Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
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「……本部へ出頭ぅ~? 私とたきながぁ~……?」
ミカから告げられた言葉に、千束は心底面倒臭そうな顔をしていた。
「あんな山奥までぇ~……?」
やだやだ、と首を振り、行きたくない感が満載の不満顔である。
「そうは言ってもな、千束……」
ミカはそんな千束に苦い顔をしながら、諭そうとするが、その前にクルミが面白そうな顔をしながら口を挟む。
「そんなこと言っていいのかー、千束? お前の妹が泣きそうな顔をしているぞー」
クルミの声を聞きながら、ノバラはわざとらしく目に目薬を差してから、その潤った瞳で千束を上目遣いで見上げる。
「……ごめんね、千束お姉ちゃん……私がお願いしたから……」
演技しているのを隠そうともしていないノバラに千束は思わず苦笑いになった。
「……アンタね。せめて目薬するところくらい隠しなさい」
「……てへ?」
「笑って誤魔化すなよ! ……しかし、余計に行きたくなくなったな」
ノバラが絡んでいるということは厄介事だ。
妹を助けたい気持ちはあれど、本音を言えば、積極的に関わりたくはない。
(……わざわざ出頭させるってことは、ノバラの本命案件か。…………選択肢があるなら、絶対にお断りだな)
そんな千束の内心を見透かしてか、ノバラはにやりと笑うとスマホを取り出した。
「……う~ん、じゃあ、仕方ないよね?」
邪悪な笑みを浮かべるノバラに、千束はノバラが、何故、今、スマホを取り出しのか分からず、怪訝そうな顔をする。
(……スマホ? ……何をするつもり…………って! いやいやいや! それはダメ!?)
……ノバラのスマホの中には、千束とたきなの写真がある。
濃厚に舌を絡ませているヤツ。
そろそろカミングアウトするのは、やぶさかではないが、それを見られるのはさすがにマズい。
ミカは成長したな、と喜び半分くらいだろうが、ミズキは絶対笑うか呆れるかするだろうし、クルミに見せたら、知り合いのリコリス全てに送信されかねない。
「ちょー!? ちょー!? ちょいちょいちょーい!?」
千束は慌ててノバラからスマホを取り上げようとするが、するりと逃げられる。
相手の視線、筋肉の動き、服の揺れ。
それらを驚異的な洞察力と動体視力で相手の次の行動見切るのが得意な千束。
相手の行動パターン、場所、シチュエーション。
これらを圧倒的な努力と経験値で相手の次の行動を予測するのが得意なノバラ。
両者とも反射レベルで反応できるものではあるが、慌てた状態の千束と来ることが分かっていたノバラでは、当然、後者の方が有利である。
ノバラを取り逃がし、顔を青ざめさせている千束を見ながら、ノバラはにたりと笑って、スマホを操作しようとする。
「……ノバラ、めっ、ですよ?」
……しかし、それより早く、逃げた先に待ち構えていたたきながノバラのスマホを取り上げた。
「さっすが、たきな!」
千束はぱぁっと顔を輝かせて、たきなを称賛する。
そんな様子を見て、ノバラは隠れて、ぷふっ、と笑った。
(……いやぁ、これ、もうバレるでしょ?)
