Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
司令室を退室したノバラとサクラは一緒に歩いていた。
そこで、改めてノバラがサクラに向かって、笑いかけた。
「やったね、サクラ!」
「おうよ、やってやったぞ!」
そう言って笑うと同時、サクラは後ろに回るとノバラの首を絞めた。
「……だけど、せりとすずなをまんまと引き抜きやがったな、このっ!」
これに関しては、サクラ自身、ノバラを責めるのは筋違いだと納得している。
だから締めているとは言って、後ろから首の辺りに抱き着いているだけだ。
「あはは。フキに、『ちゃんと手続きしない、お前が悪い』とか言われたでしょ?」
「そうだよ!」
「じゃあ、良い教訓になったね?」
「……次からは書類仕事も嫌わないでやらないとな」
新任のファーストであってもある程度部下の希望を述べることもできるのだが、その事実を知らないままファーストになっているものも多い。
その場合は、他のチームで良さそうなのを引っ張られてしまい、いざ、チームができたとき、チームバランスが悪かったりと途方にくれることもある。
サクラにとって幸いだったのは、急なファーストへの昇格で、同時期になるものがいなかったこと、そして、『ノバラ組』に参加していたものをほとんど引き継ぐことになったことだ。模擬戦のほか、大規模作戦にも参加していて、見知っているものも多いし、何より彼女たちは、今では集団戦闘技能は相当上がっている。
新人という言え、相当先鋭化された彼女たちは戦力として十二分だった。
「……まぁ、かやを残してくれたのは助かった」
「フキはオブザーバーで、ヒバナ、エリカは手伝ってくれるんでしょ?」
「まぁな。さすがに、先輩たちなしであの報告書書くのは無理だと思った」
「やっぱり、サクラはもうちょい、書類仕事を勉強しなきゃだねぇ……」
とそんなことを話しながら、歩いていると、胸の辺りが大きく揺らしながら一人の少女が走り寄ってくる。
「……ノバラさーん!」
せりはそのままノバラに駆け寄ると、ノバラの右腕にしがみつく。
そして、まるでノバラを誘惑するかのごとく、その腕を自分の胸に挟むようにしながら、押し付ける。
「もう、帰っちゃうんですか……? ……私たちのお部屋に泊まっていってくださいよぅ……?」
うる、と目を潤ませてせりは上目遣いでノバラを見る。
極めてあざといが、それはそれ。
可愛いものは可愛い。
さすがのノバラもあまりのせりの可愛らしさにくらりとくる……訳もなく。
「……せり……あっつい!」
「ゃん!」
ノバラは腕を引くようにしながら、せりの腕を外すと同時に、腰の後ろ辺りに手を伸ばすと、斜め方向に押し出して、せりを体から引き離した。
「もう……一体どうしたって言うの?」
「だって、このくらいしないと、ノバラさんには伝わらないでしょう?」
「だからって、場所考えて? ここじゃ色々目立ち過ぎる」
遠目でノバラたちの様子を見ているリコリスが顔を赤くしながら何やらコソコソ話している。
ノバラが唇を読んでみた限り、『あれって、そういうこと?』『せりってば積極的~』『……鬼の隊長さんじゃん。あの人にあれ通じるの?』『だって、せりのおっぱいだよ!』『あー……あれは凶器』などと言っているようだ。
後のことを考えるだけでも頭が痛くなる。
「だからいいんじゃないですか!」
「……確信犯だったか……」
はぁ、とノバラがため息をついていると、せりとは反対に、静かに近寄ってきたすずなが、きゅ、とノバラの制服の左袖を引っ張って自己主張する。
「……あの、ノバラ先輩。……ウチも、できれば……部屋にきて欲しいです♡」
普段は元気一杯のすずなが少しだけ顔を赤くして、しおらしくもせりと同じように自分たちの部屋に泊まるよう勧める。
そんな三人の様子を見ながら、サクラは、思わず顔を引き攣らせた。
(いやいや、まぁ、確かに? ノバラは小柄で可愛らしいし、面倒見もいいし、料理も上手いし、強いけど、あのせりとすずながこんなになるのか!?)
