Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
百合神たきな(又は たきな神)
番神とも呼ばれる博愛の女神ちさとが病を押して戦場に赴き、
悪神マジマとの闘いで危機に陥っていたところ、
百合神たきながその窮地を救ったと言われている。
また、病により冥府へ行く準備をするため姿を隠した番神ちさとを連れ戻すため、
自らその地を探し出し、番神ちさとを見つけ出すと求婚して、神界に連れ戻した。
同性ながら、才能に溢れ、美の女神に愛されていた番神ちさと射止めたことから、百合神と呼ばれるようになった。
恋愛成就(同性)の霊験が有名となり、主として女子中高生を中心に信者を増やしている。
……かもしれない。
てかてかしている千束とたきな、せりとすずなに対して、ノバラとすみれはしおしおだった。
それでもいつもの通りに起きて、日課を済ませたノバラは、昨夜の芋煮を見事な三種のカレーに仕上げた。
コクを深めた牛肉の入ったカレー。
果物の甘さを感じる甘口カレー。
スパイスの香りと辛さが引き立つ辛口きのこカレー。
リビング側のソファに座って朝食を摂っているノバラの両隣は、せりとすずなが占拠していた。
「ん~! ノバラさんの作ったカレー、おいしいですね~! ……あ、ノバラさん、食べさせてあげましょうか?」
「……自分で食べられるわよ、せり」
ノバラの隣に陣取ったせりは、意味もなくノバラに体を密着させつつ、ノバラに笑顔を向けて、色々と構ってくる。
ノバラはそんなせりに若干疲れ気味に対応している。
「あの、ノバラ先輩……ウチの作ったオムレツはどうですか……? 美味しくできてますか……?」
「ええ。おいしくできているわよ、すずな」
一方のすずなはすみれからノバラの隣の席をぶん捕ったものの、そのときの強気な対応とは反対に、おずおずと心配そうな瞳でノバラを伺っている。
すずなが不安そうにしているからか、ノバラの対応はちょっとだけ優し気である。
そして、そんな三人をダイニングテーブルからすみれは涙目で見ていた。
「……ノバラちゃーん……!」
せりとすずなが、ここに来てアピールをしているようではあるが、そんな程度でノバラが陥落するとは思えない。
しかし、すみれは気が気ではないようで、恨めし気な表情で三人を見ている。
千束はそんなすみれの頭を撫でながら、ノバラの作ったカレーに舌鼓を打っていた。
「……よしよし、すみれ。あの二人、今日のところは本部に帰るんだろうから、ちょっとくらい許してやれー」
「ぇう……でもでも、千束ちゃん! 二人とも、仙台に来ることが決まってるんだよ……!?」
「おー……ようやく危機感が出てきたな」
面白くなってきたな、と千束がにしし、と笑う。
一番味方になってくれそうな人が完全に面白がっているので、すみれは、がーん、とショックを受ける。
「何でちょっと嬉しそうなの!?」
すみれはうるうると目を潤ませて、千束を見るが、そんなすみれを見ても、千束はカラカラと笑った。
「バカだなー、すみれは! ドロドロのぐちょぐちょなんか大好物に決まってるでしょ!? ……ねぇ、たきな!?」
千束はアクション映画が大好きだが、昼ドラのドロドロしたヤツもそれはそれで大好きだ。
……妹たちが主人公なんて面白すぎる見世物である。
「……ノーコメントで」
たきなは明言を避けたが、ちょっと頬を染めている様子から、千束と同類であることが伺える。
……すみれはしょんぼりした。
「……二人して、すみれのこと、応援してくれないんだぁ……」
「ん? 応援はしてるよ? 面白がってるだけで」
「……千束ちゃーん!?」
ぷっくぅ、と頬を膨らませたすみれが、千束に抗議の視線を送る。
「……でも、すみれ? 千束ではありませんが、むしろ、今まであなたの危機感が薄すぎたんだと思いますよ?」
「……う?」
たきなの言葉に、すみれは首を傾げる。
