Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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137 reconciliation

 ……遠くにバイクの排気音が聞こえる。

 

(……良い音してんなぁ……)

 

 ランチタイムの終わったお昼過ぎ。

 

 もうじきおやつタイムで混み始める少し前の時間であり、千束はカウンターに肘を付きながら、その音を聞いていた。

 

 千束はスーパーカーも好きだが、当然のごとくバイクも好きだ。

 

 その音を聞くだけで若干そわそわしてしまう。

 

(大型かぁ……いいなぁ……)

 

 千束自身、バイクも当然乗れるのではあるが、大型バイクは普段使いするには敷居が高く、通常は乗ってみてスクーターくらいなのだが、乗ってもいいなら当然乗りたい。

 

 何なら高速道路をフルスロットルで駆け抜けたい!(良い子はマネしてはいけません)

 

「……千束? どうしたんですか? ボーっとして……」

「あ、ごめん。良い音してるなーって思ってさ」

 

 千束の言葉にたきなも少し耳を傾けるような仕草をして、その音を探った。

 

「……バイクですか?」

「そうそう、いいよねぇ! バイク!」

 

 千束は目をキラキラさせながら、たきなに笑いかける。

 無邪気な少年のようなその瞳と笑顔はとても可愛らしいもので、たきなも思わず、どきりとするが、千束の可愛らしさとその言動に同意できるかはまた別の話である。

 

「……そうですか? 車の方が落ち着けると思いますが。冷暖房効きますし」

 

 たきなとしては、寒かったり、暑かったり、雨に塗れたりと屋根付きの普通自動車がある中で、わざわざ不便な自動二輪車に乗る意味を見出せないでいた。

 

 しかし、そんなたきなに向かって、千束は右手の人差し指を立てて、横に振る。

 

「分かってない! 分かってないなぁ、たきな! 冷暖房が効くからとか情緒のないこと言わないで!」

「は、はぁ……」

「風を切り裂くスピード感! あの空気がバチバチっと体に当たる感触が堪んない! 雷鳴の如く奏でられるエキゾーストノート! 重厚なメロディのお腹に響くようなあの感じ! ……くぅぅ! 最っ高っ!」

 

 ぶんぶんと拳を握って力説する千束には申し訳ないが、たきなにはまるで理解できなかった。

 

(……寒いし、うるさいだけなのでは……?)

 

 そうは思うものの、千束がこれだけ力説するのであるから、水を差すというのは野暮なものだろう。

 たきなはにこりと微笑むと沈黙を選択した。

 

「……ん? あれ? もしかして、こっち来てる?」

 

 千束は思わず立ち上がると、わくわくしている様子で、入り口の方へ向かった。

 

 ふぉん、ふぉぉぉん、というその音は確かに喫茶リコリコの目前まで来ているようだった。

 

 ちりん、と入り口のドアベルを鳴らしながら、千束が外に出ると、まさにその音の主が店の前までバイクを走らせて来ていた。

 

「ふぉぉぉ!?」

 

 千束が興奮したように声を上げる。

 真っ赤なイタリア製のその大型バイクはもろに千束の好みだった。

 乗り手は一体どんな人なのだろう、と目を向けてみると、見慣れた赤い制服が見えた。

 

(な、何だと……ファースト!? 最近のファーストはこんなの乗れんの!?)

 

 自分はスクーターで我慢しているのに、と千束は嫉妬の目線でそのバイクの主を見る。

 

 ……しかし、視線を向けた運転手よりも先に、その後ろにくっついていた、小っちゃいのが先にバイクから降り立った。

 

「ひゃぁぁぁ! ……最っ高に気持ちいいね!」

 

 黒いヘルメットを取った、薄緑のリコリス制服を着た少女は千束たちには見慣れた顔だった。

 

「……ノ、ノバラ?」

「あ、ただいまー」

 

 ひょこっと手を上げながら、満面の笑みを浮かべるノバラ。

 

 そんなノバラを見ながら千束は考える。

 

 ノバラを後ろに乗せてバイクを乗れるような仲良しのリコリスは数が限られている。

 自分か、フキか、たきなか……他に何人もいないだろう。

 

 当然に自分とたきなは選択肢からは外れる。

 そして、ファーストとなれば、その選択肢は更に狭まる。

 

 すると思い浮かぶのは、フキということになるが、彼女は大型のバイクを乗り回せるほど体躯に恵まれていない。

 

