Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ノバラとすずなが微妙な顔をしながら、お風呂から上がってきた。
(……珍しいな?)
スキンシップが好きでお風呂好きなノバラは大体誰かとお風呂に入った後は機嫌がいい。
そんなノバラが、何というか、変なこと考えて気持ち悪くなった的な顔でお風呂から上がってくるのはあまり見たことがない。
そんな千束の視線に気づいたのか、ノバラが若干恨めしい目で千束を見た。
「……私、お肉を食べれるようになったことをこんなに後悔した日は初めてだよ……」
「……はぁ?」
急に何を言い出すんだ、と千束はノバラを不思議そうに見る。
大体にして、過去の偏食振りがまるでウソであったかのように、今は何でも食べるし、若干食道楽な面が伺えるノバラである。
好きな食べ物が白飯やら餅やらの炭水化物なのは相変わらずだが、その次くらいには肉(というかたんぱく質)が好きなはずである。
説明求む、とすずなに千束は目線をやるが、こちらも青い顔をしている。
「…………先輩が昔、偏食だった気持ちがよく分かりました」
「……そうでしょう?」
何か変なところでは通じ合ったらしい二人はソファに座るとぐったりと疲れた様子を見せた。
「ノバラちゃんもすずなちゃんも何を言ってるの? お肉は幸せの味だよー!」
きらきらとした微笑みを浮かべたすみれがバンザイしながら、二人に詰め寄る。
お肉は最高、と語るすみれは尻尾振っている大型犬のようで実に可愛い。
そんなすみれを捕獲したノバラがもふもふとすみれを撫でまわす。
「あぁ~……和むわ~……」
「……先輩、ウチもウチも! はぁ~……和みますね~……」
唐突に二人に撫でまわされるすみれは、始めは目を白黒させていたが、その内、気にすることをやめたのか、ご機嫌に撫でまわされている。
(……そんなに精神汚染をされる話をしてたの? お肉で?)
千束の脳内では『本当に食べてしまったのか?』という言葉が思い浮かんだが、現代日本でさすがにそれはないだろう、と正解に近しい考えを排除した。
(……ジビエで当たった話でもしたんだろうか……?)
……それもそれで確かに怖い話ではあるのだが。
だが、まぁいつまでも、だらだら過ごすわけにも行かない。
次にお風呂にいくのは千束とすみれなのだ。
なお、千束とたきなでも良かったが、互いにちょっとこの中では、という気持ちが通じ合い、その組み合わせとなった。
「ほら、すみれ~。私たちも風呂入るぞ~」
「ふわ~い」
えへへ、と撫でまわされている中から器用に身を脱して、すみれは千束の後に続いていった。
◇◆◇
(……何度見てもデカいな……)
すみれが千束の部屋に泊まるようになってから、ほぼ毎日と言っていいほど一緒に入っているが、千束から見てもすみれの胸は圧巻だ。
スタイルの良さでは千束も相当自信があったのだが、さすがにすみれには負ける。
高い身長、長い手足、出まくった胸に対して、引き締まった腰、きゅっとしていても、張りのあるお尻。
言動が幼すぎるせいで、普段は美少女という感じがしないが、楚々と座っていれば、間違いなく超絶美少女ではある。
青みを帯びている、と言っていいほど美しくしなやかな髪は手入れをしなければ、もったいない。
すみれ本人に任せると最低限しかやろうとしないので、せめてそれくらいは、と千束が構っている部分でもある。
……髪の量が多いので大変は大変なのだが。
「……すみれ~、あんた、自分でちゃんと髪やれるようになりなよ?」
「え~……洗うの大変なんだよ? 分かるでしょ? いっそ、ノバラちゃんとか千束ちゃんみたいに短くしたいのに……」
首元辺りでばっさりと切りたい、というジェスチャーをするすみれに、千束は思いっきり首を振った。
「いやいやいや! ダメダメ、そんなの! せっかく綺麗な髪なのに……」
切るのは簡単だが、伸ばすのは大変だ。
「千束ちゃんもノバラちゃんと同じこと言うねぇ……」
くすくす、とすみれが笑う。
千束はノバラと考え方が同じという点が、なんとも面はゆくなって、誤魔化すように答える。
「私としては、あの子の髪も伸ばして欲しいんだけどね……じゃないと遊べないし?」
にしし、と千束は軽く笑みを浮かべるが、それに対して、すみれは難しそうな顔をする。
「……ノバラちゃんは、今の髪型気に入っているから、変えないと思うよ? ……たぶん、千束ちゃんが最初に切ったときから、ほとんど髪型変わってないでしょ?」
「……そういうところ、頑固なんだよね、あの子」
こだわりが強い、とも言えるが、ノバラは一度決めたことを中々変えようとしない。それは美徳でもあるが、千束としては、もうちょっと気楽でいいのでは、と心配になることもある。
「……頑固なんじゃなくて、大切なんだと思うよ?」
「うん?」
