Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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149 We'll never back down

「……それにしても、楓さんはヤル気だからいいとして、楠木さんは大丈夫なのかね?」

 

 千束はすみれに肩を揉ませたまま、そんな心配をした。

 今回の作戦は明確に上層部のほか、他の司令官との対立が予想される。

 

 楓はそのリスクも織り込み済みでの決行を予定しているからいいとしても、言い方は悪いが楠木はそれに巻きまれているようにも見える。

 

 成功なら良い。しかし、失敗すれば、即失脚というリスクはどうしても大きく見える。

 

「んふふ。千束は分かってないなぁ~……楠木さんが、消極的賛成とでも思ってる? 楓司令より、楠木さんの方が実際のところは危機感を持ってると思うよ?」

「……延空木事件でのリリベルの動きか」

 

 リリベルが延空木内に残っているリコリスを処分に動いたこと。

 楠木はこれに不審を持っているようであることは分かっている。

 

「私は、アレ、タイミング良すぎると思ってるんだよねぇ?」

 

 ノバラは、にやにや、と笑いながら、そう言った。

 

「……ノバラは元々、リリベルがリコリスの処分に動くつもりがあった、と思っているのか?」

 

 その内心を読み取って、フキがそう口にすれば、ノバラはこくりと頷いた。

 

「でなきゃ、あそこまですぐに組織だった動きをしてくるとは思わないけど? まぁ、楠木さんからしてみれば、今回の件は意趣返しみたいなもんよ」

 

 当時は真島に対して、DAやリコリス側が血眼だった、ということもあり、そちらの方に目配りをされていなかったが、少なくとも元々延空木事件への介入は検討されていたことは、想像がつく。だからこそ、極めて速く、リリベルを投入できた。

 だが、もう一点。本来的にはあの案件、リリベルが対処するのが正しい。無論、DA側の希望もあったのだろうが、実際の所管などからすれば、リリベルが最初から投入されるのが通常であろうところ、一歩引いた。おそらくは、その後のリコリスの処分を行うために。

 これらの事情を楠木は後から調べて激怒したことだろう。

 

 故に、今回の第一作戦目標は、本来であればリリベルがやるべきところ、リコリスが行って、しゃしゃり出てきたリリベルは全て撃退する。

 

 リコリスから見れば、リリベルなどこの程度の存在だ、と見せつける意味もあるだろう。

 

「でも、実際、どうなんです? リリベルって。あっしら結局やり合ってないからよく分かんないんスよねぇ?」

 

 当時、サクラは覚悟を決めてやり合うつもりではあったが、やり合う前に引かれてしまった。故にその実力のほどがよく分からない。

 

「男の版リコリスって言うのが一番簡単な説明だけど。私たちはどちらかと言えば暗殺に近いのに対して、アッチは正面からの殲滅……個というよりは軍に近い。私たちがペアからチームで動くのに対して、アッチは基本チーム以上が基本。集団戦では、普通ならアッチの方が上だね。……普通なら、ね」

 

 意味有り気に千束がにやり、と笑う。

 

 リコリスの本来は、犯罪の未然防止であり、犯罪が起こる前に対象者を消す。

 だからこそ、どこにいても警戒されない女子学生の姿をしているのだ。

 

 一方のリリベルは必要に応じて、同様のこともするが、基本的には汚れ役のような仕事が多い。リコリスという身内の処分も彼らリリベルの所管している汚れ役の一つでもある。

 

「コレとソレが大概むちゃくちゃだからな。集団戦が集団戦の体をなさないであろうことは請け合いだ」

 

 フキがジロリと千束とノバラを睨むと、二人して、いやぁ、などと言いながら、頭を掻きながら、照れるようにして、恥ずかしそうに微笑んだ。

 

(……照れるところじゃないんだが)

 

 集団戦になったところで、ノバラが裏から、千束が正面から当たるとしたら、おそらく相手にならない。

 

 気配を消したノバラから指揮官クラスを刈り取られ、千束の圧倒的戦闘能力鎮圧される。これに加え、たきな、すみれが加われば、より酷いことになるのが想像できる。

 

「ん~……でもリリベルの方は原則制圧だろうから、私は苦手かな? 私がこんなこと言ったら千束は嫌がるかもしれないけどさ」

 

