Roses fall fleetingly, violets bloom vividly   作:MIA

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151 anxiety

 打合せを終えた千束たちは帰ろうとしていたが、ノバラはかやを筆頭としたサクラの部下となった元教え子たちに捕まっていた。

 

()隊長殿! 何卒! 何卒訓練を! 訓練を~!!」

「分かった! 分かったから離して!? ……あ、誰!? さり気に私の胸を揉みつつ、お尻を触ってるのは!?」

「あは~! お尻は小生でありました!」

「……この変態め! こってり絞ってやるから覚悟しろ!!」

「あふぅん♡ ありがとうございます!!」

 

 かやの他に三人ほどノバラにまとわりついているが、敵意なくすがってきた彼女たちをぶん投げるのは躊躇われたのか、ノバラにしては珍しいことに、完全にペースをかやたちに持っていかれてしまっていた。

 

「ごめ~ん、千束! 私、この子たち、扱いてから帰るから、先に帰ってて!! ……うぉら~、離れろ、貴様ら! まずは、外周十周! それから良いと言うまで筋トレじゃあ!!」

「……お、お~ぅ……が、頑張れ~……」

 

 ノバラにしては珍しい怒声。

 彼女がリコリスや訓練生相手に訓練を付けていたのを見たことはあったが、ここまで荒っぽい口調なのは珍しい。

 

「あひゃひゃ! いやぁ、アイツらが訓練バカになったのは、ノバラの自業自得だけど、アイツ自身があんな感じになってるの初めて見た!」

 

 そして、その問題児を統括するハズの隊長のサクラが、若干壊れ気味になっているノバラの様子をお腹を抱えて笑って見ていた。

 

「……はぁ~……サクラ、お前も行ってこい。お前のところの隊員だろうが」

「へへ……うっス!」

 

 フキにそう促されて、楽しそうに笑みを浮かべたサクラは、「あたしも混ぜろー!」と叫びながら、ノバラに突撃して行って宙を舞っている。

 

「お、サクラにはいつも通りのノバラだったな。さすがの投げっぷり」

「……不安だ。……すまん、見送ろうと思ったが、私もアイツらに付き合ってくる」

「あはは、フキ、任せた!」

 

 溜息をついたフキがノバラたちを追いかけると、千束はその背中にそう声をかけると、ひらひら、とフキが背中越しに手を振っていた。

 

「しゃあない。私らは帰るか……ほれ、すみれ、呆然としてないで帰るよ?」

「……の、ノバラちゃんが盗られた……」

 

 すみれがノバラに伸ばしかけた手は何も掴むことはできず、空しく宙を掴んだ。るー、とすみれは涙目になりながら、呆然としている。

 

「そら、ちゃんと掴んでないアンタが悪い。恥ずかしがらずに、手を繋ぐなり、腕組むなりしてれば良かったのに……」

「だ、だってぇ……恥ずかしいんだもん……」

 

 すみれは顔を赤くして縮こまる。

 そんな様子にたきなは思わず溜息をついた。

 

「……すみれ、そんなに引いてると、せり辺りに本当に盗られますよ?」

「むぅぅ!」

 

 すみれ本人が最も懸念しているところを突かれ、すみれは不満そうに頬を膨らませた。

 

「まず大事なのは、すみれがどうしたいかです。もっと言ってしまえば、どこまでしたいか、できるかになりますが」

 

 たきなの言葉に千束は、わぉ、と言いながら、ちょっと面白そうな顔をしているが、一方のすみれと言えば、何のことか分からず考えるような仕草をしていた。

 

「どこまでって……? っ!? あう!?」

 

 途中でその意味に気づいたすみれは顔を真っ赤にしながら、頭から湯気を出した。思っている以上に、たきなの言葉が直截だったということに気づいたからだ。

 

「すみれ、恥ずかしがってはいけません。作戦を立てるには、まず、勝利条件を決めなければならないでしょう? ですが、あなたたち二人がやってないようなことって正直それくらいでしょう?」

