Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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……投稿時間、間違えてた。ごめんなさい。


141 Choices

 不貞腐れた顔をしたままのすみれをノバラは半ば無理やり引っ張ってホールに連れて行った。

 

(……ん~……ちょっとすみれを揶揄い過ぎたか?)

 

 だが、それもクルミの親愛表現の一部ではある。

 

 すみれは自分の感情に素直なので、クルミの言葉一つでも一喜一憂する。

 

 ……そんな姿は実に愛らしい。

 

(……ノバラは姉というよりは母親だな)

 

 本人は姉として振舞っているつもりなのだろうが、それも千束が自分にしてくれていたことを模倣しているのであるから、年齢差はともかくその振舞いや干渉の仕方は母親のそれである。

 

(……一方でノバラは千束に対しては、完全に妹として振舞っている。多少べたべたし過ぎな感じもするが、アレはお互い様だろうしな。たきなに対しても妹寄りの対応ではあるが……やはり、千束に対するものとは異なる。だとすれば、()()()()()()()、と考えるのが妥当か。大した女優だよ、お前(ノバラ)は……)

 

 クルミに確認できたデータによれば、ノバラは感情を司る脳の一部が破壊されているハズである。

 

 ……そして、それは回復することはない。

 

 回復したように見えるのは、ノバラが他人の感情を学習してそうあるべきと振舞っているからだ。

 学習の結果としてのその感情は確かにノバラの思考によるものであろうが、果たしてそれが情動と呼べるほどに彼女を突き動かしているのかと考えれば疑問が残る。

 

(……全てがウソとは言わないが……作り物、いや、借り物と言うべきか?)

 

 果たしてどこまでを()()言うのか。

 それはクルミにも分からない。

 

 しかし、純粋なノバラの感情によるものはあったとしても極わずかであると思われた。

 

(『人狼計画(Werewolf Project)』の被験者か……難儀なことだ)

 

 調()()()()ついでに、そちらの方も確認したが、何ともお粗末な研究であった。

 やっていることは定位放射線照射治療の亜種とも言えるが、何の疾患もない正常な脳を破壊しているに過ぎない。しかも研究精度自体が低く、およそ実験に至れる類の代物ではなかった。

 しかし、本来DAに渡るはずだった零歳児から五歳児ほどの幼児たちを秘密裏に手に入れ、この施術が行われていた。全体期間で、三年ほどだろうか。

 運悪く、ノバラはこの間に被験者となり、現在でも唯一生存している、という稀有な例だ。

 

 だが、そもそもノバラが生き残ったのことすら偶然だろう。彼の研究は、生存率など度外視されていたのだから。

 この研究の肝は、感情を殺してどれだけ優秀な殺人人形を作れるか、である。

 

 しかし、クルミから言わせれば、この計画はやる前から失敗している。

 完全に感情を殺してしまえば、機械と同じ……いや、それ以下だ。

 コストパフォーマンス的にそれで良しとしたのだとすれば、少なくとも人間を部品としか思っていないということだろう。

 そんな環境で優秀な戦士を作れる訳もない。

 

 ……まぁ、そもそもが派手な動きを見せていたから、DAにマークされて潰されたのだ。どちらにしろ、その計画で優秀な戦士が作られることはなかった。

 

 ノバラの能力と計画にも因果関係がない。

 

 ノバラが気配を極めて薄いのは、そういった環境で育ち、目立たないようするための一種の自己防衛だし、逆に気配を濃くするのは、結果としては、それの揺り戻しに過ぎない。

 

(つまりは、『人狼計画(Werewolf Project)』には特筆すべき研究結果はなかったことになるな。……千束の人工心臓、ノバラ、すみれに対する人体実験。何という訳ありが多いところなんだ! 面白い!)

 

 不謹慎ではあるが、クルミの好奇心を大いに刺激するものであった。

 

(……そして、今日、また一つ、秘密のベールが剥がされる)

 

 先ほど、ノバラに頼んだのだ。

 レジ締めが終わったら、たきなにクルミのところに来るように、と。

 

(さて。たきなはどんな選択をするのか。見ものだな?)

