Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
厄介そうだなぁ、と頭の隅で考えながら、サクラは楠木の顔を伺った。
「……だが、まぁ、幸いにして、面識があるヤツらだったからな。調整は比較的マシだった。……この案件を引いた運の悪さが誰のせいかは知らんがな?」
「……楠木さん、暗に私のせいって言ってる?」
不本意です、と言わんばかりにノバラが頬を膨らませている。
「……リコリス史上最も不運だと言われているだろう?」
楠木の茶化すような言葉に、サクラは思わず、ぷっと噴き出した。
「あっはっは! お前、そんなこと言われてんの!?」
「私が好きで引いてるんじゃないよ!? お偉方がそういうのを押し付けてきてるんだよ!?」
そう。別にノバラが厄介な案件を引いてくるというよりは、お偉方が厄介になりそうだな、と思う案件を嬉々としてノバラにやらせようとするから、そういう事態になっているだけで、ノバラの運が悪い訳ではない。たぶん。
「……あのな、ノバラ。普通はそんなに何度も引けないだんよ。お前は年齢一桁からリコリスやってるし、ケガらしいケガしていないから、そうなってるだけで、普通のリコリスは大体十六から十八までの短い期間で、その期間でそういうのを引いたなら、生きて帰ってこれたら、儲けもん、くらいのものだからな?」
ふくれっ面のまま、顔を赤くして怒っているノバラに楓が諭すような口調でそう言うも、ノバラは、納得いかねぇ、と不服そうな顔をしている。
楓の言う通りだろうな、とサクラも感じていた。
……リコリスの殉職率は低くもない。
特に厄介な案件では猶更だ。
それを平然と何事もなく熟して、無事に終わらせて帰ってくる。
そんなリコリスが入れば、確かに厄介な案件はそのリコリスに集中するだろう。
損耗が出ることが分かりきっているところに自分の人員を注ぎ込むより、対応できる者がいるなら、それに任せるのが当たり前だ。
だが、それを繰り返していれば、育つものも育たない、というジレンマもある。
特に死地を潜り抜けてきたものは、ぬくぬくとした生活していないものとは切れ味が違う。これは最終的に戦力差というところに明確に出てきてしまうのではないか、と考えた。
そして、ちょっと前のDA本部が正にそう言った状態になっていたことを思い出す。
『性根更生会ノバラ組』を筆頭とした、再訓練生が大きなヤマに何件か出撃させ、それなりの経験を積ませることはできた。結果、訓練のおかげでもあるが、サクラ自身も含め彼女たちは一皮むけたようにも思う。
(……いや、ノバラが東京に来たのはそれも理由か? 戦力の平準化。特に連携を取るんであれば、練度に差があっては上手くいかない)
「もう……司令までー。デカい! ヤバい! って案件なら千束だってそうじゃない!」
「アレもアレで派手なのばかり当たっているな……」
「姉妹揃って、そういう星の下に生まれてんのな」
サクラが、可笑しそうにけけっ、と笑う。
「……うーん。私も千束も別にやりたくてやってるんじゃないのに」
少しだけ不貞腐れたような表情をするノバラ。
サクラはそんなノバラの頭を撫でてやった。
「……有効な戦力をというと、どうしても、お前たち二人が出てきてしまうな。だが、まあ……今回の作戦を無事に終えれば、国内外のテロリスト共も大分大人しくなるだろう」
「……そんなに大きい作戦なんですか?」
「……一つ一つはさほど大きくはない。お前にこの間参加してもらった任務もそのうちの一つだしな。だが、全体の規模として見れば、延空木事件以上だろう」
「アレ以上ですか……しかし、その割には……」
リコリスの動員は、あのときほど大がかりに行われていないし、引退などで欠員となったものも少ない。
「……どこぞの高性能AIと、練習バカがきっちり念入りに潰しまくったからな」
「……てへ?」
ノバラが軽くウィンクしながら、サクラに微笑んだ。
(……なるほど、ノバラが本部の肩書も貰っていたのはそれも理由か)
あくまでDA本部とDA仙台支部の共同戦線である、ということだ。
仮にノバラが仙台支部の肩書だけで動いていれば、多少の越権はあるにせよ、全てが仙台支部の手柄となってしまう。
……それでは本部の面目が丸つぶれになる。
だからこそ、ノバラを出向という形で派遣し、更には『DA本部臨時特別選抜部隊隊長』などという肩書も用意した。
(……複数の敵拠点の制圧、臨時訓練部隊の隊長に、臨時作戦指揮官……加えて言えば、喫茶リコリコの店員もか? ……一人で何でもかんでもやり過ぎだろう……)
サクラは若干呆れた様子で、笑顔を浮かべているノバラを見る。
きょと、とこちらを伺う様子は年下の少女のそれに違いない。
しかし、この少女はリコリスとしては十年近く、ファーストとしても五年ほどの経験を積んでいる。経験年数的には当然、千束、フキに劣るが、修羅場を潜り抜けた経験数ではノバラが上回る。
その実績と実力が、一人にそれだけの任務をさせても問題ない、と信頼されている証でもある。
(いいねぇ……! 燃える!)
