Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
しょう油ベースの牛肉の入った芋煮は最もメジャーと言ってもいいだろう。
特製のしょう油に甘めの味付け。
牛肉に、里芋、手で千切ったこんにゃく、長ネギ、しめじ、まいたけを入れて煮込んだものだ。
「……里芋の入ったすきや……」
「それ以上言うなぁ!」
たきなのコメントの最後の言葉を遮るようにノバラが叫んだ。
思っても言ってはいけない言葉があるのだ。
せりがはふはふ言いながら、里芋を頬張る。
里芋がとろっと口の中で解ける。
「ん~!! おいふぃ~!!」
幸せそうに目を細めて体を震わせると、せりの豊満な胸がぷるぷると震える。
ノバラはそれを鷲掴みにしたい気持ちを堪えながら、芋煮の汁を口に含む。
「ん……味付け、千束だよね? さすが!」
ノバラがサムズアップすると、千束も同じジェスチャーで応じる。
「応よ! 伊達にお前と芋煮会してないからな!」
千束は王道芋煮は体験済みだったので、味付けはしっかり把握している。
「次は……と」
ノバラが見たのはたきなが千束の隣で味噌ベース、豚肉のものだ。
「……作っていたときも思いましたが、これって豚じ……」
「それ以上言うなぁ!」
先ほどのノバラと同じように、最後の一言を言わせまいと千束が叫ぶ。
仙台味噌に豚肉、里芋、にんじん、大根、長ネギ、こんにゃく、しめじ、三角油揚げが入れられている。
すずなは豚肉、里芋、油揚げを口に入れて頬張る。
「あふっ、あふぃ~……ん~でも、おいしい! あったまる~!」
がっつくように食べるすずなを微笑ましいものを見るようにノバラは眺める。
どれ、とノバラも一口、口に入れると、濃厚な味噌の味が広がる。
「うん……安定のたきなの丁寧な味付け」
味噌のコクと風味が飛ばないよう沸騰させずに、丁寧に解いたのであろう。
川原で作るときはガンガンに沸騰させてしまうことが多いので、味噌の味を楽しむことができるのは、火力調整が容易なガスコンロならではである。
「千束はもっと炊けって言うんですが……」
「煮込むのは簡単だしこれでいいんじゃない? 温めなおすときに、少し、追い味噌してあげれば、千束御所望の味になるんじゃないかな?」
まぁ、それだとたきなとノバラにはちょっと塩辛すぎるかもしれないが。
濃い目の味が好きな千束とすみれ。
薄目の味が好きなたきなとノバラ。
偶然とは言え、出向の泊先で綺麗に分かれた形である。
そして、最後に控えたのがノバラ監修のもの。
味噌ベースにしょう油を加えて、コクとうま味を強く主張させ、そこに豚肉、里芋、長ネギ、しめじ、舞茸、なめこ、平茸、こんにゃく、豆腐などを入れた芋煮。
「……きのこじ……」
「だから、言っちゃダメぇ!?」
三度、たきなの正直な感想を遮った。
……まぁ、次の突っ込みは私の番、と目を輝かせて待機していたすみれに気を使ったのかもしれない。
「きのこがいっぱいだぁ! あぐあぐ」
意外にもきのこ大好きなすみれがばくばくと口の中に具を入れ、スープを啜る。
「ん~!! きのこのうま味がさいっこ~!」
すみれの満面の笑顔を見ながら、ノバラも自分の作った芋煮を味わう。
(ん。上出来ね)
しょう油と味噌、両方入っているので、味付けはやや濃い目になっているが、それはそれでご飯が進む。
ノバラは他の皆も楽しみながら舌鼓を打っている様子に幸せそうに微笑みを浮かべた。
◇◆◇
「……でも、さすがに残ったな」
千束が若干ぽっこりとしているようなお腹を撫でながら、鍋の残りを見つめた。
残りは大体それぞれ三分の一、と言ったところだろうか、それぞれが、物珍し気に満遍なく食べたからではあるが、千束の最初の印象のとおり、ちょっと多かったようだ。
うどんで〆るのか、とも思ったが、その割には普通に白飯が出ていたし、全員がこれほどお腹いっぱいになっては、すみれ以外は箸が伸びないだろう。
「……ノバラちゃん、残り、私が食べようか?」
他の者の倍は食べているハズなのに、すみれはけろっとしている。
まだまだ腹六分目、といったところである。
しかし、心配そうな二人に対して、ノバラは不敵な笑みを浮かべる。
「……いいや! これは、私の計算通り!」
ノバラは掛けてもいない眼鏡をクイッと上げる仕草をする。
「量を減らして、〆はうどんとか雑炊とかも当然考えてはいた……だが、明日の朝、何を食べるか、という問題が発生する」
「ま、まさか……!?」
千束はハッとする。
確かにビニール袋の中には入っていた。
ノバラの悪魔的発想に千束は息を飲む。
「いい反応だ、千束くん! あるではないか! 鍋を綺麗に片づけつつ、明日の朝ごはんをおいしく食べる方法が!」
拳を掲げるノバラに、すみれも気づく。
そして、その味を想像して、若干垂れていた涎を飲み込む。
「……ごくり!」
ぢゅる、と音がしたので誤魔化す様に声を上げながら、すみれはきらきらした目でノバラを見つめる。
