Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「………………ふぅ……伺いましょう」
たきなは大きく息をはいてから、クルミの目を正面から見て、そう答えた。
気にしていない、と言っておきながら、いざ答えを、と言われると、たきなも緊張せざるを得なかった。
「……そうか。それがお前の選択か」
クルミは確かめるようにそう言って、たきなの瞳をジッと見つめる。
(……ちゃんと聞く覚悟はできたようだな)
これなら大丈夫だろう、とクルミは鷹揚に頷いた。
「……念のため言っておくが、血縁判定に係る遺伝子検査というものは、各種遺伝子の情報からその血縁関係を推測するものであって、断定するものではない……これは、分かるよな?」
「ええ、分っています」
遺伝子検査は常染色体検査、Y染色体検査、ミトコンドリアDNA検査に大別され、今回検査においては女性であるたきなとノバラではY染色体検査はできないので、常染色体検査とミトコンドリアDNA検査を中心に実施された。
親子鑑定で、双方の検体が提出されている訳ではないことから、その精度は下がらずを得ない上、そもそもが、百パーセントと断定されるものではない。
「では、結論から言うが……同腹の姉妹の可能性が高い、と出ている」
「それは……父親は違う、ということですか?」
「その可能性が高い。ミトコンドリアDNA検査の結果から、同腹であることには疑いがない。しかし、他の検査結果からは、同じ両親から生まれたとする確証は得られなかった……お前ら、二人とも母親似なんだろうな」
少し揶揄うような口調でクルミがそう言った。
合わせるようにたきなも軽く笑みを浮かべると、結果の意味を考える。
(……半分、ですか。両親ともに同じ、と言われるよりは腑に落ちる感じはします)
そもそも千束がたきなとノバラの容姿が似ている、と騒ぎ立てたのが始まりだ。
たきなとノバラの感覚としては、別に似ていない、という見解で一致しているが、周囲は確かに似ている、という者が多かった。
世の中、親子で似ていない、ということもザラにあることからすれば、姉妹が似ていないということも良くあることだ。
千束が気付かなければ誰も口にしなかったかもしれない。
たきなにとっても、ノバラにとっても特別な存在である千束だからこそ、気づいて、そして、口にできた。
「……さて、この結果を受けて、ボクはもう少し探ってみた訳だが」
「……クルミは本当に好奇心旺盛ですね……」
たきなは呆れた様子でクルミを見るが、クルミはそれに気づかない様子で、少しだけ不貞腐れた様子で腕組をした。
「でもなぁ……結局、肝心なところは分からずじまいだったんだよなぁ……」
「クルミでも、ですか?」
たきなは電子戦に精通している訳ではないが、クルミの腕が普通ではないことは良く分かっている。
そのクルミがお手上げというのは俄には信じがたい話であった。
「ボクだって万能じゃない。データが無ければ、それ以上はどうしようもないからな。遡れたのは、ノバラがどのようにしてDAに保護されたか、保護される前はどうしていたか、までだ……聞くか?」
こちらを射竦めるようなクルミの視線は、中途半端な覚悟なら聞いてくれるな、と言っているようであった。
……それだけでも、良くない話だと分かる。
「……聞きます。聞かせてください。ノバラの話を」
決意の籠った視線を向けてくるたきなにクルミは頷いて、そして話し始めた。
◇◆◇
クルミが語ったのは、『
ぎりっ、と歯ぎしりの音が部屋に響く。
髪の毛が逆立っているのではないか、と思ってしまうほどの憤怒の表情を見せたたきなの様子に、クルミは自分に向けられているものではないと知りながらも冷や汗を流した。
……当然だろう。可愛がっている妹分にそんなことをされていた、など到底許せるものではない。
……しかし、次の瞬間にはそれが、しゅん、としたものに変わる。
「…………だとすると、ノバラの言動は……?」
そう言って、俯きながら、たきなは寂しそうな、泣きそうな表情をしていた。
「……アイツがそうあるべきと学習した行動だろう。ベースは……まぁ、千束だな」
……確かに周りを振り回す感じ、スキンシップが多めのところなどの共通点がある。フキにしても練習好きなところなど似ていると感じる部分はある。
……だが、ふと、思うことがあった。
(……きっかけは千束の手料理とは聞きましたが、千束は別に料理が好きな訳ではない……ノバラがいかに練習バカとは言え、そこまで情熱を燃やす理由がない)
かつてノバラは言っていた。
『これってどうやってできてるのかなー、どうやったらおいしくできるかなーって考えるようになって』
……誰とも共通しない、幼い頃の想い。
それは確かにノバラのもので、彼女の好奇心と研究心、加えて言えば、食べさせる相手に対する愛情があってこそのものだ。