「正直、ノバラは優良物件ですよ? 可愛いですし、料理も上手ですし、何だかんだ言いながらも、気遣いできますし? 千束がいなかったらお嫁さんに欲しいくらいです」
「それな! 私もたきながいなかったら、妹じゃなく、嫁に欲しいわ」
たきなと千束は互いに目線を交し合って、お互いにぽっと頬を染めた。
人をダシにして、さり気に惚気ているのだが、すみれにそういった機微をさっする力はあまりない。
だから、言葉通りに受け取って、泣きそうになりながら、二人を見る。
「だ、ダメだよ! ノバラちゃんは、すみれの!」
ぎゅっと目を瞑って、拳をぶんぶんと振って、ノバラは自分のだ、と言い張るが、そこにたきなが待ったをかけた。
「そうそう、それです! すみれは、あまりにも当たり前にノバラが自分の近くにいてくれると思いすぎです」
「……え?」
確かにすみれは、ノバラは当然、ノバラは自分の近くにずっといてくれると思っていた。
だが、たきなの言い分ではどうやら違うらしい、と理解してすみれは捨てられた子犬のような目をする。
「ノバラは確かにすみれを保護してくれた人で、すみれを可愛がってくれているでしょう。すみれもそんなノバラを頼りにしているのは分かります……でも、そんなノバラを自分の側に引き留められるほどのことをしていますか?」
すみれはそんなことを考えたことがなかった。
精神的に幼いせいもあるが、無条件にノバラは自分の味方だと思い込んでいた。
だが、確かに、今のせりとすずなの様子をみて、自分が不安に思っているのは、まさにその点であると気づく。
「……すみれ、あえて、厳しい言い方をしますよ? 妹としてなら、今の関係を続けるのは難しくありません。ですが、それ以上を望むというなら、それ相応の覚悟も必要ですし、努力も必要です。ノバラにちゃんと恋愛対象として見てほしいというなら、例え関係を壊すことになるとしても言葉にすべきですし、そう見て貰えるような努力が必要です。着飾ってもいいですし、すみれが料理をするのでもいい。でも、そういったことすらなしにノバラを繋ぎ止めるのは難しいですよ」
確かに単なる妹であれば、いずれ疎遠になる可能性はあるが、今の関係を続けることができる。だが、すみれの心情としては、恋愛対象として見て欲しいのである。
「……せりとすずなはせっかくできた恋のライバルなんです。その二人に対して、すみれは押すんですか、引くんですか? 引けば今のままの関係は維持できると思います。でも、押せば全て失うかもしれない、その代わりにノバラの全てを手に入れることができるかもしれません……さぁ、すみれ、選びなさい。あなたの運命を」
一歩引けば守れるものがある。だが、前に進めば、リスクもあるが、全てを得られる可能性もある。
これは、せりとすずなという存在がライバルとして立ちはだかったことで、初めて生まれた選択肢であった。
その『信託』をすみれは手を合わせて、祈る様子をする。
「……『たきな神』様……」
すみれは、たきながそう呼ばれる意味が分かった。
会いに行ける神様。そして、その信託も納得理解できるものだった。
「え、あの……ちょっと待ってください。何ですみれまで、私のことを『たきな神』呼ばわりなんですか……!?」
ショックを受けているたきなから、視線を逸らして、千束は素知らぬ振りをする。
ノバラは当然知っているが、千束もしれっと聞いていた。
それを面白おかしくすみれに吹き込んでいた結果、今ここに、新たな百合神たきなの信者が生まれることとなった。
◇◆◇
……そして、すみれ、せりという信託を直接聞いた巫女が生まれたことにより、リコリスと訓練生の間では、よりその信者を増やしていくことになるとは、このとき誰も思っていなかった。
結果、御神体とその番の尊い姿を拝むため、喫茶リコリコにリコリス達がよく訪れるようになったほか、派生した噂により、近隣女子高生たちが多く訪れるようになったことで、喫茶リコリコの売上げが上がったという。
「……計画通り!!」
後に、千束はそう宣ったようであるが、誰一人信じなかったという。