サクラから見たせりとすずなの様子は完全に恋する乙女のそれに見えた。
(……これに加えてすみれもか? まぁ、本人は至ってノーマルなのは分かるが……こりゃ、大変そうだな)
そう思い、サクラはノバラに助け船を出すことにする。
「残念だったな、せり、すずな! ノバラはこれからあたしが送って帰る予定なんだ」
「……そうね、その件はまた来た時に考えるわ」
サクラのフォローにノバラ追従した。
ノバラは、まさか、サクラがそんなことを言うとは思わなかったため、少しだけその意味を理解するのに、時間がかかってしまった。
「えー……次は絶対ですよ?」
「そうですよ、先輩、ちゃんと約束してください」
「可能な限り善処はするわ……行きましょうサクラ」
実にお役所的な玉虫色の回答でノバラは明言を避けた。
サクラを伴って、その場を後にしたが、背後ではせりがのんき手を振っているのに対し、すずなは恥ずかしそうに小さく手を挙げて振っていた。
「はぁ……ありがと、サクラ。でも、送ってくのって本当に大丈夫?」
「へっへっへぇ~……実は見せびらかしたいものもあるんだよ!」
そう言って、サクラがノバラを連れて行った先はガレージである。
きょろきょろとノバラが回りを確認していると、サクラが黒いヘルメットを投げて寄越した。
「……へへっ! どうよ! あたしの相棒は!?」
そして、サクラが見せてきたのは真っ赤なイタリア製の大型バイクであった。
「お、おぉ~~~!! うわぁ、いいなぁ……三番目のファントムが乗ってそうなやつじゃん!」
「後ろに乗せるのお前が初めてだぞ? 光栄に思え!」
「ははぁ! ……そんじゃありがたく……でも、サクラ。安全運転でね?」
「わぁ~ってるよ! ……そんじゃ、行くぞ!」
そして、サクラとノバラは出発する。
◇◆◇
高速のSAで休憩しつつ、サクラはスポーツドリンクを飲んでいるに対し、ノバラはコーヒーを飲んでいた。
「しっかし、あの二人、一体何の心境変化があったんだ?」
突如の二人の変わりように、サクラも首を捻った。
「せりに引っ張られる感じで、すずなも意識的にやってはいるみたいだけど、……『たきな神』の影響力が高過ぎてちょっと怖い」
ボソッとノバラが言った言葉にサクラも苦笑気味であった。
「あー……リコリスと訓練生で噂になっているアレか。じゃあ、何か? あの二人、たきなのお告げで動いているのか。……大変そうだな、お前」
たきな本人は別に『お告げ』などとは当然思っていないのだが、聞いた方は霊験あらたかな『たきな神』の言葉として受け取るから問題なのだ。
「ま、このくらいなら、迷惑にもなんないよ」
多少、ボディタッチが多いくらいである。ノバラを誘惑しようという気持ちはあるのだろうが、如何せん、ノバラ自体がそういうことに興味がないせいで、どれだけ、そんなことをしてもあまり効果はない。
……ただ、ノバラとしては、二人がそういう気持ちである、ということは理解したつもりなのだが。
「ならいいけど。あたしは、お前のこと、ダチと思ってるんだからよ、相談があるならちゃんとしろよ?」
「ふふ。ありがと」
ノバラの言葉を聞いて、サクラはもう一度エンジンをかける。
「さて、これで半分くらいか。もうちょい掛かるよな?」
「そうだね……ま、あっちに着いたら、デザートぐらい奢ってあげるから」
「お! そりゃいいな! 旨いのを頼むわ!」
打ち上げでのノバラの料理を覚えているせいか、サクラは嬉しそうに少し笑うと、バイクを発進させた。