Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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143 various sobas

「……う~ん」

 

 ノバラは悩んでいた。

 自分一人の食事ならこんなに悩むことはない。サプリと砂糖と塩、その程度で必要カロリーと栄養素が摂取できれば、それで構わないのだが。

 

 相手がいるとなれば、話は別である。

 

 特にすみれに対しては、ノバラは相当気を遣っている。

 

 自分の偏食振りに千束とフキが手を焼いたのを知っているからこそ、すみれには好き嫌いがないように躾けるため、手料理を振る舞っているのだ。

 

 この点は楓も同じようで、楓とノバラの二人きりであれば、カップ麺でも済ませるような場合でも、意外に家庭的なところがある楓は、すみれに対してだけは手料理を欠かさなかった。

 

 それ故に、すみれは食欲魔人ではあるが、繊細な味覚をしている。

 しかし、一方の千束はジャンキーな食べ物が結構好きなこともあり、味付けははっきりとした方が好みだ。ノバラが彼女をお子様舌と表現する所以でもある。

 

 ここにたきながいるとすれば、凝った料理に走った可能性が高いが、この場にいるのは、千束とすみれだけである。この二人に合わせた料理を、と思うと思わず、頭を悩ませてしまうのであった。

 

(うーん……量も作らないといけないし)

 

 極めて食べる量の多いすみれと、それなりに食べる千束。加えてノバラ自身もとなると、量が必要である、

 

 悩みつつも、千束とすみれの様子を見てみれば、二人は楽しそうにお菓子を選んでいる。

 

 そんな中で、食品売り場でノバラの目を引いたの、黒っぽく太めの麺であるいわゆる田舎そばだった。

 ノバラはしばし考えると、うんうん、と頷いた。

 

(最近、そばは食べてなかったし……ようし!)

 

◇◆◇

 

 ノバラ的にはそばを食べるなら『ざるそば』である。

 

 そば本来の風味と海苔の風味を楽しむことができ、甘辛いたれをちょっとつけて、すする。そうすれば、わさびの香りもまた清々しい。〆はそば湯を飲んでホッと一息。

 

 当然、これでもいいのだが、今日は相手もいる。

 

 だから、少しだけ攻めてみることにしていた。

 まぁ、ちょっとした悪戯心もあるのだが。

 

「まずはスタンダードにどうぞ?」

 

 ざるに盛られたそばに、徳利に入ったそばつゆと割る用の水のほか、ネギ、わさびが添えられている。更には、味を変える用の大根下ろしと卵、そば猪口が複数用意されている。

 

「ん? ノバラにしては普通だな?」

「ちっちっちっ……千束、あっちでちゃんと作ってるでしょう? ちゃんと変わりだれも用意してるんだから。……まぁ、麺の量が多すぎて、一回で全部茹でられるわけがないので、結果、小出しにするしかないだけなんだけど」

「ノバラちゃんの変わりソバおいしいよ?」

 

 すみれはそんなことを言いながら、すでにずるずるとソバをすすり始めており、スタンダードなそばつゆと薬味で食べ終えた後は、大根おろし、卵とシフトしていくようだ。

 

「ふふ、じゃあ、そっちも楽しみにしながら、いただくとするかな」

 

 いただきます、と千束は口にしてソバを食べ始めた。

 

◇◆◇

 

「次はお肉でガツンと!」

 

 鶏肉とネギ、しいたけを入れ甘辛くしたつけだれと、豚肉を軽く炒め、刻んだネギ、ごま、ラー油でピリ辛のつけだれである。

 

「わーい! おにくぅ!」

 

 お肉大好きなすみれは、すぐさまにがっつき始めた。

 

 千束はそんなすみれに苦笑しながら、自分の分を取り分ける。

 

「最近はこういうのもみかけるようになったからねぇ」

 

(ん……鶏肉の方は、ちょっと甘めだけど、鶏の出汁が効いてる感じ? 鶏肉もふっくら仕上がっている。ネギもちょっと焼いているのか、香ばしさと甘さがいい感じ。……豚肉の方は……うん。辛さがガツンと来るな! その中でも豚肉の油の甘さを感じて、ごまの香ばしさとラー油の辛さが何とも後を引く!)

