Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
すずなは混乱の極致にあった。
ご飯が終わったら、お風呂。
当然の流れではある。
……で、あるからして。
目の前に裸のノバラがいるのは別に不自然なことではないのだが。
(……こ、心の準備が……!?)
きっと顔を赤くしているであろうすずなをノバラが不思議そうな顔をして見ている。
これからお風呂に入ろうとしているのに、ノバラが動く度にふわりと甘い匂いがすずなの鼻腔をくすぐった。
「すずな? 何でちょっと赤くなってんの?」
「……な、何でって……? せ、先輩は恥ずかしくないんですか?」
すずなはノバラの裸体から目を離そうとして視線を逸らすがどうしても目に入ってしまう。
何せ、ノバラは自分の体を隠そうとしないので。
白い肌。平坦だがわずかに膨らんだ胸。その頂の桜色。
引き締まったお腹。窪んだお臍。その容姿に似合わないお尻から太ももにかけた肉欲的なライン。
「……? 別にあなたと入るのなんて初めてじゃないでしょ?」
「で、でも……あの頃とは違うじゃないですか……?」
ノバラとすずなの出会いから、七、八年は経っている。
その間にすずなは成長した。身も心も。
「……そう? あなたと最後に入ったのは四年くらい前かしら? でも、それくらいで何か変わる?」
ノバラはきょとんと首を傾げる。
ノバラは容姿こそ幼いが、達観した考え方のせいか、当時のすずなには相当な大人、『憧れのお姉さん』に見えていた。
その頃と比べても、ノバラのすずなに対する態度はまるで変っていない。
「いや、先輩は変わりませんけど」
「……ちびっ子、ひんぬーで悪かったわね」
自分が大人になった、と言いたかったのだが、別の意味で捉えたらしいノバラはちょっとムッとした顔をしながら、すずなの胸を見つめた。
いつの間にか、追い抜いたらしいほんのりと膨らんだ胸はノバラのコンプレックスを刺激しているようだ。
「そ、そういう意味じゃなくて!」
すずなは少し慌てて、自分の胸元を手で隠すが、そんな仕草すらノバラには理解してもらえていない様子だった。
「……?」
不思議そうに、だが、微笑みを浮かべるその姿は、すずなにとってはあの頃と変わらず憧れたそのままで。
「もう! 先輩! 早く入りましょう!」
すずなは恥ずかしさのあまり、逃げるように浴室に逃げ込んだ。
(ホントに、どうしてこうなった……?)
一人で入るには広めだが、二人で入るにはちょっと狭い。
そんな浴室の中ですずなはため息をついた。
◇◆◇
すみれが大食いなことは周知の事実である。
だから、彼女が食後にお菓子をパクついてるのは、何ら不思議なことではない。
しかし、千束とせりがそれに付き合って、ポテチやらチョコレートやらを口に運んでいる姿がすずなには意外だった。
「……せり、お腹一杯って言ってなかった……?」
すずなの呆れを含んだ声にせりは、口に含んでいたチョコレートを飲み込んでから答える。
「……へ? おやつは食事じゃないでしょ?」
……まさかの『デザートは別腹』を通り越してきた。
食事じゃないから、お腹一杯じゃないという謎理論である。
すずなは驚愕の表情をするが、せりは、不思議そうにしながら、新しいお菓子の袋を開ける。
「そうそう! デザートはコースの〆。おやつはおやつ!」
そして、千束もその謎理論に乗っかって、せりが開けたチョコレート菓子を頬張る。
その隣では、ざざぁっとポップコーンを口の中にいれて、ほっぺをパンパンにしたすみれがもきゅもきゅと口を動かしている。
(……マジか、コイツら……)
すずなは半ば呆れた顔を三人向ける。
一方でたきなとノバラはデザートに少し手をつけただけで、後は玉露を楽しんでいる。
ちなみにデザートはカットフルーツと白玉(余りもの)にサイダーを加えたお手軽フルーツポンチであった。
(あ、良かった。こっちは普通………………はっ!?)
常識的な二人を見て安堵したのも束の間、すずなは気づいてしまった。
……さて、ここで、ここにいる六人の食事量を考えてみよう。
すみれ>>>せり>千束>たきな>すずな>ノバラ
こういう順番である。
……そして、見た感じの胸の大きさの順番で並べてみる。
すみれ>せり>千束>たきな>>>すずな>>ノバラ
見事に一致する!