 しかし、そうすると千束には、思い当たるリコリスがいなかった。

 

(一体誰だ……? 羨ましい……)

 

「さすがにノバラはよく分かってんな! 最高だろう!? あたしの相棒は!」

 

 そう言いながら、赤いヘルメットを取った下にあったのは、ついこの間まで、セカンドであった、乙女サクラの顔であった。

 

◇◆◇

 

「おめでとう、サクラ」

「あぁ。ありがとさん、たきな」

 

 千束は思いのほか親しげな二人に、おや、と思う。

 

 模擬戦の打ち上げのときもそうだったが、この二人、あれだけバチバチやりあった過去があるのに、妙に仲が良さそうだった。

 

「……アンタたち、そんなに仲良かったっけ?」

 

 千束は思わず不思議そうな顔をして、そう言った。

 

 たきなは、そんな千束を微笑ましいものを見る目で見ながら、くすり、と微笑み、厨房にいるノバラは可笑しそうにしながら、口元を押さえた。

 

(あれ……? 私、何か変なこと言った……って、ああ!?)

 

 たきなとノバラには、千束がサクラに嫉妬しているように見えたようだ。

 

 ……確かにその感情はなくはないが、今回は純粋な疑問の方が強い。

 

「くす……まぁ、私とサクラのそもそもの立場の違いがあったんですから、仕方ないです。確かにサクラの視点から見れば、サクラの言っていることが正論でしたし」

「……正論だとしても、結果、当たりを引いていたのはたきなだろ? それに、ある意味命の恩人だしな」

「ああ……それもあるのか」

 

 延空木事件の際、電源少ないエレベーター内でサクラは負傷していた。

 司令部からの指揮は、撤収だったが、フキはリコリスの使命を果たすべく、千束の救援に向かうべきだと主張していた。

 結果、たきなが独断で救援に向かうということで折り合いを付けて、フキは折れ、サクラを救うことができたのだ。

 

「……それに、誰かさんは行方を晦ましましたけど、サクラは入院してたんです。お見舞いくらい行きます」

「こっちも、たきなが色々気を遣ってくれたんで助かったんで。まぁ、お互い水に流そうってことにしてんですよ」

 

 二人の話を聞けば、なるほど、と納得できる話ではあるのだが、何で今までそれを知らなかったんだろう、とモヤっとする。

 

「……人はそれを嫉妬という……」

 

 千束の耳元でノバラがボソッと呟く。

 

「ぐぬぬっ……」

 

 ノバラの言葉に悔しそうな顔をする千束。ノバラはそれを見ながらくすくす笑いつつ、サクラ用のスイーツを運んできた。

 

「はーい、サクラ。最近一番人気の、『ノバラちゃんスペシャル』こと『ずんだとあんこの共演。白玉にバニラアイスと生クリームを添えて。黒蜜きなこ掛け』だよ。……まぁ、今日の下ごしらえは私じゃないけど。コーヒーでもいいんだけど、お抹茶でどうぞ」

 

 千束は、『抹茶!?』と思い、サクラに配膳された料理を見ると、確かに綺麗に抹茶を点ててあった。

 ……ミカでなければ、これほど器用に抹茶を点てるのはノバラ以外にはあるまい。

 

(……本当に凝り性だな……。茶道もかじっていたか)

 

「うは! 旨そうっスね! ノバラ、これ、ホントに驕りでいいのか?」

「へーきへーき」

「そんじゃ遠慮なく!……ん~! うんまい!」

 

 パンパン、と膝を叩きながら、満面の笑みを浮かべるサクラ。

 ノバラは、そんなサクラを見ながら、クスクスと笑みを浮かべる。

 

「サクラを見ていると作った甲斐があるよ」

「お、そんじゃあ、また来ようかな?」

「ふふっ……後輩も連れてきて、売り上げの向上に協力してね?」

 

 ちゃっかりとノバラが後輩から売り上げを吸い上げようとしている点がちょっと気になるが、反対するほどではない。

 

 千束はまだ見ぬ後輩たちが、リコリコを訪れて微笑みながらスイーツを堪能している姿を想像する。

 

(……そんな未来が来たらいいな)

 

 千束は楽しそうにしているノバラとサクラの姿に未来のリコリコの姿を夢想して、ちょっとだけ幸せそうに微笑んだ。

 

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