Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
ギリ2月14日は間に合った!
「……来ちゃった♡」
開店前の喫茶リコリコの入口の扉を開けて、真っ白なリコリス制服に身を包んだ少女が、千束を見るなり、そう言って、えへへぇ、と微笑んだ。
DA本部の訓練生が、まさかの札幌支部への一本釣り。
……これには、千束もフキも愕然とした。
札幌に行ってしまえば、会うことは難しくなる。
だから、二年ほど、顔を合わせることができていなかったのだが。
「……え? ……ノバラ!? どうしたの急に!」
千束がノバラに気づくと同時、ノバラは飛び込むようにして千束に抱き着いてくる。
「あ~……ちさとおねえちゃんだ~……」
胸の辺りに顔を埋めて、大きく息を吸い込んだり、顔を摺り寄せたりと、相変わらずの甘えっ子振りである。
千束は若干苦笑しながらも、あやすようにノバラの髪を優しく撫でる。
「それにしても、アンタ、よくここが分かったわね?」
「……本部に行ったら、いなかったんだもん……。フキお姉ちゃんに教えてもらった」
ぷく、とノバラが頬を膨らませて、不貞腐れたような表情をする。
それが、また可愛らしいので、千束はその膨らませた頬をつんつんと突く。
「それならそれで、連絡くれたらよかったのに……」
ぷひゅう、と頬の空気が抜けると、ノバラはへにゃと顔を緩める。
(……昔の無表情振りがウソみたいだなぁ……)
「私、まだ、外用の端末持ってないし」
「あ、そか。……ん~、でも、おねだりして貰ったらいいんじゃない? お姉ちゃんもノバラと話せないのは寂しいなぁ~」
「えへぇ……じゃあ、『千束に』ちゃんと持てって言われたっていって貰う!」
電波塔事件を解決した『英雄』となっている千束はネームヴァリューがある。
それを表に出せば、上も折れざるを得ないというノバラなりの交渉術であろう。
「……それにしても、アンタのその服……」
サードでもなく、セカンドでもない。
その真っ白なリコリス制服は千束も見たことがないものだった。
「DA札幌支部研究開発部付
その言葉を聞いて、千束は目が点になった。
特殊作戦群構想は電波塔事件以前から検討されていたものであり、現在では、各支部に配備されているのは、承知していたものの、自分の妹分が所属するとは露ほどにも思っていなかった。
「エ、エクストラ~!? また、何だってそんなことに……」
千束は思わず頭を抱える。
何せエクストラと言えば、能力のある問題児を集めて、危険な任務にぶち込んでいるとまことしやかに噂されている部隊だ。
……大事な妹がそんなところに所属しているというのは実に頭が痛い。
「さぁ……? でも、おかげで東京に帰ってこれたよ! 恥ずかしながら帰って参りましたぁ!」
ばんざいして笑顔を浮かべるノバラを見れば、そんなことは承知の上であろうことが分かる。
(……危険だとしても、私に会いたかったってこと? ……ん~!! 可愛い!!)