 

 ふふふっとクルミは微笑んだ。

 

◇◆◇

 

 レジ締めを終えたたきなはため息をついた。

 遅くなるかもしれない、とノバラに伝えたら、じゃあ、千束の部屋で夕食作るから、たきなは外で美味しいものでも食べてきたらいいよ、と先に帰ってしまった。

 別にノバラが怒っている訳ではない。純粋にたまには好きなものを食べてきたらいいんじゃないか、という提案である。たきなとて、それは理解している。

 

 だが……。

 

(……どうせなら、ノバラの作ったご飯を食べたかったんですが)

 

 たきなとしては、外食をするより、ノバラが作ってくれたご飯の方が美味しく感じる。

 

 ……もはや、胃袋をがっちり捉まれていた。

 

 味の好みが似ているというのもあるが、一緒に料理するのもまた楽しいのだ。

 

 基本、和風多めのたきなに対し、ノバラは基本としての和食は押さえつつも、多国籍な料理を作る。

 

(……この間の生春巻きは美味しかったですね……)

 

 ノバラとたきなは帰りしなに食材の買い出しをすることが多いのだが、ノバラは何処からともなく見慣れない調味料や食材を見つけると、唐突にそれを使った料理を作りたいと言い出すことがある。

 この間はナンプラーやらチリソースやらを発見した結果、トムヤムクン、ガパオライス、生春巻きといった料理が出来上がっていた。

 

 この不定期に開催される多国籍料理は、正直、ノバラが何を見つけるかによるので、共同生活しているたきなのみの特権である。

 

(……今日は何を作っているのでしょうか……?)

 

 千束とすみれに振る舞うなら、質より量で攻めることになるが、一体何を作るのか気になってしまう。

 

「……はぁ」

 

 そして、ノバラからは員数外としてカウントされ、それを了承してしまったたきなとしては、それを食すことは適わないだろう。溜息も出る。

 

「……クルミ?」

 

 声を掛けながら、和室に入ると、クルミはちゃぶ台の上にパソコンを置いて座っていた。

 

「来たか、たきな」

 

 クルミはたきなを認めると、にやり、と笑って見せた。

 

 その笑みにたきなは少しだけ何かの予感がした。

 

 ……良きにしろ、悪しきにしろ、何がしかの選択を迫られる予感が。

 

◇◆◇

 

「まずは、建前の方からにしよう」

「……建前?」

「たきなはノバラに何て言われた?」

「今後のリコリコの経営方針について、クルミが打ち合わせしたい、と……」

「うん。だから、それが建前な。……本題は別だ」

「はぁ……」

 

 つまり、クルミはたきなと内緒話がしたかった、ということになる。

 その理由がよく分からずにたきなは気のない返事を返した。

 

「話してしまえば、それどころではないだろうからな! だから、先に建前の方をやっつけるんだ。ウソをつきたくないからな」

 

 にっ、と笑ったクルミにたきなも頷きを返した。

 部屋に帰れば、ノバラにもどんな話をしたのか聞かれるだろうから、実際に建前の話をしておくのは重要だった。

 勘の良いノバラではあれば、誤魔化しで作った話など見抜いてしまうだろうから。実際、クルミもその点を懸念しているのであろう。

 

 たきなの同意を得て、クルミはパソコン上にグラフを表示した。

 

「……まず、これがノバラ、すみれ加入後の純利益だ」

「……二人の人件費も賄えている計算ですね」

 

 一日毎に集計してあるそれは、ノバラとすみれが加入してから、一時的に下がったものの、すぐに右肩上がりとなっていた。

 

「ノバラの提案を受けてメニューを増やした訳だが、今のところ、これが当たっている感じだな。ボクの計算では何もしなければ次月以降はもっと下がるだろう……それでも、前と比べれば十分な利益が出ている」

 

 完全赤字経営時代と比べるのがそもそもどうなのかと考えたたきなはやや苦笑気味に頷いた。

 ……喫茶リコリコ自体はカバーでしかないと割り切っていたからこそ、そんな経営状態でも気にしなかったのだろうが、DAの機嫌を損ねたらそこで破産という危うい状態ではあった。現状では、そこを押さえられたとしても経営できるということになる。

 

「では、方針は?」

「現状維持で構わないだろう。新メニューを作るんであれば、ボクがちゃんと試食してやるぞ!」

 

 もっと上昇志向のある話かと思っていたが、本当にやっつけだったようだ。

 

「はぁ……それで、本題は?」

()()()()()()、たきな!」

 

 はて、とたきなは首を傾げた。

 

「……何のです?」

「察しの悪いヤツだな! ()()()()()()()()()()()()についてだ!」

 

 そう言えば、とたきなもやっと思い出した。

 

 正直、たきなとしてはあまり関心のあることではなかったので、すっかり頭の中から抜け落ちていた。

 

「前にも言ったが、たきなが聞きたいなら教えるし、聞きたくないなら、ボクの胸に仕舞っておく。結果を聞いたたきなが、ノバラに伝えるのも伝えないのもたきなの自由だ」

 

 元々はクルミの好奇心でしかない。

 だから、それが元で千束、たきな、ノバラの関係に不和を齎すことは望んでいない。

 

 故に、クルミは選択権をたきなに預けた。

 

「……さぁ、どうする、たきな?」

 

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