自分の追っている背中の遠さを感じる。
……だが、それがいい。
目標大きければ大きいほど、甲斐があるというものだ。
「それで、楠木司令。あたしは何をやればいいんです?」
にや、とサクラが獰猛な笑みを浮かべる。
「……簡単に言えば、ノバラたち本隊の移動に釣られて出てくる
それはつまり……。
(ハハ……東京近郊だけなら、テロリストどもを全て駆逐するってことか!)
さすがに全ては言い過ぎであろうが、威嚇としての効果は期待できるし、こちらの戦力分析を進めれば、費用対効果に合わないと内外に示すこともできるだろう。
いずれにしろ、当面の間、東京近郊の安全の確保ができる。
「ま、そっちは派手なドンパチにはならないだろうから、いつもの仕事をいつも通りにやればいいだけだよ。規模は大きいかもだけど?」
ノバラは簡単にそう言うが、フキのチームは比較的ドンパチが多めの現場が多いし、今回結成されたサクラのチームもそれを踏襲することになるだろう。
……もっとも、ノバラからすれば、そのくらいであれば、派手ではない、というに認識なのだろうが。
「……ってことは、そっちは派手にやるのか?」
「さぁて? どうなの司令?」
「最低で少数精鋭の三つ巴だが……言うほど派手になるとは思えんな。コレと千束が主戦力だぞ?」
コレ呼ばわりされたノバラがちょっと不服そうに唇を尖らせている。
千束が正面を守り、ノバラが裏から狩る。
これが機能するとすれば、確かに派手にはならない可能性が高い。
しかし、サクラの胸には、ちり、と違和感があった。
「へぇ……千束さんも出るんですね」
「こっちは攻めじゃなく、守りと逃げだからねぇ」
拠点潰しをするサクラたちが攻め。
おそらく何等かの重要人物を護送するノバラたちは、守りつつ逃げる。
その理屈からすれば、千束がノバラたち側なのは分からないでもない。
千束は攻めには使いづらいからだ。
その意味は分かるが何とも変な感じがした。
「……ま、そういうことにしといてやるよ」
楠木がその辺りの事情を話さない、ということは、サクラにはまだ話せない、ということなのだろう。
「細かい部分はまた後でしっかり話してやろう。護送本隊はノバラを指揮官としたDA仙台支部が、東京近郊内のテロリストアジト強襲は、サクラ。お前に任せる」
少しだけ武者震いのように体を震わせると、サクラは軽く頷いた。
「拝命いたします」
ソファから立ち上がり、直立不動の姿勢からサクラは楠木に対してお辞儀をした。
サクラが頭を上げるより早く、ぽんと楠木に肩を叩かれる。
「……頼むぞ」
僅かに微笑んだ楠木には、サクラに対する期待と信頼が認められる。
「はいっ!」
それを感じながら、サクラは笑みを浮かべながら返事をした。