(なら、ウチもあの輪に入れば巨乳に!! …………なるわけないか)
すずなはこの中ではノバラの次くらいには日ごろの運動量が多いだろうが、ちょっとサボったり、食べ過ぎたりすれば、あっという間に無駄なお肉がいらんところに付くことは間違いない。
それにそもそもすずなにはこれ以上、お腹に詰め込むスペースがない。
お茶ならまだしも、ポテチやらチョコレートやらはまず手が伸びないだろう。
「……あちらはよく食べますね」
「せりも結構食べるんだねぇ?」
「……先輩が練習量キツくするから余計に、ですけどね?」
ちらりとすずながノバラの方に目をやるが、ノバラは素知らぬ振りをしている。
たきなとノバラの二人は忙しなくお菓子を食べている三人とは異なって、お茶を飲んで実にのんびりとしていた。
ほわっ、と一口飲んで頬を緩める様子は実に良く似ている。
「……すずな、特に食べないなら、お風呂入っちゃう?」
「ああ、そうですね。さすがに全員お風呂に入ることを考えたら、結構な時間がかかりますし」
ノバラの言葉にたきなが同意して、こちらをジッと見る。
「え? でも、ウチは最後で、いいですよ?」
「お客さんが遠慮する必要ないでしょ? 何なら私と入る?」
「へ? いや、あの?」
「よし! 決まり!」
「せ、先輩!?」
「
……こうしてすずなはお風呂場へ連行された。
◇◆◇
浴室内に入ったすずなは今、ノバラに髪を洗われている。
頭皮をマッサージするように動く指がくすぐったくもあり、気持ちよくもある。
(……そう言えば、昔から妙に上手だったなぁ……)
すずなは自分の髪を洗ってくれているノバラのことを考える。
DA札幌支部での訓練生時代。だらだらと訓練を続けているすずなたちを蹴散らしていったのがノバラである。
当時のすずなたち(少なくともすずな本人)は、調子に乗っていたといっても過言ではないだろう。
特に体力面で非常に優れていたすずなに引っ張られる形で、同期たちは同じ年代にしては頭一つ分くらいは優秀だった。
そこで謙虚に訓練を続けていれば、ノバラの投入、という事態はなかったのだろうが、良くも悪くもすずなたちは調子に乗った。
教官たちの与えてくる課題や訓練が簡単にこなせてしまうので、舐めてしまっていたのだろう。
そこに現れたのが、真っ黒な髪をした目立った風貌をしていない少女、ノバラであった。
その見た目から同年代か下だと思っていたすずなたちは、伸び切っていた鼻を折られまくった。
急に倍以上になった訓練を淡々とこなし、格闘訓練ではすずなたちを一人で相手にして平然としている。
……彼女は特別なんだ、と、そう思おうとしたが。
すずなたちがへとへとになって帰路に着く頃、未だノバラが一人自主練をしている姿を見て、すずなたちは自分たちを恥じた。
努力をするなんて当たり前。
……それをまざまざと見せつけられた。
以降、すずなたちはノバラとともに訓練をするようになり、徐々に他の訓練生も加わり始める。
すずなはそんな中でノバラに妙に気に入られ、浴場であった際には、互いに体を洗い合っていたりしたものである。
お湯で髪をすすがれたすずなは、水気をふき取ると、タオルで髪をまとめていく。
「先輩、次はウチが洗いますから」
「そう? じゃあ、お願いするわ」
すずなと入れ替わるように椅子に座ったノバラの白い背中がすずなの目に入る。
「……相変わらず、先輩、色白ですね」
わしわしと背中を洗い始めると、その綺麗な肌を意識せざるを得ない。
すずなは、少しでも意識しないようにするために、ノバラに話しかける。
「そう? 子どもの頃に引きこもってたせいかしらね?」
「……昔にもちらっと聞いてましたけど。あの千束さんと暮らしていたんですよね?」
今日、実際に千束とノバラの様子を見て、息の合い方を見ると、実に納得する姿ではあった。
……すずながちょっと嫉妬してしまうくらいには。
「……意外?」
「あー、まぁ……。先輩ってウチから見ると、『お姉さん』って感じだったので、あんまり誰かに甘えているのが想像つかなかったというか……」
「そうなの? ……札幌時代には、私だって、先輩たちに甘やかされていたと思うんだけど……」
すずなの言葉にノバラは苦笑気味だった。