たきなにはそれが作り物とは思えない。借り物であるはずもない。
……だから、たきなは信じることにした。
ノバラの感情が全て死んではいないことを。
「ふふっ……クルミは、ノバラは演技していると思っているんですよね?」
「うん? ……まぁ、そうだが」
たきなは微笑みを浮かべて、クルミの方を見た。クルミはそんなたきなの様子を見て、少しだけたじろいだ。
「ノバラは強かなんです、それくらいするでしょう? 可愛らしいものです」
いつものように、ノバラのことを『可愛い』と評するたきなにクルミは目を瞬かせた。
「……たきな、お前」
たきなの余裕のある笑みは、現実逃避している訳でも、クルミの言葉を信じていない訳でもない。
「感情? 確かに必要なものですが、あの子は計算高い。だから、それを抜きにしている……ただ、それだけのことです」
確信めいたその言葉は、今のノバラを信じている、とそう告げていた。
確かに誰しもが自分を演じている。そして、その演技の振れ幅が感情であるだけ、と考えれば、ノバラの『自分を演じるという練習をした結果』は、そう大きな違いはないとも言える。
結果は、感情のない機械ではなく、計算高い子狸のような少女、ということになる。
「そうか……そうだな。アイツ、そういうところ、抜け目ないしな!」
たきなとクルミは互いに顔を見合わせて、少しの間、笑い合う。
「……そう言えば、この件、千束は?」
「もしかしたら、知っているかも、と言ったところか。確実に知っているのは、楠木と楓くらいだろう」
「……千束は演技はできませんが、墓まで持っていく覚悟なら、絶対に言わないでしょうしね」
アドリブは無理だろうが、事前に言わないと決めたことであれば、白を切りとおすくらいはやり切るだろう。
「軽々しく言えることではないしな……それにそもそもの機密性が高いものでもある」
「……機密性が高い?」
研究という意味ではそうだろうが、DA内部で行われていたものではない。だとすれば、たかが少女一人の保護の状況の機密性がそこまで高いとはたきなには思えなかった。
「ちょっとヤバ目のテログループが行っていた研究だから、ということでもある」
「……そのテログループとは?」
たきなの頭には、CBというノバラとすみれに因縁深い組織の名称が浮かぶが、クルミが答えたのは、別の名前だった。
「ん? 次のお前たちの相手だよ。『
「『
「……何だ? まだ聞いていないのか?」
「はい」
「ふむ……この間、たきながノバラと参加した作戦があるだろう?」
作戦があった、というのは、ノバラの買ってくれたシュークリームを食べていたからクルミも知ってはいるだろうが、たきなは中身を話した記憶もないのに、当然知っている、と言わんばかりのクルミには、呆れるばかりである。だが、まぁ、それを言っても仕方ないので、たきなはあまり気にしないことにした。クルミなので。
「ああ……CBの」
「ソイツがCBを裏切って合流しようとしていたのソコだ。テログループ、というよりは戦争屋と言った方が良いかもしれないが……CBの機械置換技術はヤツ等にとっては、喉から手が出るほど欲しいものだろうしな」
「……何故そんなところがそんな実験を?」
「……ふん。一部のバカが功を焦った結果だ。あんな計画では優秀な兵士を作れる訳もない」
反吐が出る、と言わんばかりのクルミの語気の強さから、彼女も彼女なりに怒っていることが分かる。
「……ノバラは被害者だ。クソったれの実験のせいで、アイツは人生を台無しにされた……」
遣りきれない、という表情をしているクルミにたきなは笑いかける。
「……でも、だからこそ、ノバラは千束と出会えて……私たちとも出会えました。何も悪いことばかりではありませんよ?」
くすくす、という笑い声にクルミはたきなの顔を見返して、そして、固まった。
「…………言葉と表情が一致していないぞ、たきな?」
たきなは確かに笑っている。
言葉も本心を語っているのだろう。
しかし……その笑みは凄絶で、瞳はギラギラと殺気立っている。
それこそ、素人のクルミが震えがってしまうほどに。
「……可愛い妹をおもちゃにしてくれたんです。それ相応の代償は払ってもらわないと」
(……たきなは怖ぇなぁ……絶対怒らせないようにしないと)
こうして、クルミの怒らせてはいけない人ノートにミカの次にたきなの名が刻まれることとなった。
◇◆◇
「……ところで、クルミ」
「ん? 何だ?」
「この内緒話のせいで、私はノバラの夕ご飯を食べ逃した訳ですが……」
「えっ!? それ、ボクが悪いのか!?」
「仕方ないから、ヤケ食いするので、付き合ってくださいね?」
「……どうしてそうなる!?」
半ば引きずられるようにして、たきなのヤケ食いに付き合わされたクルミはお腹をパンパンにすることとなり、翌日以降、ぽっこりお腹を解消するため、積極的に接客を行うこととなった。