「そ、そうだけどぉ~!?」

 

 すみれとノバラは一緒に仙台では一緒に暮らしていたので、大体のことはやったことがある。手を繋いだり、腕を組んだり、一緒にお風呂に入ったり、一緒に眠ったり、軽くキスをしてみたり、と。恋人同士ではなく、家族、もっと言えば姉妹のそれではあるが。

 

「そうだそうだ! 実際のところ、どこまでやりたいんだ? こっそり千束お姉ちゃんに教えてみ?」

 

 千束に耳元でそう囁かれて、すみれは顔を赤くしながら、小さい声で答える。

 

「……千束ちゃんとたきなちゃんくらいの大人のキス……!」

 

 近時で、すみれの中では最も性的な絡みである。

 文献では見ていたが、それって、どんなの、とまるで想像がついていなかったところに、ナマの映像を見てしまった。

 くちゅくちゅちゅるちゅるじゅるるぅ、と激しい舌の動きを思い出し、それをノバラと自分がと考えれば考えるほど、胸のドキドキが止まらない。

 

 しかし、既にそれを経験済みのたきなからすれば、何だか大したこと考えてないなぁ、という印象になってしまった。

 

「……難易度低すぎでは?」

「たきなは厳しいなぁ……すみれは、これでも頑張った方だぞ?」

 

 千束のフォローを聞き、顔を赤くしてテンパっている様子のすみれを見れば、なるほど、この辺りが現状の限界か、と覚る。

 

「ならば、まずは、第一目標はそれですね……正直言えば、すみれが強請れば、何だかんだ言いながらやってくれそうな気がしますけど」

「どうかな~……あの子、べたべたしてくる割に、そういう所のガードは固いよ?」

 

 そう、ノバラはそれなり以上に仲良くなった相手、なろうとする相手にはスキンシップが激しい。だが、一方で、相手がそれ以上を求めようとすると、気づいたときには離れている。

 そんな感じで距離の取り方が絶妙であるが故に、千束はガードが固いと評したのだが、たきなの見解は少し異なる。

 確かにノバラはそれなり程度に仲の良い相手にはそのような態度を取るが、完全に身内、より言うとするならば、家族と認定したものに対しては、そのガードが極めて緩いように思われた。

 

「でも、千束や私、すみれに対するハードルは低いでしょう?」

「あー、まぁ、それはそうだけど」

 

 具体例を出されてしまっては、千束も、確かに、と頷かざるを得ない。

 

「というわけで、分かりましたか、すみれ。ノバラには押しの一手あるのみです」

「押し……」

 

 それを考えてみるだけで恥ずかしいが、目下ライバル認定しているせり、すずな辺りはこれらは積極的に行っているように見える。

 

 これまでのようにただ甘えるだけでは、いつまでたっても妹で、ノバラは彼女を女性としては見てくれないだろう。

 だから、確かにたきなの言っている言葉には説得力があるのだ。

 

 ……恥ずかしすぎて、実行に移せるかどうかは置いておくとしても。

 

「……すみれ、が、頑張るよっ!」

 

 ぐっ、と両手を握ったすみれを見て、千束とたきなはにやにやと笑った。

 

◇◆◇

 

 帰宅する旨を楠木には伝えていたところ、車を出させる、という話だったので、とりあえず、エントランス辺りに移動して、千束たちは車を待っていた。

 

「お待たせー」

 

 やってきたのは、エリカとヒバナの乗ったミニバンだった。

 

「やっほー、たきな。私たちで送るから」

「何でまた二人が……」

「私たち二人が、すみれちゃんたち、ノバラちゃんの部下の饗応係扱いだから……っていう建前で、リコリコのスイーツでも食べたいよねって」

 

 えへ、と笑うエリカ。

 

「それと、リコリコに行っているせりたちも回収しないといかんしな」

 

 ヒバナの言葉にそう言えば、助っ人やらせてたな、ということを千束は今更ながら思い出した。

 

(そういや、店の方は大丈夫かな?)

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