう言って笑いながら、千束は楓の陰に隠れる。

 

「ダメだよ、千束。楓司令と違って、ミズキは繊細なんだから」

「何だ、ノバラ。人を大雑把みたいに」

「大雑把でしょ? 司令は……」

 

 その先を話そうとするノバラの頭を掴んで楓がぐりんぐりんとノバラの頭を揺らす。

 

「余計なことを言おうとしているのは、どこのどいつだ~?」

「やめ~!……やめて~!……脳が、脳が、揺れる~……!」

 

 ノバラは抗議の声を上げながらも楽しそうにしている。

 

 そんな二人の姿にミズキは呆れ顔になった。

 

「相変わらず仲良いわね、アンタら……」

 

 そう言われた楓は、にやりと笑うとノバラの首を引き寄せるようにして抱きしめた。

 

「そりゃあ、娘みたいなもんだし? 特にコイツは私の唯一の弟子だしな? ちっとも師匠を敬わないのはどうかと思うが……」

 

 ちらりと楓がノバラを見ると、ノバラはくすくすとおかしそうに笑う。

 

「え~……敬われたいなら、相応の威厳というものが……」

 

 ノバラの言葉の途中で、楓がキュッと腕に力を入れて首を絞める。

 

「……何でもないでーす」

 

 えへ、と誤魔化すようにノバラが笑うと、楓が笑いながら、ノバラを開放する。

 

「しれぇしれぇ! 私もぎゅってして欲しい!」

 

 ノバラを羨ましそうに見ていたすみれがそう宣言すると、悪戯っぽい笑みを浮かべた楓はすみれの胸に顔を埋めるようにしながら、すみれを抱きしめる。

 

「きゃあ~!」

 

 すみれは、ふざけたようにしながら、悲鳴を上げて、楽しそうに楓に抱き着かれている。

 

 千束はそんな楓たちの様子にかつての自分とノバラのことを重ねる。

 

(……確かにね。気持ちが通じ合っていれば、血縁かどうかなんて関係ない。私がノバラを妹と思ったように、楓さんは楓さんなりにノバラとすみれを娘のように思ってるんだね)

 

「……どうしたの、千束。ジッと見て?」

 

 ノバラが楓とすみれのじゃれている様子を見ている千束に不思議そうな顔をしていた。

 

「うんにゃ……楓さんは楓さんで母親役をやっているんだなぁ、ってね?」

「ふふっ……母親らしくはないかもれいないけど。私とすみれにとっては、大事なお母さんだよ」

 

 千束の言葉にノバラがくすくすと笑いながら答える。

 

 その言葉を聞いていたのか、楓はすみれを話すと少しだけ照れた様子でにまにまと笑みを浮かべる。

 

「いやいや、照れるな」

「……ね?」

 

 ノバラは千束に同意を求めているのは「母親らしくない」の部分だろう。

 迂闊に返答すると碌なことにならない気配がひしひしとしている千束は笑って誤魔化した。

 

「……あれ? もう閉店作業終わっちゃいました?」

 

 そんな話をしていたところに、奥からたきなとクルミのほか、すもも、せり、すずながホールの方に入ってくる。

 

「レジ誤差ゼロ。ズレなしで完了だよー」

「さすがは、ノバラ。正確で速いですね。……えっと、今日はもう上がりですか?」

 

 たきなの言葉にノバラは三人の言葉が気になって、すももに向かって話しかける。

 

「そういや、ももちゃんたちはどうするの? たきながいいって言うなら、私の部屋に泊めてもいいけど」

 

 すももは眼鏡をくいっと持ち上げると、ふぅ、とため息をつく。

 

「生憎とあたしは報告がありますからね。本部の方に戻りますよ……。せり嬢、すずな嬢、帰るなら乗せていくし、泊まるなら、姐さんのお言葉に甘えてもらって差し支えないですよ?」

 

 現時点では、すももはセカンドのままであり、すみれの護衛という立ち位置だったことからすれば、すももは報告義務があることになる。ここから、あの山奥まで帰るのは正直億劫なのだが、さすがにそういう訳にはいかなかった。

 

 特にそう言った縛りのない、せりとすずなは目をキラキラさせている。

 

「はいはいっ! たいちょーさんのところに泊まりたいです!」

「そんならウチもー!」

 

 元気よく手を上げる二人の様子にノバラは苦笑する。

 こうなってくると、その後の展開も予想できた。

 

「あー! ずるーい! 私も一緒に泊まりたーい!」

 

 すみれが仲間外れにされまいと手を上げる。

 

「……まぁ、そうなるよね。どうしよっかなぁ? たきな、どうする?」

「そうですねぇ……千束が泊まりに来た方がいいんじゃないです?」

 

 ノバラとしてはたきなが千束のところに泊まりに行くと思ったのに、まさかの呼ぶ、という方向に話が動いて、ちょっと肩透かしを食らった。

 

 ノバラはちょんちょんとたきなの肩を叩いて、内緒話の態勢をつくると、たきなの耳元で囁いた。

 

(……いいの?)

(……何がです?)

 

 イマイチ分かっていなさそうなたきなにノバラは苦笑しながら、話を続ける。

 

(すみれがいないから、千束の家に行けば二人っきりだよ?)

 

 ああ、とたきなは頷くが、ぽっ、と頬を赤く染めて、ノバラに千束を呼ぶという結論に至った理由を話す。

 

(……私自身、理性を抑えられるか自信がないので……)

(お、おぅ……なら、ウチにするか……ちょい大変な気もするけど)

 

「よし、じゃあ、ももちゃん以外のリコリスでお泊り会だぁ! ……ももちゃんはまた今度ね?」

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