 

「うん。おいしいよ、ノバラ」

「でしょ? でも、その言葉は最後にも欲しいかな?」

「それは、これからお前が出すもの次第だねぇ?」

「ふふふ、期待していいよ?」

 

◇◆◇

 

「お肉を食べたら野菜もね!」

 

 納豆、おくら、なめことねばねば食材に、ネギ、大葉、みょうが、そばつゆ、大根おろしで作られたつけだれ。

 もう一つはすりおろしたトマトに角切りしたトマト、オリーブオイルをちょっとだけ足して、そばつゆのほかすだちのしぼり汁を加えたつけだれである。

 

「お、こりゃ、大分攻めてきたな」

「ふふふ、そうでしょ? トマトの方は粉チーズを入れても美味しいよ」

「…………!」

 

 千束は笑みを浮かべて楽しんでいる様子であるが、すみれは最早食べることに夢中だった。ただし、ノバラの粉チーズをいれても美味しい、という言葉に反応したのか、粉チーズを入れて食しては満足そうな笑みを浮かべている。

 

(納豆とくらの方は……うん。スルッと入るな。大葉とみょうがの香り高さも実に良い。大根下ろしの辛味もいい感じだ。……次はトマトか。そばとトマトって合うの? ……うん!? これ、めっちゃ旨いぞ!? 考えてみればそうか! パスタだってトマトを使ったものが多くある。そばと合わない道理がない! トマトの旨味と酸味だけでもすっきり食べられるのに、すだちのしぼり汁が味を引き締めつつ、食欲を増進している。……そんでチーズをかけると……おぉ、これはまた、コクとまろやかさが違う。まったく別のものみたいだ)

 

「うーん! 悔しい! すんごく旨い!」

「でしょう? でも、まだデザートもあるからね」

 

◇◆◇

 

 そばでデザートと考えて、千束に思い浮かぶものがなかった。

 そば粉であれば、ガレットやら、アイスやらという選択肢もあったであろうが、ノバラが買ったのは市販の田舎ソバでしかない。

 一体何を作るつもりだろう、と千束は少しドキドキして待っていた。

 

「はーい、まずはそばかりんとうだよ」

 

 そばを油で揚げ、砂糖と水、水あめを火にかけて溶かし、そこに揚げたソバを絡ませたものだ。

 

 ぽりぽりとした触感が美味しく、ノバラがそっと出してきたお茶との相性も抜群であった。

 

 さすがにこれで〆かと思っていたところに、ノバラはもう一品運んできた。

 

「最後のデザートはそば湯の葛切りだよ。きな粉と黒蜜でどーぞ」

「そば湯までデザートにしてきたか……」

「まぁ、寒天で作ったお手軽版だけどね」

 

 お手軽版というには、十分デザートとして機能しているものだった。

 

「いやー、しかしこんなに、旨いものだったとすると、たきなにちょっと悪いな」

「えー……たきなには、たまには好きなものでも食べてきたら、って勧めておいたのに」

「ノバラの夕食が食べたかったです、とか考えてそうだぞ」

「あー……それはあるかも? まぁ、かりんとうと葛切りはお土産にするし、大丈夫でしょ」

「えー……ノバラちゃん、帰っちゃうの? こっちに泊まりなよ」

「それじゃあ、たきなが一人になっちゃうじゃない。だから、今日は帰るわ。お休み、すみれ」

「ちぇー……まぁでも、また、今度は止まり来てよね?」

「はいはい。千束もお休み」

「おう。お休み、たきなにもよろしくなー」

 

 そう言って、千束の部屋を出たノバラは、外食したたきなが、こんなものに興味を示すだろうか、とも考えるが、食べないようであれば、自分のおやつにしようと考えて、帰り道を歩き始めた。

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