千束はむぎゅむぎゅとノバラを抱きしめる。
「あ~! もう!! ウチの妹は可愛いなぁ~!!」
「苦しい苦しい! 苦しいよ、お姉ちゃん!?」
「ごめんごめん! でも離さん!」
「きゃ~」
千束はノバラを抱きしめつつ、脇を持って抱っこしたりぐるぐる回したりと大はしゃぎである。
それに対してノバラも実に楽しそうに笑っている。
一頻りきゃいきゃいと二人ではしゃぐと、カウンターの奥からミカが顔を覗かせた。
「千束? 随分、楽しそうだが、どうした……?」
「あ、ミカ先生だ!」
「うん……? ああ……確か、ノバラだったか?」
ノバラはミカを覚えているようだが(まぁ、黒人男性の教官なんて忘れようもないのだろうが)、ミカはうろ覚えだった。
純日本人的な容貌で、目立った特徴のないノバラはミカにはとても覚えづらい存在であった。千束の妹分ということで、辛うじて記憶に残っていたレベルである。
「はーい。札幌支部に行った、最上ノバラでーす」
ノバラが元気良く手を上げて自己紹介をすると、ミカは微笑まし気にそれを見ながら、ノバラの頭を撫でる。
「そうかそうか。よく来たな。……コーヒーは大丈夫か? 淹れてあげよう」
「先生、ありがとう! ……あ、こちらつまらないものですが……」
そっとノバラが取り出したのは、新千歳空港内でも売っている有名チョコレートであった。
「チョコレート……? ……タイミングも丁度良かったな。千束、常連さんが来たら、お前からおすそ分けしなさい」
「……うん? …………あー、あー! 今日って、バレンタインデーか!」
一瞬、千束はきょとんとした表情をしたが、カレンダーを見て気づいた。
「そだよ。……という訳で、はい。千束お姉ちゃん♡ 私の気持ちを受け取って♡」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにノバラが両手で差し出したの綺麗にラッピングされた箱だった。
流れからすれば、中身はチョコレートだろうが、ノバラから千束へ改まってのプレゼントというのは、初めてだ。
「おほー! マジで!? 開けていい!?」
感激でテンションが上がりまくった千束はきらきらと目を輝かせながら、ノバラの方を見る。
「どぞ、どぞ」
ノバラは千束が喜んでくれている様子をにこにことと微笑みながら見ている。
「お……おぉ~……これって、手作りじゃない?」
明らかに既製品ではないことが分かるホワイトチョコが中には入っていた。
真ん中には大きなバラが鎮座し、その周りには野薔薇が細かく散りばめられている。
「……こ、凝ってるなぁ……アンタが料理するようになったのは知ってたけど、ここまでできるようになってたのかぁ……」
「頑張りました!」
千束の驚愕にどや顔で答えるノバラ。
照れくさい顔でによによしながら、千束はノバラの頭を撫でる。
「ありがとう! 嬉しいよ、ノバラ!」
千束はそう言って笑うと、ノバラの前髪をさらりと分けると、お返し、とばかりに、その綺麗な額に、ちゅ、と口づけをする。
「……えへぇ」
千束の口づけを受けたノバラは嬉しそうに頬を緩めると、千束にきゅっと抱き着いた。
……だが、時計が目に入ると、ちょっと慌てたように離れた。
「あぁ! もう時間!?」
「え? もう!? ゆっくりしていきなよ?」
「昨日と今日しか時間取れなかったの! 千束が本部にいたら、いっぱいお話できたのに……」
ノバラの計画では、昨日、本部に泊まって、千束とフキと積もりに積もった話をするつもりだったのだ。よもや、千束が本部にいないとは大誤算である。ノバラの目的は半分と少ししか達成できなかった。
「ありゃあ……」
千束が残念そうな顔をするが、自分のせいでもあるので、あまり強くも言えない。
ノバラはもう一度千束に抱き着いて、その香りを自分にしみ込ませる様に大きく吸う。
「ごめんね! 千束! ……んぐんぐ。先生、コーヒー御馳走様! じゃあ、またね!」
とても短い、姉妹の再会は実に慌ただしいものだった。
ぱき、と千束はチョコレートを齧る。
「ん……あまぁい。おいしい」
見た目にも味にも、ノバラの努力の跡を感じて、千束は誇らしくなって笑みを浮かべる。
「さぁて! 次はいつ会えるかな?」
◇◆◇
「……えへ」
帰りの飛行機の中で、ノバラは少しだけだらしなく、頬を緩めて、千束の唇がふれた額を触る。
「ちゃんと、気づいてくれたかな? 私の本命チョコだって」
今、一番、大好きな人。愛する人。
そういう想いで初めて作ったバレンタインチョコレート。
そこには、自分と同じ名の野薔薇の花言葉の意味を込めた。
……『素朴な愛』を。