 楠木はテロリストに対しては殲滅と言ったが、リリベルに対しては制圧という言葉を使った。

 組織間での遺恨を最低限にするため、リリベルは殺してはならない、ということである。

 

「ああ、いい、いい。不殺(それ)は私の……私とたきなの考えであって、アンタに押し付けるつもりはないから。リコリコとしての仕事なら別だけど。……大体、今更でしょ? 私がそれでアンタを咎めたことがあった?」

「でも、私……お姉ちゃんに嫌われたら生きていけない!」

 

 うるうると目を潤ませてノバラが千束にしがみつく。

 

「わざとらしいなぁ、おい……」

 

 千束はそう言いながら、楽しそうにノバラの頭を雑に撫でる。

 

 わしゃわしゃと髪を乱されながらも、ノバラはどことなく嬉しそうにしている。

 

「……だが、ノバラ。楓司令にしろ、楠木司令にしろ、危ない橋を渡ることを良しとした理由があるだろう? その辺、実際どうなんだ?」

「えぇ~……? それ、私に聞くの?」

 

 フキがそうノバラに言い向けると、ノバラは不服そうな顔をしている。

 

「この中で知ってそうなのは、お前くらいだろうが」

 

 フキは、ぽふぽふ、とノバラの頭を軽く叩くように撫でる。

 少し考えるような仕草をしてから、ノバラは口を開いた。

 

「……と言っても、私の知ってる情報なんて、ちょっと耳が良いか、勘が良いなら気付いていると思うけど……まずは、リコリスの立場。延空木事件でそうだったように、お偉いさんたちはリコリスという存在を潰したがっている」

「……理由は?」

 

 先にノバラが言っていたことの繰り返しではあるが、ただそう言われても理解し辛い。

 治安世界一位を守るためには、未だリコリスの存在は不可欠だ。

 

 ……今は、まだ。

 

「表向きはリリベルで足りるから。お偉いさんたちは男性ばかりだし? 異性の私たちとは違って、何をしたいか、何をして欲しいのか、分かりやすい。だからリリベルの方が使い易い……これがリリベルを推している理由」

 

 この理由は感覚的には分かりやすい。

 同性ならば気安いが、異性には気を遣う。

 だから、使うのが楽な同性を使いたい、ということだ。

 ……しかし、それは指示する側の心持だけで、機能面が考慮されていない。

 

「裏の理由はもっと単純。()()()()()()()()。前時代的とししか言いようがないけど、電波塔事件以降、裏側(こっち)で派手な活躍をしているのはリコリスの方が多い。それが危機感になっている。だから、女は引っ込んでろ、って言いたいわけ」

 

 ノバラの言葉を聞いて、フキはちらりと千束の顔を見た。

 

 千束自身、幾度かリリベルに狙われていたことがあったはずである。

 単にDAを離れたことで狙われたのかとも思われたが、別の理由もあるはずだ。

 ……そもそも千束は、DAの鎖を解いてはいない。相手を殺さないという条件付きではあるが、任務も受けていたし、ミカというお目付け役も付いている。

 あえて、命を狙う必要はなかったはず。

 しかし、実際には狙われている。

 つまり、リリベルとしては、電波塔事件で派手に活躍した千束に恥をかかされたと思っているということだろう。

 

「……でも、これって、楓司令なんかには禁句なんだよね。引っ込め、って言われたら、大人しく引っ込むタマじゃないし。……あ、これ、楠木さんも同じね。楓司令は、後ろ向いて下がって、ちゃんと引っ込んだでしょ、って屁理屈言う感じだけど、楠木さんは、引っ込んだ振りして、ちゃっかり舞台の真ん中占領する感じ」

 

 女性の社会進出が進んでいる昨今。

 三歩下がって、などという慎ましさは求められていない。

 

 前に出るか否かである。

 

 この点、楠木と楓は完全に前に出るタイプであり、相手が男性だからと尻込みをすることもない。

 

「……と言うか、楠木さんが、部下のリコリスを消そうとしたヤツらを黙って見てるわけないよね!」

 

 ノバラが悪戯っぽい笑みを浮かべて、そう声にすると、千束とフキは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。

 

「「……そりゃそうだ!」」

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