Roses fall fleetingly, violets bloom vividly 作:MIA
「……以上六名をもって、本作戦各目標の指揮官及び次席指揮官とする。作戦参加人員については追って伝達する。なお、移送途上の身柄に関する一切の判断は、本作戦の発案者であるDA仙台支部特殊作戦群司令官楓が行う」
楠木に視線で続きを促されて、楓が一歩前に出る。
「……さてさて、諸君」
軽く、ぱんぱんと手を叩いて、全員の視線を集めて、にやり、と笑みを浮かべる。
「……私の趣味は人を驚かせることだ」
『
驚かせること、などと表現を柔らかくしているが、その名のとおり、彼女が愛しているのは悪戯だ。
可愛らしいものからえげつないものまで、ありとあらゆる悪戯を彼女は愛している。
「偉そうに、賢しげにしている連中のすかしたツラを横から叩いて、目を白黒させるのが大好きだ」
広げた左手の手の平に右拳を握って、ぶつける。
「敵対勢力に容赦はしないし、お偉いさんだろうが関係ない」
そのまま、右拳を左手で握り締めると、パキパキ、と節の鳴った音が響く。
「……だから、今回。くだらない足の引っ張り合いをしている連中は、互いの足を引っ張ることに夢中で、どうにも頭が留守らしい」
くつくつ、笑う楓の顔は、明らかに悪いことを考えている顔である。
「我々はこれに冷や水を掛けて、冷静にしてやってもいいし、カチ割ったって構わない。無論、風穴を空けたって構いやしない。……というか、むしろやれ」
楓の顔を見れば、微妙にこめかみに青筋が浮かんでいるのが分かる。
(……上層部に情報がリークされている……というか
そもそもが言っていることは、敵対勢力と上層部はいらないから潰せ、ということである。物騒極まりない。
「楠木さんが仰ったのは、そうだなぁ……私の表向きの作戦だ。それが一番重要ということには変わりがない。しかし、考えても見て欲しい」
ギラリ、と楓の瞳に剣呑な光が灯る。
「……これだけ重要な案件でありながら? 私と楠木さんしか司令官は委細を承知していないし、上層部でも真の情報を知っている者は限られている。……何故か? 秘匿性? もちろんそれも理由だが、余計な情報を与えると騒ぎだすバカがいるからだ。この際、そういった連中は、少々お片付けしてやらねば、と思ってな?」
(……ウチも外も、大掃除ってか? ……分かってたことではあるけど、さすがはノバラのお師匠様か。……上も下も関係なし。黙っているならともかく、騒ぎ立てるバカは、頭に血が上って拳を振り上げた瞬間に、真後ろから首に縄を掛けて吊るし上げる、と……怖い怖い)
千束は元々楓と面識があるし、彼女が元ファーストであったことは知っている。
共闘したことこそないが、彼女の通り名は現役であった当時のリコリスには良く知られていたものだ。
……何故なら、彼女は公然とラジアータへのハッキングの危険性を訴え、そして、実際、ハッキングして見せた。クルミ、ロボ太に遡ることおよそ十年前である。
このとき、彼女と対立関係にあった上層部の者は、セキュリティに絶対の自信を持っていたが、この結果で実質上の更迭に追い込まれたという。
更には逆恨みで投入されたリリベルを全て素手で抹殺。その遺体を当人の自宅に遺棄して、恐怖と怒りのあまり憤死させた、とも言われている。
「幸いにして剪定用の鋏は私が……我々が持っているのでね。その役目をしてやろう、というわけだ。なに、難しく考える必要はない。目の前の敵を退けていれば、自然とそうなる、というだけのこと。内から朽ちる前に、病葉を払い落し、害虫を駆除し、新芽を芽吹かせ、若葉を育てる。我々が行う作戦はその第一段階だと理解して欲しい」
(…………まてマテ待て!? 楓さん、もしかして……いや、もしかしなくても、単にバカな上層部を排除するだけじゃなくて、DA内でクーデターでもするつもり!?)
視線だけを動かして周りを確認してみれば、フキが渋い顔をしているくらいで、あまり分かっている様子の者はいない。
ノバラは呆れ混じりだが、その表情に動揺はなく平然としたものであるから、最初から楓の狙いは分かっていた、ということであろう。
(……楠木さんは……?)
楠木は後ろ手に組み、瞑目しているが、特に驚いた様子もない。
(……消極的な賛成、ってところか)
延空木事件での対応など、彼女も思うところがある、ということだ。
「……この国の治安を陰から支えるのが我々だ。その初志を貫徹することを期待する。私からは以上だ」
楓が話し終えると、楠木が目を開く。
「……作戦の決行は来週水曜になる。詳細については、おって知らせることとするが……くれぐれも口外無用だ」
(一週間もないじゃん!? ……いや、でも、普通なら決行直前でもおかしくない。覚悟を決める時間をくれた、ということかな……?)
死闘を演じることになるのは、話を聞いただけで分かる。
……そして、ノバラたちとの別れが近いことも。
(あの子はこの作戦が主目的だろうから、仙台へ対象者を連れて行ったら、それでお別れか……? ……荷物を取りに一度は戻ってくるだろうけど)
「以上で解散とするが、話したいこともあるだろう。ブリーフィングルームを押さえてある。内緒話はそこでするように」
◇◆◇
「はぁ~……肩凝った~……すみれ、ちょっと肩軽く揉んで?」
「はぁい」
「おほぉ~……気持ちえぇ~……」
ブリーフィングルームに入り、椅子に座った千束は、すみれに肩を揉ませながら、お年寄りのごとき声を上げている。
「……それにしても、厄介事を連れてきたな~、コイツめ!!」
千束は隣に座ったノバラに狙いを定めると、手をわきわきさせながら、彼女の顎の下とお腹の辺りを擽る。
「ぅにゃん!? ……もうっ! 私が元凶みたいに言わないで!?」
「「……いや、お前のせいだろ?」」
奇しくも姉二人の言葉が被り、そのショックでノバラは涙目になった。
ノバラとて、好きで厄介事に首を突っ込んでいるのではない……たぶん。
「お姉ちゃんたち、酷い~!!」
ぷっくぅ、と目に見えて頬を膨らませるノバラ。
そんな不服にしているノバラを宥めるように、たきながその頭を撫でる。
「ふふっ……よしよし」
「……たきなぁ~……♡」
ひしっ、とノバラはたきなの腰の辺りに抱き着いた。
「……千束、フキ。あまりノバラをいじめないであげてください。これで結構気にしているんですから」
「たきなは甘いなぁ……この子が好きで厄介事を引き寄せてるんじゃないってことは分かってるけどさ。何でもかんでも一人で背負い込むから、そうなってるんだってことあんまり分かってないのが、一番の原因なんだよ……拠点、六ケ所潰したのって、アンタでしょ?」
「うん、そうだよー。私以外に誰がやるの?」
ノバラは何てことはないことのようにさらりと答えるが、そのきょとんとした様子を見て、千束は、はぁ、とため息をついた。
「……そういうところだよ。適任って意味じゃ、アンタ以外いないだろうけど、人と時間さえかければ、他にもできるヤツいるんだから、適当にやらせておけっての」
「……だって、そんなの効率的じゃないじゃない?」
「効率的だって言うなら、全部、アンタ一人でやるの? それこそ非効率でしょうが。
「……うん」
ノバラは千束の言葉を噛み締めるようにして頷いた。