Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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「サクラ~、ねぇ、お願い? ちょっとだけ乗らせて?」

 

 帰路に就くため、ヘルメットを被ったサクラに、千束が抱き着きながら、うるうるとした目で懇願する。

 

「しつこいっすよ、千束さん!? 絶対貸しませんからね!?」

 

 スイーツと抹茶を頂き終えた後から、千束のバイク貸して攻勢が続いている。サクラは適当にあしらいながら、たきなとノバラと談笑していたのだが、千束はまったくめげずに、こんな有様だった。

 

「ほら、千束! サクラに迷惑でしょう?」

 

 たきなが千束の腰の辺りを引っ張るが、中々外れない。しかし、横に来たノバラが、千束の腕に触れるや力が抜けたようになり、サクラはその瞬間を見逃さずにするりと千束の腕から抜け出す。

「あぁっ!?」と千束が声を上げながら、なおもサクラに縋ろうとするので、たきなが引っ張り、ノバラが前から押さえる。

 

「サクラ! もう行っちゃって! ごめんね、追い出すみたいで!」

「あ~あ~、苦労してんなぁ、お前……また、来るよ。今度はお前の教え子たちも連れてな!」

 

 サクラは、ニカッ、と笑うとノバラたちに向けてサムズアップしてから、バイクにまたがった。

 

 きゅるん、どっどっどっ、と言う音とともにエンジンがかかると、ふぉんふぉんと少しだけエンジンを吹かした後、さくらはひらひらと手を振って、バイクを発進させた。

 

「……あぁん……行っちゃったぁ……」

 

 千束はその姿を涙目で見送った。

 

◇◆◇

 

「ちぇ~……ちょっとくらい貸してくれたっていいじゃん……」

 

 ぷくっと頬を膨らませて、千束は不貞腐れていた。

 

「千束に貸したら絶対ちょっとじゃないでしょう……?」

「面の皮が厚いから、終いには、これちょーだい、って言うと思うよ?」

「……ああ、確かにそんな感じかもしれませんね」

「二人して辛辣じゃない!?」

 

 恋人と妹が酷い、と千束は涙目になる。

 

「大体、そこまで欲しいなら買えばいいじゃないですか」

「あー、ダメダメ、たきな! 千束におもちゃをあげちゃいけません!」

 

 めっ、とノバラがたきなに人差指を向ける。

 

「……どうしてです? 千束にだってそれくらいの貯蓄はありますよ?」

 

 これでお金がないのであれば、たきなも反対するところではあるが、新車とは言わないまでも中古の大型バイクを買うくらいのお金は持っているはずだ。

 

 だが、ノバラは、いや(non)いや(non)とその指を振った。

 

「たまに見るから乗りたくなるだけで、手元にあっても別に乗らないし、どちらにせよ、サクラのバイクに乗りたがるのは変わらないから!」

 

 幼児が他の子の使っているおもちゃで遊びたがるようなもので、実際に手元にあるとあまり遊ばない。

 

「……子供ですか」

 

 たきなが呆れたようなジトっとした目で千束を見ると、自覚があるのか、千束はたきなから目を逸らしながら、ふひゅー、と上手くもない口笛を吹いて誤魔化している。

 

「あ、でも。たきなが買うのはありなんじゃないかな?」

 

 ぽん、とノバラは手を打ってそんなことを言った。

 

「……私ですか?」

 

 あまりバイクに興味のないたきなは怪訝そうに首を傾げた。

 

「そうそう! たきななら大事に乗るだろうし、無駄にもしないでしょ?」

 

 そう言いながら、ノバラがたきなの袖を軽く引いたので、たきなは少し前屈みになる。

 ノバラは悪戯っぽい笑みを浮かべると、たきなに耳打ちする。

 

「……あと二人乗りでツーリングとか楽しいと思うよ?」

 

 ……そう言われてたきなは想像する。

 

 バイクに跨ったたきなに千束が手を回して密着する。もちろん、逆でもいい。

 更には普段行けないような場所に二人で出かけられるのもいい。

 

「……なるほど。検討しましょう」

 

 たきなは神妙な顔をして頷いた。

 

 その様子を見ていた千束は一体何を言ったんだ、とノバラをカウンターまで引っ張ってくる。

 

「アンタ、たきなになんて言ったの?」

「二人でデートすると楽しいよ、って」

「……なるほど」

 

 千束は自分が乗ることしか考えていなかったが、そう言われれば、もっと出番がありそうだ、と軽い気持ちではなく、真剣に考え始めた。

 