たきなはまだしも千束がたきなに向ける表情は明らかに他と異なる。
そもそも初見のせりとすずなにしても、初対面のときから怪しんでいたからこそ、らぶらぶちゅっちゅっしているところを目撃されたのだ。
とりあえず、まだ秘密にしている、というのに、警戒心が足りなすぎる。
ノバラは少しだけ見せつけるようにしながら、ぽふっとたきなに抱き着く。
「……でも、千束お姉ちゃん? 少しは行く気になったでしょ?」
たきなに抱き着いたノバラに千束は少しだけむっとしながらも、ノバラが、暗に、行かないなら、バラす、という脅しには屈するほかない。
「……んぎぎ!」
悔しそうな顔をしながら、一通りノバラを睨んでから、千束は、はぁ、とため息をついた。
「……はいはい、行けばいいんでしょ? ……ほんで? 今すぐ出発?」
気が乗らない千束は、やる気なさげに、耳をほじりつつ、軽く欠伸をしながら、ノバラに尋ねる。
年頃の少女にあるまじき行動に、たきなとノバラは抱き合ったまま、視線を合わせてくすくすと笑う。
「……千束、下品ですよ?」
「……千束お姉ちゃん、きちゃな~い」
二人にそんなことを言われても、千束は特に改めようともしない。
客がいれば、当然、千束もそんなことをする訳もないが、ここにいるのは、全てが家族のようなものである。
ましてや、目の前にいるのは、互いを知り尽くしていると言っても過言ではない、恋人と妹である。
「だぁってさぁ~……あそこまで行くのってダルくなぁい?」
「
実質上のダブルデートだよ、というノバラの言外の言葉に、千束はぽっと頬を染め、カウンターの辺りに座っているすみれが、小声で、ノバラちゃんとデート、と言ってはしゃいでいる。
「……って、運転手?」
千束が辺りを見渡すが、カウンターの奥ではミズキが一杯引っかけている。まだ午前中なのに。
(……アレじゃあないとすると……?)
ちりーん、とドアベルがなり、小柄な女性が入ってきた。
「待たせたかな、諸君!」
「楓司令、遅いよー」
「いやー、すまんすまん」
言葉こそ謝っているが、まったく悪びれていない。すみれの隣のカウンター席に座ると、ミカにコーヒーをねだっている。
淹れてもらったコーヒーをちょっとだけ啜ると、楓は、ふぅ、とほっとしたような様子を見せた。
「あ、っていうか、楓さんがいるなら、ここで言ってもらったらいいんじゃないの?」
名案、とばかりに千束が手を叩くが、楓はけらけらと笑う。
「バッカだなー、千束! こちとら、お役所仕事だぞ! 規定通りにしかやるわけないだろ!」
ド直球な言葉に、ノバラが慌てる。
「司令、司令! 建前、建前! 本音はもっとオブラードに包んで!」
「お? そうか。私はノバラとすみれの上官ではあるが、千束とたきなの上官ではないのでな。指揮命令系統に従って、楠木司令から言い渡しがあるから、きちんと拝命しなさい……っと、まぁ、こんなところか」
今度は正論だが、先の言葉が言葉だけに言わされている感しか感じない。
これには、さすがの千束も、たはは、と苦笑いである。
「ま、これで足の準備もできたし、出発しようか? ……後はよろしくねー、ミズキ?」
「……あーいよー……って、待ちなさいよ! おっさんと私の二人だけじゃない! ここ最近の客入りじゃ捌ききれないわよ!?」
危機感を感じたミズキがそう言うが、ノバラは動じた様子はない。
「できる大人の女性は格好いいと思うよ? それに、クルミもいるじゃない。ガンバ♡」
半ば無責任なノバラの言葉にミズキは固まった。
「……ボクにも手伝わせる気か……」
呆れ顔のクルミに対しても、ノバラは、にやにや笑顔のままで答える。
「クルミもガンバ♡ 動けばちょっとは重くなった分が減るよ?」
痛いところを突かれた、とばかりに、クルミは悩まし気な顔をしている。
「まぁ、でも、それだとさすがに危ういので、ちゃんと助っ人はいます。かも~ん!」
ぺちん、というノバラの指を鳴らす音に合わせて、三人の少女が入り口から入ってくる。
「根性の一号、せり! 体力の二号、すずな! 力の三号、ももちゃん! お仕事だよ!」
自らの部下を自分の穴埋めにしようとしているのだから、相当な職権乱用である。しかし、三人は苦笑を浮かべつつも、どこか楽しそうではある。
「店員さんですかー、楽しそうかも?」
「……まぁ、いいですけど」
「やれやれ、姐さんは人遣いが荒いですねぇ」
せりはサイズ的に、千束の予備を、すずなはノバラの予備を、すももはたきなの予備を使うこととして、更衣室へ着替えに向かう。
「……ノバラ、大丈夫なんでしょうねぇ? あの子たち」
「へーきへーき。接客業のロールくらいはやったことあるだろうし、難しいことじゃないし」
ノバラはそう言って、楽し気に笑った。