「ふふふ……すみれも気づいたか? ……そうだ! 明日の朝は、このうま味たっぷりの汁にカレールウを入れて、三種の合盛りカレーだ!!」
「「いやっふー!!」」
ノバラが高らかに宣言すると、千束とすみれは一緒に立ち上がって抱き合った。
「……何でそんなに息ぴったりなんですか」
千束とすみれが仲良さそうにしているので、たきなは若干不機嫌そうであった。
「だってだって! たきなちゃん、カレーだよ! カレー!!」
千束が何かを言い訳しようとするよりも早く、すみれが眩しい笑顔をしながら、たきなのところに詰め寄る。
椅子に座ったたきなに対し、立っているすみれは若干前屈みになるので、その圧倒的胸がぶるんと震えながら自己主張する。
「こんなにおいしい芋煮が、明日にはカレーに!!」
まるで祈るように胸の前で手を組むすみれ。
両腕に寄せられた胸は暴力的にばいんばいんだ。
(……う~ん……これは、ノバラが揉みたくなるのがわかりま……いやいや、私には千束が……)
ふるふると首を振って、たきなは目の前にいるすみれの頭をゆっくりと撫でる。
「……えへー……」
顔を緩めてとろんとするすみれが可愛らしくたきなは口元に笑みを浮かべる。
((……わんこ))
せりとすずなはそんなすみれを見て、大型犬を思い浮かべる。お互いに目配せをしながら、ぷっと噴き出す。
後輩たちがすみれを見て、何を思ったのか正確に理解した千束は、にやりと笑みを浮かべると自分もすみれの頭をがしがしと撫でる。
「お~、よしよし。いい子いい子!」
「わぅん!」
千束はすみれと一緒に暮らしている訳だが、すみれが何かをする度に撫でているので、すみれにとっても千束の手は慣れ親しんだものだ。思わず声が出てしまうのも仕方ない。
「……まったく」
一方でノバラはすみれの姿に呆れ気味だった。
自分と同様、基本的に人見知りのすみれだが、千束の影響か、それともリコリコで働いている影響か、人前に出てもおどおどはしなくなった。
その代わりと言っては何だが、以前は中々他の人に懐かなかったのに、リコリコの面々やせり、すずなといったノバラの関係者には、すぐに心をを許すようになった。
……それ自体は悪いことではないのだが。
騙されたりしないか、心配になる。
「はいはい、すみれ。甘えてないで、片付け手伝いなさい」
「は~い!」
ノバラが軽く手を叩いて合図をすると、すみれが元気よく手を上げて、食器の片付けを始める。
「……すみれは、メシは作んないけど、片付け、掃除、洗濯は一通りやるんだよなぁ?」
すみれが積極的に片付けを始めたのを不思議そうに首を傾げながら、千束も片付けに加わった。
「そりゃ、私が教えたもの」
キッチン側に移動したノバラが洗い物を始めると、千束はその隣に陣取り、食器を拭き上げ、勝手知ったる台所の元の位置に片づけていく。
「……昔のアンタと同じで生活力皆無だと思ったのに」
千束にとって、すみれも可愛い妹分となっているが、本家妹より実のところ手が掛かっていない。
張り合いがないとは言わないが、拍子抜けしたのは確かだった。
そして、すみれを通して、ノバラが姉として振舞っているのがよく分かり、そこに在りし日の自分とノバラの関係を見せられているようで、どことなくこそばゆい感覚もある。
「残念ね! 今の私は、今の千束よりは女子力が上ですぅ!」
えへん、と(無い)胸を張ったノバラのどや顔に千束はいらっとしたものを感じながら、その両頬を摘まんだ。
「生意気なのは、この口か!?」
にひひ、と笑いながら、うにょーん、と予想外の柔らかさで伸びるノバラの頬の感触を千束は楽しんだ。
「……仲良しですねぇ」
二人の様子を苦笑しながら、たきなはせりとすずなの二人にお茶を淹れる。
「あ、たきなさん、すいません。ウチがやりましょうか?」
「いえ、いいですよ。お二人はゆっくりしててください」
「でも、あのぉ……たいちょーさんと千束さんはあのままでいいんですか……?」
キッチンでは涙目になったノバラが、服の上から千束のブラを外して抜き取り、頭に被ってけらけら笑っている。
「猫耳モード!」
「あほ! はよ、返せ!!」
女子しかいないとは言え、恥ずかしいのか、千束は片手で胸を押さえながら、もう片方の手を伸ばして取り返そうとするが、狭いキッチンで、ノバラが器用に避けている。
「……? いつもの通りにじゃれてるだけですね。可愛いものです」
「「……えぇー……」」
憧れの先輩たちの日常風景に後輩二人はちょっと呆れた顔になった。
ちなみに筆者の実家の芋煮の特徴。
1 鶏ガラで出汁を取る
2 里芋、長ネギ、こんにゃく、ゴボウ、しめじ、舞茸、鶏肉を入れる
3 しょうゆ、砂糖、お酒で甘目に作る
4 〆はうどんよりもそばにかけて食べる
※ 正月はこれから里芋を抜き、代わりにモチを入れて、お雑煮にする
※ 具はたまに牛になる
筆者が作る場合
1 パック詰めされている豚汁の具を買ってくる
2 里芋と豚肉を入れてともに煮る
3 味噌 ときどき しょう油
4 〆はカレー
※ 気分できのこを大量投下する