「千束ちゃんはさぁ……私がノバラちゃんに保護された話、知ってるよね?」
「ああ、ノバラから聞いた」
「私、ノバラちゃんから保護されたのは覚えてるけど、それより前の記憶ってよく覚えてないんだ……。だから、私の思い出って、ほとんどがノバラちゃん。後は、しれぇと、ここ最近では千束ちゃんたち。それだけなんだよ。……でも。いや、だから、かな? ちょっとした思い出がね、すごく大事なんだよ。それはノバラちゃんも同じだと思う。千束ちゃんが切ってくれて、千束ちゃんが可愛いって、言ってくれて。でも、離れちゃったから、少しでも傍で感じたくて……なんて、私がそう感じてるだけなんだけどね?」
すみれの考えに千束はしばし呆然とした。
……ノバラが千束との思い出を大事にしていることは、千束自身も分かっている。
無表情で分かり辛かったが、千束を本当に姉と慕ってくれたことも。
ノバラに寂しい思いをさせてしまったことも。
甘えたがりのくせに、甘えるのが下手くそで……だから、そんなノバラの行動は実に『らしい』ものではあるのだが。
不意打ち気味の妹の可愛らしさに、千束は顔を真っ赤にした。
(…………相変わらずノバラはこういうときの破壊力が凄すぎる)
「……あれ? もしかして、千束ちゃん、照れてるの?」
「……いや、ウチの妹、甘えるの下手なのに、破壊力高過ぎる、と改めて実感した」
「ああ! ノバラちゃん、たまにすっごい可愛いよね? ギャップがあるっていうか」
「すみれでもそう思うの?」
「うん! 私は基本甘える方なんだけど……ノバラちゃんが自分から一緒に寝ようなんて言うこと、滅多にないのに、真夜中に枕を持って、私の部屋に来て、頬を染めながら、『……今日は一緒に寝てあげてもいいわよ?』なんて言ってきたときは、もう! もう!!」
きゃー、と嬉しそうに声を上げるすみれ。
(……そら、確かに破壊力がありそうだな)
事実、すみれの表情を見る限り、表面を取り繕うくらいはしたのだろうが、相当興奮していたであろうことを伺わせた。
(……罪作りなヤツ)
すみれはノバラに対する好意を隠そうとしていない。
……いや、本人は隠しているつもりなのかもしれないが。
少なくとも周りにいれば、その気持ちは自然と窺い知れる。
何なら、リコリコの常連さんでも察しているレベルである。
その行為を向けられるノバラ本人が、自分と千束の関係から、家族に対してのもの、としか認識していないのが、何とも残念極まりない感じだが。
「……そんで? すみれはノバラと
すみれの髪と背中を洗い終えた千束が、後ろからすみれの胸を持ち上げつつ、悪戯っぽい声で耳元に囁く。
せっかく、凶悪な武器があるんだから、ちゃんと使えよ、という催促である。
「ん……でも、恥ずかしいし……ぁぅ……もし、拒否されたら生きていけない……」
むにむにと一頻り揉んでやると、すみれは恥ずかしそうにしながら、そう答える。
なお、すみれ本人は、ノバラが悪戯交じりによく揉んでくるし、千束とお風呂に入るとお互い揉んで揉まれてしつつ体を洗っているので、少なくとも千束に揉まれることに抵抗感はあまりない。
「あー……まぁ、気持ちは分らんでもないけど。すみれとあの子の家族関係が崩れることはまずないと思うよ? あの子は相当な覚悟をしているみたいだし?」
ノバラはあれで情が深いところがある。
まして、自分と似たところがあるすみれであればなおのこと。
恋人関係になれなかったとしても、今の関係が崩れることはまずありえない、千束はそう感じている。
しかし、すみれは、そこよりも別のところが引っ掛かったらしい。
「…………千束ちゃん、ノバラちゃんに何か聞いた?」
何かを探るような目線がすみれから、送られてきたので、千束は正直に答える。
「……あんたのためなら何でもする、ってさ」
その言葉を聞いたすみれは苦笑にも似た、諦念を含んだ笑みを浮かべた。
「……そう。
それは、まるで、その答えがくることを知っていたかのようであった。
「……すみれ、あんた、もしかして、あの子が何を企んでるか知ってる?」
「ううん。ノバラちゃんも、しれぇも。私にはそういうことは全然話さないから。でも、何か準備していることは分かるよ。ずっと見てきたんだもん。……私の病気とか、私が受けた実験とか、そういったことが関係しているのは分かる。……たぶん、しれぇは別だと思うけど、ノバラちゃんは、きっとそう」
「待て。ノバラと楓さんの目的が違う?」
千束としては、二人ともすみれの延命が第一目的だと思っていたのだが、すみれの見解は異なるらしい。
「うん? 見ていれば分かるでしょ? ノバラちゃんはたぶん私のことと……あと、何だろ? 自分のため、とも違うような、何か。しれぇは自分のことが第一で、私のことはあわよくば、って感じかな」
なるほど、よく見ている、と思う反面、千束の中では何かが致命的にずれたような感じがした。