 姉二人が不純な動機でバイクの購入を検討している様子に、ノバラはペロッと舌を出した。

 

(本気にさせちゃったかも? 失敗失敗……)

 

 誰が見ている訳でもないが、ノバラは誤魔化すように微笑んだ。

 

「……てへ?」

 

◇◆◇

 

「……あれ? そう言えば、すみれは?」

 

 厨房でサクラの食べた食器を洗いながら、自分の相棒がいないことに気づいて、辺りを見渡した。

 

「アンタがせりとすずなと一緒に本部へ行っちゃったから、不貞腐れて寝てる」

 

 千束がスマホの画面を見ながら、ノバラに答えた。

 

 ……どうやら本気で購入するバイクを探しているようだ。

 

「え~……じゃあ、クルミのところ?」

 

 ノバラは厨房を出ると奥の和室に向かい、そっと扉を開く。

 

「くか~……くか~……」

「すぴ~……しゅるる……」

「あらま」

 

 布団に仰向けに寝ているすみれとその胸を枕にするようにしてくっついて寝ているクルミの姿があった。

 

(おったから、おったから!)

 

 あまりのレアショットにノバラは思わず連続撮影を始める。

 

 パシャシャシャ、というシャッター音が響く。

 

「……ん……んぁ?」

 

 こしこし、と目を擦りながら、体を起こしたクルミが、ふわぁ、と欠伸をしながら、眠そうな目でノバラの姿を認める。

 

 ……無論、その様子もばっちり撮影済みである。

 

「おはよう、クルミ」

「……おふぁ、よ~……ふぁ……うん?」

 

 いつものだぼだぼなTシャツ姿で可愛らしく伸びをしたクルミは、変な音に気付いた。

 

「……って、何を撮ってるんだ!?」

「寝起きのクルミ」

「被写体を言っているんじゃない!? 撮るなと言ってるんだ!」

「え~……」

 

 クルミの抗議にノバラは不満そうな顔をした。

 しかし、クルミは抗議はしても撮った写真を消すように、とは言わなかった。

 

 ノバラには体力差で勝てないのは分かり切っているし、ノバラのスマホにはデイジーが常駐している。

 

 とっくにバックアップがデイジー本体側に保存されていることだろう。

 

 ……クルミは無駄なことはしない(諦めたとも言う)。

 

「でも、クルミって、一緒に寝るほどすみれと仲良かったっけ?」

 

 ノバラは不思議そうな顔をしてクルミを見る。

 

 二人は基本的にあまり絡みはないが、すみれがクルミを一方的に妹視しているので、お姉さん振ろうとしては失敗している、というのがノバラの印象だった。

 

「うん? 別に仲は悪くはないと思うが。すみれが寝ている姿を見ていたら、何というか、こう……寝心地良さそうだなーと」

 

 ちらりとクルミが寝ているすみれの胸の辺りを見る。

 ……確かに寝心地良さそうではある。

 

「……おっぱい枕が?」

「そうだ! 分かるだろう!?」

 

 ジッとクルミがノバラの目を見つめるので、ノバラも真剣な面持ちで、クルミを見る。

 

「…………分かる!」

 

 少しの間の後に、二人はガッチリと手を握り合った。

 

「……ノバラちゃんの声がする!」

 

 ノバラとクルミが手を握締あっているタイミングですみれは目を覚まし、ノバラとクルミを見て、がびーん、という表情をした。

 

「あー! クルミちゃん! ダメだよ! ノバラちゃんはすみれの!」

 

 すみれは頬を膨らませて、クルミに抗議するが、残念ながらクルミには逆効果だ。

 クルミはにやぁ、と笑うとノバラに右腕に抱き着いて勝ち誇ったような視線ですみれを見る。

 

「え~……ノバラがすみれのって、誰が決めたの~? だって、ほら、ボクだってノバラに抱き着いちゃうし……何ならそれ以上だってやっちまうぞ~!」

 

 ノバラにくっ付きながら、にしし、と笑みを浮かべるクルミに、すみれは頬をパンパンに膨らませて嫉妬し、クルミとは反対側のノバラの左腕に抱き着いた。

 

「……むぅ~!」

 

 すみれが不機嫌そうにクルミを睨むが、残念ながら、可愛らしいだけでまったく怖くない。

 そんなすみれを見ながら、クルミはけらけらと笑う。

 

(……こっちでもこうなるのか……)

 

 左右の腕に少女をくっつけたまま、ノバラは長いため息をついた。

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